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[いんまなあの子はPerky☆Girl!Index]

◆お読みになる前に◆
 この作品は「天使のお仕事」シリーズと「いんまなあの子はPerky☆Girl!」シリーズのクロスワールド番外編です。そのため、もしどちらか一方しか知らないと全く理解不能だったりします。その辺りをご理解の上、肩の力を抜いて(ここが大事/笑)、お楽しみ下さい。

――少年少女文庫100万Hit記念作品――


番外編

原作 100万Hit記念作品製作委員会
「いんまなあの子はPerky☆Girl!」原作 米津

番外編第2話 担当 米津


「天使のお仕事」番外編2/「いんまなあの子はPerky☆Gir!」番外編4

いんまあの子Heavenly☆Present!!


 夏休みもそろそろ終わろうとする頃。暦の上ではすでに秋。

「ただいま〜。ふえぇ〜っ、髪があっちぃよ〜」

 暦はともかく、日射しはまだまだ夏の熱気を失っていない。真衣のアパートから帰ってきた克美は額に玉の汗を浮かべている。少しでも涼しくなるよう長い髪をうなじで縛っているが、どうやらその程度では気休めにもならないようだ。
「おかえりなさいカツミさん。ちょうどいいところへ」
 例によって無駄に涼しげな笑顔のクピドだが、今日はいつもと少し様子が違う。両手を後ろに廻してそそくさと近寄ってくる。
 
「な、なんだよ……」

 なんとなく不穏な気配を察した克美は二歩三歩と後ずさる。
「実はですね、いいものを持ってきたんですよ」
 もったいぶった顔のクピドは、握ったままの右手を克美の目の前に差し出す。
「いいもの?」
 そう言われると興味津々で覗き込んでしまうのが克美の素直なところである。クピドはくすっと笑って手を開く。
「なんだこれ……。ヘアクリップ?」
「ええ。私自らの手による特製ですよ」
「特製だか何だか知らないけど、なんで女のアクセサリーなんか持ってくるんだよ」
「おや、今さら女物を気にする事もないような気がしますが?」
 クピドはちらりと一瞥する。ちなみに今日は克美はサファリっぽいオフホワイトのノースリーブシャツに濃いデニムブルーのタイトな膝上丈スカートという"真夏の女の子"スタイル。
「う……、だ、だからってアクセサリーなんか付けられるかっ!」
 顔を赤らめて声を荒げる克美。先日の"オールヌード事件"以来、週の半分以上をスカートで過ごすハメになっているのだ。そのせいかどうも最近女物への抵抗感が薄れつつあるような気がして、些細なつっこみにも過敏に反応してしまう。
 クピドはちっちっちと人差し指を振る。
「アクセサリーじゃなくて実用品です。前髪をこれで止めたらすっきりしてずいぶん涼しくなると思いますよ」
「んなことくらいで変わるのかよ……」
「結構バカにならないものですよ。ものは試しです、さっそく……」
 いそいそと克美の背中を押していくクピド。ふと気が付けば、克美は化粧台にしつらえた藤椅子に座らされていた。
「げ、いつの間に」
「女性の髪いじりはなかなか楽しいものでしてね。いい機会ですからちょっと念入りにやってみましょうか」
「そ、そんなの別にいいって……」
 抗う間もなくさっと髪をほどかれ櫛を入れられる。
「う〜む、クセがなくて柔らか。艶も申し分ないし、最高の髪質ですね」
「う、そうか……?」
 クピドは鮮やかな手付きで髪を梳き、持ち上げ、流れの方向を変えていく。美容師もかくやという手並みに半ば呆れる克美。鏡の中で、見る見るうちに自分の髪が形を変えていく。
「なんで神様のクセにこんな事できるんだよ」
「上司が女性でしてね。神には労働基準法も組合もないので、上司の我が儘は身の回りの世話から何から全て対応しなくてはならないんですよ……」
「なっさけね〜〜。ホストみたいじゃんか。誰だよその上司って」
「ユノーって言ったら分かります?」
「聞いたことないな」
「ヘラ、とも言いますが……」
「うげ……」
 ギリシア神話のヘラといえば、婚姻や出産を司る最上位の女神だ。だがそんな事よりも、高飛車ぶりやパラノイックな嫉妬深さのほうがよく知られている。クピドが克美の下宿に居着いて離れない理由の一端はそんなところにもあるのかもしれない。
「さ、こんな感じでどうでしょう? 活動的な感じに仕上げてみました」
「ん? あ……」
 鏡を見たとたん、克美はそこに映る姿に魅入られてしまった。
 いつもは真ん中でナチュラルに分かれていた前髪が左側できれいに分け直されていた。左サイドの髪がアップされる一方、跳ね上げられた前髪は右に向かって額に流れ落ちシャープなアクセントになっている。
 クセのない極上のナチュラルヘア故にかえって子供っぽく見られ、しょっちゅう高校生と間違えられている克美だが、この髪型ならもう少し歳相応に扱ってもらえるかもしれない。
「どうです? 女の子は髪型一つでがらっと雰囲気が変わるでしょう?」
「ああ……そうだな……、って、オレは男っ!」
「ははは、そうでしたっけ。では、仕上げに……」
 クピドはアップされた髪が落ちてこないよう左耳の上にヘアクリップを留めた。その直後、奇妙な感覚が克美の身体を通り抜けていった。

