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生きる事は時代とともにあり

ヤマダ  

僕は太陽の照りつける駅の前にいる。実に汚らしい駅だ。自然によって洗われた汚さではない。もっとも都会的で人間らしい汚さだ。その上、暑さによって物凄いにおいだ。

しかしこの地獄の中をほとんどの人間は平気な顔、、、、、いや心を持たないような顔をして歩いていく。みなこの都会という世界と共存しているのだ。しかし田舎からでてきた僕にはこの世界との共存は不可能にちかかった。だがここにいる人々も初めは僕と同じ状態にあったはずだ。みな都会の空気に侵されていったのだ。僕も大衆となり人の流れに流された。僕の額から汗がふきだしてくる。高く化け物のようにそびえるビルの足下をアメリカシロシトリの幼虫のようにうじゃうじゃと這いまわる人間達。僕の心は怒りに支配されていった。だいたい僕はこんな狂った町にはきたくなかったのだ。中学が東京で演劇鑑賞会をやるなどといいだすのがいけないのだ。中一中二のころは市内にある市民会館ですましていたっていうのに、、、、。大衆が止まった。はるか彼方で、赤い光がみえた。僕は軽く右手首の時計を見た。9時58分をさしていた。一緒に行く友達とは30分に待ち合わせていたというのに早くきすぎてしまった。神は僕に、この地獄に30分以上いろというのか、、、。自分のミスを神のせいにしている自分がなさけなくなってきた。赤い点が青い点に変わり大衆が再び動きはじめた。一応、待ち合わせ場所に行ってみたが、もちろん無駄足だった。しょうがないのでそばにあるデパートに入ることにした。ここには何度かきたことがあったし、大きな本屋があるからだ。しかし開店直後なので店員が入り口に立って挨拶をしている。そこを平日のこの時間に制服を着た中学生が入っていくなんて、ちょと僕にはできなかった。しかたがないので、裏口にあるエレベーターに乗った。だがこいつもいやらしいヤツで本屋の一階下の8階までしか通じていないのだ。嘆きながら8階のボタンを押した。エレベーター内にある鏡にうつる自分の顔を見ていた。垂れた目、低い鼻、カマキリみたいな顔、それに最近にきびが気になってきた。顔のことはとうにあきらめがついていたので、なんとも思わなかった。チィンッ 妙に軽快な音がして扉が開いた。飛び込んでくる激しい日差しに一瞬目がくらんだ。エレベーターは直接屋上につながっていたのだった。まるでフライパンのような屋上の上にいるのは走り回っている犬の銅像だけである。その影は長くのび、僕の足元にさしかかっていた。なんとなくその犬がきのどくに思えてきてそばまでよっていった。そして軽く犬に腰掛けた。予想はしていたが、犬の高すぎる体温が尻に突き刺さってきた。しかし僕は座りつづけた。汗が汗と感じられないほど流れ落ちた。それでも僕は立とうとは思わなかった。どこからともなくわいてくる優越感につつまれていった。なんとなく顔がにやけてきた。そこを涼しい風が髪と服をゆらしていく。僕は犬から尻をはなし、風が吹いてきた方向へ歩いていった。フェンスによって僕の足はとめられた。海が見えればいいなぁ、と思ったが、ビルがただ競い合うかのように地平線の彼方まで支配していた。まあ海が見えたとしてもヘドロの東京湾なのだが。僕は眺めた、ビルの海を、排気ガスの波を、汚れきった大空を。そこで一句「大口<自分の名前>は かなしからずや 空の青海の青にも染まらずただよう」天下の若山 牧水の短歌に強く影響を受けているのはいうまでもないだろう。僕は絶望的な心境のなか、そこに立ちつづけていた。こんなところを人に見られたら自殺しようとしているとしかみられないだろう。しかしこんな暑い日に屋上をたずねるやつがいるはずなかった。40度を超えたのではないかと思うほどまで上昇していた。そして今も上がり続けている。ついに僕も頭がぼうっとしてきた。10分以上もこんな所にいたのだから充分予測できた症状だ。頭の中は真っ白になり、ビルの海が僕を飲み込んでいくように見えた。ついには体を支えられなくなりホットプレートとかした地面にぶつかった。暑い、、、、大きく息を吸うと僕は気をうしなった。

