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200X年・・・アジアでは、急速に各国間の緊張が高まっていた・・・。

 

そしてついに、日本の近隣国で、独裁者が隣国に対して侵略を開始した・・・事前に周到な準備をした国と、奇襲を受けた国では、全く勝負には、ならない・・・侵略を受けた国の軍隊は、敗走を続けた・・・。

 

世界各国は、すぐに、侵略国に対して制裁と、これ以上の侵略を阻止するために、各国の軍で編成された連合軍を送った。

 

 日本も以前に作成されたガイドラインに従い、行動を起こしたが、世界各国の要請に答え、ついに自衛隊を大幅に改変し新たに設立した国防軍を戦場に投入し、第2次世界大戦後、初めて海外での戦闘に参加した・・・。

 

 しかし、それは、更なる戦いへの入り口でもあった・・・。

 

 

 

 

 

ガールズ・ファイター

(前編)

 

:逃げ馬

 

 

 

 

 日本海上空・攻撃部隊

 

夜の日本海の上空を、32機の戦闘機が、綺麗な編隊を組んで飛んでいる・・・。

 

「ユニコーン・リーダー・・・現在位置を知らせろ!」

 「こちら、ユニコーン・リーダー!現在位置、目標の南西、100km地点、予定通り飛行中!」

 真田正弘大尉が、無線で連絡する・・・彼は、国防軍のエース・パイロット・・・北九州の基地から発進した、F−15戦闘機で編成されたユニコーン飛行隊を指揮している。

 彼と一緒に、攻撃に参加しているもう一つのチーム・・・ファルコン飛行隊は、国産のF−2戦闘攻撃機で編成されている・・・F−2の機体には、爆弾を満載している。このファルコン隊を護衛して、敵の侵攻部隊の足を止めるのが、彼らユニコーン飛行隊の任務だった・・・。

 「しかし・・・。」

 正弘は、呟いた・・・最近、連合軍の戦闘機部隊の損害が増加している。敵は、ミグ23と、ミグ29を主力にしているが、ミグ29の中に、凄腕のパイロットが居るらしい・・・そいつが、たった1機で、わずか数分のうちに、ベテランの操るF−15を5機も血祭りに上げたという・・・。彼の率いるユニコーン飛行隊も、国防軍のエースを集めた飛行隊だが・・・。

 

 突然、警報が鳴り、想像を破られた。

 「敵機接近!」

 ユニコーン2、彼の隊の2番機・・・同期でもある梶谷中尉が連絡してくる。正弘も、機上レーダーに目をやった。

 「OK!こちらも確認した・・・。」

 一呼吸置いて、号令をかける・・・。

 「全機、攻撃隊形に開け!」

 「ユニコーン2了解!」

 「ユニコーン5了解!」

 編隊の各機が、すぐに反応する。

 ユニコーン飛行隊の各機が、ファルコン隊を守るように前面に出る。

 正弘は、兵器管制用のレーダーで、敵機に対してミサイルの狙いをつける・・・。

 「ユニコーン・リーダー・・・ターゲット、ロックオン・・・発射!」

 F−15から、ミサイルが発射されて、ミサイルは夜明けの空に消えていく。各機も、次々とミサイルを発射する。しばらくして、前方の空で爆発がいたるところで起きた。

 やがて夜明けの空に、ゴマ粒のような黒い点が見えると、急速に大きくなってくる。

 「全機、突撃!」

 ユニコーン飛行隊の16機全機が突っ込んでいく。一方のファルコン隊は、高度を下げて、地上部隊に対して爆撃を開始した。地上の戦車隊の上から、爆弾の雨が降る。たちまち破壊されていく戦車。

 戦車隊を破壊された怒りをぶつけるかのように、敵の迎撃機が、バルカン砲を撃ってくる。翼を振ってかわすと、正弘の操るF−15も、バルカン砲を撃つ・・・たちまち爆発していくミグ23。

 「まずは、1機か・・・。」

 正弘が呟く・・・。周りでは、猛烈な空中戦が行われているが、全般的には、ユニコーン飛行隊が押し気味だ・・・この分でいくと・・・?

 「あれは・・・?」

 1機のミグ29が、味方のF−15を鋭い旋回で振り切ると、後ろに付いてバルカン砲を撃った。爆発するF−15・・・。

 「くそっ!」

 正弘は、速度を上げて旋回すると、そのミグの方に向っていく・・・。垂直尾翼に、鎌を持った死神のマーク・・・なんて奴だ・・・。

 後ろに付いて、バルカン砲を撃つ・・・あっさりかわされた。

 「やるな・・・。」

 正弘が呟く・・・。

 「共同でやるか!?」

 ユニコーン2が呼びかけてきた。

 「よし・・・行くぞ!梶谷!」

 正弘が、囮になり死神のミグ29を惹きつける・・・死神を尾翼にデザインしたミグ29が、正弘の後ろに付く・・・バルカン砲を撃ってくるのを巧みにかわす・・・。これで・・・来た!・・・梶谷機が横から突っ込んでくる、撃て!・・・梶谷!心の中で叫ぶ正弘・・・そのとき・・・。

 「・・・!!」

 突然、死神が機体を横滑りさせた。その先に居るのは・・・。

 「梶谷!逃げろ!」

 正弘も、急旋回をかける・・・G(重力)に体が締め付けられる、腕が、鉛を付けたかのように重くなる・・・。牽制にバルカン砲を撃つが、奴は気にもとめない。

 「ウワッ!やられる!!」

 梶谷が、悲鳴をあげながら、バルカン砲を撃つが、死神のミグには、あたらない・・・。ミグの機首に、発射の火花が散った。

 「くそ!」

 正弘は、咄嗟に二人の間を突っ切った。

 ガンガン・・・。何かが機体を叩く音がした。次の瞬間・・・。

 轟音と共に、正弘のF−15は、機体の後部が爆発すると、地面に向けて落下していった・・・。

 

 

 正弘は、目を覚ました・・・全身が痛む・・・起き上がろうとすると、体中に激痛が走った。

 「ここは・・・?」

 目だけで、周りを見ようとする・・・薄暗い部屋に、消毒液の匂いが立ち込めている・・・体の感覚からすると・・・ベットに寝かされているのか?

 「僕は・・・生きていられたのか・・・?」

 そのとき、一人の看護婦が彼の所に現れた・・・。顔を見ると、日本人のようだが・・・?

 「ここは・・・・どこですか?」

 何とか、聞けた・・・。

 看護婦は、少し困ったような表情をしている・・・やがてにっこり笑うと、こう言った・・・。

 「ここは、病院です。・・・あなたの戦闘機は墜落したけど、水田の中に落ちたので、体へのダメージは少なかったの・・・でも、肋骨が何本か折れてるわ・・・しばらくは、静養してね!」

 「ここは、日本ですか?」

 看護婦は、困惑した表情をしている・・・やがて、正弘の想像通りの返事が返ってきた。

 「ここは・・・あなたは・・・捕虜になったの・・・。」

 看護婦は、急ぎ足で立ち去った。

 正弘は、絶望感で一杯になった・・・周りを見ると、連合軍に属する国の兵士がベットに寝かされていた・・・日本人も多い・・・。

 「僕が・・・落とされてしまうなんて・・・。」

 捕虜になった屈辱と、撃墜されてしまった屈辱に、正弘は、思わず涙を流していた・・・。

 

 

 

 戦争の戦況は、膠着状態になっていた・・・連合軍も、侵略国も、どちらも戦況を打開する決め手を持っていなかった・・・。やがて、連合軍と侵略国は国連の仲介で、停戦交渉のテーブルに着くことになり、まず、双方の捕虜の交換が行われることになった・・・。

 

 

