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あの戦争から5年の月日が流れていた。平和になったこの国で、立て続けに奇妙な事件が起きた。

 次々に、男が少女に変わってしまったその事件は、国防省情報部の活躍でこの国にいたあの国の協力者を倒す事で幕を閉じた。

 しかし、それは、あの国を最後の戦いへ駆り立てるきっかけとなったことを、この時には誰も気付かなかった。

 

 あの国の指導者は、ついに、危険な賭けに出た。航空母艦を建造し、また、正美を女性に変えてしまった電磁波兵器の発展型を搭載した戦車を配備した事をきっかけに、三度、隣国への侵略を開始した。電磁波兵器は、指導者の期待通りに襲撃した空軍基地の要員達を女性に変えてしまった。そして機動部隊は、連合軍の補給ラインを切断した。

 あの国に、潜入している情報部員の長谷川は、“先端技術研究所”が、実はあの国の総司令部である事を掴んだ。連合軍は、総司令部に攻撃をかけるが失敗した。

 そして・・・正美は、朝倉に“先端技術研究所”への航空攻撃を提案した。同じ頃、海軍の小沢司令長官も、幕僚本部に作戦案を提案する。そして・・・ついに、連合軍は、一斉反攻作戦“オペレーション・チェックメイト”を実施する事になった。

 情報部の小川は、上司の宮原部長に、上田博士の救出作戦を提案した・・・全ての運命の歯車が動き出していた・・・。

 

 

 

 

 

ガールズ・ファイター

ファイナル・オペレーション

(後編)

:逃げ馬

 

 

 

 

 作戦開始4日前、深夜・日本海海上・日本海軍・潜水艦『おおしお』

 

 島根県の沖の日本海をパトロール中の海軍の潜水艦『おおしお』は、防衛艦隊司令部からの暗号通信を受信した。

 「艦長!防衛艦隊司令部から、緊急通信です!!」

 艦長の白井中佐は、通信士官から電文を受け取った・・・しばらく目を通すと、腕時計に目をやった。

 「航海長!深度30まで浮上!ESMアンテナ用意だ!」

 『おおしお』は、深度を30mまで浮上させると、海面にレーダーを装備したアンテナを突き出した。受信レーダーには、旅客機の出す電波しか探知はなかった。

 「艦長・・・何事ですか?」

 副長が、白井に尋ねた。

 「お客を乗せるそうだ・・・。」

 白井は、笑いながら言った。

 

 一機のヘリが全速力で、深夜の日本海上空を飛んでいる。

 中には、パイロットと、男女2人が乗っている・・・男性は、20代の半ばくらいに見える・・・長髪で、紺色のジャケットを羽織って、ジーンズを履いている。

 女性は、まだ二十歳前くらいに見える・・・セミロングの黒髪に、白いブラウス、ジーンズを履いている。

 「そろそろです!」

 パイロットがインカムを通じて2人に呼びかける。このパイロットは、今は東西商事のパイロットをしているが、前の戦いでは『たかお』の艦載対潜ヘリのパイロットをしていた。夜間飛行は、朝飯前だった・・・。

 

 「ヘリコプターが接近してきます!」

 管制員が白井艦長に報告した。

 「他に探知はないか?」

 白井が管制員に尋ねた。

 「ありません、ヘリコプターだけです。」

 「よし!浮上だ!」

 「了解!タンク・ブロー!浮上!!」

 航海長が復唱すると、スイッチを操作した。床が揺れるような感じがした・・・やがて、海面を割って『おおしお』が日本海の海面にその姿を現した。

 「浮上完了!」

 航海長が報告した。

 「よし!乗艦する情報部員の収容準備だ!急げ!!」

 白井は、乗組員に命じた。

 

 「見えました!あれです!!」

 パイロットが二人に言った。暗い海上を白い航跡を引きながら潜水艦が浮上航行していた。

 「お願いします!」

 女性が、パイロットに言った。

 「わかりました!!」

 パイロットが、高度を下げながらヘリコプターを潜水艦に接近させていく。甲板の上に、乗組員が出ている。ハッチが開いて中に明かりが見える。パイロットは、素晴らしいテクニックでヘリコプターを甲板の上でホバーリングをさせた。2人は、ドアを開けて、装備を入れたバッグを甲板上の乗組員に渡した。男が甲板に飛び降りる。そして、女性が飛び降りる。男が、甲板上で女性を抱きとめた。ヘリコプターは、二人を下ろすと、エンジン音を響かせながら、高度を上げて暗闇に消えていった。

 潜水艦の乗組員が、すでに装備をハッチの中に入れていた。

 「こちらです!」

 乗組員が、2人をハッチに案内した。2人がハッチの中に姿を消した。最後に、乗組員が、ハッチを閉めてはしごを降りていった。

 発令所に案内される2人。

 「ようこそ!『おおしお』へ!」

 白井艦長が、二人と握手をした。

 「これは・・・。」

 女性が、カバンからファイルを取り出した・・・彼女は、情報部員の小川だった。

 「幕僚本部からの、命令書です・・・艦長と、航海長、通信士官以外には、見せないで下さい。」

 小川は、白井にファイルを渡した。

 「わかりました・・・私の部屋に行きましょう。」

 白井は、小川と西村に言うと、

 「航海長!潜航!深度100だ!」

 「了解!深度100まで潜航!」

 航海長が復唱する・・・ブザーが鳴り、タンクに海水が入ってくる音が響いた。床が揺れるような感じがした・・・深度計の針が下がっていく。

 「行きましょう!航海長・・・後を頼むぞ!」

 「わかりました!」

 航海長の返事を背中で聞きながら、3人は艦長室に向かった。艦長室に入ると、白井は、かぎを閉めた。潜水艦の艦長室は驚くほど狭かった・・・西村は、寝台列車の個室寝台を思い出していた。

 「では・・・読ませてもらいます。」

 白井艦長が、命令書を読んだ・・・驚いた顔で2人を見つめた。

 「大胆な作戦ですね・・・本当にこんな事を?」

 「そうです・・・全ての決着をつけて・・・わが国の国民を救うためです。」

 小川の言葉に、白井は黙って2人を見つめていた。そして・・・。

 「わかりました・・・我々も全力をあげて協力します。」

 「「ありがとうございます!」」

 二人は、頭を下げた・・・白井を推薦したのは、小沢提督だった。腕が良く、度胸の座った艦長だといって作戦に当たる潜水艦に『おおしお』を情報部に推薦してきた・・・今、2人は小沢に感謝していた。白井は、艦内電話を手に取った。

 「航海長!今から作戦にあたっての航路の打ち合わせだ!」

 そう言うと、艦長室を出て3人は発令所に入っていった。

 

 

 

 作戦開始、3日前・空軍・北九州基地

 

 基地は、慌しかった・・・格納庫では、基地に所属する戦闘機の整備作業が進められていた。

 「班長!ジャンヌダルク隊と、ファルコン隊の機体整備の件ですが・・・。」

 「班長!・・・攻撃に使用する爆弾の種類は・・・。」

 「服部班長!・・・予備機の整備は・・・?」

 服部の所に次々に整備員が指示を求めてくる・・・服部は疲労でフラフラになっていた。

 「服部さん・・・大丈夫ですか?」

 正美が、冷たいおしぼりを服部に手渡した。

 「ああ・・・ありがとうございます・・・しかし、村田さんは、よくこんな事を出来たなあ・・・いまさらながら尊敬しますよ。」

 服部は、おしぼりで顔を拭きながら言った・・・そして大きなため息をついた。やがて、正美の顔を見ると笑顔で言った。

 「ありがとう・・・作戦の当日には、最高の戦闘機を用意しますよ!」

 そう言うと、整備中のF−15に向かって歩いて行った・・・そんな2人を後から朝倉が見ていた、やがて、朝倉は作戦室に戻ると、電話を手に取った。

 

 

 ある家で、電話が鳴っていた。ポロシャツとスラックス姿の壮年の男が、電話を取った・・・頭には、白髪が目立つ。

 「もしもし・・・。」

 電話を聞いているうちに、男の顔が真剣になってくる。やがて・・・。

 「わかりました・・・すぐに伺います。」

 そう言って、電話を切ると、男は車のキーを持って家を出た。車に乗ると、走り去っていった・・・。

 

 

 夕方・・・作戦室にスタッフが集まってミーティングをしていた。準備は進んでいたが、整備作業は手間取っていた。ミーティングが終わる時に朝倉は、

 「実は、この作戦にあたって、アドバイザーを呼んだ。」

 そう言うと、制服姿の一人の男を作戦室に呼び入れた。

 「ああ・・・!」

 正美は声をあげた。

 「お父さん・・・どうして?!」

 圭子が驚く。

 「班長!」

 服部が笑顔になった。

 入ってきたのは、かつての北九州基地の整備班長、圭子の父親でもある村田好冶予備役中佐だった。

 あの戦いの時に、整備部門で腕を振るった村田は、中佐に昇進して定年を迎えた・・・その腕を惜しむ声は多かったが、

 「仕方ないよ!」

 と言って空軍を退役し、隠居生活をしていた。圭子を嫁がせ、一人で暮らしていたはずだったが・・・。

 「村田さんには、この戦いの間は現役に復帰していただいて、司令部のアドバイザーをしていただく。優秀な人材を遊ばせておくほど、わが軍には余裕はないからな。」

 そう言って、朝倉は笑った。

 「班長・・。」

 服部は、言葉が出ない。

 「まあ、年寄りがどこまで出来るかわからないがね・・・よろしく頼む!」

 村田が、苦笑しながら言った。

 皆は、頼もしそうに村田を見つめている。

 「服部君、整備班の状況を村田さんに!」

 朝倉が言うと、服部と村田の間で熱心な意見の交換が始まった・・・基地には、緊張感が高まっていっていた・・・。

 

 

 

 同日、海軍・横須賀基地

 

 横須賀基地の会議室に、司令部の幕僚と、各護衛艦隊の司令官、そして各艦の艦長が集まって出撃前の最後の打ち合わせをしていた。

 小沢は、スクリーンに映し出された地図を前に作戦の説明をはじめた。

 「幕僚本部に提出した作戦案では、第一護衛艦隊、および、第二護衛艦隊の残存艦隊は、日本海西方海域に進出し、敵の機動部隊に決戦を挑む。」

 小沢は、スクリーンに表示された侵略国の機動部隊の所在海域をポインターで示した。

 「それに呼応して、連合軍の地上部隊および空軍部隊は、敵への反攻作戦を開始する。第三護衛艦隊は、上陸部隊を護衛し、機動部隊を撃滅後に開始される上陸作戦を支援する。」

 小沢は、説明を終えた。艦長の一人が質問をした。

 「水上艦で、空母と戦うのですか?」

 「そうだ・・・上空の直衛は、北九州基地のユニコーン飛行隊が行う。少し遅れてファルコン飛行隊も参加する予定だ。」

 小沢が答えると、別の艦長は、

 「しかし・・・敵は、基地の戦闘機も使えます。その中に突っ込むとなると・・・。」

 「それが狙いさ!」

 小沢が笑った。

 「我々が、上陸作戦をしようとすれば、敵は、全力を上げて阻止しようとするだろう。そうすれば、本当の狙いを達成しやすくなるわけだ。」

 そう言うと。小沢は胸を張って言った。

 「厳しい戦いになるが・・・みんな・・・頼むぞ!」

 「「「「「ハイ!」」」」」

 全員が立ち上がると、さっと敬礼した。小沢は、ゆっくりと敬礼を返した。

 