え……? なに、今の……?
「どうかしましたか?」
 クピドは悪戯っぽく笑う。
よく分からないんだけど……、なんだかへんな感じ。なんだろ……?
 克美は人差し指を頬に当てて首を傾げた。
「きっとすぐに分かりますよ」
そんなあ、もったいぶらずに教えてくれたっていいでしょ。あら……?
 ぷっと頬を膨らませながら、克美はようやく気が付いた。おかしいのは他でもない自分自身の仕草や言葉遣いだ。
やだ、なにこれ、どうなっちゃったの……ってまた女言葉!? え〜〜っ、どうなってるの〜っ!?
 悲鳴をあげる克美は拳で口を覆っていた。女の子として見てもずいぶん子供っぽい仕草である。
「ふむ、どうやらきちんと働いているようですね」
ちょっとっ、これってクピドの仕業なのっ!?
「ええ。古い知り合いが『女の子らしくなるヘアクリップ』を作ったと聞いたので作り方を教えてもらったのですよ」
な……っ、なんでそんな変なもの作るのよっ!
「そりゃあ……」
 クピドはいけしゃあしゃあと笑った。
「一度くらいおしとやかなカツミさんも見てみたいじゃないですか。いやあ、思った通りとっても可愛らしいですよ」
へ、変なこと言わないでよ……
 『可愛い』という言葉に、いつも以上に心と身体が反応する。ぞくっとする心地よさが身体の中心軸を駆け上がり、心臓がどきどき音をたて始めてたまらなく恥ずかしい。顔が火照って思わずもじもじする。そして、そんな自分がますます恥ずかしくなってしまう。
と、とにかく、こんな物すぐに処分してよっ!!
 ヘアクリップを外そうとする。だが、しっかり髪に噛み込んでしまって外すことができない。
あれ……、と、とれない。なんで……?
「特別サービスでカーマのと同じ呪法をかけてみました。ですから、つけてる人は自分では外せません」
え〜〜っ! それのどこがサービスなのよっ!!
 拳をバタバタ振り回して叫んだ後、我に返って真っ赤になる克美。女言葉もそうだが、一挙動一挙動がいちいち子供っぽいのが恥ずかしくてたまらない。だが、分かっていても自分ではどうしようもないのだ。
ねえ、お願いクピド、これ外してよ
「そんなもったいない。せっかくですからカーマやマイさんにも見てもらいましょう」
ええっ! だ、だめっ、それだけはだめっ! お願いだから今すぐ外して〜〜〜〜〜っ!!
 普段なら罵声と共にキックやパンチが飛ぶところだ。しかし…………、克美はクピドの胸板めがけて一所懸命ポカポカとねこパンチをしている自分に気が付いた。またもヘアクリップに影響されたかと思うと恥ずかしくて悔しくて仕方がない。
 いじけたへの字口で下からじと〜っと睨み上げると、クピドはぷっと吹き出した。
なにが可笑しいのよっ! クピドのイジワルっ!!
 カッとして叫ぶと、今度はクピドは盛大に笑い始めた。
え……? ちょ、ちょっと……、なんなの……?
「カツミさん、これなんだと思います?」
 訳が分からずぽかんとしていた克美にクピドが手のひらを差し出した。そこには、先ほどのヘアクリップが載っかっていた。
え? あれ……?
 慌てて髪に手をやれば、付けていたはずのヘアクリップがなくなっている。
い、いつ取ったの……?
「『お願いだから今すぐ外して〜〜〜〜〜っ!!』のすぐ後ですね」
 にこにこにこと、クピド。つまりそれは、ねこパンチも、その後の女言葉も、いじけたへの字口も、全部ヘアクリップとは無関係に克美自身がやっていたという事だ。
「いやあ、カツミさんって結構なりきるタイプですね〜」
うそ……………………、だろ?」
 確かに普通に話す事ができるのに気付き、顔がじわじわじわ〜っと紅く染まっていく。
「これならもうヘアクリップはいりませんね。明日から立派にお淑やかな女の子として生きていけますよ」
「うっ、うっ、うっ……」
 ぷちん。
「この……、大バカ野郎ぉぉぉっ!!」
 アパートを揺るがす罵声と共に、半泣きになった克美のパンチが炸裂した。