 「良かったですね・・・。」

 看護婦が、正弘に話しかけた。

 「ああ・・・お世話になったね。」

 正弘が答えた・・・。

 「君は・・・この国の人なのに、綺麗な日本語を話すね。どこで覚えたの?」

 看護婦は、少し躊躇った後、答えた。

 「両親が・・・昔、日本に強制連行されたんです・・・。」

 「そうか・・・。」

 正弘は、下を向いた・・・。

 「それなのに、君は僕を・・・・。」

 「でも・・・わたしにとっては、怪我をした人は、どこの国の人でも関係ありませんから。」

 看護婦は、明るく笑った。そんな彼女の笑顔が、正弘には、眩しかった・・・。

 

 

 やがて、正弘たちが返還される日が来た。港で、捕虜の交換船に乗り込もうとする正弘たち数人を、銃を持った兵士が呼び止めた。

 「おまえ達は、こちらを通って行け!」

 その通路も、船の乗船口だが・・・。

 「なぜだ!」

 一人の捕虜になった連合国の兵士が聞いた。

 「乗船口が、混み合っているからだ!」

 銃を突きつけながら、兵士が言う。

 「早く行け!」

 「しかし、僕たちだけが行っても・・・。」

 正弘が言うと・・・。

 ガチャッ・・・。

 数人の兵士が、正弘たちにライフルを向ける・・・。

 「こんなことをして無事に済むと思ってるのか!」

 日本人の海軍士官が言った。

 「・・・早く行くんだよ・・・!」

 押し殺した声で言う兵士・・・兵士が銃を構える・・・カチャッ・・・銃の安全装置をはずした・・・ライフルの銃口が、鈍く光っている。

 「さあ・・・早く行けっ!」

 正弘たちは、顔を見合わせると仕方なしにその通路を歩いていった・・・ブ〜ン・・・何かが共鳴するような音が響いた気がした・・・そんな彼らを、暗い部屋の中で、モニターで見ている将校と、科学者がいた・・・彼らはお互いに顔を見合わせるとニヤリと笑った。

 

 

 

 空軍・北九州基地

 

 数日後。

 

 「真田正弘・・・ただいま帰還いたしました。」

 敬礼しながら報告する正弘に。

「ご苦労だったな・・・。」

 基地司令官が、正弘に向かって言った。

 「あの作戦で我々は、10機のF−15を失ってしまった・・・これまでの戦いで戦死したパイロットも多い・・・君たちには、今後の部隊再建のための中心になってもらわなければならない・・・。」

 司令官が言った。突然、司令官室のドアを開けて誰かが飛び込んできた。

 「真田が帰ってきたって!?」

 驚いて振り返る正弘。入ってきたのは梶谷だった。

 「真田・・・生きていてくれてよかったよ!どこも怪我は無いのか?」

 正弘の肩を叩きながら言う梶谷・・・。

 「ああ・・・骨折したけど、もう大丈夫だ・・・。」

 「もう少し礼儀を覚えろよ!」

 司令官が、梶谷に向って苦笑しながら言う。

 「梶谷は、今はユニコーン飛行隊の指揮官をしている・・・と言っても、戦力は、半減しているがな。この停戦を機会に、部隊の大幅な再編が行われるだろう・・・君も、しばらくは静養して、部隊に復帰してくれよ! わたしも、どうやらここを離れることになりそうだ・・・。」

 「そんな・・・司令が指揮をとられたから、戦線をあそこで食い止められたのに・・・。」

 梶谷の言葉に・・・。

 「まあ、軍も役所と一緒だからね・・・人事異動は、定期的にあるわけだ。」

 司令官が笑った。

 「君たち・・・後を頼んだぞ!」

 

 

 

 北九州・・・村田少佐宅

 

 正弘は、基地での報告を済ませると、下宿をしている家に向った。

 そこは、基地で戦闘機の整備班長をしている村田好冶少佐の家だった。

 「こんにちは〜!」

 いつものように玄関を開ける・・・。

 「ハ〜イ・・・あっ!・・・お父さん!正弘さんが帰ってきたよ!!」

 玄関に出てきた村田の長女・・・圭子が、奥に走っていった。

 そんな圭子を、笑顔で見る正弘・・・。

 「おう・・・帰ってきたか!」

 自分の子供を見るようなやさしい目をして、村田少佐が玄関に現れた・・・。村田少佐の年齢は、50台の後半・・・24歳の正弘から見れば、父親のような年齢だ・・・空軍の退役も近い・・・しかし、村田以上の腕を持つメカニックがいないのも、また、確かだった。彼の整備した戦闘機は、能力以上の性能を発揮すると、パイロット達の間では言われていた・・・。

 正弘は、胸がいっぱいになって何もいえない・・・両親も、家族も幼い頃に亡くした正弘にとっては、村田は親代わりだった・・・。

 「おい!・・・ボ〜ッとしてないであがれ!」

 「はい・・・。」

 正弘は、靴を脱いで家に上がった・・・。

 

 居間で、足を伸ばしてくつろぐ正弘・・・。

 「正直なところ、もう生きて帰れるとは、思いませんでしたよ・・・。」

 正弘が、呟くように言った。

 「今度の戦いでは、たくさんの人が死んでいった・・・どんな形でも、生きて帰ってくれれば・・・それに越したことはない・・・ほら!ビールが入ったぞ!」

 「あっ・・・ありがとうございます・・・ビールなんて・・・何ヶ月ぶりだろう!」

 正弘が、美味そうにビールを飲む。

 「あれから、圭子も国防軍に入隊してな・・・。」

 「そうなんですか?」

 「今では、北九州基地で、俺の整備班に入っているよ・・・。」

 村田が、嬉しそうに言った・・・。

 「お父さんは、奴は必ず生きていると言ってたのよ!」

 圭子が、料理を持ってきた。

 「さあ、たくさん食べてね!」

 「なんだか、随分いつもの夕食と違うなあ・・・。」

 村田が言うと、

 「だって・・・正弘さんが帰ってきてくれたんだから・・・。」

 圭子が、ちょっと赤くなりながら言う・・・。

 「まあな・・・そういうことか。」

 村田が、にっこり笑って、

 「おい!正弘、そろそろこいつをもらってくれるか?」

 「「エッ・・・?」」

 正弘と、圭子が同時に声をあげた・・・。

 「おまえが落ちたと聞いたときには、俺は、ものすごく悔しかった・・・いずれは、圭子をもらってくれると思っていたからな・・・こいつだって、俺の前では強がっていたが、毎晩泣いていたよ・・・。」

 圭子を見る正弘・・・圭子は、下を向いて頬を赤く染めている・・・。

 「せっかく生きて帰ってきたんだ・・・これを機会に・・・。」

 正弘は、村田と圭子を見比べていた・・・。

 「ありがとうございます!」

 正弘は、何とか言った・・・。胸が、一杯になる・・・何か、熱いものがこみ上げてくる・・・。

 「そうか・・・さあ、今日から、おまえは俺の息子だ!・・・さあ、飲もう!正弘!!」

 村田がグラスにビールを注ぐ・・・。正弘は、目を真っ赤にしながらビールを飲んでいた。

 

 夜もふけてきた・・・。

 「正弘さん、お風呂に入ってしまって。」

 圭子の言葉に、正弘は、風呂場に向った・・・。

 脱衣所で、服を脱いだ・・・。

 「あれ・・・・?」

 ここ数日、胸のあたりが痒かったが、今は、胸がなんだかプヨプヨしている・・・。

 「少し太ったかなあ・・・。」

 正弘は、呟くと、風呂に入った・・・。

 

 

 次の日、村田少佐宅

 