 

 その夜・・・防衛艦隊主力は、小沢が自ら指揮を執り出撃していった・・・。

 『まや』の艦橋から、小沢は夜の海を見つめていた。

 「今度は・・・生きては戻れないかもしれないな・・・。」

 小沢は呟いた・・・。彼の率いる第一護衛艦隊と、第二護衛艦隊はいわば日本海軍の主力艦隊だ。しかし、それはあくまで“護衛”という任務についてであって、航空母艦を相手に戦うとなると、その搭載武器の射程距離から考えても不利だった・・・。そのため、ユニコーン隊が敵の攻撃機を防いでいる間に、相手との距離を詰めて対艦ミサイルで沈める・・・。それを防ぐために、敵も基地の戦闘機をこちらに振り向けてくるだろう。そうなれば、正美たちが戦いやすくなる・・・。それが小沢の狙いだった・・・。

 「肉を切らせて、骨を断つか・・・。」

 思わず呟く・・・。

 「後は、こちらの切られる“肉”をどれだけ少なくするかだな・・・。」

 小沢は、艦橋の情報表示パネルに目をやった・・・彼が直接指揮を執る12隻の艦隊が、『まや』を先頭に一列縦隊で航行していた。

 

 

 

 作戦三日前早朝、某国海岸・海軍・潜水艦『おおしお』

 

 『おおしお』は、侵略国の海岸線に接近していた。

 「ソナーより艦長!エンジン音が接近してきます!哨戒艇のようです!」

 ソナー員からの報告に白井はすぐに反応した。

 「エンジン停止!全員、音を立てるな!」

 小川と西村は驚いた。乗組員全員がたちまちのうちに口を閉じ、一切の音を出さなくなった・・・西村は、体がむずむずしてきた。ごそごそと体を動かそうとすると、小川に肘で突付かれた。バツが悪くなってじっとする西村。すごい緊張感だ・・・。

 「潜水艦は、音を出さないようにしないと命にかかわりますからね・・・乗組員全員が、自分が音を出すと仲間の命に関わるのを知っているのですよ・・・。」

 白井が囁くように二人に言った・・・。10分も経っただろうか・・・。

 「ソナーより艦長!哨戒艇が遠ざかっていきます!」

 「よし・・・5分後にエンジンを始動だ!」

 5分後・・・ソナーで周りに船のいないことを確認すると、白井はエンジンを始動させて海岸線に『おおしお』を接近させていった。大国の保有する原子力潜水艦に比べて小型のディーゼル潜水艦である『おおしお』は、海岸線にかなり接近できた。

 白井は、座礁しそうなほど海岸線に慎重に接近させると、

 「停止!」

 「了解!エンジン停止!」

 航海長が復唱した。エンジンが止まり、艦内は静まり返った。

 「ESMアンテナを出せ!」

 白井がレーダー担当の士官に命じた。

海面からアンテナが突き出た。

「艦長!探知はありません・・・近くから電波も出ていません!」

「よし!潜望鏡を上げろ!」

『シュウ』

油圧の力で潜望鏡が水面から顔を出した。白井が潜望鏡を覗く。

「発光信号が・・・あるはずですね!」

潜望鏡を覗きながら尋ねた。

「そうです・・・安全なら信号が・・・。」

白井の動きが止まった・・・。

「来た・・・。」

じっと潜望鏡を見ている白井艦長。視界の中で、発光信号が点滅している。白井は、頭の中でその信号を訳して、命令書にあった暗号と照合する・・・。

「次は・・・?」

白井が、潜望鏡を覗いたまま二人に尋ねた。

「僕達を・・・海岸におろしてください!」

西村が言った。

2人を見つめる白井艦長。

「・・・わかりました!我々は、ここであなた達を待っています。必ず戻って来て下さいよ!待っていますから・・・!」

「ありがとうございます!必ず!」

小川が、白井と握手をした。西村も握手をする・・・白井は、

「タンク・ブロー!浮上だ!ボートを用意しろ!」

『おおしお』は、浮上をすると、乗組員が手早くボートを甲板上に用意して小川たちの装備を乗せた。

「ありがとうございました!」

二人が礼を言った。

「待っていますよ!」

白井が言った。

乗組員が、ボートのエンジンをかけた。ボートが海岸に向かって走っていく。砂浜に乗り上げて止まった・・・。乗組員が、手早く装備をおろした。

「では、私は艦に戻ります!予定時刻に発光信号で知らせていただければ迎えに来ます!幸運を!!」

「ありがとう!」

ボートは、再び『おおしお』に戻っていった・・・やがて、『おおしお』は潜航して見えなくなった。

『ガサッ』

草むらから音がした。二人は、ピストルに手をかけた。二人の男が現れた。

「情報部の小川さんと西村さんですか?」

体のがっちりした男が、手のひらを二人に見せた。

「長谷川です・・・こちらは竹内・・・今までは、もっぱら日本との連絡係をしてもらっていました。よろしく。」

2人が頭を下げた。

「小川です・・・こちらは西村。よろしく。」

「小川さんとは、以前にお会いしたはずですが・・・?」

長谷川が暗闇の中で目を凝らして小川を見ている。

「いろいろあったのでね・・・でも、正真正銘の“小川勝春”ですよ!」

小川が苦笑しながら言った。

「では、行きましょう!」

長谷川が言うと、竹内といった若い男が装備を担いで歩いて行く。小川たちも、長谷川の乗ってきたランドクルーザーに乗ると、海岸から離れていった。

 

 

 

作戦開始二日前、某国、先端技術研究所

 

研究所の中では、電磁波戦車の2号車の製作が進んでいた。

上田博士は、戦車への電磁波発生装置の取り付けを指示していた。

「博士・・・2号車は、いつ完成する・・・?」

博士が振り返ると、独裁者が、警備兵や官僚を連れて立っていた。相手を睨みつける上田・・・。

「君の作った1号車は、わが軍の快進撃に貢献しているよ・・・連合軍は、あの戦車の姿を見ただけで逃げ出している。隣国を占領するのも時間の問題だ。」

独裁者は笑い出した。上田は、冷めた目つきで見つめている。

「この研究所を連合軍は、攻撃しようとした・・・しかし、ここにいる限り奴等は我々に手を出せない。私は、戦争が終わるまでここにいるつもりだ・・・。奴らの敗北も時間の問題だ・・・。」

独裁者は、高笑いをした。

上田博士は歩き出した。

「どこへ行く!」

「今日は、もう終わりだ・・・家族の所へ行って休むことにする・・・。」

博士は、独裁者の脇を歩いていこうとしていた。独裁者は、警備兵の一人に命じた。

「見張れ!」

 

上田博士は、警備兵に見張られながら、研究所の通路を歩いていた。警備兵は、周りに目を配っていた。廊下を歩いて行く2人、廊下の角を曲がると突然、警備兵が口を開いた。

「もうすぐ・・・連合軍の反攻作戦が始まります・・・目標は・・・ここです。」

上田が、驚いて警備兵を見ようとすると、

「そのまま歩いてください!私達も、あなた達家族を助け出すために準備をしています。この件は、家族にも言わないで下さい・・・作戦開始と同時に、私達はあなた達を助け出します。それまで頑張ってください・・・。」

「もうすぐ日本で、娘に会えるわけですね・・・。」

上田博士が言った・・・返事に詰まる警備兵・・・顔が強張っている。

「そうですね・・・。」

二人は、上田博士の家族が軟禁されている部屋の前まで来た・・・警備兵が立っている。

「上田博士を連れてきました!」

兵士に変装していた西村が敬礼して言った。

「ご苦労!」

警備兵がドアを開けると中に家族が見えた・・・素早く確認する西村。

『博士を入れて4人か・・・奥さんと、娘、そして息子が一人・・・。』

ドアが閉まると、西村は敬礼をして胸を張って歩いて行った。

 

 

西村は、そのまま外へ出ると、森の中に入り、止めてあったランドクルーザーに戻ってきた。

「どうだった?!」

戦闘服姿の小川が聞いた。小川の姿は、ミリタリー・マニアの可愛らしい女の子のように見える。これが、国防省で一番の情報部員なのだから、そのミスマッチに西村は笑いがこみ上げてきた。

「なに笑ってるの?!」

小川が膨れた。

「・・・博士達は、4人で部屋に軟禁されています・・・。」

西村が、小川と長谷川に報告した。長谷川のパートナー・・・竹内は、必要な武器の準備をするために首都に行っていた。

「研究所には、この国の指導者がいます・・・戦争が終わるまで、ここにいると言っていました・・・。」

「あの指導者がいなくなれば・・・民主化組織が動き出す。隣国とは、講和条約を結んで食糧の輸入を進めたいと言っていた。あの指導者が現れるまでは、うまくいっていたからな・・・民主化に同調する人間は多いぞ!」

長谷川が言った。3人は、救出の手順を確認した。明後日、反攻作戦が始まり、総司令部が慌しくなったところで上田博士の家族を“移送する”と言って連れ出す。そして車で海岸に待機している『おおしお』に収容して脱出する。小川たちは、その途中に、もう一仕事する事になっていた。

3人は、救出作戦に備えて装備の確認をはじめていた・・・。

 

 

 

作戦開始前日、夕方・九州北方海域・海軍・防衛艦隊旗艦『まや』艦橋

 

主力艦隊は、九州北方海域にまで進出していた。

小沢は艦橋横のデッキから、西の水平線に沈んでいく夕日を見つめていた。夕日を背にして、彼が率いる艦隊の各艦がシルエットになって見えていた。

「明日は・・・このうちの何隻が夕日を見れるかな・・・?」

小沢は、艦橋に戻ると、司令官席に腰をおろした。いよいよ明日は戦いが始まる・・・小沢は、緊張していた・・・。

 

 

 

同刻、空軍・北九州基地

 

基地の待機所で、各飛行隊のパイロットと整備員、そして基地の幕僚が集まって作戦の説明が行われていた。司令官の朝倉がスクリーンの前に立ち説明をはじめた。

「明日の早朝には、小沢提督の率いる防衛艦隊の主力艦隊は、あの国の沿岸に接近する。」

朝倉が小沢艦隊の進路をスクリーンで示した。

「作戦開始時刻から、ユニコーン飛行隊は、小沢艦隊の上空を警戒し、敵の空母艦隊との戦闘を支援する。」

梶谷、北田をはじめ、ユニコーン隊16名のパイロットが頷いた。

「ファルコン飛行隊は、作戦開始と同時に地上部隊の反撃を援護、その後、補給を受けてユニコーン隊と合流し小沢艦隊を支援する。」

浅原たち、ファルコン隊のパイロットが頷いた。

「ジャンヌダルク飛行隊は・・・。」

朝倉が、一瞬言葉を飲んだ・・・そして・・・。

「小沢艦隊の戦闘開始と同時に低空で敵国に侵攻。山岳地帯の敵の迎撃網を突破し、“先端技術研究所”・・・敵の総司令部を破壊する・・・。」

朝倉が、スクリーンに飛行ルートを示した・・・それはまるで天然の迷路を飛行するように見えた。

全てのパイロット達の表情が強張った・・・圭子や服部、そして村田が驚いて正美を見つめる。正美は、平然として朝倉を見つめている。梶谷が、正美の横顔を見て発言した。

「飛行ルートに無理がありませんか?そのルートでは・・・。」

「道路沿いに飛べば飛行はしやすいですが、すぐに敵に発見されます。人目につくルートは避けるべきです。」

正美が、梶谷に向かって言った。

「しかし・・・危険すぎる!!」

「戦いに、危険じゃない戦いなんてないよ!それに、私達はそのために訓練をしてきたんだよ!可能性があればやるべきです!!」

正美が言った。ジャンヌダルク隊のパイロット達が頷いた。

「リーダーの言う通りだと思います・・・やるべきです!」

石部が言った。

「そう・・・そして、この戦いを終わらせる・・・。」

内田が呟いた。

「正美中佐、岡村、内田のF−2にレーザー誘導爆弾を装備してピンポイント爆撃を行う。その他のF−2には、電波追尾ミサイルと、対空戦闘装備をして出撃をする。研究所攻撃の際には、情報部の支援がある予定だ。」

