[100万HIT記念作品Index]

◆お読みになる前に◆
 この作品は「天使のお仕事」シリーズとシェアワールド「ダーティーエンジェル」シリーズのクロスワールド番外編です。
作品の面白さを充分に味わうためにも、あらかじめ両シリーズに目を通していただけるようお願い申しあげます。

――少年少女文庫100万Hit記念作品――


番外編

原作 100万Hit記念作品製作委員会

『ダーティーエンジェル』シリーズ原案 水谷 秋夫

番外編作者 BAF 猫野 丸太丸 よしおか(順不同)

投稿者 原田聖也


「天使のお仕事」番外編/「ダーティーエンジェル」パロディ

セパとヘアクリップ


作:BAF

 今朝はいつもと何かが違っていた。
 いつもの悪夢も見ることなく、朝日の到来とともに清々しく目覚めることが出来た。
 ゆっくりと体を起こし、大きく伸びをする。
 さらりと肌を滑るパジャマの感触も、いつもは鬱陶しいと思う胸の重さも今日は何故か心地いい。
「今日は何か良いことありそうね」
 そんなつぶやきも自然に、口から紡ぎ出される。
 ベッドから降り、髪をかきあげた時、ふと何か金属質な物に手が触れた。
「何かしら?」
 つまんでみるが、何故か髪から外れようとしない。
「もうっ! また憩ちゃんの仕業ね」
 さして怒った風でもなく、優しげな苦笑を浮かべると、そのまま鏡の前に向かう。
 鏡を覗き込むと、そこには見慣れぬヘアクリップが髪に飾られていた。
「あっ……」
 別段すごくかわいいと言うわけではなかったが、そのヘアクリップを見たとたん、「自分は女の子なんだ」という実感が湧いてきて、無性に心踊り、それを外そうなどと言う思いはどこかに消えうせてしまった。
 それから夢見心地のまま、いつもの服に着替えると、寝室を出、居間に向かう。
 まだ憩は起き出していないようであったが、脱ぎ散らかせられたセーラー服がふと目にとまった。
「……しょうがないわね。憩ちゃんは」
 そう言いながらも、丁寧にセーラー服を拾い上げていく。
 不意にその手が止まった。
『そっか、あたしはこれを着る機会なんてなかったものね……』
 今まではあたりまえなことだと思っていたはずなのに、何故か今日は一抹の寂しさが心をよぎる。
「あたしだって満更でもないんだぞ!」
 落ち込み続けていきそうになる心を奮い起こすために、セーラー服を胸に当て、ポーズをとってみた。

 ガラッ!

 その瞬間、憩の寝室の扉が開いた。

作:猫野 丸太丸

 寝室から出てきたのは、もちろん憩だ!
「きゃっ」
 セーラー服を抱きしめ胸の前で隠したけど、当然なにをやっていたかは分かってしまっただろう。あの子のことだから、
「おばさんが恥ずかしい格好してる」
 ……って、きっと言われちゃうんだわ。
 でも憩は今日はなんだか悲しそうで、思いつめている様子だった。
「セパルカーせんせい……」
「どうしたの? 憩ちゃん」
「あたし……悩んでることがあるんです」
 憩は伏し目がちに、あたしに近づいた。すごく心配になった。ついくせで、彼女の手からさりげなく脈拍と血圧と貧血の程度を推し量ってしまった。この子、すごく……どきどきしてる。
「どうしたの、どこか具合が悪いんだったら、遠慮なく言って頂戴」
「胸が痛いんです、でも、病気なんかじゃないんです」
「えっ」
 憩は目を逸らした。リビングルームが、なんだか寒い。彼女の声は、秋風に吹かれる木の葉のようにかすれた。
「好きになっちゃったんです。いつもいっしょにいる人。すらりとした長身で、長い銀色の髪をしていて、冷徹だけど本当は優しい、お医者様なんです」
 それって、まさか、あたしのこと?
「いけないわ」
 あたしは自分の寝室へ逃げ帰ろうとした。でも、憩はあたしを抱き止めたのだった。
「行かないで……。あたしの想いを受け止めてください、セパルカーせんせい」
「いけない、いけないわ」
 あの子の腕があたしの胸を締めつけた。背中には若く小さなふくらみが触れる。あの子の身体が、細かく震えているのが分かる。
「せんせい……」
 あたしの鼻の奥に、なにか温かいものが流れて、つんとした。振り返ってあの子の不安を全部この胸に受け止めてあげたい。これって、母性本能なのかしら。

作:よしおか

『ああ、ダメ。このままでは、この子を強く抱きしめてしまいそう。でも、震えるこの子を突き放すなんてできないわ』
 そんな思いが、わたしの中に湧きあがってきた。どうしたのかしら、わたしは昨日までのわたしではない。これが本当の今のわたしなのかしら……
「セパ先生……」
 憩はわたしの胸を抱きしめているか細い腕に、さらに力をいれた。憩の体がさらにわたしの身体に密着し、彼女の体温や鼓動さえも背中に感じた。そして、彼女のわたしへの思いさえも……
『憩チャン』
 そう呼びかけようとしたのだが、彼女がありったけの力でわたしの胸を絞め付けるので、わたしの肺は圧迫され呼吸困難に陥ってしまった。
「い、いこいちゃ……ん」
 薄れていく意識のなかで、彼女に締め付けを緩めるように言おうとしたのだが、それを果たす前に意識が遠のいていった。
 わたしは、ピンクな深い闇の中へと落ちていった。