 「正弘さ〜ん、時間よ、起きて!」

 圭子が、一階から二階の正弘の部屋に向って呼んだ・・・。

 「どうした・・・正弘は、まだ起きないのか?」

 村田少佐が、新聞を見ながら聞いた。

 「うん・・・ちょっと見てくる・・・。」

 「まだ、疲れているんだろうな・・・。」

 圭子は、階段を上ると、正弘の部屋のドアをノックした。

 「正弘さん、起きてる?」

 そのとき、圭子の耳には、正弘の呻き声が聞こえた・・・ただ事では、なさそうだ・・・。

 「正弘さん、入るわよ!」

 圭子は、ドアを開けると、正弘の部屋に入った・・・。

 目の前に、正弘が、汗びっしょりになって倒れている・・・。

 「正弘さん!どうしたの?しっかりして!」

 目の前の正弘は、どことなくいつもと雰囲気が違った・・・抱き起こそうとした体は、どことなく柔らかく、今までより小さくなったような気がした・・・髪の毛が、少し長く伸びているようだ・・・。

 「どうしたんだ!」

 村田少佐が、部屋に入ってきた・・・。

 「お父さん・・・正弘さんが・・・。」

 怯えたような目で父を見る圭子・・・。

 「すぐに救急車を呼ぼう!」

 村田は、すぐに電話で救急車を呼ぶと、国防軍の病院に正弘を運んだ・・・村田の胸には、不吉な予感がよぎっていた・・・ようやく自分のもとに戻ってきた正弘を、死神が連れ去ってしまうのか・・・そんな思いが・・・。

 

 

 北九州・国防軍病院

 

 正弘を乗せた救急車は病院に着くと、救急患者の搬送口から、救急隊員が正弘を寝台車に載せて運び込んだ・・・村田と圭子も一緒だ・・・。

 正弘は、すぐに処置室に入れられた・・・医師や、看護婦たちの動きが慌しい、気が気でない村田父娘・・・。

 一時間も経っただろうか・・・。

 「村田さん・・・。」

 後ろを見ると、少佐の肩章を付けた空軍の情報参謀が立っていた。訝しげに見る二人に・・・。

 「起きてほしくなかったことが起きたようですね・・・。」

 驚いて情報参謀を見る二人・・・。

 「どういうことかね・・・?」

 村田が聞こうとしたときに・・・。

 「村田さん・・・院長先生がお呼びです・・・。」

 3人は、顔を見合わせると、院長室に入っていった・・・。

 「どうも・・・。まあ、おかけください・・・。」

 院長が、3人に椅子を勧める・・・。

 「正弘さん・・・彼の具合は、どうなんですか・・・・?」

 圭子が、聞いた。

 「大丈夫です・・・命には、かかわりません・・・ただ・・・・。」

 「ただ・・・どうなんです?」

 村田が、尋ねた。

 「彼の体は・・・ご覧になったかもしれませんが、外見では、女性化が進んでいます・・・。今、細胞を取って、調査していますが、最近、捕虜になって、帰国した連合国の兵士の一部が、女性化してしまうという例が多く見られます・・・その細胞を調べてみたところ、染色体が、女性の染色体に変化していったということです・・・もちろん、公には、されていませんが・・・。」

 「そんな・・・じゃあ、正弘さんは、これから女になってしまうと・・・。」

 「おそらくは・・・。」

 院長は、圭子から目をそらしながら言った・・・。

 「なんということだ・・・命がけで戦って、何とか帰国したと思ったら・・・こんな目に会うなんて・・・正弘が・・・あいつが一体なんでこんな目に・・・。」

 村田が、机に拳を叩きつけた。その目から、涙が流れた・・・。

 「私が、ここに来たのも、その件でなんです・・・。」

 情報参謀が、口を開いた・・・。

 「私は、先程、私たちの入手したデータを院長先生にお渡ししました。先生も先程おっしゃったように、最近、このような例が、連合国の兵士の間で多く発生しています・・・数日前にも、正弘さんと同じ日に帰還した海軍の士官が、まるで10代の女の子のように外見が変わってしまった例があります・・・。」

 驚いて情報参謀を見る村田たち・・・。

 「その海軍士官は・・・自分の体を見て、ショックを受けて自殺してしまいました・・・。」

 目を瞑る村田・・・彼の心の中に、どんな思いがよぎっているのか・・・圭子の目は、赤く腫れている・・・。

 「私は、あなた達に、これからの真田君を支えて欲しいのです・・・彼の、これまでの人生より、これからの人生の方がはるかに長い・・・これまでの男だった頃の(あえてだったと言いますが・・・)人生を振り返ると、彼には、絶えがたいものがあるでしょう・・・しかし、それでも私は、彼に生きて行って欲しい・・・空軍の方としても、戸籍などの問題を含めて、万全の体制をとるつもりです!」

 「それでは・・・」

 村田が重い口を開いた。

 「それでは、空軍は、女性になったとしても、彼を除隊させたりはしないと・・・?」

 「もちろんです!」

 情報参謀は、胸を張って言った。

 「これからも、彼をパイロットとして扱うと?」

 「それは・・・。」

 情報参謀は、口ごもった・・・こんな質問は、彼も予期していなかったのだろう・・・。

 「彼から、空を奪ってしまったら・・・彼は、どう思うかな・・・空を飛ぶことは、彼の人生そのものだったんだ・・・みんなが思っている以上にな・・・。」

 村田は、呟くように言った・・・院長室にいた全員が、言葉を失ってしまった・・・。

 

 

 国防軍病院・病室

 

 正弘が、ようやく目を覚ました。

 「気がついた・・・?」

 圭子が、正弘に声をかけた・・・正弘は、圭子を見つめた・・・その目が真っ赤だ・・・。

 「・・・。」

 声を出そうとするが、正弘の口からは、何故か声が出なかった・・・体中の関節からは、痛みがあった・・・。

 「しばらくは・・・動かないほうがいいわ・・・。」

 圭子は、何とか正弘に声を掛けた・・・。彼女は、思った・・・昨日、ようやく自分の想いがかなうと思ったのに・・・なぜこんなことに・・・。そして、情報参謀の言葉が彼女の頭の中に響いた・・・。そうだ・・・これからの正弘を支えるのは、自分しかいないんだ・・・。

 朝起きたときに比べても、正弘の体は、彼女から見ても、女性化が進んでいた・・・顔は、面影を残してはいたが、優しげになり、肌は白く、きめの細かい肌になっていた。髪は、サラサラになり、肩まで伸びていた・・・わずか数時間でこんなに・・・。圭子は、驚いていた・・・。

 逞しかった肩幅は、狭く華奢になっていた・・・厚い胸板は、全く面影がなかった・・・そこには、彼女と同じように女性にしかない膨らみが、思春期の少女くらいの大きさになっていた・・・太く逞しい腕も、脂肪のついた柔らかく細いものになっていた・・・そして、さっき巡回に来た看護婦が言っていた・・・股間も、彼女達・・・女性と同じになっていたと・・・。

 圭子は、泣いていた・・・そして思った・・・そう、これからは、私があなたを支えていく・・・何があっても、正弘さん、あなたは、やっぱりあなた・・・これから、女の子になったとしても、いろいろなことを教えてあげるね。

 病室の窓からは、夕日が彼女達を照らしていた・・・。

 

 

 

 翌日・国防軍病院

 

 正弘が目を覚ました・・・。窓からは、朝日が差し込んでいる・・・。横を見ると、圭子が椅子に座ったまま眠っていた・・・その寝顔を見ていると、正弘は、幸せな気分だった・・・彼は、ゆっくりと上半身を起こした、昨日と違い、今日は、関節の痛みもない・・・。

 「・・・?」

 彼の視界に入ってくる彼の体は、見慣れたものとは随分違った・・・何よりも、胸に重みを感じる・・・まとわりついてくる髪も、いつもと違った・・・これは・・・・?