朝倉が締めくくった。

「みんなの健闘に期待している・・・・そして・・・みんな無事に戻ってきてくれ!以上だ!解散!!」

 

 

格納庫では、服部と村田が中心になって、機体の整備と武装作業が始まった。整備員達は、パイロットと打ち合わせをしながら整備を進めていく。格納庫には、整備員達の指示と復唱の声が響いていた。

正美の愛機の下に、レーザー誘導爆弾が4発運ばれてきた。圭子たちが手際よく装着していく。主翼の翼端には、赤外線誘導の短射程の対空ミサイルが装着されていく。同じ作業が、岡村と内田のF−2でも行われている。

ジャンヌダルク隊の他の機体には、電波追尾ミサイルが2発ずつ装着されていく。他に長射程の対空ミサイルと、翼端に赤外線誘導の短射程の対空ミサイルが装着されていった。

「大丈夫なのか・・・?」

村田中佐が、機体の整備をチェックしている正美に声をかけた。

「やるだけだよ・・・可能性が少しでもあれば・・・そうしないと、また同じことの繰り返しだからね。」

正美が、笑顔で村田に言った。

「最高の戦闘機を用意するよ!」

村田も笑った。正美の機体に向かって歩いて行く村田・・・。

「おい!君!この機体の整備状況は・・・?」

村田は、若い整備員達と一緒になって、正美の機体の整備をはじめた。

 

 

 

作戦当日・早朝・空軍・北九州基地

 

基地には、緊張感が満ちていた・・・パイロットや整備員達の表情は硬い。

正美は、パイロット一人一人の顔を見ていた。

「まずいな・・・。」

正美は呟いた・・・前の戦いを経験したメンバーですら緊張している。岩田などは、顔が真っ白になるほど緊張していた。

「みんな!集まって!」

正美は、パイロット達を集めた。

「みんな・・・緊張しているね!」

正美は、全員の顔を見ながら語りかけた・・・後では、村田や、服部、圭子たちが見つめている。

「緊張するな・・・と言うのは無理だけれど、いいかい・・・これから僕達は、敵の真っ只中に飛び込んで、この戦争を終わらせに行くんだ。思いっきり緊張すればいい。」

みんなの顔がいっそう強張った。米村は心配そうに見ている。

「でも・・・ここにいる全員が空軍で一番きついと言われているジャンヌダルク隊の訓練についてきたんだ。僕は自信を持って言うよ。ここにいる全員は生きて帰って来る事が出来る!」

正美は、岩田の目を見つめた・・・岩田は、ゆっくりと頷いた。顔に赤みが戻ってきた。

「あれだけ、山の間を縫って猛スピードで飛んで、空中戦の訓練をつんで、爆撃演習もした。この前の戦いでも誰も落ちなかった・・・・自信を持って戦おう!僕を信じてくれ!!」

「「「「「ハイ!!」」」」」

全員が元気に返事をした。石部や岡村たちも肩の力がうまい具合に取れたようだ。

「ふう~・・・。」

米村がため息をついた。肩を叩かれた。圭子が側に立っていた。

「さすがは正美だね!」

圭子が嬉しそうに言った。

「ああ・・・でも、その真田も顔色が悪いな・・・あいつらしくないぞ・・・。」

米村が心配そうに言った。

 

「全機、出撃準備!!」

スピーカーから指示が聞こえた。パイロット達が、自分の愛機に向かって歩いて行く。

「暖気運転開始!!」

戦闘機が、次々にエンジンを始動させた。格納庫の中にジェットエンジンの音が響く。

正美は、ヘルメットを手にF−2、ジャンヌダルク飛行隊・リーダー機に乗り込もうとした。正美のF−2の機体は、格納庫の照明を反射させて光り輝いていた。垂直尾翼には、一角獣に乗ったジャンヌダルクのマークが描かれている。翼端には、隊長機を示すピンク色のラインが入っていた。ステップに足をかけると、

「正美!」

振り返ると、梶谷が立っていた。

「どうしたの?」

驚いて正美が聞くと、

「・・・おまえは、俺のF−15でユニコーン隊の指揮をとってくれ!俺がこの任務を引き受ける。」

正美は呆気にとられた。

「おまえを・・・危険な目にあわせたくないんだ・・・わかってくれ!!」

梶谷が正美の目を見つめた。

「ありがとう・・・でも・・・この作戦は、僕がやりたいんだ!この作戦を成功させる事で、僕は・・・全てのけりをつけて、自分の過去を捨てる事が出来ると思うんだ・・・。」

正美も、梶谷を見つめる・・・梶谷には、正美の姿にかつての彼の親友・・・男だった頃の正美、真田正弘大尉の姿がダブって見えた・・・思わず目をそらせる梶谷・・・。

「いつも・・・帰って来ていただろ。今度も帰ってくるよ。」

「わかった・・・必ず・・・帰ってきてくれよ!!」

梶谷は、正美の肩を叩くと彼のF−15に向かって走っていった。

 

梶谷が、F−15に乗り込もうとすると、

「梶谷中佐!」

彼を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると岩田が頭のポニーテールを揺らしながら走ってきた。

「・・・正美中佐・・・必ず守って見せます!」

梶谷の目を見ながら岩田が力強く言った。にっこり微笑む梶谷。

「頼んだよ!」

そう言うとステップを登ってコクピットに座った。整備員がヘルメットを手渡して、シートベルトを締めていく。

 

正美も、愛機のコックピットに座った。村田がヘルメットを手渡した・・・正美の顔を見ると言った。

「大丈夫か?顔色が悪いが・・・。」

「大丈夫・・・少し緊張しているだけだよ・・・。」

正美は笑った・・・村田が、機体の下にいる圭子に指示を出す。

「車輪止め外せ!!」

圭子が、手際よく車輪止めを外していく。エンジン音が大きくなってくる。正美は、隣の石部のF−2を見た。石部が、こちらに向けて右手の親指を立ててきた。ユニコーン。ファルコン隊の順に格納庫を出て行く。誘導路を移動すると、梶谷のF−15を先頭に次々と戦闘機が離陸して行く。

正美のF−2が、ゆっくりと格納庫から出て行く・・・機体の前では、圭子が誘導している。

「正美!必ず帰ってきてよ!」

圭子の言葉に。

「わかっているよ!」

正美もインカムで言い返す。

「グッド・ラック!ジャンヌダルク・リーダー!」

服部がインカムで言った。親指を立てて、答える正美。

誘導路を16機のF−2戦闘攻撃機が移動していく。各機がフラップや、各種の装置のチェックをしている。正美のF−2を先頭に滑走路に入る。左後方に石部のF−2が入った。

「コントロール!こちら、ジャンヌダルク飛行隊。出撃します。離陸許可をお願いします!」

「こちらコントロール!ジャンヌダルク飛行隊!離陸を許可する!グッド・ラック!!」

インカムに朝倉司令官の声が響いた。パイロット達の顔に笑顔が出た。

「みんな!行くよ!!」

正美が、いつものようにフラップを一回動かして離陸の合図を送った。アフター・バーナーを全開にすると正美と石部のF−2は並んで滑走路を走って行く。二人の体は、急激な加速のためシートに押し付けられる・・・やがて、車輪が滑走路から離れると操縦桿を引いて90度近い角度で急上昇していった。

次々と離陸して行く戦闘機を朝倉は管制塔から見守っていた。

「頼むぞ・・・。」

呟く朝倉。

格納庫の前では、村田や、服部、圭子たち整備員が帽子を振って見送っていた。彼らは、毎日徹夜でこの作戦のために整備や準備をすすめていた。

「後は・・・おまえ達に任せる・・・必ず帰って来い・・・。」

村田は、離陸して行くF−2を見ながら呟いた。

最後に、指揮をとる米村を乗せたE−767が離陸すると、編隊を組んで飛び去っていった・・・。

 

 

 

作戦開始時刻・空軍・北九州基地

 

朝倉司令官は、作戦室で情報パネルを見つめていた。そこには、各飛行隊の現在位置と敵の部隊の現在位置。そして小沢艦隊の状況が表示されていた。

「司令官!作戦開始時刻です!」

作戦参謀が朝倉に言った。

「よし・・・各飛行隊に作戦開始命令を出せ!」

「わかりました!」

作戦参謀は、通信室に走っていった。

「みんな・・・頼んだぞ・・・。」

朝倉は、呟いていた。彼は思っていた・・・何よりも生きて帰ってきてくれ、僕は、そのために君達に厳しい訓練を強いてきたんだ・・・それは、朝倉の心からの叫びだった。

 

 

 

作戦開始時刻・日本海海上・国防軍・主力艦隊

 

この日は、晴天だった。海上の波も小さい。

小沢提督は、『まや』の艦橋に立って、窓から水平線を見つめていた・・・その向こう側には、おそらく敵の機動部隊がいるはずだった。

艦隊の各艦は、すでに乗組員は戦闘配置についていた。緊張感が高まってくる。艦橋では、誰も私語などは交わさない。

「作戦開始時刻です。」

参謀長が小沢に声をかけた。

「作戦開始!各艦最大戦速!!」

小沢が号令をかける。復唱が、艦橋に響く。

小沢の率いる主力艦隊は、白波を蹴立てて全速力で機動部隊に向かって突進していった。その後方100kmほどを、第3護衛艦隊に守られた連合軍の上陸部隊が進んでいた。

「味方機が接近してきます!」

管制員が報告した。やがて、艦隊の上空でユニコーン飛行隊のF−15イーグルが空中警戒をはじめた。

 

 

 

同刻・連合軍・最前線

 

「攻撃開始!!」

号令と共に多連装ロケット砲からロケット弾が次々に発射された。自走砲も轟音と共に巨大な砲弾を相手陣地に撃ち込んでいく。

上空では、連合軍海兵隊のF/A18がミグ21・23などと空中戦をはじめている。

戦車隊の指揮官は、砲塔のハッチから体を出して敵の防御陣地を双眼鏡で見ていた。視界の中で、次々と爆発の閃光が光り黒煙がわいている。時々吹き飛ばされた何かの破片が飛んでいた。