 Dr.セパルカーを思いっきり抱き締めていた憩は、突然、足元から崩れたDrの異変に驚いた。倒れかかったDrの体を支えながら何とか床に寝かせた憩は、Drの意識がないことに、このとき初めて気がついた。
「先生。先生。脈はあるみたいね。わたしの先生への思いに感激して気を失ったのかしら」
 ……などと、大ボケした事を考えながらも、ぐったりと動かなくなったDrの身体を軽々と持ち上げると、Drの寝室へと運んだ。
「うふ、先生がこれほど変わるなんて、このヘアクリップのおかげね」
 憩は、Drの頭に飾られたヘアクリップを見つめながら微笑んだ。
 そして……

作:猫野 丸太丸

 セパルカーの部屋から、鼻歌混じりに出てきた憩。ばたりという音に振り返り、玄関から入ってきたダーティーエンジェルを見つける。
「あ、おねーさまだぁ! るるるん♪」
 しかしダーティーエンジェルは憩に飛びつかれる前に、彼女の頭にいつのまにか付いていたヘアクリップをひょいっとはずしたのだった。
「あれ、あたし、どうしたんでっすか?」
「どうしたもこうしたもないわよ。自分がやったことを、思い出してみなさい」
 それもそうだと、ダーティーに言われるままさっきのラブシーンを思い返した憩の顔が、トマトのように真っ赤になる。
「う、うっそでっす! ボクが、よりにもよってセパ先生にあんなことやこんなことをするなんて……。ひいいいいいっ!!」
両手で頭をかきむしったあと、ダーティーに詰め寄る憩。
「そのヘアクリップ、いつのまに! さてはおねーさま、ボクまで洗脳して、セパ先生相手に恥ずかしいことをさせたんでっすね!」
「あぁら、そうとも言えないわよ」
 銀色の羽のようなヘアクリップをもてあそびながら、ダーティーエンジェルは微笑んだ。
「このクリップはもともと、勇気のない女の子が理想の自分になって、恋人に愛の告白をするために作られたんですって。すなわち、」
 びしっと、人差し指を突きつけるダーティーエンジェル。
「あなたの深層心理に、セパルカーに告白したいとの想いがあったことは、科学的にまちがいないわ」
「う、うそでっすっすっすっすっ!」
 衝撃の事実であった。憩がいままでセパルカーをいじめていたのは、本当は彼女のことを好きだったからなのか! 人格崩壊寸前まで追い詰められた憩は、狂ったように踊りながら部屋を飛び出していった。
「あはは。ああ、面白かった」
 おなかを抱えるダーティーエンジェル。しかし、そんな彼女にのしかかるように、すらりとした長身の影が差した。
「どうもおかしいと思ったが。貴様の仕業か、ダーティーエンジェル!」
 いつのまに正気に戻ったのだろう、ヘアクリップを握り締めたセパルカーが、いまにもダーティーにつかみかからんとしていたのだ。あとじさるダーティー。
「そんな青筋立てて怒らないでよセパルカー。ほんの冗談よっ」
「うるさーいっ、断じて許さん」
「許さなかったらどうするのよ」
「このヘアクリップ、貴様につけてやる!」
「や、やめて、セパルカー、あっ、いや、そこは……。いやぁぁぁぁん!」
 ダーティーエンジェルの妙に乙女っぽい叫び声が、館内にこだましたのであった。

作:BAF

 数時間後、部屋の中にはクリップを外して自分の言動を思い返し、あまりの恥ずかしさに真っ白に燃え尽きたD.A.が残されていた。
 それを窓の外から見守る一人と一匹。
「なあ、何か違うんじゃないか。 確か今回の任務は堕天使の浄化じゃ無かったのか?」
「全然違って無いですわ〜。汚れた天使さんが、ほらきれいに真っ白〜」
「いや、『汚れた天使』って言うのも、『真っ白』って言うのも違うと思うぞ!」

作:よしおか

 窓の隙間から吹き込む風に、D.A.の身体はさらさらと崩れ去っていった。
 そしてその後には、2個のヘアクリップだけが残っていた……。

おしまい


コメント

 どうも。投稿者の原田聖也です。
 この作品はダーティークリニックの七万ヒット記念として掲示板にBAFさん、猫野丸太丸さん、よしおかさんが書いてくださったリレーSSです。
 ちょうど私が参加させていただいている「少年少女文庫100万Hit記念作品」にちなんだ内容でしたので、折角だから是非少年少女文庫のみなさんにもご覧になっていただこうと思い、執筆者のみなさんから了承をいただいた上でまとめて「番外編」として投稿させていただきました。
 面白い作品を書いてくださったBAFさん、猫野丸太丸さん、よしおかさん、そして、投稿にあたってアドバイスをしてくださったシリーズ原案者の水谷秋夫さんをはじめとしたDirty Clinicの訪問者のみなさん、本当にありがとうございました。

 これで、セパルカーにヘアクリップをという米津さんのリクエストにこたえることができましたね(番外編第二話参照)。
 それにしてもこのヘアクリップは、機能が機能であるだけに手にした人物は、どういうわけかこれを悪戯目的に使うことばかり考えてしまうようです(笑)。


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