 体を見下ろす・・・寝巻きの胸が、ふっくらと膨らんでいる・・・そっと手を当ててみる・・・その手は、細い、まるで女の子の腕のようだ・・・。『ムニュッ』今まで体験したことのないような感覚が脳細胞に伝わる・・・それは、今触っているものが、間違いなく自分のものであるということになる・・・寝巻きの前を開けると、立派な女性のバストが目に入ってきた。股間に手をやる・・・何も自分の掌には感じない・・・。

 「ウワーッ!」

 正弘の悲鳴に、圭子は驚いて目を覚ました・・・。

 「圭子・・・。僕は、一体・・・。」

 正弘は、怯えた目で圭子を見つめた・・・。

 「正弘さん・・・。」

 今の圭子には、正弘が10代後半の女の子にしか見えなかった・・・これが、かつての国防軍のエース・パイロットの今の姿・・・。

 病室のドアが開いた・・・院長と、村田、それに梶谷が入ってきた・・・。

 「みんな・・・。」

 正弘が呟くように言った・・・それは、すっかり女の子の高く澄んだかわいらしい声だった・・・。

 「真田・・・。」

 梶谷は、事情を聞いていたが、何も言えなくなってしまった・・・。

 院長は、正弘に今までの経過、周りで起きていることを説明した・・・。

 「じゃあ、僕は、もう戻れないのですか?」

 正弘の問いに、院長は、

 「今の技術ではね・・・。」

 呟くように言った・・・。

 正弘は、肩を震わして泣き出した・・・みんなには、それは女の子が泣いているようにしか見えなかった。

 「僕は・・・僕はもう空を飛ぶことが出来ないのか・・・。」

 「そんなことはない!」

 村田が言った。

 「空軍は、おまえを今後も除隊させないと確約している・・・女性でも、輸送機などの操縦をしている・・・外国でも、女性パイロットは多い・・・おまえが努力すれば・・・。」

 「そうだよ・・・おまえが頑張れば道は開けるよ!」

 梶谷が言葉をつないだ。

 「みんな・・・ちょっと部屋を出てくれないかな・・・。」

 正弘が言った・・・。

 みんなは、病室を出ようとした・・・そのとき、村田が圭子に目配せをしたのに、正弘は気付かなかった・・・。

 部屋には、圭子だけが残った・・・突然、正弘は、ベットの脇のテーブルの上においてあった果物ナイフを手に持って、喉につきたてようとした。

 「正弘さん!やめて!!」

圭子は、正弘にまるでタックルするように体をぶつけると、その手からナイフをもぎ取った。

「返してくれ!僕は、こうするしかないんだ!!」

「そんなことはない!」

圭子は、泣きながらナイフを遠くに投げると、小さくなってしまった正弘の体を抱きしめた・・・。

「正弘さんは、どんなになっても正弘さんだよ・・・私にとっては・・・これからは、女の子のこと・・・いろいろ教えてあげるね・・・女の子もなかなかいいよ・・・ねっ・・・わかって・・・正弘さん・・・。」

圭子は、大きな瞳から涙を流しながら優しく言った・・・。

正弘は、圭子の腕の中で声を出して泣いていた・・・病室の外では、そんな二人の会話を、梶谷と村田が肩を震わせながら聞いていた・・・。

 

 

 

数ヵ月後・村田少佐宅

 

「正弘さん!そうじゃなくて・・・。」

「ウ〜ン・・・難しいよ・・・。」

村田の家では、いま、正弘が、圭子からメイクの仕方を習っていた・・・。そんな二人を、村田は、複雑な表情で見ていた・・・結婚させようと思っていた二人が、突然、まるで姉妹のような関係になってしまったのだから当然だろう・・・それに、正弘が、なかなか自分が女の子になってしまったことを受け入れることが出来なかった・・・これも、当然といえば当然だろうが・・・。

「それじゃあ、行って来るぞ・・・。」

村田が玄関から奥に向かって言った・・・。

「あっ・・・お父さん、行ってらっしゃい!」

「正弘を頼むぞ・・・。」

「そろそろ正弘さんの戸籍・・・変えないとね。」

「そうだな・・・今日、基地で話しをしてこよう・・・それじゃあな。」

「行ってらっしゃい・・・。」

村田少佐は、車に乗ると、基地に出勤していった・・・。

奥では、正弘が、ジーンズにTシャツというラフなかっこで家から抜け出そうとしていた。

「こら!正弘さん!!」

「行ってくるね!」

「もお〜・・・いつもこれなんだから・・・。」

圭子が困ったような顔をしていった・・・。

「今は、女の子なんだから気をつけるのよ!」

窓から、自転車で走り去る正弘に向かって言った・・・。

しばらく正弘の後姿を見つめて、圭子は呟いた・・・。

「これなら、もう大丈夫かな・・・。」

圭子は、知っていた・・・あれから毎晩、正弘が自分の部屋や、風呂場で自分の体を見て泣いていたことを・・・最初は、なかなか女性用の下着を付けようとはしなかった・・・自己嫌悪になって、何度かナイフを掴んだこともあった・・・しかし、今では、スカートこそはかないが、何とか下着は、身に付けるようになった。外にも、出ようとはしなかったのだが・・・ある日、村田が、基地の滑走路脇にある川の堤防に連れ出してからは、態度が変わった。そこからは、基地を離着陸する飛行機がよく見えた・・・。今も、そこに行ったに違いない・・・。

「本当は、自分で飛びたいんだよね・・・正弘さん・・・。」

圭子は、呟くように言った・・・。

 

 

北九州基地周辺・堤防

 

正弘は、自転車を堤防の上に止めると、堤防の草むらに仰向けに寝て、空を見ていた。

轟音を立てながら、F−15、F−2などの戦闘機や、輸送機が離着陸を繰り返している・・・。

「飛びたいなあ・・・。」

正弘が呟く・・・。

「お〜い・・・正弘!」

堤防をジープが走ってくる・・・乗っているのは、梶谷と、ファルコン飛行隊の隊長の米村少佐だ。

「おい、真田・・・久しぶりだな・・・。」

米村が、正弘に右手を差し出した。

「米村さん!・・・お久しぶりです!お元気でしたか?」

正弘も、右手を出して握手をした。

「こんな姿になっちゃいましたが・・・。」

正弘が、自嘲気味に言うと、米村は、

「何言ってんだ・・・どんな姿になっても、真田は、真田だろ!水臭いぞ!いつも、上からおまえを見てたんだからな!なぜ基地に来ない!」

米村の言葉が、正弘には、嬉しかった・・・。

 

 

国防軍・北九州基地

 

ジープに同乗した正弘が、基地に現れた・・・傍目には、隊員の知り合いの10代後半の少女が、見学に来たようにしか見えない。

「あれ・・・正弘さん・・・?」

出勤してきた圭子は驚いた・・・あんなに基地に行くのをいやがっていたのに・・・。

正弘を乗せたジープは、格納庫へ向った・・・各飛行隊の隊員達が、正弘を取り囲む・・・。

「真田さん!」

「大変でしたね!」

「いつ戻ってきてくれるのですか?」

そんな声をかけられながら、正弘は、みんなを見ていた。傍らにあるF−15を見ていると、

「乗ってみるか?」

米村が正弘に言った。

「いいんですか?」

「そりゃあ、飛ばすのは、だめだけどな・・・まあ、コクピットに座るくらいなら・・・。」

正弘は、F−15に乗り込もうとした。

女性になって、180cm以上あった身長が、168cmになってしまっていた・・・それでも、女の子としては、大きいほうだが・・・。

何とか、コクピットに座り、操縦桿を握る・・・久しぶりに座ったコクピット・・・。

「どうだ!」

米村が声をかけた・・・。胸が一杯で声が出ない正弘・・・。

「いい話があるぞ・・・。」

梶谷が、正弘に向かって言った。

「空軍で近々、女性パイロットのチームを作るらしい。」

「本当か?」

「ああ・・・もっぱらの噂だ・・・おまえだって、それなら心置きなく空を飛べるだろ!」

正弘は、少し光が見えた気がした。

「ありがとう・・・梶谷!米村さん!」

「明日から、基地に戻ってこいよ!」

米村が、正弘の肩を叩きながら言った・・・。そんな光景を、作業服を着た村田と、圭子が遠くから見つめていた・・・。

 