「そろそろ行くか・・・。」

指揮官は呟くと、インカムで指示を出した。

「全車、突撃!!」

エンジン音を響かせ、土煙を巻き上げながらM−1戦車が前進をはじめた。

指揮官は、ハッチを閉めて砲塔の中のスコープで前方を見つめている。

「敵戦車発見!」

前方に進出している戦車から通信が入った。

「対戦車戦闘用意!!」

指揮官が指示を出した。

「目標、前方距離1500!!」

「撃て!!」

M−1の戦車砲から轟音が響いた。前進していたT−80戦車の装甲板に火花が散った。次の瞬間、大爆発が起きて、砲塔が車体から引き剥がされて飛んでいった。

「よし!!」

指揮官が満足そうに笑った。

連合軍の戦車部隊は、補充部隊が加わった事もあって押し気味に戦いを進めていた。

「あれは?!」

彼らの視界に奇妙な形の車両が現れた。それは、あの国の電磁波発生装置を搭載した戦車だった。

「いかん!全車後退しろ!!」

指揮官が、悲鳴のような声で叫んだ。

「「「ウワーーーッ!!」」」

前方に進出していた戦車の乗員達の悲鳴が、指揮官のインカムに聞こえていた。その声は、じょじょに女性の悲鳴に代わっていった。

「くそ!!」

後退して行く戦車の中で、指揮官が吐き捨てるように言った。

突然ジェットエンジンの音が上空から聞こえてきた。戦車の狭い視界の中を、爆装したF−2が相手陣地に向かって飛んでいく。

 

F−2のコクピットの中で、ファルコン飛行隊のリーダー、浅原少佐は周りの状況を確認していた。

相手の戦闘機は、F/A18との戦闘に拘束されている。相手の陣地の対空砲は、ロケット砲と砲撃で大半が破壊されているようだ。

「ファルコン・リーダーよりゴッド・アイへ。攻撃を開始します。」

「了解!ファルコン・リーダー!」

米村が答えた。彼は、自ら指揮をとると言っていた朝倉を、「危険です!今、司令官を失うわけにはいきません!!」と言って押しとどめて、代わりにE−767コード・ネーム『ゴッド・アイ』に乗り込んで指揮をとっていた。

「全機、突撃せよ!」

浅原は、高高度から操縦桿を前に倒すと電磁波戦車に向かって急降下していった。彼は、事前のミーティングで、情報部の長谷川が集めた情報から、電磁波戦車の円盤が上方には向かない事を知っていた。

みるみるうちに彼の視界の中で戦車が大きくなってくる。戦車が慌てて後退をはじめた。

「おまえ・・・上が、がら空きなんだよ!!」

浅原は、叫ぶと爆撃装置のボタンを押して、操縦桿を手前に思いっきり引いて急上昇をかけた。体が座席に押し付けられて腕が重くなる・・・。

振り返ると後ろで爆発が起きた。戦車の車体から円盤が吹き飛んで宙に舞っていた。

「ファルコン・リーダーよりゴッド・アイへ!ターゲットは撃破した!」

浅原が笑顔で報告した。

高高度まで上昇すると周りを確認した。彼の部下達は、日ごろの訓練の成果を十二分に発揮していた。地上では、いたるところで戦車が破壊されて黒煙を噴き上げていた。

「よし!引き上げるぞ!」

浅原がインカムで指示を出した。ファルコン飛行隊のF−2は編隊を組むと引き上げにかかる。

「サンキュー!ファルコン!!」

戦車隊の指揮官からの通信が、浅原のインカムに響いた。

「後は頼みます!!」

浅原が笑った。

 

「よし!前進!!」

連合軍の戦車隊が、再び前進をはじめた。戦車砲が火を噴くたびに次々と相手の戦車が破壊されていった。電磁波戦車を失った事で、地上戦は連合軍に有利になっていった。

 

 

 

日本海海上・国防軍・主力艦隊

 

小沢艦隊は、レーダーや通信電波を一切出していなかった。

ある意味では、小沢はこの艦隊を正美たちにとって、敵戦闘機をひきつける“おとり”と思っていたが、一方で航空戦力を減らすには航空母艦を沈めなければならない。そのためには発見されるのは遅いほうがよかった。

「長官!ゴッド・アイから入電です。敵の偵察機が接近してきます。」

通信士官の報告に、小沢は双眼鏡で、上空を見た。視界の中にF−4戦闘機が飛んでいた。おそらく占領した航空基地から奪ったものだろう。やがてF−15に追い立てられて撃墜されてしまった。

「発見されたな・・・よし!各艦、レーダーを作動させろ!」

小沢の指示で、『まや』は、強力なフェイズド・アレイ・レーダーを作動させた。

「敵艦隊発見!前方300KM!」

管制員が報告した。情報表示パネルに敵艦隊の位置が表示された。

「さあ・・・そろそろ来るぞ!」

小沢は、不敵な笑みを浮かべていた。

 

 

 

機動部隊

 

敵機動部隊の航空母艦の艦橋は、パニックになっていた。

「敵艦隊が現れただって?!」

司令官が怒鳴るように聞いた。

「ハイ・・・偵察機からの報告で、南方300KMほどに・・・。」

「目と鼻の先じゃないか!このままでは対艦ミサイルを撃ちこまれるぞ!」

突然、管制員が悲鳴のような声で叫んだ。

「強力なレーダー電波をキャッチ!敵艦隊からです!」

「艦載機を発進させろ!空軍にも援護要請だ!!」

司令官が叫んだ。

 

 

 

空軍・北九州基地

 

基地にファルコン飛行隊のF−2が帰還してきた。次々に着陸をすると誘導路を駐機場に移動してきた。圭子たち整備員が、指定の位置に機体を誘導していった。浅原は、機体を指定の位置に停めるとキャノピー(風防)を開けて整備員達に言った。

「補給作業を急いでくれ!!」

服部や圭子をはじめ、整備員達は停止した機体に走っていった。圭子は、燃料を補給するために、機体にホースをつないでいった。

ある整備員は、対空ミサイルを乗せた台車を機体の下に入れると、次々に取り付け位置に装着していく。

服部と村田は、被弾をしたり、損傷をしている機体がないかどうかチェックをしていく。

短時間のうちに、ファルコン飛行隊は補給作業を完了し、対空装備の装着を終えた。そして、半数・・・8機の機体には、空軍自慢の長射程空対艦ミサイル、ASM−2を2発づつ装備していた。

「エンジン始動!」

村田が指示を出した。

「ありがとうございます!行ってきます!」

浅原が、インカムで村田に言った。

「グッド・ラック!!」

村田が言った。

離陸を終えて上空で編隊を組むと、ファルコン飛行隊は矢のような速さで、再び北へ向かって飛んでいった。

 

 

 

日本海西方海上・国防軍・主力艦隊・旗艦『まや』艦橋

 

「敵編隊発見!約70機!高速接近中!!」

管制員が報告してきた。

「70機か・・・空母艦載機だけではないな・・・。」

小沢が呟いた。

「対空戦闘用意!」

艦長が命令した。コンピューターが作動し、イージス・システムは目標をロック・オンしていく。

 

 

E−767では、米村がユニコーン飛行隊に指示を出していた。

「ゴッド・アイよりユニコーン・リーダー!攻撃を開始せよ!」

米村の前の情報表示板には、こちらに向かっているファルコン隊の情報が表示されていた。20分もあれば合流するはずだった。窓の外に目を移した。そこでは、ジャンヌダルク飛行隊のF−2が、空中給油機から燃料の補給を受けていた。

「了解!攻撃を開始します!!」

梶谷からの返事が、インカムの中に響いた。

「いよいよか・・・。」

米村は呟くと、窓の外に見える正美のF−2を見つめていた。

 

 

「全機攻撃開始!!」

梶谷は号令をかけた。梶谷のF−15イーグルから、長射程の対空ミサイルが飛び出していった。北田や、他のパイロット達もミサイルを発射していく。

ミサイルが消えていった前方の空に、次々と閃光が走った。

突然、警報パネルにランプが点いて警報が鳴り出す。

「ミサイル接近!全機、回避行動!!」

梶谷は、指示を出すとF−15を急旋回させた。北田をはじめ、その他のパイロット達も旋回をしたり急降下をしていく。ミサイルを回避すると、もう敵は目の前に迫っていた。

たちまち空中戦が始まった。あちらこちらで爆発が起きる。

梶谷は、SU−24にすれ違いざまにバルカン砲を浴びせた。胴体から黒煙を噴出しながら、そのSU−24は海に落ちていった。

「ものすごい数です!!」

パイロットの一人が叫んだ。

「戦闘速度に上げろ!敵を艦隊から引き離すんだ!!」

梶谷は、パイロット達に指示を出した。その間にも、敵を叩き落していく梶谷。

「一機でも多く叩き落せ!そうすればジャンヌダルク隊が戦いやすくなる!」

北田は、叫ぶとミグ29に赤外線誘導のミサイルを撃った。エンジンに命中をして大爆発を起こすミグ。

激しい空中戦が続く・・・。

 

 

「敵は、迎撃ラインを超えました!」

「その後方から、更に50機が接近!」

管制員の報告が飛び込んでくる。

「発射!!」

艦長が命じると、砲術長がボタンを押した。『まや』の艦橋の前の垂直発射セルから黒煙の尾を引きながら対空ミサイルが飛び出していく。

艦隊の各艦から、次々にミサイルが発射されていった。ミサイルは、攻撃機に命中して空のあちこちで爆発が起きて黒煙がわいた。

「敵は、対艦ミサイルを発射!!」

管制員が叫んだ。

「迎撃開始!!」

小沢の命令で、各艦はバルカン砲の弾幕を張っていく。バルカン砲が命中し、次々に空中で爆発していく対艦ミサイル。

「左舷からも対艦ミサイルが接近!!」

管制員が叫んだ。

「なに?!」

小沢が驚いて情報表示パネルを見た。陸地側から、10発以上の対艦ミサイルが艦隊に向かっている。

「しまった!シルク・ワームか!!」

小沢は叫んだ。

 

狙われたのは、先頭を進んでいた。イージス護衛艦『たかお』だった。

「撃ち落せ!」

艦長の命令で、迎撃ミサイルが艦橋の前に設置された垂直発射セルから飛び出していく。

次々に空中でミサイルが破壊されていくが、その爆炎の中からミサイルが飛び出してきた。バルカン砲が次々にミサイルを至近距離で破壊していくが、その黒煙の中からミサイルが飛び出した。

「・・・!!」

轟音があたりに響いて『たかお』の艦尾で爆発が起きた。

 

「『たかお』にミサイルが命中!!」

艦橋に悲鳴のような報告が響いた。小沢の顔が厳しくなった。

「『しらね』にもミサイル2発が命中!!」

「『やまぐも』にミサイルが命中!航行不能!!」

次々に味方の損害が報告される。

 

『たかお』では、懸命に消火活動が行われていた。まだ、機関室は無事だったため、全速力で走っていた。風にあおられた黒煙が後になびいている。

「ミサイル!続けてきます!!」

管制員が叫んだ。

バルカン砲がミサイルを迎撃するが、その数はあまりにも多かった。艦長は左舷側を見た。次の瞬間、舷側にミサイルが1発命中した。轟音が響いて、艦橋に立っていた乗組員は、床や計器板に叩きつけられた。

「機関室に浸水!!」

「火災!拡大中!!」

「艦長!航行不能です!!」

次々に被害状況が伝えられた。全速力で航行していた『たかお』は、速度が落ちていくと、やがてその動きを止めた。その瞬間、艦長は、『たかお』が日本に戻れない事を悟った。