            「苦悩を突き抜けて歓喜に至れ」    ベートーベン

、、、寒い、、、寒さによって意識が回復した。僕を暑いとか寒いとか、わがままな奴だとは思ってほしくないのでいっておく。この寒さは異常なものだ。冷房で冷やせる温度をはるかにしたまわっている。なにが起こっているのかこの目で確かめたかったが、どうしても目が開かない、体も思うようには動かない、今僕にわかることは、どこかに寝かされているということぐらいだった。たぶん熱射病か熱中症で病院に運ばれて、冷やしてもらっているのだろう。今考えると、何であんな馬鹿なことをしたのかよくわからなかった。これでもう観劇会には間に合わないだろう。どうせ劇場でも寝るのだし、たいして変わったわけじゃないわけだ。でも友達には悪いことしたなぁ、、、そんなことを考えながら体力の回復をまった。少したつと足音が聞こえてきた。床は木らしく歩くたびにキィキィなっていた。バッァン、メキメキ、、、風に吹かれて勢い良くドアが閉まったような音だった。かなりふるい病院のようだった。しばらくするとあの足音がだんだん大きくなり、こっちへ近づいてくるようだった。僕は必死に視覚だけでも取り戻そうと思った。まぶたを動かそうとしているうちに、光が目にうつってきた。まぶたが上がるにつれて、ぼんやりとだが天井が見えてきた。映像が鮮明になるにつれ、驚きが増大していった。天井には壁紙もペンキも塗ってなく、木がそのままむきだしになっていた。それも捨てられた木材をかき集めて一枚の板にしてあるようで、所々から光が漏れていた。こんな病院があるのだろうか。もしかしたら隔離されてどこか遠くの山小屋におくられたのか。ただの日射病じゃなかったのか。押し寄せる不安が僕を飲み込んだ。カチャ 丁寧にドアを開ける音が右側から聞こえてきた。首が動かないのでそっちを向くことができなかった。足音が僕のすぐそばで止まり、なにかを置いているようだった。押さえきれない不安が僕の口から飛び出した。

「僕は、どうしたんですか、なんの病気なのですか、もう、、もう死ぬのですか」自分の声を聞いて異様な驚きをつかまえた。声が高くなっていて、その上もう呂律が回らなくなって言葉とはいえなかった。あぁ、もうだめだ、、、末期症状だ。そのとき僕の不安をあざけ笑うような明るい女の声が聞こえてきた。

「なにいってんだい、死ぬわけないじゃないか、軽い栄養失調だよ」

その声も呂律が回らないような言葉だったが、僕は意味をはっきりと聞き取れた。いや、これは狂った日本語なのではなく、まったく異なる言葉なのでは、、、。それはさておき僕は栄養失調だったのか。確かに腹には何にも入っていないようだった。だが家を出る前にはちゃんと朝食をとってきたし、この時代に栄養失調なんてまずありえない。それに隔離されたり、声が高くなったりする症状がでるはずない。よほどのやぶ医者か、本当のことを隠しているのか、、それとも、、、、。

「でも意識が戻ってよかったよ、ここに食べ物おいとくから、早く良くなるんだよ。」女はそういうとここから立ち去ろうとした。

               「あの」

なぜか呼び止めてしまった。単純な気持ちでお礼をいいたかったからか、自分になにが起こったか知る唯一の存在だったからかもしれない。僕は必死に首を動かして彼女の上半身が視点にはいる位置まで顔をもっていった。彼女はエプロンをつけ、腕をまくっていた。顔はあきらかに外人そのもので、ヨーロッパ系の白人をおもわせた。しかし日焼けとすす汚れによってくろずんでいた。そのせいか顔は年以上に老けているようにみえた。だがその顔はいきいきとしていて、明るい目で僕をみていた。もちろん、その様子から医療関係者とかんじることはできなかった。