 

その頃、北九州基地では、人事異動で幹部の人事が変わっていた。

「なに・・・真田が来ているだって・・・。」

新任の基地司令官、宮下が言った。

「はい・・・飛行隊の連中と話をしているのを見ました。」

参謀長の竹間が答えた。

「ふん・・・まあ良かろう・・・私の評価に差し障らなければな・・・早くここから、空軍の幕僚部へ行きたいものだ・・・。」

「その時には、よろしくお願いします!」

竹間の言葉に、宮下は、ニヤリと笑うと、視線を窓の外に移した・・・。

 

 

 

それから数日後・北九州基地

 

その日の朝、村田の車に同乗してきた正弘が、駐車場で車を降りようとすると、

「真田君・・・。」

誰かが正弘を呼んだ・・・。振り返ると、大佐の肩章を付けた男が立っていた。

「朝倉さん!おはようございます。」

村田が、男に挨拶をする。

「正弘さんに何か?」

圭子は、朝倉に話しかけた後、正弘に向き直った・・・。

「こちらは、朝倉大佐・・・新任の作戦参謀で、飛行隊のまとめ役もされているの。」

「真田です・・・よろしくお願いします!」

正弘も、敬礼をした。・・・そういえば、女の子になって敬礼なんて初めてだな・・・正弘は、思った。

「よろしく・・・君の噂は聞いてるよ・・・なかなかの腕利きパイロットだそうだね。」

朝倉が、笑顔で答礼を返しながら言った・・・。

「昔のことです・・・。」

正弘が、寂しそうに笑うと。

「着替え終わったら、とりあえず私の部屋にきてくれたまえ・・・いい話があるよ。」

朝倉は、そう言うと笑顔で歩いていった・・・残された三人は、お互いの顔を見合わせていた・・・。

 

「エ〜ッ・・・こんなの着るの!?」

「あたりまえじゃない・・・その姿なんだから・・・。」

正弘と、圭子が女子隊員の更衣室でやり合っている・・・圭子が手に持っているのは、女子士官の制服・・・緑色のタイトスカートのスーツだ・・・。

「男子士官のでいいじゃないか・・・。」

「不自然よ・・・これを着るまでは、絶対にここから出しませんからね!」

「・・・。」

正弘は、困惑しきった表情で、圭子から手渡された制服を見ていた・・・。

圭子は、ニコニコしている・・・これを着て、少しずつでも女の子の生活に慣れてくれれば・・・圭子は、そう思っていた。

「わかったよ・・・着るよ・・・。」

正弘は、根負けしてしまった・・・。

Tシャツを脱いで、白いブラウスを着た・・・ジーンズを脱いで、ストッキングを履いた・・・少し、足が締め付けられるような感じだ・・・スカートをはいて、ブラウスの上からスーツを着た。圭子が髪を直してくれた・・・圭子が少し離れて正弘を見た・・・。

「真田正美大尉・・・敬礼!」

正弘は、反射的に敬礼をしていた・・・。

「可愛いわよ・・・。」

圭子が笑った・・・。

「ちょっと待てよ・・・今・・・。」

「そう・・・さ・な・だ・ま・さ・み・・・お父さんが、朝倉大佐に話して戸籍を、女性のものに作り変えてもらったの・・・今までの名前を忘れないほうがいいだろう・・・実の親からもらった名前を忘れないようにって・・・それで正美に・・・。」

「うん・・・わかったよ・・・でも、このかっこうは・・・。」

「いいんじゃないの・・・よく似合ってるわよ!・・・さあ、行きましょう!」

更衣室を出ると、梶谷がいた・・・。

「あっ・・・梶谷・・・。」

「真田・・・よく似合ってるよ・・・可愛いじゃないか・・・。」

「あまり見るなよ!」

正美になった正弘は、頬を赤く染めて歩いて行った。後ろから、梶谷が、ニヤニヤしながら見つめていた・・・。

朝倉大佐の部屋の前にきた二人・・・深呼吸をして、正美は、ドアをノックした。

「真田大尉・・・入ります!」

可愛らしい女の子の声に、自分で苦笑いしてしまう。

「どうぞ!」

ドアを開けて部屋に入ると、朝倉以外に、もう一人将校がいた。

「まあ、かけたまえ。」

椅子を二人に勧めると、朝倉は、将校と一緒に二人の前に座った。

「こちらは、この基地の参謀長の竹間参謀長だ・・・さて・・・話というのは、噂に聞いているかもしれないが、女性パイロットを集めた飛行隊を設立しようという話だ。」

お互いの顔を見る正美と圭子・・・正美に笑顔が戻ってきた。

「今、女性パイロットは、輸送隊や、連絡隊が中心で、30名ほどかな・・・そこから16人を選んで設立する・・・。」

「まあ・・・この前の戦いで国防軍は、人をたくさん死なせたとか、悪いイメージがついたからな・・・そのイメージを払拭するための・・・まあ、華だな・・・いわば職場の華だ・・・ハハハ。」

竹間の言葉に、顔をしかめる朝倉・・・。正美は、俯いてしまった・・・。

「まあ、この件は、朝倉君が中心になってやってくれる・・・君に、飛行隊の中心になってやってもらうが、男から女になったそうだから、丁度いいだろう・・・まあ、事故を起さん程度に適当にやってくれ!」

それじゃあ・・・というと、竹間は、部屋を出て行った・・・。

「酷い・・・!」

圭子が、言った・・・。

正美は、俯いたままだ・・・。

朝倉は、しばらくドアを見たままだったが、やがて二人を見て、静かに言った・・・。

「まあ、周りの女性飛行隊を見る目は、参謀長と大差はないよ・・・これは、中央でもそうだ・・・しかし・・・これは口外しないで欲しいが、僕は、この飛行隊を君に実戦部隊として育てて欲しい・・・。」

「・・・?」

「今は、停戦ということになっているが、僕には、これがいつまでも続くとは思えない・・・いずれ戦いが起きたときに、使える飛行隊は、多い方がいい・・・そして、戦闘機パイロットを育てるには、時間がかかる・・・いざ必要になっても、すぐには必要なパイロットを育成できない・・・君には、その手助けをして欲しい・・・苦労はするだろうがな・・・ひょっとしたらこの飛行隊が、最後の砦・・・という事にもなりかねない・・・。」

朝倉の言葉に、正美の心は、決まっていた・・・。

「僕でよければ・・・やらせていただきます!」

朝倉は、力強く頷いた。・・・圭子は、正美の横顔を眩しそうに見つめていた。

 

このとき、朝倉の頭の中には、この後起きる出来事が、全て予測されていた・・・二人がそれを知るのは、それから1年後になる・・・。

 

 

 

一週間後・北九州基地

 

「整列!・・・敬礼!」

格納庫の前に、16人の制服に身を包んだ女性達が並んでいる。皆が、大佐の肩章を付けた男に敬礼をした。男も、敬礼を返した。

「これから、諸君には、ジェット戦闘機パイロットになるための訓練を受けてもらう・・・この飛行隊は、国防軍初の、女性パイロットで構成された飛行隊だ・・・我々は、この飛行隊に大いに期待している。諸君の健闘に期待している!」