 

 その日の夕食……。

「カツミ……」
 カーマはどんよりとした視線を克美に向けた。
「んあ?」
 返す克美の視線もどことなく生気に欠けている。
「なんとかならんのかあれは……」
「罰なのにこっちが先に音を上げてどうすんだよ」

は〜い、カツちゃん、ごはん、炊けましたですわ〜〜〜〜〜
 妙に間延びしたお嬢様言葉と共におひつを持ってきたのはクピド。克美とカーマは顔に縦線立ててこめかみを押さえた。
「食事が不味くなりそうなのだが」
「確かに……」
あ〜ん、それはひどいのですわ〜〜〜〜
 胸元で拳を握りしめてイヤイヤするクピド。その頭のてっぺんにはなんともなおざりな感じでヘアクリップがくっついている。昼間の一件への罰として一週間付けっぱなしの刑に処せられているのだ。だが、喜色満面の表情はどう見ても楽しんでいるようにしか見えない。
「だいたい、カツちゃんってのはなんなんだよ」
 訊ねられたクピドは嬉しそうにぴんと人差し指を立てる。
その名もカツ・ミンク。天使の名前を呼ぶときの決まり事、ですわ〜〜
「誰が天使だよ。クピドは神様だろ……」
う〜ん、やっぱりここは黒ネコのファミリアさんが欲しいところですわね〜〜
「なぜここで黒ネコなのだ」
 何の話をしているのか二人には全く分からなかった。クピドはどこからともなく紙テープを引っ張り出してヒラヒラと振り回し始める。
さあ〜〜、わたくしたちも明日から街の人々を幸せにするのですわ〜〜〜〜
「…………」

 どんどんたまっていく疲労感は決して残暑のせいだけではない。克美はげんなりしてカーマと顔を見合わせた。

 

 同時刻、同じ空の下……。
「う〜ん、おかしいですわね〜〜」
 伊織の部屋にやってきたパラレルは官給装備のPDAを覗き込んで首を傾げた。
「ど〜した?」
「このグラフによりますと、わたくし達のせいでたった今どんどん不幸になっている方が二人ほどみえるようですの」
 PDAに表示されたグラフでは、せっかく伊織が築き上げてきた皆の幸せが突然かっくんと右下がりになっている。
「そ、そんなっ! これって、またパラレルが妙なことしたんじゃないだろうな!?」
 慌ててパラレルを睨み付ける伊織。だが、パラレルは天使の微笑みを浮かべて軽々と不信の眼差しを跳ね返した。
「ご・安・心、ですわ〜〜。わたくしの行動にミスなどありえませんですもの〜〜〜〜」
 ベッドで寝そべっていたシリアルかふわ〜っとあくびをしながら顔を上げた。
「その言葉で何回くらい痛い目にあったかな……」
 伊織はうんうんうんうんうんと何度も力いっぱい頷いた。だが、これまたパラレルには全く通じていない。
「それに、これくらいの不幸はなんでもありませんですわ〜〜。なぜならば〜〜」
 のんびりしたかけ声と共に、懐からしゅるしゅるしゅるっと紙テープを引き出す。
「明日からもっともっと街の人を幸せにすればよいからですわ〜〜〜〜」
「…………」

 どんどんたまっていく疲労感は決して残暑のせいだけではない。伊織はげんなりしてシリアルと顔を見合わせた。



 違う場所、違うお話なのになぜか似通った境遇の美少女(?)二人は、まるで同期しているかのように同じタイミングでため息をついた。

「「やれやれ……」」

 ちゃんちゃん。


ひとこと
 この話の季節は夏の終わりですが、伊織ちゃんが夏の終わりに天使のお仕事をやってるかどうか現時点では誰も知らなかったりします。まあ、番外編って事で。ちなみに今回の二人以外でヘアクリップ付けてみたいのは誰だろうと考えたら、原田聖也さんとこのセパルカーセンセでした(笑)。


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