「よし・・・みんな良く戦ってくれた・・・総員退去しろ!!」

艦長が命じた・・・『たかお』は、徐々に左に傾いていっている。乗組員が、海に飛び込んだり、救命ボートに乗り移っている。

「艦長!退艦してください!」

副長が言った。

「副長こそ・・・早く行きたまえ!私も、皆が退艦した事を確認すれば、海に飛び込んで泳ぐよ!」

副長は、一礼すると艦橋を出て行った。『たかお』の傾斜は大きくなり、後部の火災も大きくなっていく。時々爆発音が響いて、その度に艦が震えていた。

そして、艦長は見た。一発の対艦ミサイルが、前方からこちらをめがけて飛んできていた。その瞬間、彼は自分の命が確実になくなるのを理解した。不思議な事に恐れは感じなかった・・・。彼の視界の隅を、対空砲火を打ち上げながら、小沢提督の旗艦『まや』が前進していった。

「小沢さん・・・後を頼みます・・・。」

次の瞬間、『たかお』の舷側でミサイルが轟然と爆発した・・・。

 

「『たかお』が沈みます!!」

艦橋に報告が響いた。小沢は、口を真一文字に結んでいる。艦橋にいる乗組員や、司令部の幕僚は、顔面が蒼白になっていた。

『たかお』は、前の戦いでは、海軍の一番の殊勲艦だった。その性能も、掛け値無しの一級品だったし、指揮をとっている艦長も優秀だった・・・その艦が、とうとう沈んでしまった・・・。

「長官・・・このままでは・・・。」

参謀長が小沢に言った。

突然、轟音が響き、艦が揺れた。よろめく乗組員達。艦橋の至近距離の空中で対艦ミサイルが撃ち落された。爆発の真っ赤な閃光が、艦橋の中を赤く染める。

「怯むな!!戦いはこれからだ!なんとしても持ちこたえろ!!」

爆発の真っ赤な閃光が、小沢の顔を赤く染めた。小沢は、幕僚を叱咤した。

「「ハイ!!」」

幕僚達が答えた。

 

上空では、ファルコン飛行隊のF−2が合流し、なお熾烈な空中戦が続き、海上では、小沢艦隊がミサイル攻撃にさらされながら、なお全速力で前進を続けていた。

敵は、地上部隊の反撃と、小沢艦隊の空母艦隊に対する攻撃を主攻と見て、必死に抵抗していた・・・作戦は、成功しつつあった・・・。

 

 

 

日本海上空

 

「ピット・クルーより、ジャンヌダルク・リーダー!補給作業は終了した!」

空中給油機のパイロットから通信が入った。

「了解!ありがとうピット・クルー!!」

空中給油機から、最後に補給をしたF−2が離れていく・・・。

 

正美は、今までのことを思い出していた。

最初の戦いでの空中戦で撃墜され、捕虜として抑留された・・・そして帰国する時に電磁波を浴びせられて女性になってしまった。そして、一時は飛ぶことを諦めかけた正美に、朝倉がジャンヌダルク飛行隊の指揮を任せた。一時はメンバーとの確執もあったが、時間と共に結束が出来て、対馬をめぐる攻防戦では、勝利をおさめることが出来た・・・その時、死神と恐れられたミグ29との空中戦で相撃ちになった正美は、海上に脱出した・・・その正美を基地のパイロット全員が探しに来てくれた・・・。あれから5年・・・この戦いでは・・・?

「今度は・・・生きては帰れないかもしれないな・・・。」

正美は、コクピットで呟いていた。

今までの戦いでは、ジャンヌダルク隊は、“防御”に使われていた・・・この作戦では、敵地深くに・・・文字通り相手の心臓部を狙って戦う事になる・・・当然相手の防御も堅い。

正美は、時計を見た・・・そろそろ時間だ・・・。

「ジャンヌダルク・リーダー!敵は小沢艦隊にひきつけられている・・・作戦を開始せよ!!」

米村からの通信が入った。

「了解!ゴッド・アイ!・・・作戦を開始します!」

正美は深呼吸をすると、メンバー達に号令をかけた。

「みんな!行くよ!!」

「「「「「了解!!」」」」」

ジャンヌダルク飛行隊のF−2は、旋回をすると、海岸線に接近して行った。

 

 

 

同刻・先端技術研究所

 

研究所・・・つまり、この国の総司令部は、大混乱になっていた。

突然の連合軍の一斉反撃に、侵略国の地上部隊は押されていた。

「電磁波兵器が、破壊されただと?!」

独裁者が、司令官を怒鳴りつけた。

「申し訳ありません!敵の空軍による攻撃で・・・。」

司令官が小さくなって答えた。

「2号車は、どうなっているんだ?!博士!!」

独裁者が、上田博士に向かって言った・・・黙っている上田。助手を務める、この国の学者が答えた。

「微調整が必要ですが、使用できます・・・。」

「よし・・・すぐに出撃準備をしてくれ!」

独裁者が命じた・・・その間にも、司令部のスタッフは右往左往している。独裁者はイライラして、後ろに控えている警備兵に命じた。

「博士を部屋に連れて行け!!」

「ハイ!」

警備兵は敬礼した・・・警備兵は前に進むと、上田博士の横に立った。博士は、警備兵に連れられて司令室を出て行った・・・。

 

上田博士の部屋に、女性兵士が近づいてきた。

「止まれ!」

警備兵が、機関銃AK47を彼女に向けた。

「博士の家族を、ここから首都に移すように命令されました。」

黒いベレー帽を被り、セミロングの黒髪。黄色のブラウスの上に着ている緑色の制服の肩には、中尉の肩章がついている。膨らんだ胸元には、IDカードが付いていた。同じ色のキュロット・スカートから伸びる綺麗な足・・・。その彼女が、命令書を警備員に示した。

「わかりました・・・どうぞ!」

警備員が、ドアを開けた。彼女は部屋に入ると、怯えた目で彼女を見つめる上田博士の家族を見て、胸が熱くなった・・・。

「付いて来て下さい・・・ここから移動します!」

「父は・・・?」

上田博士の息子が尋ねた・・・。

「一緒ですよ・・・すぐに来られます。急いでください!」

女性兵士は、上田の家族を連れて廊下を移動していった。途中で、警備兵が上田博士を連れてきた。一緒に廊下を歩いて行く。

もうすぐ研究所の出口だ・・・突然、

「止まれ!!」

後から声がした・・・。上田の家族が飛び上がって驚いた。警備兵と、小柄な女性兵士が振り向いた。

「おまえ達・・・博士をどこへ連れて行くんだ!!」

後ろに立っていた士官が言った。彼の連れていた警備兵達が銃を構えた。

「移送命令が、出ています。」

女性兵士が答えた。

「移送命令だと?!」

「はい!ここは危険なので、首都に連れて行くようにと・・・。」

きっぱりと答える女性兵士に、士官は首をかしげた。

「あの方が・・・そんな命令を・・・?」

それを見て、兵士達は銃を下に向けた。

「では・・・私達は急ぎますから・・・。」

女性兵士は、上田博士達を促して研究所を出ようとした。

「待て・・・命令書を見せろ!」

士官の言葉に、警備兵が命令書を士官に渡した。

「うーん・・・確かに、移送命令だな・・・。」

呟いていた士官の目が鋭くなった。

「この命令書には・・・あの方のサインに、穴が開いていない!あの方は、用心深いからサインに針で穴をあけるんだ!!おまえ達は・・・!」

『バン』

銃声が響いた。女性兵士が、オートマチックのピストルで士官を撃った。士官が、仰け反って床に倒れた。

「ばれたか!」

警備兵が叫んだ。

『ダダダダダッ』

警備兵に変装した西村が、AK47で兵士を撃った。次々に倒される警備兵達。

「走って!!」

小川が叫んだ。上田博士達は、出口に向かって走る。

突然、ランドクルーザーが研究所の中に突っ込んできた。出口で急停車すると、

「乗れ!!早く!!」

長谷川が叫んだ。無理やり全員が乗り込むと、長谷川はランドクルーザーを急発進させた。

銃撃が後から浴びせられる・・・後のガラスが音を立てて砕け散った。

「追え!!」

士官が叫ぶと、兵士達は、ジープで小川たちを追い始めた。

 

「なに?!上田博士が逃げただと?!」

独裁者は、地鳴りのような声で言った。

「はい・・・今、捜索しております・・・。」

司令官が言うと、

「なんとしても捕まえろ。あいつがいないと、電磁波兵器の開発が進まん!いいな!!」

独裁者が命じた。

 

 

ランドクルーザーは、研究所を見下ろす丘に停車した。そこには、もう一台ジープが止まっていた。ジープから竹内が、大きなトランクを抱えながら走ってきた。

「小川さん!例の物が届きました。」

「ありがとう!」

小川が、ランドクルーザーを降りて駆け寄った。ケースを開けると、金属製の筒が入っていた。

「これは?」

竹内が驚いて聞いた。

「こちらの切り札ですよ。」

小川が笑った。

「さて・・・仕上げにかかりましょうか?」

小川が西村に言った。上田博士達は、驚いて小川たちを見つめていた。

 

 

 

某国・海岸線

 

ジャンヌダルク飛行隊は、海岸線に接近してきた。

正美は、コクピットから彼女の仲間達の機体を見つめていた。綺麗に編隊を組んで翼に日差しをきらめかせながら飛んでいた。

「誰も・・・死なせたくはないけど・・・。」

正美は呟いた・・・時計を見た・・・時間だ。

「各機!報告!!」

正美がインカムで言った。

「ジャンヌ2、スタンバイ!」

石部がすぐに反応した。

「ジャンヌ3!スタンバイ!」

岡村が言った。

 「ジャンヌ5、スタンバイ!」

 いつもは、おっとりしている奥田が、毅然として報告するのを正美は微笑みながら聞いていた。次々と報告が入ってくる。

 「ジャンヌ10!スタンバイ!!」

 岩田が、酸素マスクをつけながら報告した。

 「OK!オペレーション・チェックメイト、レッツ・ゴー!」

 正美は、インカムを通じて叫ぶと、F−2の機体を降下させていく。2番機の石部、3番機の岡村と次々とジャンヌダルク隊のF−2が超低空に降下していった。

 正美は、海面すれすれにF−2を降下させると、初めて酸素マスクを付けた。

 「さあ・・・行くぞ!」

 正美が呟いた。操縦桿を握る腕に力がこもった・・・F−2は、一列になって正美を先頭に飛んでいる。海岸線が近づいてきた。海岸線から山岳地帯に向かって超低空で侵入して行く。周りの景色がすごい勢いで流れていく。

 正美たちは、谷の底を這うように飛んでいた。両側に木が迫って来る。

 「訓練と同じだ!怖がらないで!!」

 正美がインカムで言った。

 正美は、作戦前に山の地形と飛行コースを全て頭に叩き込んでいた。右に左に機体を旋回させながら高速で飛んでいく。

 「お客が来たら引き受けます!任せてください!!」

 石部がコクピットから、正美の機体を見ながら言った。

 「頼むよ!ジャンヌ2!!」

 正美は、機体を大きく左に旋回させた。ジャンヌダルク隊、16機のF−2が、まるで何かで連結されているかのように綺麗に繋がって旋回していった。

 水田の上を16機のF−2が飛んで行った。農民の一人がそれを見ると走っていった。

 「見つかりましたね!」

 内田が言った。

 「各機!警戒!!」

 正美は言った。ジェット・エンジンの音を響かせながら、谷に沿って全速力でF−2を飛ばす正美たち。

 