朝倉は、一人一人を見ながら言った・・・。

「飛行隊長は、真田大尉に勤めてもらう!」

「ちょっと待ってください!」

一人が、朝倉に向かって言った・・・。

「あの人は、もともと男ですよね!その人が指揮をとるんですか!!」

ざわつく隊員達を見て、朝倉は、笑いながら一言で言った。

「きみたち・・・空に上がってしまえば、そんなことは、些細なことだよ!」

 

 

1ヶ月後・北九州基地

 

訓練が始まって1ヶ月が過ぎた・・・シュミレーターでの訓練を終えた隊員たちは、飛行隊に配備されたF−1支援戦闘機に乗って訓練をはじめた。

F−1は、F−2より一世代前の戦闘機だが、そんな事よりも、久しぶりに自分で空を飛べるのが、正美には嬉しかった。

久しぶりの飛行のときには、村田や、圭子たち整備員や各飛行隊のパイロット達が、格納庫の前で帽子を振って見送ってくれた・・・正美には、それが嬉しかったが、隊員達には、それが面白くなかったようだ・・・やがて、隊員達は反発して、正美の指導や注意に聞く耳を持たなくなった・・・やがて、正美は飛行隊の中で孤立していった。

司令官の宮下や、参謀長達は、やはり女性に戦闘機を飛ばすのは、無理と言い始めていた。

正美は、このままでは、いずれ事故が起きかねないと心配していた・・・前の戦いで、多くの部下を失った正美は、もう部下を失いたくはないと思っていた・・・。

 

 

ある日、訓練の終わった夜・・・。

 

「何で、あんな男女が、みんなに慕われるのかしらねえ・・・。」

訓練の終わった後、ロッカーで副隊長を勤めている石部雅子が言った・・・。

「やっぱり元男だからでしょ!」

隊員の一人、岡村が言う。

「そうよね・・・だから、あんな人・・・やっぱりやめて欲しいよね!目障りだし・・・ねえ、内田さん。」

石部の言葉に・・・。

「あの人がいると、私たち目立たないもの・・・。」

内田と呼ばれた隊員が答えた。

 

『バタン!』

突然ロッカールームのドアが開いた・・・瞳に涙をためた作業服姿の圭子が立っていた・・・。

「なんなの!あなたは!」

石部が言うと・・・。

「あなた達・・・そんなことを言って、あんな態度をとって、自分が惨めじゃないの?前男だったからって・・・それであの人がどんなに辛い思いをしたか・・・あなた達には、想像もつかないでしょう!あの人・・・自分で女の子になりたかったわけじゃないんだよ!もう飛べなくなるって泣いてたんだよ・・・それなのに・・・。」

圭子は、泣いていた・・・そんな圭子を見て、隊員達は、言葉を失った・・・廊下では、朝倉が圭子の背中を見ていた・・・。

「あなた達・・・これから格納庫に行ってごらんなさい・・・あなた達が、テレビを見たり、寝てる間に、格納庫であの人が何をしているのか・・・それを見たら、あの人がなぜ、みんなに慕われるのか解る筈よ!」

圭子は、涙を流しながら、走り去っていった・・・朝倉は、圭子の姿が、廊下の向こう側に消えると、扉を開けて、静かに夜の滑走路に出た・・・。

 

 

隊員達は、圭子の言葉が心に引っ掛かって、格納庫に来た・・・格納庫からは、まだ明かりがもれていた・・。こんな時間まで?・・・隊員達は、少し意外に思った・・・。

「真田さん、この部分・・・このくらい締めておけばいいですか?」

整備員が何か言っている・・・その向こうにいるのは・・・。

「ウ〜ン・・・まだちょっとオイルが滲んでるね・・・もう少し締めといてね!」

髪を後ろでまとめて、ジャージ姿の正美が笑顔で、整備員達と一緒に作業をしている・・・。

驚いて、顔を見つめあう隊員達・・・。

「真田さん、飛行隊の各機の整備作業のリストですが・・・。」

「ウ〜ン・・・3号機と5号機は、飛行時間が多いからね・・・しっかり見といてくれるかな・・・9号機は、今日はエンジン音がちょっとおかしかったからね・・・注意して!」

「わかりました・・・。」

整備員が走っていく・・・。

「F−1は、機体が古いからなあ・・・。」

村田が、チェックリストを手にしながら言うと、

「贅沢言えませんよ・・・前の戦いで消耗した機体の補充が先ですからね・・・整備をきっちりして飛ばさないと、事故が起きかねないです・・・。」

正美が、おどけて言った・・・整備員達にも笑いが起きる・・・。

「さてと・・・。」

正美が、工具箱の上に置いてあったスポーツタオルを首に巻いた。

「正美・・・また走りに行くのか!」

村田少佐の言葉に、

「うん・・・体力を付けとかないと、この体でこれから高速の空中戦なんかしたら、きついからね!」

正美が、笑いながら言う・・・。

「おまえ・・・苦労してるんだろ・・・噂を聞いてるぞ!」

村田少佐が心配そうに言うと、

「そうですよ・・・真田さんが、こんなに気を使って、事故を起こさないように気を付けているのに、あいつらときたら、まるで、おばちゃんが軽自動車で買い物に行くのと同じ感覚で飛ばすんだからな!整備員も、やってられないよ!」

整備副長の服部が吐き捨てるように言った。

「服部さん、そんなに言わないで下さい・・・これは、僕の責任なんですから・・・じゃあ、行ってきます!」

正美は、滑走路に沿って走っていった。それを見ている女性隊員達・・・。

 

「ああいう奴だから、みんなが付いていくんだ・・・。」

いつのまにか、彼女達の側に、米村と梶谷が立っていた。

「エースと言われて飛んでいたのに、落とされた上に、女の子の体にされてどんなに辛かったか・・・あんた達・・・反発するのはいいが、あいつが今まであんた達に言ったことで、間違っていることは、一つもないぞ・・・。」

米村が、隊員達に言う。俯いてしまう隊員達・・・。

「嫉妬しても、空の上では、何の役にも立たないぞ!」

梶谷が言った・・・。

「あいつは、飛行隊の全機の整備を見てから、いつも基地の周りをランニングして、その後は、ウエイトトレーニング・・・男だったときからそうだった・・・1ヶ月も一緒に行動して、誰も知らないなんて・・・あんた達どうかしてるよ・・・あれだけ頑張る奴だから、みんなが応援して付いて行くんだぞ!」

米村は、そう言うと、自分も正美を追いかけて走っていく・・・梶谷も走っていった・・・そんな二人を、隊員達は黙って見送っていた・・・。

 

 

次の日、

訓練飛行のために、格納庫に向う正美は、格納庫の前で整列して待っている隊員達を目にした。

「敬礼!」

副隊長の石部の号令で正美に敬礼をする彼女たち・・・正美は、今までの事を考えると、訳がわからないほど混乱していた・・・。

「ちょっと・・どうしたのですか?」

正美が聞いた。

「大尉・・・今までの事・・・申し訳ありませんでした!」

全員が一斉に頭を下げる・・・。

「私達・・・大尉が、あんなに気を使ってくれているのを、全く知らなかったので・・・。」

奥田という隊員が、消え入るような声で言った。

「そう・・・みんな、僕を飛行隊の一員にしてくれることにしたんだ・・・。」

正美の言葉に・・・。

「そんな・・・大尉を一員にするなんて私達は・・・。」

皆が慌てて言うのを、正美は・・・。

「いいんだ・・・飛行隊のメンバーは、いざというときには、お互いに命を預けるんだよ・・・お互いに信頼関係がないと、そんなことは出来ない・・・僕を一員と認めてもらえて嬉しいよ!あとは、訓練を通して、お互いの信頼関係を築いていこう!」

