少年少女文庫100万Hit記念作品

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夜も更けた早川神社の社務所…

母屋の明かりが消え、皆が寝静まったにも関わらず、

社務所の一角には煌々と蛍光灯の灯りがつき、

カチャカチャカチャ!!

その下ではシリアルがまるで踊るような姿でパソコンのキーを叩いていた。

「ふぅ…それにしてもメールマガジンだなんて、

 ミカエル様も思いつきで指示を出さないでほしいよなぁ…」

ズズズズ…

シリアルはそう呟くと湯気が上がるブラックコーヒーを一気に飲み干すと、

「さぁ、もぅひとがんばり!!」

と気合いを入れ再びキーを叩き始めた。

そのとき、

ズゥゥゥゥゥゥゥン!!

唸るような音が響き渡ると、

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォ!!

ガタガタガタ

社務所の建物が揺れ始めた。

「わっわっわ…じっ地震だ!!」

突然発生した地震に驚いたシリアルが天井を見上げた途端、

「え?、うわっ!!」

――フッ 悲鳴を残して彼の姿は社務所から消失した。

『天界・メールマガジン エンゼルハート 創刊準備号』

彼の叩いていたパソコンのディスプレィにその文字が浮かび上がっていた。








――少年少女文庫100万Hit記念作品――




原作 100万Hit記念作品製作委員会

番外編 担当:風祭玲

[title:Dora/illustration:HikaruKotobuki & Hamuni]








「ミス・天ヶ丘コンテスト」




ゴゴゴゴゴゴゴ…

地震は寝静まった夜の街を大きく揺るがした。

「あっあなたっ地震!!」

「おっお落ち着けっ」

地震に驚いた真須美と守衛は飛び起きたが、

しかし、地震はそれ以上揺れが大きくなることはなく程なくして収まった。

「……収まったようだな…」

「えぇ…」

天井に視線を這わせながら二人が顔を見合わせていたころ、

天界では――

『時空震発生、マグニチュード8.3!!、震源域は…』

と報告が発令所内に響くと同時に、

「…今のが一番でかかったぞ」

「…被害確認急げっ!!」

次々と声があがる。

そして慌ただしくスタッフが往来する横で、

「はぁ…あのN2超時空振動弾の影響がこんなに出るなんて予想外だったわ…」

と被害状況が表示されていくパネルスクリーンを眺めながら、

黒髪の女神がぼやいていると、

「時空震は長期的には収束へと向かっているとのことですが、

 まだまだ、予断を許さないようですね」

と言って女性スタッフが彼女に湯気が上がるコーヒーカップを手渡した。

「ありがとう」

女神がそう返事をしてカップを受け取ると、

『運命管理局より緊急依頼!』

と言う声が響くなり、

『先ほどの時空震で運命管理局内の管制システムにトラブル発生!!、

 運命維持装置のスタビライザーに発生した異常により、

 管制システムの処理能力が大幅に低下、

 その影響により人間界から若干名の遭難者が発生した模様』

と運命管理局側からの報告が告げられた。

「遭難者?…

 ただでさえこっちも大変なのに」

と女神はそう文句を言うと受話器を取った。

そう、あの日曜日の夕方、

絡み合っていた2つの世界を引き離すために炸裂したN2超時空振動弾は、

両世界の切り離しには無事成功したモノの、

しかし、広範囲の時空間に歪みという副産物を残していたのであった。

「えっと、ミカエルさん…

 状況は……知ってますね。

 そっちで手の空いている人に遭難者の捜索をお願いします」

女神は電話口に出た天使長・ミカエルにそう告げた。




翌朝…

「んっ?…」

朝早く目が覚めた伊織はガバッと起きあがると、

「……ここは……

 そっか、あれは夢だったのか…」

と部屋の様子を確認するようにして呟くと、

「はぁぁぁぁぁ…」

一際大きくため息をつき、

「良かったぁ………夢で……」

胸に手を置きながらため息を吐くと、

「もぅ、真織さんが

”伊織ちゃんの未来の相手を占ってあげる”

 なんて言って、

 ずっと占いをしてくれたもんだから、変な夢を見ちゃった」

などと呟きながら頭を掻いていると、

「…そう言えば、

 あの鏡の世界の瑞樹や芹沢さん、真央さんに藤本さん…

 みんないまどうしているかなぁ…

 …って何でこんなコト考えているんだ俺…

 これも、あの占いのせいだな…」

そう伊織は昨夜、

真織から伊織が結婚するであろう相手の事を占って貰っていたのであった。

「ん?