 

 E−767に乗って指揮をとっている米村の前の情報表示パネルに新たな情報が表示された。米村が緊張した。

 「ゴッド・アイより、ジャンヌダルク・リーダーへ・・・敵の迎撃機20機がそちらへ向かっている!」

 米村が正美へ知らせた。

 

 

 正美は、了解した事を知らせなかった・・・。彼女達は、発見されるのを避けるため、今は一切の電波を出していなかった・・・レーダーですら、受信レーダーを作動させているだけだった。

 「来ました!!」

 一番後ろにいる、16号機から通信が入った。

 正美は後を見た。上方から、ミグ23とミグ29が襲いかかってくる。

 ミグの1機がミサイルを撃った。ミサイルは追尾してくるが、谷に沿って正美たちが旋回すると、追尾をする目標を失って山腹にあたって爆発をした。

 「まずいな・・・。」

 正美は呟いた。

 「ジャンヌ2!出来るだけ敵機を引き付けて!」

 正美が指示を出した。

 「了解!みんな!行くよ!!」

 石部は叫ぶと、高度を上げていった。

 正美と、岡村、内田のF−2だけが先を急ぐ。

 残りのF−2は上昇すると、敵機を迎え撃つ態勢になった。

 石部のF−2のパネルにミサイルの誘導電波に捕らえられた警報が鳴った。

 「行くぞ!」

 石部が発射ボタンを押すと、電波追尾ミサイルが発射された。

 ミサイルはレーダー電波をたどりながら、ミサイルの発射台に命中した。山の尾根に、次々と黒煙と爆発の閃光が起こった。

攻撃隊の全滅原因を分析した正美が、この作戦のミサイル攻撃の対策として、電波追尾ミサイルを搭載する事で、こちらが攻撃を受ける前に、相手の発射台やレーダーを確実に破壊して攻撃力を削ぐ事にしたのだ・・・それは見事に成功した。

 敵機は迎撃体制をとるが、2機の戦闘機は、高度を下げて谷に侵入して正美たちを追う。

 「ジャンヌ10は、あいつらを追いかけて!正美さんたちを守るのよ!!」

 石部は岩田に指示を出した。岩田は、翼を翻して山の尾根から発射される機関砲弾を避けながら谷に侵入した。谷に入ると死角になるのだろう・・・攻撃がやんだ。岩田は、前を飛ぶ敵機を追った。

 

 「みんな!行くよ!!正美さんたちのところに、奴らを近づけないよ!!」

 石部が残ったメンバーに言った。

 「「「了解!!」」」

 「攻撃開始!!」

 石部が命令を出した。

 「ジャンヌ5、発射!」

 「ジャンヌ2、発射!」

 F−2から次々にミサイルが発射されていった。ミサイルは次々に敵に命中して、爆発が起こる。

 「全機突撃!!」

 石部たちは、アフター・バーナーを全開にすると敵の編隊に突っ込んでいった。

 「ジャンヌ5、ドジを踏まないでよ!」

 「OK!ジャンヌ2!」

 石部と岡村は、並んで全速力で飛ぶと、敵のミグ29、2機とすれ違いざまにバルカン砲を浴びせた。敵は胴体から炎を噴出しながら落ちていって、山腹にぶつかると爆発した。

 「撃墜!!」

 石部が笑った。

 反転して敵を追う2人・・・。上空では、飛行機雲が絡み合って、その中に時折黒煙が沸き起こっていた。

 

 

 正美たちは、谷に沿ってF−2を飛ばしている。その後からは、ミグ29が必死に追ってくる。

 ミグのパイロットが空対空ミサイルを、最後尾を飛んでいる内田に向かって発射した。

 「うわ!やばい!!」

 内田が叫んだ。パネルを操作して妨害システムを作動させた。機体の後部から、発光弾が飛び出した。赤外線誘導ミサイルは、発光弾にあたると至近距離で爆発した。機体が大きく揺れた。

 「やばかった・・・。」

 腕にじっとりと汗をかく内田。

 「敵も・・・いい腕をしているな!」

 正美がコクピットの中で呟いた。目の前に山が迫る。操縦桿を右に倒して急旋回をする・・・岡村、内田はピッタリとついてきた。その後からミグ29が旋回してくる、もう一機は・・・山腹の木の枝に主翼を引っ掛けると墜落した。大爆発が起きた。その後からF−2が旋回してきた。

 「誰?!」

 正美は、ミラーでそれを確認すると、インカムで尋ねた。

 「ジャンヌ10!援護します!!」

 岩田は、報告するとスコープに前を行くミグ29を捉えようとしていた。あれだけ怖かった低空飛行に不思議な事に恐怖感を感じなかった・・・今、自分が敵を落とさないと味方がやられるという使命感からだろうか・・・?

 岩田のF−2のスコープの中心にミグが入った。発射ボタンを押すとバルカン砲弾が、ミグのエンジンを捕らえて火花が飛び散った・・・次の瞬間、大爆発が起きてミグは破片を撒き散らしていた。高度を少し上げて爆発をかわそうとした。

 「!!」

 山の尾根から機関砲弾が飛んできた。操縦桿を前に倒して、再び谷底を這うように飛ぶ岩田。

 「先輩の言うとおりだね!!」

 前を行く正美たちについて行く。

 「サンキュー!ジャンヌ10!!」

 正美の声がインカムに響いた。思わず笑顔になる。

 

 「いい腕だ・・・。」

 正美は、ミラーを見て微笑んだ。山の間を縫って飛んでいく4機のF−2。目標は近づいてきていた。

 

 

 

 日本海海上・国防軍主力艦隊

 

 激しい戦いが続いていた。小沢艦隊は4隻の護衛艦を失っていた・・・それでも全速力で、敵をミサイルの射程距離に捉えようとしていた。上空では、ユニコーン、ファルコン飛行隊の戦闘機が敵の攻撃機と戦いつづけている。

 「ユニコーン・リーダー!敵機接近!10時の方向だ!!」

 浅原が言った。

 「OK!ユニコーン2!行くぞ!!」

 梶谷と、北田が突っ込んで行く。すれ違いざまにバルカン砲を撃つとSU−17は主翼を叩き折られて日本海に向かって錐もみ状態で落ちていった。

 すり抜けた敵に対して、北田がF−15を旋回させて追いかける。SU−24をスコープの中心に捉えるとバルカン砲を発射した。エンジンが爆発をして破片を空に撒き散らしていった。

 「頼むぞ・・・正美!がっかりさせないでくれよ・・・。」

 コクピットで梶谷が呟いていた。

 

 「敵艦隊!射程距離に入りました!!」

 管制員が報告をした。

 情報表示パネル上に、敵の機動部隊が対艦ミサイルの射程距離に入ったことが表示された。

 「彼女達のために、少しでも時間を稼がなければ・・・敵の空母に集中攻撃だ!!」

 小沢が命令をした。

 砲術長は、コンピューターを操作してミサイルに情報を入力していく。通信士は、“ゴッド・アイ”に連絡をとっていた。

 

 「ファルコン・リーダー!艦隊と連携をして敵の空母を攻撃せよ!!」

 米村は、浅原に指示を出した。

 「了解!Aグループ!続け!!」

 浅原は、翼を翻して敵の艦隊に向かって行った。7機のF−2が続く。

 

 「目標をロック・オン完了!!」

 管制官が言った。

 「全艦、ミサイル発射!!」

 小沢が命じると、砲術長が発射ボタンを押した。『まや』の艦橋の前にある垂直発射ランチャーから4発の対艦ミサイルが飛び出して炎を噴出しながら飛んでいった。艦隊の各艦からミサイルが飛んでいく。

 

 

 「OK!発射!!」

 艦隊を囲むように、扇型に展開したファルコン飛行隊の各機から、2発づつのASM−2、空軍自慢の対艦ミサイルが発射された・・・ミサイルは、敵艦隊を目指してまっしぐらに飛んでいった。

 

 

 「ミサイル接近!!多数です!!」

 空母に乗っている管制員が、悲鳴のような声をあげた。

 「迎撃しろ!!」

 司令官が叫ぶ。しかし、この国の海軍の駆逐艦、フリゲート艦は、小沢艦隊のものに比べると、はるかに旧式で戦闘能力は低い。

 駆逐艦が、対空ミサイルや機関砲を発射した。しかし・・・・低空を高速で飛来する対艦ミサイルを捉える事が出来ない。駆逐艦の一隻にミサイルが命中した。閃光が光り黒煙が湧いた。多数のミサイルが空母に向かってくる。

 「迎撃だ!!」

 司令官は、顔面蒼白になって叫んだ。

 「手遅れです!!」

 艦長が悲鳴のような声で叫ぶ。

 轟音が響き艦が激しく揺れた。乗組員は、床や計器に叩きつけられた。火災が起き、黒煙が吹き上がる。舷側に開いた大きな穴からは、海水が流れ込んでくる。傾斜していく航空母艦。火災は、弾薬庫にまで及び大爆発が起きた・・・海上に黒煙が沸いて轟音が響いていた。

 

 

 「やったーー!!」

 『まや』の艦橋には、大歓声がおきた。あちらこちらで乗組員や幕僚達が喜び合っている。

 「フ〜ウ・・・」

 小沢は、大きくため息をつくと司令官席に腰を下ろした。

 「長官!」

 参謀長が、顔一杯に笑みを浮かべて駆け寄った。

 「参謀長!第3護衛艦隊に連絡だ!上陸作戦を開始せよ!」

 小沢は、笑顔で命じた。

 「後は・・・彼女達がうまくやってくれれば・・・。」

 小沢は、呟いていた。

 

 

 上陸部隊が、海岸線に向かっていく。揚陸艦が、戦車や兵士達を上陸させていく。護衛艦隊が艦砲射撃を地上部隊に向かって行っていく。上陸作戦は成功した。敵は、正面と側面から攻撃を受けることになった・・・小沢提督の策略は成功した。

 

 

 

 某国・先端技術研究所

 

 その老人は、いつもと同じように山で木を切り出していた。倒した木を、何本か纏めてワイヤーで固定すると、山の間に張ってあるワイヤーで反対の山に運んでいた。そこで、道路に止めてあるトラックに積むのだ。

 老人は、滑車を動かし始めた。材木が谷を渡っていく。突然、今まで聞いた事のない大きな音が山に響いてきた。驚いて振り向くと、飛行機がこちらに向かって猛スピードで飛んできた。日の丸をつけた4機の飛行機が、材木の下をくぐって飛んでいった。老人は、呆然とそれを見送っていた。

 

 

 「今のは・・・やばかった・・・。」

 正美は、コクピットの中で冷や汗をかいていた。

 山の尾根を曲がると、突然、目の前にロープが張られていて、材木がゆっくり移動していた。もう少しで、垂直尾翼を引っ掛ける所だったが、全機、くぐりぬけたようだ。

 「もうすぐだ・・・。」

 正美は、操縦桿を握る手に力をこめた。

 

 