正美は、一人一人を見ながら言った。一呼吸を置いて、ユニコーン隊を率いていた時と同じようにお腹から声を出した・・・。

「よし・・・行くぞ!!」

「「「ハイ!!」」」

全員が反応した・・・・正美は、久しぶりに充実感を感じていた・・・。

F−1がエンジンを始動させる・・・格納庫の中にエンジン音が響く・・・整備担当の服部が、にっこり笑うと、親指を正美に向って、ぐっと立てた、正美も頷く・・・横の、石部の機体を見る・・・石部も、こちらを見て頷いた・・・。

「全機、順次発進せよ!」

正美は、全員に連絡すると、エンジンのスロットルを開けた。エンジン音が高くなる・・・服部は、慣れた手付きで車輪止めを手早く外した。機体が、ゆっくり動き出す・・・。

正美のF−1は、誘導路から、滑走路に出た・・・2番機の石部が、斜め後方の位置を占める・・・正美は、満足そうに笑った・・・。

「コントロール!・・・訓練のため離陸します。離陸許可をお願いします!」

「コントロール了解!離陸を許可します!」

「了解・・・みんな!行くよ!」

正美は、翼のフラップを1回、合図のために振ると、アフターバーナーを全開にして離陸して行った・・・。次々にF−1が離陸して行く・・。上空で編隊を組むと、青空の向こうに消えていった・・・。

格納庫から、梶谷と米村が正美の機体を見ている。二人は、顔を見合わせて笑った・・・。

 

 

それからは正美と、飛行隊の隊員達の関係は、うまくまわり始めた・・・。それにつれて、正美の彼女達への指導も、実戦を重視したものに代わっていった・・・。全員を集めての、ゼミ形式のディスカッションや、模擬空戦、時には、実戦を経験した、米村や、梶谷に頼み込んで、彼女達の指導をしてもらうこともあった・・・そんな正美に・・・。

 

「おい、真田!」

ある日、梶谷が、格納庫で正美を呼び止めた・・・。

「なんだ、梶谷か・・・どうかしたの?」

「ちょっと来てくれないか・・・。」

梶谷は、正美を滑走路脇の芝生に連れて行った・・・。

「真田・・・彼女達に、何であそこまでやらせるんだ?」

「・・・?」

「あの娘達は、いわば、空軍のPRのために飛ぶんだろ・・・何もあんな危険なことをさせなくても・・・。」

「ちょっと待てよ、梶谷!」

正美は、大きな瞳をもっと大きくして、梶谷に言った。

「前に、おまえは彼女達に、『空に上がったら、嫉妬なんか何の役にも立たない』と言ったそうだな・・・それと同じじゃないか・・・空に上がれば、男でも、女でも関係ない・・・一人の人間だ・・・だから、僕は、戦闘機で飛ぶために必要な事を、全て彼女達に教える!」

「しかし、女の子に空戦技術は、必要ないだろ!」

「そんなことはない!僕は、人を殺すために、彼女達に空戦技術を教えているんじゃない・・・戦闘機に乗って、生きて帰ってくるためには必要だろ・・・もう・・・前のように部下を死なせたくないしな・・・今度は、みんな、生きて帰ってきて欲しい・・・。」

正美の顔が、憂いを含んだ少女の顔になる・・・梶谷は、ドキッとした・・・。

「しかしだな・・・。」

梶谷が、まだ何か言おうとする・・・。

「おまえは・・・わかってくれていると思っていたけど・・・。」

正美の顔が、曇った・・・。

「忠告・・・ありがとう・・・それじゃあ!」

正美は、駆け足で格納庫に戻っていく・・・梶谷は、彼女の背中を黙って見送った・・・。

 

 

格納庫に戻った正美を、朝倉大佐と、女性パイロット達が待っていた。

「よし・・・来たな・・・さて、みんな飛行隊のコードネームが決まったぞ!」

朝倉が言うと、

「そうなんですか!?」

みんなが盛り上がる・・・正美も、意識して明るい顔で、朝倉を見る。

「コードネームは、『ジャンヌダルク飛行隊』だ・・・飛行隊のマークは・・。」

朝倉が、圭子に合図をすると、1機のF−1が格納庫に入ってきた。尾翼には、馬に乗ったジャンヌダルクのマーク。

「すごい・・・かっこいいね!」

みんなが喜ぶ・・・正美は、そのマークにこめた朝倉の想いを感じ取っていた・・・朝倉もこちらを見ている・・・正美は、朝倉に向って小さく頷いた・・・。

 

 

夏・九州のある町

 

久しぶりの休日・・・正美は、今では、副隊長をしている石部たちに誘われて、久しぶりに町に出かけた。

正美は、いつものジーンズにTシャツ、スニーカー・・・石部は、薄いブルーのスリップ・ドレスに、はやりのミュールだ・・・。

「真田さん・・・いつもそれですね・・・。」

石部が苦笑する・・・。

「そんなこと言っても、スカートなんて一つも持ってないよ・・・履きたくないし・・・。」

正美が言うと、

「もったいないですよ・・・真田さん、可愛いのに・・・。」

おっとりとした、奥田の言葉に、正美は苦笑してしまった・・・。こいつが、空に上がると音速で飛んでいるなんて、誰が想像できるだろう。と・・・。

「そうですよね・・・真田さんが、一番若いわけですから・・・肉体年齢ですけど!」

岡村が笑い出した。

正美は、今まで意識していなかったことを見せられた気がした・・・そうか、気が付かなかったけど、周りから見ると、今の僕は10代の女の子なんだ・・・隊の中で、一番若いわけか・・・。

「よし!・・・今日は、真田さんに思いっきり女の子してもらおう!」

「「オーッ!」」

石部の言葉に、みんなが答えた。正美の顔が、引き攣った笑いになる・・。

嫌がる正美を、みんなが無理やり、近くのデパートに引っ張っていく・・・。こんな時の、女の子のパワーはすごい・・・。

 

 

「さて、どんな女の子になってもらおうかなあ・・・。」

石部が、先頭に立って、デパートの中を歩いていく。

「ちょっと・・・石部さん・・・いいよ・・・やめようよ・・・。」

正美は、消え入るような声で言うが、石部は、

「何言ってんですか・・・女の子の事に関しては、真田さんより、私達の方が、先輩なんですからね!」

石部は、ニコニコ笑いながら言った。

「これなんか、どうですか?」

突然、奥田が、可愛らしいワンピースを持ってきた。

「可愛いじゃない!」

岡村が応じる。

「さあ、着てみましょうか?」

声のほうに振り向いてみると、石部が、たくさんのブラウスや、スカート、サンダルや、靴を持っていた・・・後ろで、店員が笑っている。

「ちょっと・・・それ、全部着てみるの?」

顔が引き攣る正美・・・。

「もちろんですよ・・・それで、どれが自分に似合うか、わかるでしょう・・・さあ、早く試着室に入って!」

石部は、正美を試着室に入れると、奥田と一緒に持っていたものを全部、正美に渡した。

「ハ〜ッ・・・。」

正美は、思わずため息をついた。

「こんなの着るの・・・?」

石部と、奥田の見立ての婦人服を見て固まってしまう正美・・・。

「真田さん、早く着てみてくださいよ!」

外から、岡村の声がする・・・正美は、観念して奥田の持ってきたワンピースを手にした・・・。

「これって、ミニスカートじゃないか・・・。」

「早く!真田さん!!」

石部が急き立てる。

「わかった・・・ちょっと待って!」

 

正美は、ジーンズを脱ぎ、ワンピースを着た・・・鏡に映った自分を見る正美・・・いつも見ている筈なのに、ワンピースを着ただけで、自分は、女なんだと改めて思った・・・奥田の持ってきたワンピースは、正美の魅力を全て引き出していた・・・豊かな胸の膨らみと、そこからキュッと引き締まったウエスト・・・ミニスカートから伸びる健康的な脚線美・・・。しばらく鏡を見つめたまま動けなくなった正美・・・それが自分なんだと、頭では、なかなか認識できなかった・・・。