 あれ?、

 シリアル?」

そのとき、いつもなら速攻で憎まれ口の一つくらいは言ってくるであろう、

シリアルの姿が部屋に無いことに気づいた。

「おっかしいなぁ…

 昨日の夜には居たんだけどなぁ…

 ベッドにはあいつが居た形跡は無いし、

 …何処に行っちゃったんだろう?

 まぁ、どうせパラレルの所にでも行っているんだろう」

と判断すると伊織はいつもと同じように制服に着替え、

そして、そのまま部屋を後にした。




「おはようございます、おじさん、おばさん…」

そう挨拶をしながら伊織が守衛や真須美の前に姿を現すと、

「おはよう…今朝はよく眠れたか?」

と新聞を折りたたみながら守衛が尋ねてきた。

「あっはい…」

伊織は笑みを浮かべながらそう答えると、

「…あれ?、真織さんは?」

食卓の席に真織の姿が無いことに気づいた。

「ん?まだだが…」

守衛はまだ真織がまだ起床して来てないことを伊織に告げると、

「全く今朝はお務めは休みとは言っても……」

やや呆れながら守衛は視線を横に向ける。

そう、あの家出の騒動の後、

話し合いで彼女に神社の務めをしなくても良い日がもうけられていた。

そのとき

ドタドタドタ!!

慌てて走って来る足音と共に、

「たっ大変だ!!」

真織が血相を変えて飛び込んできた。

「どうしたの真織、そんなに足音を立てて、はしたない」

真須美が怪訝そうな顔をして注意すると、

「どうしたんです?真織さん…」

続いて伊織が尋ねた。

「…あれ?

 なんで…進藤が朝っぱらからウチに居るんだ?」

真織は朝食の席に伊織が居ることを不思議がると、

「え?」

それを聞いた伊織は思わず驚く、

「そうだ、それよりも大変なんだよ、

 母さん!!

 おっ俺、

 女の子になっちゃったよぉ!!」

と真織は声を張り上げた。

「はぁ?????」

一瞬の静寂が朝の食卓を飲み込んだ。

「おっ」

「女の子に?」

一同は顔を見合わせると

「まっ真織さん…気は確かですか?」

立ち上がった伊織は真織の顔の前で手を振りながら尋ねると、

「あら…そっそれじゃぁお赤飯を炊かなくっちゃね」

そう言いながら真須美が立ち上がる。

「ちがーぅっ!!

 俺の身体が女になっている。

 って言っているんだ!!」

真織は伊織の手を払い除け、

「ほら!!

 いつの間にか髪がこんなに長く伸びているし、

 それにこのおっぱい!!、

 さらにナニまでも無っちゃっているんだよぉ!!」

と言いながら、真織はネコ柄のパジャマの前をガバッと開くと、

続いてパンツもろともズボンもずり下げた。

「真織…お前…」

小学校以来数年ぶりに見る真織のあられない姿に守衛がたじろぐと、

「まっ真織っ!!

 あなたあたま…どうかしちゃったの?」

真須美が青い顔で叫んだ。

「どっどうしよう、あなた…」

「とっとにかく医者に…」

混乱する二人を見つめながら、

――落ち着け、

  落ち着くんだ。

伊織はそう自分に言い聞かせると、

――そうだ…

  さっき、真織さんは俺のことを進藤って呼んだよなぁ…

  女の姿をした俺を進藤伊織って判る奴は…

  パラレル・シリアルそして瑞樹の他には居ないはずだ…

  ……あっ、まさか…

そのとき、伊織の脳裏にある人物の事がよぎった。

――あいつか?

  さっきからの真織さんのこの様子…

  それなら合点がいく…

  でもそんな事って?