 先端技術研究所を見下ろす丘の上では、小川がトランクから金属製の筒を取り出して、あるものを組み立てていた。組みあがると、それをもって研究所が見える岩陰に移動した。

 「それは?」

 竹内が聞くと、

 「レーザー照準器ですよ・・・これで、ジャンヌダルク飛行隊が投下する爆弾を誘導するのです。100%命中しますよ・・・。」

 小川がスコープを覗いた。突然、

 『ダダダダダッ』

 銃声が響いた。

 「見つかった!」

 長谷川が叫んだ。全員が銃を構えて反撃する。

 「竹内!おまえは博士達を集合地点に運べ!!」

 西村が叫んだ。

 「しかし・・・」

 竹内が反撃しながら言うと、

 「俺達は・・・何とか脱出する!早く!!」

 長谷川が言った。竹内は、ジープに向かって走る。木の陰に隠れている上田博士たちを逃がそうとしたとき。

 「・・・!」

 小川は、敵がバズーカ砲で木を狙っているのを見つけた。咄嗟に走り出す。

 「危ない!!」

 小川は、叫ぶと上田博士にタックルをした。次の瞬間、爆発音があたりに響いた。小川は、右肩に何かがぶつかったのを感じた。激痛が走る。

 「先輩!」

 西村が、自動小銃M−16を撃ちながら叫ぶ。

 「大丈夫だ・・・!」

 小川が、右肩をおさえながら言った・・・力が入らない・・・脱臼したようだ。

 「博士・・・お怪我は・・・。」

 小川が聞いた。

 「私は大丈夫だ・・・君こそ・・・。」

 「早く避難してください!潜水艦が迎えに・・・。」

 「竹内さん!家族を頼みます!!」

 上田博士が竹内に言った。

 「しかし・・・博士!!」

 竹内が上田に言った。あたりには、銃声が響き渡っている。長谷川と西村が必死に反撃をしている。

 「君は、その肩では、あの装置を使えないだろう・・・それに、これはいわば私の起こした戦争だ・・・全てのけりをつける。」

 上田は、小川に向かって言った。

 「・・・わかりました!必ずお守りします!」

 小川は、上田に向かって言うと、竹内に、

 「頼んだよ!」

 そう言うと、二人は銃撃戦の中を岩場に向かって走った。竹内は、ジープを発進させた。山道を、『おおしお』の待つ海岸に向かって急いだ。

 スコープを構える上田・・・。

 「レーザーのポイントを司令室の壁に・・・。」

 小川が、双眼鏡を覗きながら言った。岩に銃弾が命中する音が響く。

 「娘の敵討ちだ・・・。」

 上田が呟いた・・・驚く小川。二人の耳に、遠くから響くジェットエンジンの音が聞こえ始めた。

 

 

「何だと!戦闘機がここに?!」

独裁者が驚いて尋ねた。

「はい・・・信じられない事に・・・山の間を縫ってここに・・・。」

「馬鹿な事を言うな!!」

独裁者は、司令室の外に出て窓の外を見た・・・警備兵達が、対空砲に向かって走って行く。警報が研究所に鳴り響く。谷の向こうからゴマ粒のように見えた点が、しだいに大きくなり形が見えてくる。

「そんな・・・馬鹿な?」

独裁者は呟いた。

 

 

「あの男だ!」

小川が呟いた。

「よし!」

上田博士は、レーザー照準器の照準を、独裁者の少し上の壁に合わせた。

ジェットエンジンの音が、しだいに大きくなってきていた。

 

 

「さあ!きたぞ!!」

4人の目の前に、近代的な建物が現れた。

「攻撃用意!!」

正美は、兵器管制コンピューターのスイッチを操作していった。

「・・・。」

気分が悪い・・・最近ずっとこうだったが・・・もう少し踏ん張れ!正美!!・・・自分を励ます。

コンピューターが、小川たちの照射しているレーザーを捕らえた。対空砲火がF−2をめがけて飛んでくる。

「ジャンヌ・リーダー、ロック・オン完了!」

「ジャンヌ3、ロック・オン完了!

「ジャンヌ7、ロック・オン完了!」

岩田は、地上の対空砲に向かって、バルカン砲で攻撃を加えて援護している。

「低空爆撃だ!爆発に巻き込まれないでよ!!」

正美がインカムで叫んだ。

「「「了解!!」」」

3人が答えた。F−2は、高速で研究所上空に侵入して行く。

「投下!!」

正美がボタンを押した・・・機体が軽くなる・・・ジェットエンジンの轟音を響かせながら、高速で研究所の上空を通過するジャンヌダルク飛行隊のF−2・・・。

 

 

小川たちの視界の中に、翼に日の丸をつけたF−2が山の間から現れた・・・敵兵は、驚いて一瞬銃撃がやんだ。

「あれが・・・。」

小川が呟いた。

「梶谷中佐達だ!!」

正美と面識のある西村が叫んだ。

「あれが・・・空のジャンヌダルク!!」

長谷川が呟いた。

「上田博士!!」

小川が言った。上田は、独裁者のいる建物の壁にレーザーを当てている。

「ここに来い・・・。」

呟く上田博士。

F−2から塊が落ちた・・・真直ぐ研究所に向かっていく。

「あたれ!!」

西村が叫んだ。

 

 

独裁者の目にも、4機のF−2が見えていた。見る見るうちに、その姿が大きくなってくる。

「馬鹿な・・・なぜ侵入不可能なここに・・・。」

独裁者が呟いた。対空砲が火を噴くが、F−2を捉えきれない。

3機のF−2の機体の下から4発づつ爆弾が投下された・・・真直ぐこちらに向かってくる。

「うわー!」

彼は叫ぶと、走って逃げようとした。次の瞬間、轟音が響いて爆風が彼を吹き飛ばした。彼の上にたくさんのコンクリートが崩れ落ちてくる。スタッフ達の悲鳴があたりに響いている・・・次の瞬間、彼の意識は、永遠に冷たい闇に消えていった・・・。

研究所の出口に停めてあった電磁波戦車の上にも、巨大なコンクリートの塊が落ちてきた。戦車兵たちが必死に逃げる。コンクリートは、戦車を完全に破壊してしまった。

 

 

「“ふくろう”から、ジャンヌダルク・リーダーへ!」

小川が正美に無線で呼びかけた。

「こちら、ジャンヌダルク・リーダー!!」

「ターゲットは、完全に破壊されました!作戦成功!!」

小川は、通信を終えると皆に呼びかけた。

「さあ!脱出だよ!!」

西村たちは、敵に銃撃をしながらランドクルーザーに走った。

 

 

高度を上げて行く正美たちのF−2。

「ジャンヌダルク・リーダーよりゴッド・アイへ!全弾命中!ターゲットは、破壊された!!」

「了解!ジャンヌダルク・リーダー!!」

「やったーー!!」

岡村たちが喜んでいる。正美が地上を見つめた。研究所は、今では完全に破壊されて、炎と黒煙を噴き上げていた。

「すごい破壊力ですね!」

内田が言うと、

「12発の爆弾の、ピン・ポイント攻撃だからね!」

岡村が言った。

「・・・。」

正美は、また、気分が悪くなってきていた・・・眩暈がする。・・・いったい、なぜ・・・地上を見ると、情報部員だろうか・・・制服姿の女性が、撃ち合いをしながら車に乗ろうとしていた。

「情報部員の、脱出を援護するよ!!」

正美が言った。

「「「了解!」」」

3人が答えた。

司令部が破壊されたためだろうか?対空砲火はない。F−2は、急降下をして行った。

 

 

小川がランドクルーザーに向かって走った。西村たちが援護をしている。敵の兵士の数はまだ多い。AK47を撃ちまくっている。

ジェットエンジンの音が響いた。走りながら空を見るとF−2が急降下してきて、バルカン砲の発射音が響いた。敵兵の隠れているあたりに土煙が吹き上がった。ランドクルーザーに乗り込むと、長谷川が急発進させた。山道を谷に沿って走って行く。後から、敵もジープに乗り込んで追いかけてくる。機関銃の発射音が響く。

「このままでは!!」

西村が叫んだ。

前からF−2が飛んできた、車の上を轟音が通り過ぎると後方で爆発音がした。F−2がジープに、バルカン砲を浴びせたのだった。

 

 

正美は、谷に沿ってF−2を飛ばした。ランドクルーザーが走り去ると、たくさんのジープが、それを追っていた。正美が発射ボタンを押した。バルカン砲の真っ赤な線が、先頭を走るジープに命中した。爆発を起こし、谷底に転がり落ちていった。

「このままでは、捕まってしまいます!!」

岩田が、正美に言った。

「ジャンヌ・リーダーより、『まや』へ!情報部員収容のため、ヘリコプターの派遣をお願いします!!」

 

 

『まや』では、小沢提督が、すぐに決断した。

「対潜ヘリを発進させろ!!」

後部のヘリコプター甲板では、対潜ヘリコプターがエンジンを始動させた。離艦をすると、全速力で陸地に向かって飛んでいった。

 

 

小川たちは、ジャンヌダルク隊の援護を受けながら、退却していた。曲がりくねる道を猛スピードで走っていた。後からは、敵の銃撃がなかなかやまない。

「くそ!!」

長谷川が、吐き捨てるように言った。

リアガラスが、銃弾を受けて音を立てて割れた。西村が後ろに移動すると、ガラスの割れた部分から、M−16の銃身を出して撃ち始めた。敵も驚いて一瞬怯んだ。銃撃戦が続く。

 

 

「シーガル1より、ジャンヌダルク・リーダー!あと2分で到着する!援護を頼む!!」

対潜ヘリコプターの機長が無線で言った。

「機長!この辺りには、着陸できそうな所は・・・。」

副操縦士が言った。

「道の横で、ホバーリングをするさ!」

「そんな・・・危険です!!」

「今の方が、よっぽど危険だろ!行くぞ!!」

ヘリコプターは、山に沿って走る道に向かって降下していく。その道では、ランドクルーザーとジープの間で銃撃戦が続いていた。

 

 

長谷川の運転するランドクルーザーの前に、突然、ヘリコプターが現れた。機体の横の扉を開けて、乗員が援護射撃をしている。小川の持っている無線から、機長の声が響いた。

「シーガル1より、“ふくろう”へ!収容に来ました!こちらに飛び移ってください!!」

機長は、道のすぐ横でヘリをホバーリングさせる。ジープが追いついてきた。銃撃が激しくなった。

「早く!!」

機長の声が響く。

4人は、車を降りると車の陰に隠れた。長谷川と西村がM−16で反撃をする。

「博士!ヘリに乗って!!」

小川が叫んだ。上田博士は、ヘリの扉に向かって飛び移った。機体の中に転がり込んだ。

小川も、慣れない左手にピストルを持って反撃している。

「早く行って!!」

西村に叫んだ。

「お先に!!」

西村が機体に転がり込んだ。銃撃は激しい。ヘリの機体にも弾痕が刻み込まれていく。

突然、ジェットエンジンの音が響いた。ジャンヌダルク隊のF−2だ。

 

 

「ジャンヌ10!行くよ!!」

「了解!」

正美と、岩田がバルカン砲を発射した。敵は慌てて山側の森に隠れた。

反対方向から、内田と岡村のF−2が接近する。ジープに向かってバルカン砲を発射する。ジープについている機関砲で反撃していた敵の兵士は、ジープと一緒に吹き飛ばされてしまった。