「すみません、、、、、今はなにもいえないんです、、、」

僕は陸に上がった魚のような声でこういった。彼女はやさしく微笑み、うなずいていってしまった。またこの部屋に、ぽつんと一人ぼっちになってしまった。顔を元の位置に戻しバクみたいな顔をして、自分はなんなのかを深く考えた。冷たい隙間風が僕の垂れた前髪を静かになびかせた。目にかかってくるので手ではらった。そしてある程度、身体の自由がきくようになったことを確信した。僕は手で支えながら、上半身をベットから離していき、壁に寄りかかった。服ごしに冷たい木の感触が伝わってきて、自分はこの世に存在しているという自信がもてた。そして自分に起きたことを考えた。もちろん考えたところではっきりとした答えがでるわけではない。だが、この世の学問のなかではっきりとした答えがでるのは、数学だけなのだ。だからその他の教科のテストなど実にナンセンスなのだ。だからテストによって生徒の考えを固定化するのは、学力低下につながり、大衆化かつ都市化を生み起こし他人思考型の人間への発展につながったのである。…………僕は大きくため息をつき、軽く頭をかいた。僕の髪はいつものように太く、手にまとわりつくような感触はなかった。そのかわり、細くなめらかな絹の糸ともいえるような髪だった。額と髪の境から髪をおってたどっていくと、後頭部のあたりで紐かなにかで束ねられていた。

「もう考えられない」髪をなでながら、ちいさくつぶやいた。すべてが現実にはありえない方向へ進んでいる。隙間風のように、僕は、、、僕は。背中を壁から突き放し、まわりを強く眺め回した。薄暗い部屋にあるのは、さっきもってきてくれたコップからあがる湯気だけである。僕はマズローの欲求の階層的体制の最下層にあたる行為をおこなった。僕の乾いたのどを潤し、不思議な味が体に広がっていった。静かにコップを元の位置にもどし、すべてを受け入れる準備がととのった。僕は体にかかっている毛布をどかして、立ち上がった。下半身に巻き付いている布がゆらめいた。僕は足元あたりまである布がすりよってくる感触を感じながら、前のみを向いて歩いた。部屋のドアに手を触れたとき、ふるぼけた鏡台をみつけた。ベットからは丁度死角になっていて見えない位置だった。この鏡台はとてもつくりがしっかりとしており、埃ひとつかぶってはいなかった。とても美しくて、見るものに希望を与えてくれた。僕は鏡台の椅子をひいて腰掛けた。鏡には布がかけられていた。この布のむこうにある世界には、僕の最も逢いたい人がいる。しかし彼女は真実のみの世界の住人であり、けっして嘘を知らなかった。そんな彼女との出会いがどんなに苦しいことか。しかし僕は鏡にかかっている布をつかんだ。前意識とは違った行動をとっている。ぱんぱんにつまった無意識の鍋が、抑圧という名の蓋を弾き飛ばそうとしていた。無意識の暴走を防ぐには、前意識が蓋をとりはらうしかなかった。僕は布をとりはらった、、、、、。

    随所に主と作れば、立つところ皆真なり       示衆

僕はすべてをわかっているつもりでいた。自分の体に起きた変化も、自分がどうなったかも。もちろん必死に否定したし、信じたくもなかった。しかしどうしてもたどり着く答えは、性転換による女性への変化だった。だか鏡の与えた真実は、そんなくだらないことではなかった。鏡が僕にみせつけたのは、「美」という存在そのものである。性などというもっとも初歩的分岐点にとらわれず、ましてや顔やスタイルなどもぬぎすてた、最高の「美」。それこそが今の自分自身の姿であった。まあ、性別的に女であるのは間違いないのだが、、、、、。僕はすぐに鏡台をもとあった状態に戻した。そしてさっき飲んだコップをもって、そそくさと部屋を出ていった。僕は部屋のドアを閉めると大きく息をはいた。鏡台の前にいると自分が自分でなくなっていくような気がして恐ろしかった。たとえ姿が変わったとしても心は大口でありつづけなければならないと、改めて自覚した。