そう考えながらも伊織は、

「あっあのぅ…真央さん…?」

小声で取り乱している真織に恐る恐る声を掛けると、

「おっおぅ進藤、俺一体どうしちゃったんだ?」

真織は助けを求めるような口調で伊織に寄ってきた。

――やっぱり…真央さんだ…

伊織は顔が引きつらせながら、

「…ちょちょっと来て!!」

そう言いながら伊織は真織の手を引くと、

「ダメですよ真織さん、エイプリルフールは4月1日でしょう」

と言いながら伊織は真織の背中を押すようにして彼女の部屋へと戻って行った。

そして真織の部屋に入った途端、

「うわぁぁぁ〜っ」

整然と片づけられていたはずの彼女の部屋は、

まるで泥棒に荒らされたかのごとく散らかっていた。

「どうなてんだ?

 身体だけじゃぁない…

 部屋の中が全部女物になっているんだ」

呆気にとられる伊織に真織はそう言うと、

伊織は振り向気ながら、

「あのぅ……真央さん…落ち着いてよぉく聞いてくださいっ」

と彼女に言い聞かせるようにして言うと、

「なに?」

真実を知ろうと真織は伊織に一歩近づく、

その姿を見た伊織は、

――ゴクリ

つばをひと飲みすると、

「真央さんはいま…

 真央さんが真織さんという女の子である世界に来ているんです」

と真顔で告げた。

――またぁ

ってな表情を真織はすると、

「簡単には信じられないかも知れませんが、そう言う世界もあるんです」

と伊織は真剣な顔で言う、

すると、

「……あははは

 …これじゃぁ、この間、藤本が言っていたヤツみたいじゃないか」

顔を引きつらせながら真織が答える。

「でも、これは夢なんかじゃぁありませんっ、現実です」

「そんな…」

「なんで真央さんがここに来たのかは判りませんが、

 とにかく、このままの状態でいるわけには行かないので、

 原因が分かるまで女の子の真織さんとして行動していただけませんか?」

伊織はそう告げると、

真織の目の前に天ヶ丘高校の制服を差し出した。

「………進藤…まさか俺にこれを着ろと…」

表情を硬くしながら真織はセーラー服を指さして尋ねると、

コクン

伊織は頷いた。

「いっいっいっ…いやだぁ!!」

そう叫びながら真織は部屋から逃げ出そうとしたが、

「とっとにかく、

 いまの真央さんは女の子ですから、

 これを着て貰わなくては困りますっ」

伊織は真織のパジャマの裾を鷲掴みにしてそう叫ぶと、

そのまま部屋の中央へと引きずって行く、

「いっイヤだ!!