「もお〜・・・真田さん、まだですか!?」

石部が、試着室のカーテンを開けた。驚く正美・・・。

「ワア〜・・・可愛い!」

石部が言うと、

「エッ・・・そうなの!?」

みんなが集まってくる・・・正美は、頬を赤く染めて・・・。

「ちょっと待って!」

そう言うと、カーテンを閉めようとする・・・。

「ワア〜・・・本当だ〜。」

奥田が、いつものおっとりした口調で言うと、

「うんうん・・・真田さん、いつもと全然違いますよ・・・絶対スカートの方が、可愛いですよ!」

岡村が、相槌を打つ・・・。

「ねえ・・・みんな言ってるでしょ・・・さ・な・だ・さん!」

石部が、胸を張って言った・・・苦笑する正美・・・いつもと違うスカートの感触が、なんだか頼りない感じがする・・・早く着替えたい正美だが・・・。

「もういいでしょ・・・着替えたいんだけど・・・。」

「それなら、次は、これね!」

石部が、ブラウスと、フレアースカートを渡す。

「エッ・・?」

「だから、着替えるんでしょ!」

石部が、ニヤッと笑う・・・。

「ハ〜ッ・・・。」

正美は、また、ため息をつく・・・。

 

こうして、正美は、みんなの持ってきた服をとっかえひっかえ着せ替え人形のように着ていた。そして、鏡に映る自分を見て、改めて、今の自分は女なんだと思っていた・・・。ようやく、全部試着が終わると・・・。

「じゃあ、これ全部下さい!」

石部が平然と言う・・・。

店員は、目を剥き、正美は・・・。

「ちょっと石部さん!僕、そんなにお金が・・・。」

石部の腕を引っ張り、耳元で囁く正美。

「いいんです・・・お金は・・・。」

石部は、レジで支払いを済ませた。

 

 「とりあえず、これに着替えてください!」

 石部は、純白のブラウスと、黒いミニのタイトスカートを正美に渡した・・・。

 「エッ・・・今着るの?」

 「もちろん!」

 石部が笑いながら言う・・・正美は、しぶしぶ着替えた・・・。胸にリボンのついた白いブラウスと、黒いミニのタイトスカート、足にはストッキングを履き、パンプスを履いた正美は、清純な感じがした・・・。正美にとっては、タイトスカートは、歩きにくいし、パンプスは、もちろん今まで履いた事がないので歩き難かった・・・。

 

 「さて・・・次は・・・。」

 石部たちは、正美を引っ張って化粧品売り場に連れて行った。

 「すいません、この人にお化粧してあげてくれませんか?」

 石部は、化粧品売り場の係員に言った。

 「へえ〜・・・この子・・・可愛いのにスッピンなんですね・・・いいですよ、じゃあ、こちらへ。」

 係員は、正美を椅子に座らせようとした。慌てる正美・・・。

 「ちょっと・・・石部さん!僕、化粧なんていいよ!」

 正美の慌てぶりを見ていた石部は、

 「頼まれてますからね・・・観念してください!さ・な・だ・さん!」

 正美は、絶望感に襲われていた・・・。

 係員は、手際よく正美にメイクをしていく・・・正美は、顔をなでられる感触を心地よく感じていた・・・生まれて初めてするメイク・・・化粧品の香りが鼻をくすぐる・・・。

 

 「ハイ!終わりました・・・。」

 「ワア〜・・・真田さん、本当に可愛いですよ!」

 「いつもと全然違う!」

 みんなが口々に言う・・・鏡を見た正美は、自分の変貌に、驚くと同時に恥ずかしかった・・・まだ、自分が女装をしているような感覚が抜けないのだ・・・。

 「終わりましたかあ・・・?」

 しばらくして、また一人女の子が現れた・・・。

 「ああ〜〜!何でここに・・・?」

 現れた女の子を見て驚く正美・・・。

 「あら・・・すっかり可愛らしい女の子になっちゃって・・・ま・さ・み・ちゃん!!」

 「圭子・・・みんなで仕組んだんだな!」

 みんなが一斉に笑い出す・・・。

 「やられたあ・・・。」

 思わず頭を抱える正美・・・。

 

 

 それから、みんなで食事に行く事になった・・・。

 「もお・・・黙っていたのは、悪いと思っているから、機嫌を直してよ・・・。」

 黙ってしまった正美に、圭子が謝る・・・。

 「よし・・・お昼は、真田さんの好きなものを食べよう!」

 岡村が、言った。

 「それなら、イタリア料理が食べたい!」

 正美が言うと、みんなからも笑いが出た。

 「よし・・・それなら私の知っているお店があるから・・・。」

 石部の案内で店に行くと、

 「ちょっと聞いてくるから、ここで待っててね!」

 石部は、店の中に入って行った・・・みんなもそれについていく・・・正美は、店の外に立って待っていた。

 外に立っていると、道行く男の人たちが、正美の方を見ている・・・なんだか恥ずかしくなって、俯いてしまう・・・。

 「君・・・そこで何をしているの?」

 誰かが正美に声をかけた。声のする方をみてみると、梶谷と、ユニコーン隊の副隊長をしている北田だった。

 「暇だったら、僕達と遊びに行かない?」

 正美に声をかける北田・・・。ひょっとして、僕のこと・・・わからないのか?・・・正美が、考えていると・・・。

 「真田さん、お待たせ!・・・あれ?梶谷さんたち・・・なんでここにいるの?」

 石部たちが言うと、

 「君たちこそなんで・・・それに真田さんって・・・まさか・・・。」

 梶谷たちは、正美を見る・・・。

 「そうだよ。」

 正美が言うと、梶谷たちは、顔を真っ赤にして走っていった・・・圭子や、石部たちから笑いがおきる。

 

 食事をしていると、

 「真田さん・・ナンパされちゃいましたね〜。」

 奥田が、おっとりとした口調で言うと、

 「もう、勘弁してよ・・・。」

 正美が、頬を赤く染めて言った。

 「でも、これで自分が可愛い女の子なんだってわかったかな?」

 圭子が、正美の方を見て笑いながら言った。

 「そうですよ!これからは、もう少し女の子らしくしなきゃあ・・・・。」

 石部が言った・・・それからは、梶谷たちの話題で、盛り上がっていた・・・正美は、久しぶりに楽しい気分になっていた・・・。

 

 

秋になった・・・停戦状態にあった戦線は、再び緊張状態になりつつあった・・・かつての侵略国は、武器市場で、兵器を買い集め、停戦ラインに戦力を集中させ始めた・・・国連や、各国の警告にもかかわらず、戦力の増強は止まらず、しばしば、日本の領空に沿って、戦闘機を飛ばすほどになっていた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 皆さん、はじめまして!逃げ馬です。

 『少年少女文庫』には、初めての投稿です。

 この作品は、書いている逃げ馬としては、まるで映画を撮っているような気分で書いています。

 さて・・・正弘大尉は、正美になってしまっても、なかなか女の子になりきれていません、そして、親友でもある梶谷との人間関係には、ひびが入っています・・・。

 また、上層部は、ジャンヌダルク飛行隊をどう扱っていくのでしょうか?そして、近づいてくる戦雲は?

 この辺りは、また、後編で書いていきたいと思います。

 ではでは、前編を最後まで読んでいただきありがとうございました・・・よろしければ、また、後編にお付き合いください・・・。

 

 

 尚、この小説に登場する、団体、個人は、実在する団体、個人とは、一切関係の無い事をお断りしておきます。

 

 2001年5月  逃げ馬


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