 

 

「今のうちです!!」

小川が叫んだ。長谷川がヘリコプターに飛び込んだ。小川が援護射撃をする。

「先輩!!早く!!」

ヘリの扉から、西村が援護射撃をしている。小川が、走る。銃撃が激しい、道に土煙が上がる。小川はホバーリングを続けるヘリコプターに飛び込んだ。右肩をぶつけた・・・再び激痛を感じた。

「収容完了!!」

乗員が叫ぶ。

「了解!」

機長が言った。

「シーガル1より、ジャンヌダルク・リーダー!収容完了、離脱する!!」

「了解!シーガル1!!」

ヘリコプターは、エンジンの出力を上げて速度を上げて海に向かう。

 

 

「さて・・・仕上げだね!」

正美と岩田が、並んで飛んでいく。

「発射用意!」

正美が号令をかける。2人は、赤外線誘導ミサイルの照準を、停まっているランドクルーザーにつけた。

「ジャンヌ・リーダー、発射!」

「ジャンヌ10、発射!!」

2発のミサイルが、車に命中をした。小川たちの乗っていた車は、大爆発を起こした。

「ゴッド・アイへ!こちら、ジャンヌダルク・リーダー!任務終了、帰還します!」

通信を終えると言った。

「みんな!帰るよ!!」

「「「了解」」」

4機のF−2は、ダイヤモンド型の編隊を組むとヘリコプターを追い越していく。

「サンキュー!ジャンヌダルク・リーダー!!」

小川の声が、正美のインカムに響いていた・・・。

 

 

 

戦いは、終わった・・・独裁者が倒れた事で、軍の指揮系統は混乱し、兵士達の士気は奪われていった。部隊は、次々に降伏していき、民主化組織が独裁政権を倒していった・・・あの国は、国民主導の国家に生まれ変わっていった・・・。

 

 

 

日本海海上・海軍・防衛艦隊旗艦『まや』

 

小川と上田博士は、『まや』のヘリコプター甲板に立っていた。

『まや』は、白い航跡を引きながら日本に向かっていた。後方には、この戦いをくぐりぬけた艦隊が続いていた。

上田の家族は、無事に潜水艦『おおしお』に収容されて日本に向かっていた。日本に帰れば、上田は家族と再会が出来るはずだった。

「小川さんには・・・いろいろお世話になりましたね・・・。」

上田博士が海を見ながら口を開いた・・・甲板には、強い風が吹き抜けていた。

「いえ・・・これは任務ですから・・・。」

小川が言った・・・髪が強い風になびいていた。小川は、右肩を脱臼したため首から吊っていた。

「娘は・・・美都子は、どんな最後を・・・?」

上田の言葉に、小川は驚いた・・・言葉が出ない小川に、上田博士は言った。

「彼・・・西村君は、嘘が下手ですね・・・彼の表情で、娘が殺された事がわかりました・・・。」

上田博士は、寂しそうに笑った・・・。

「美都子さんは・・・僕の恋人でした・・・女に変えられてしまった僕を、敵の手から逃がそうとして最後を・・・。」

小川が海を見つめたまま言った・・・『まや』の航跡の上をカモメが飛んでいる。

「そうですか・・・しかし、あの娘もこれで私達を許してくれるでしょう・・・全ては終わったのですから・・・。」

海を見つめる小川と上田博士。その2人を、ヘリコプターの格納庫の中から小沢提督が見つめていた。やがて、小沢は艦橋に向かって歩いて行った。

 

 

 

空軍・北九州基地

 

基地に、次々と戦闘機が着陸していた。E−767も、戻ってきていた。

基地は、連合軍の完全勝利の喜びに沸いていた。

朝倉も格納庫の前で皆を出迎えている。着陸した戦闘機やE−767の乗員達と握手を交わしていた。

「さあ!お嬢さんたちが帰ってきたぞ!!」

米村が指差した。ジャンヌダルク隊のF−2が戻ってきた。石部を先頭に次々と着陸してくる。

「さすがだな!相変わらず、うまい着陸だよ!」

梶谷が言った。

岩田のF−2が最終侵入をしていく・・・着陸をして車輪が接地をした・・・ブレーキをかけながら速度を落とすと誘導路に移動していく。駐機場に停止してエンジンを止めると皆が集まってきた。キャノピーを開けると、岩田は笑顔で皆に手を振った。

「お帰り!!」

岡村が言った。

ステップを降りると、岩田は、ヘルメットを脱いだ。

「きつかったです・・・。」

岩田は、笑いながら言った。

「これで・・・あなたも一人前だよ!」

石部が笑いながら言った。岩田は頷いた。梶谷、浅原たちに肩を叩かれる岩田・・・突然、空を指差す。

「さあ!正美中佐が帰ってきたよ!」

正美のF−2に向かって手を振る岩田。

 

 

正美は、意識が朦朧としていた・・・疲労などではない・・・今までに体験した事のない状態だった・・・それでも何とかF−2を飛ばしていた。

「コントロール・・・こちらジャンヌダルク・リーダー。最終侵入を開始します。」

「了解!」

管制官は、いつもと違う正美の様子に戸惑いを感じていた。

「おかしいぞ・・・。」

呟くと双眼鏡でF−2を見守る。

 

「正美・・・なんだかおかしいよ!」

圭子が叫んだ。いつも見慣れている正美のF−2の動きとは明らかに違う。

梶谷も、それには気付いていた・・・怖くて今まで口には出せなかったのだった・・・手を堅く握り締める梶谷。不安な顔で見守るジャンヌダルク飛行隊のパイロット達やスタッフ。

「降りてくれ・・・。」

朝倉が呟いている。

F−2の車輪が滑走路に接地した・・・ドラッグ・シュート(機体の後部から出るパラシュート)を作動させながら速度を落とすと滑走路の端で停止をした・・・しかし、誘導路には移動をしない・・・エンジンは止まってしまった・・・。

「おかしいぞ!!」

村田が叫んで機体に向かって走り出した。岩田や梶谷も走って行く。圭子は、格納庫の脇に止めてあったジープに飛び乗った。服部がジープの運転席に飛び乗ると、エンジンをかけてタイヤを鳴かせながら急発進をさせた。ジープが、滑走路の端に止まっているF−2の脇に止まった。

「正美!!」

圭子が叫ぶが、コクピットの中では動きがない。機体によじ登る圭子、そのうちに、みんなが機体の周りに集まってきた。

「どうなんだ!!」

村田が圭子に聞いている。

圭子はコックピットの中を見た。正美は、ヘルメットを被り、前に頭を傾けている・・・どうやら何かを吐いてしまったようだ・・・キャノピーを腕で叩くが反応はない。うなだれたままだ・・・。

「正美!・・・ねえ・・・正美!!」

圭子が必死に呼びかける。岩田は、口に両手を当てて瞳を潤ませながらそれを見つめている。石部や岡村たちも不安そうに見ている。

朝倉司令官が機体によじ登った・・・中の状況を見て、すぐに機体の横に付いている非常用のボタンを押した。緊急用の油圧でキャノピーが開いた。正美の顔に手を当てる朝倉。

「救急車だ!早く!!」

朝倉が叫んだ。やがてサイレンの音が聞こえてきた・・・。

 

 

救急隊員たちは、正美を機体から降ろすと救急車で病院に運んだ。

病院には、朝倉や米村をはじめ、飛行隊のパイロット達も集まっていた。みんなが不安げな顔で診察室を見つめている。

「まさか・・・正美さんが・・・。」

内田が呟くと、

「馬鹿な事を言うな!あの人がそんなに簡単に・・・。」

浅原が、たしなめた。

やがて診察室の扉が開いて医師が出てきた。

「先生・・・どうなのですか?」

朝倉が尋ねた。

「あんな状態で・・・戦闘機を操縦させて戦わせるなんてムチャクチャですよ!!」

医師が朝倉の目を見て言った。朝倉は、言葉が出ない。梶谷の顔は、青ざめている。

「何とか命は取り留めましたが・・・こんな事をされると二人の命は保証できませんよ!!」

医師の言葉に、そこにいた全員が、顔を見合わせていた。

「2人って・・・まさか・・・。」

 

 

 

1年後、空軍・北九州基地

 

梶谷と正美は、基地を見渡せる堤防の草むらに座って飛行機を見ていた。

正美の腕の中では、生まれたばかりの赤ちゃんが抱かれていた。

2人の頭上をジェットエンジンの音を響かせながらF−15が飛んでいった。

「いろいろあったな・・・。」

「うん・・・いろいろあったね・・・。」

正美は、梶谷を見つめた。

「覚えてる?・・・ここは、私が女性になってしまってから、初めてあなたに会った所だよ。」

「そうだったな・・・そして米村さんと一緒にジープに乗って基地に行ったんだ・・・。」

「うん・・・全ては、ここから始まったんだね・・・。」

また、ジェットエンジンの音が響いてきた。正美の目に、石部と岩田のF−2が飛んでくるのが見えてきた。正美が子供を抱き上げた。

「ほら・・・正弘君。あれがお母さんの仲間達だよ!」

F−2が正美たちの上を通過していく・・・ジェットエンジンの音があたりに響くが、子供は笑っていた。

2機のF−2が、日差しを翼にきらめかせながら青い空の向こう側に飛んでいった・・・。

 

 

ガールズ・ファイター 〜ファイナル・オペレーション(後編)〜終わり

 

 

 

こんにちは!逃げ馬です。

長かった「ガールズ・ファイター」シリーズも、ついに完結です。

正美さん、とうとう“お母さん”になってしまいました(笑)。これは、予想をされていた方・・・かなり多いのではないでしょうか?

連合軍の一斉反攻作戦では、小沢提督が見事な指揮を見せました。G・Fで注目をされていたようだったので、「これは、見せ場を作ってあげなければ!」と、あのシーンを用意しました。本当は、機動部隊を指揮させてあげたかったのですが・・・それでは、正美さんの出番がなくなるので・・・(^^;;;

小川君たちは・・・「サイバー・ウエポン」よりも情報部員らしい戦いになったかもしれませんね。上田博士を救出しての脱出場面、結構力が入りました。

このシリーズを書き出したきっかけは、僕の甥っ子が遊びに来た時に持ってきた“ウルトラマンガ○ア“のビデオでした。

僕も、子供の頃は、ウルトラシリーズを見ていましたが、そこで怪獣と戦うのは、いつも男性隊員。女性隊員は、大体一人でマスコット的な役割でした。それが、甥っ子の持ってきたビデオの中では、怪獣相手に戦闘機に乗って戦っている・・・もちろん、最後はウルトラマンが出るのですが・・・。それで、「女性戦闘機パイロットのストーリーを書いてみよう!」と思ったきっかけでした。

書いてみると、シリアスなストーリーになっていきましたが、3作品、どれも僕にとっては思い入れのあるものになりました。皆さんには、楽しんでいただけたでしょうか?堅い作品を書いてきたので、このあとは、コミカルなものも書いてみたいと思います。

長くなりましたが、長編の作品を最後までお付き合いいただいてありがとうございました。また、いつか作品の中でお会いしましょう!

 

なお、この作品に登場する団体、個人は、実在する団体、個人とは一切関係のないことをお断りしておきます。

 

2001年6月  逃げ馬

 


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