僕はコップを手でさすりながらセイタカアワダチソウのようにつったっていた。これからどうするといったあてが一つもなかった。やはりあのおばさんに会うしかないだろう。お礼の一つも言ってないしここはあの人の家なのだ。言葉は通じるからいいけど、それ以上のことを深く追求されたら答えようがなかった。まあなんとかなるか、と何の根拠もない自信だけをたよりに、物音のする方へと向かった。一つドアを開けると少し広い部屋にでた。テーブルと椅子があり、後ろには食器棚と本棚とタンスが一緒になったような、比較的大きな家具が置いてあった。そのなかにはハヌーキア(燭台のこと、8本ロウソクを立てられ、ある特定の儀式で使用される)がはいっていた。そして、左側のカーテンのむこうから、あのおばさんの話し声が聞こえてきた。カーテンをめくってのぞいてみると、そこには四角い箱、、、冷蔵庫なのだろうか、、、と釜戸のようなもの、そしてやけにでっかいポンプがあった。天井は普通より高くなっており風通しがよくて、冷たい風がとまることなく吹きつづけていた。何一つ知るものはないが、ここが台所であることは一目瞭然だった。なにかカタカタと妙な音がするので振り返ってみると、半開きのドアが風で揺れていた。このドアは外につながっているらしく、おばさんの声もそこから聞こえてきていた。ドアの隙間から外の様子をのぞいてみると、おばさんが誰かと話していた。相手の顔は丁度影になっていてわからなかったが、声の感じから少年のようだった。その少年の隣には野菜をかごいっぱいにつんだ自転車がとまっていた。「えーーと、、、あ、3マルク、、です」「ふう、戦争の爪あとはいつまでたっても消えないねぇ」おばさんはそう言うと、胸ポケットからくしゃくしゃになったお金をのばしてわたしていた。そのとき、一瞬強い風が吹き抜けドアを突き飛ばした。バタンッ、とてつもない音がした。もちろんおばさんにも、その少年にも見られてしまった。

「あらら、もう大丈夫なのかい」そういいながら、僕のほうへ近づいてきた

「あ、おかげさまで、、、これとってもおいしかったです」コップを持ち上げながらそういった。するとおばさんは気がついたように、「この野菜スープねぇ、彼の家の野菜でつくったの、おいしかったてよ、さすがだねぇ」と少年のほうをむいていった。僕も軽く頭を下げて挨拶をした。少年はあわてたように腰の袋からお金を取り出し、「あ、、、、これ、おつりです」といい、おばさんの手に素早く納めたかと思ったら、すぐに自転車に乗っていってしまった。「ふーん」おばさんは一人でなっとくしたような声をだして笑いながら僕をみた。なんのことだかさっぱりわからなかったが、笑い返しておいた。おばさんは買った野菜をかかえて家に入っていったので、僕もあとについていった。野菜の束をテーブルにおろし、キャベツの葉をむきはじめた。「そうそう、名前いってなかったね、私はプーリ、よろしく」そういうと、むいたキャベツの葉を持って台所へいった。「のこりの野菜、もってきてくれるー」カーテンのむこうからそう呼びかけてきた。僕はある野菜をすべて手に抱え込んだ。自然の匂いがして緑色の肌がとても美しくみえた。「これ、どこにおけば、、、」プーリさんは釜戸のなかをのぞき込み、へんな棒でつついていた。「ちょっとまってよ、、、これはね、タイミングがね」といったとたん、釜戸から顔をはなしマッチを投げ入れた。ボンッ、煙が立ち昇り、火がついたようだった。プーリさんは手で汗をぬぐいながら「そこの棚においておくれ」と指をさしておしえてくれた。僕がおいていると「そういえばあんた名前は」と聞いてきた。僕の手が止まった。僕の恐れている状況になりつつあった。もちろん自分の名前が大口 正彦だってことぐらいわかっている。しかし、今の僕は日本人でもなければ男でもない。この名前をだすのは非常に危険であるとともに、この姿を自分だとは認めたくなかった。この名前は心にしまっておくことにした。

「まだ思い出せないんです、自分がなにか、いったいなんなのかを」こう言うほかなかった。まあこう言えばあとの質問もさけられると思った。「そうかい、、、今は休んでいたほうがいいよ、記憶が戻るまでうちにいていいからさ」プーリさんはやさしくそういってくれた。しかし僕はこれ以上、あまえるわけにはいかなかった。それに、なにかすることが自分のおかれた状況を知るためには一番いいと思った。「なにか手伝わせてください、そのほうが気持ちがおちつくんです」できるだけ強くそういった。プーリさんは僕の目をじっとみつめたあと、釜戸のわきから桶をとりだし手渡した。「そこをでるとすぐに井戸があるから、これに水をくんできておくれ」僕の手を小さくたたいてそういった。僕はさっそく、くみにいこうとドアを開けると、「あ、ちょっとおまち」と呼び止められた。プーリさんは僕のそばにやってきて、筒状の箱を僕の手に納めた。まるでニスをぬってあるかのようにツルツルしており、両端には精巧な模様がほってあった。「大切なものだから、しっかり持ってなさい」念を押すようにいってきた。なにがどう大切なのかわからなかったが、丁寧に胸元にしまっておいた。外に出るとあいかわらず冷たい風が吹いていた。桶をもちながら、さっきはよく見なかった街の様子を見た。太陽はかなり低い位置にあり、町全体が赤く染まっていた。僕が今立っている道は舗装されていない砂利道だが、少し先にある大通りはちゃんとかためられている。ある家はみんな木かレンガでできており、見渡せる範囲には三階建て以上の建物はなかった。寒そうにあるく人は数人いたが、車は一台もはしっていなかった。この街をみて日本と感じるものもなければ、現代と感じるものもなかった。ここは2001年ではないのか、、、、、。ただ桶とスカートがゆれるだけであった。

僕は水をいれた桶を台所の床に置いた。物自体はたいして重くはないのだが、精神的不安のせいで重く感じられた。「ありがとう」そういうと、くんできた水を鍋にうつしかえ始めた。「プーリさん、、、」僕はうつむいたままチャポチャポと音のする方向をむいていった。「なんだい、死にそうな声をだして」いっぱいになった鍋を釜戸におきながら、こたえてくれた。「いま、、、今日はいつですか」僕がたいしたことのない質問を震えた声で聞いたのでプーリさんは心配そうに「今日かい、、今日は12月20日だと思うけど、、」と答えてくれた。「あの、、西暦は、、、」答えが返ってくるまでの時間が異様なまでに長く感じられた。「西暦ねぇー、たぶん1933年だったと思うけど」1933年、、この数字がどれだけ深く心につきささったことか。1933年なんて僕はもちろん、親でさえ生まれていない。この世界には僕の知る人も、僕を知る人もいない、海しかない星に放り込まれたようなものだった。もう疑うこともできない。僕のまわりにあるのは、あるべきない真実だけである。僕は足がふらつき、椅子に倒れこんだ。プーリさんがあわててよってきて心配そうに声をかけた。「疲れが出たんだよ、、、今日はもう休みなさい」僕はショックによって飛び出した記憶を必死にかきあつめて答えた。「ぜんぜん平気ですただちょとショックなことが」プーリさんは大きくため息をついた。「なんでもいいけどね、自分の体なんだから大切にしないと、今はなにも手伝ってもらうことはないから、ここで休んでなさい」そういったあと、テレビぐらいある四角い箱のところへいっていじくっていた。「ラジオつけとくからね、首相選挙演説ばっかりだけど、ないよりはましでしょ」そういうと、いってしまった。たしかに四角い箱から声が聞こえてきた。「では、、、ドイ、、、ジージー、労働者党、、、、党首、、、ドルフ、、、ラーの演説をーーーーーーします」ほとんど雑音まじりで聞き取るのがやっとだった。聞くのに神経をつかって気休めなんかになりゃしなかった。さすが1933年製のラジオだ、、、、、。そのときとんでもない声がラジオから耳に突っ込んできた。勇ましいほどの怒鳴り声、歯切れのいい区切り方、聞きたくなくても聞こえてきてしまう。そのとき後ろからプーリさんの声が聞こえた。「やっぱりこいつが勝つだろうねぇ、みんなドイツの救世主だなんだって騒いでるから」僕は顔が真っ青になった。ドイツ、1933年、首相、この3つのキーワードが導き出す答えは、、、

「名前をなんていったっけ、、たしかアドルフ、、、」

もう間違いない、現世界最悪の悪の象徴であり、誰がなんと言おうと文句の言えない男、、、、「あっ思い出したよ、アドルフ・ヒトラーだ」

部屋にはヒトラーの声が響くだけであった。          つづく? 2001年7月20日

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