 例え身体は女でも心は男だぞっ

 セーラー服なんか着られるかっ」

尚もそう言って真織が抵抗すると、

「さっきも言ったように真央さんはいま早川真織と言う女の子なんですっ

 とにかく制服を着てくださいっ!!」

「イヤだぁ!!…」

と言うやりとりを約10分近くした後、

ついに堪忍袋の緒が切れた伊織は、

「えぇいっ、男ならおとなしくセーラー服を着ろ!!」

と叫ぶなり真織に襲いかかった。

「いやぁぁぁ!!堪忍してぇ」

悲鳴を上げる真織は伊織の手でパジャマを剥ぎ取られると、

無理矢理セーラー服を着させられてしまった。

カァァァ…

鏡に映った自分のセーラー服姿見て顔を赤くする真織を見ながら、

「はぁ…考えてみればおれも似たようなものなんだけどなぁ」

と伊織は呟くと、

「はいコレを持って…」

そう言いながら真織に鞄を渡し、

「とにかく、もぅ時間はないですから、

 スグに学校に行きましょう!!」

と壁に掛かる時計を見ながら告げた。

「えっ、学校に行くのぉ〜っ!!」

「当たり前ですっ!!」

伊織はいやがる真織を後押しするようにして玄関へと向かっていった。

そして、そんな二人を守衛と真須美の二人が心配そうに覗いていた。

「いってきまーす」

そう言い残して早川家を出た二人を久方ぶりの朝日が照らし出したが、

しかし、伊織はそれを感慨深げに見ることはなく、

――はぁ…あのまま家にいると、

  おばさん間違いなくひっくり返っちゃうよ。

振り向きながら伊織は学校へと歩き始めた。

そして、その伊織の後ろを隠れるようにして真織が俯きながらついてくる。

「まっ真央さん、もっと堂々として良いですよ」

真織の様子を見た伊織はそうアドバイスをするが、

「うっうるせぇ〜っ

 こんな恰好、他の奴に見られる訳にはいかないんだよっ」

耳まで真っ赤にして真織は呟くように叫ぶが、

しかし、そんな真織の姿は何処か可愛らしさを伊織は感じていた。

程なくして伊織達の前を瑞樹が一人で歩いていくのを見つけると、

「おはよう!!、瑞樹っ」

伊織はそう叫びながら彼女に近づくと、

ピクッ!!

「いっ伊織さん?」

そう言いながら振り向く彼女の姿が妙によそよそしく、

また仕草が女らしかった。

「?、どうしたんだ?、瑞樹ぃ…

 いつものお前らしくないぞ…」

と伊織が言うと、

「いっ…伊織さん…ぼっボク…

 女の子になっちゃったぁ〜」

そう叫びながら瑞樹は伊織に抱きついてきた。

「……へ?

 …って事は

 …瑞樹ぃ

 お前もあっち世界の瑞樹なのかぁ?」

目を点にしながら伊織が返事をすると、

「おっお前…笹島なのか?」

と真織の姿をした真央が声をかけると、

「え?、キミは?」

顔を上げた瑞樹が真織に尋ねた。

「おっ、俺だっ、真央だ…早川真央だ」

真織は自分を指さしてそう告げると、

「はっ早川君?!」

瑞樹は伊織から離れるとヒシっと真織に抱きついた。

そして、

「…真央くんも女の子になっちゃんだ…

 僕たちどうなるのぉ?」

「わっ判らねーよ」

そう言って抱き合う二人を見て、

登校途中の他の生徒達がヒソヒソ話をしながら通り過ぎていく。

「とっとにかくだ、

 朝っぱらからヘンな誤解を受けるようなマネは止めて、

 さっさと学校に行きましょう!!」

伊織は頭を抱えながら二人の手を引くと学校へと向かっていった。




程なくして、3人が学校に到着すると、

ワイワイ、ザワザワ…

と体育館の前に黒山の人だかりが出来上がっていた。

「なっ、なんだ、あの騒ぎは…」

伊織の背筋に冷たいモノが走る…

そうこうするうちに、

「きゃーヤメテ!!

 芹沢さん!!」

っと女子生徒達の悲鳴が上がった。

「芹沢だぁ〜?……

 まさか…」

伊織の心の奥から言いようもない不安感がこみ上げて来ると同時に、

脳裏に体育館で進行中の惨劇が浮かび上がってきた。

その瞬間、

伊織の周囲から全ての音が消えると、

ダダダダダダダダダダダ!!

伊織は真織と瑞樹の身体を抱えると一直線に体育館へと突き進んでいった。

「うぉらぁ!!!

 ドケドケドケドケ!!」

二人の女子生徒を抱え鬼気迫る表情で突進してくる伊織の姿に、

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

体育館を取り巻いていた生徒達は我先にと逃げ出す。

まるでモーゼのごとく開いた道を伊織は突き進み、

そのまま体育館の中へと突進して行った。

ドドドドドォン!!

ゼハァ…ゼハァ…

体中から滝のような汗を拭きだし、

肩を大きく動かしながら息をする伊織が見たものは…

白のストライプの入ったコバルトブルーのレオタードに身を包み、

新体操の手具を手にした芹沢秀一の姿があった。

「………しぇりじゃわぁ〜っ…お前もかよぉ〜っ」

ドォッ!!

見る見る伊織の脚から力が抜けるとその場に突っ伏してしまった。

「…しっ進藤さぁん…あっあたし…

 朝起きたら男の子になっちゃってたのぉ!!

 でもねぇ…練習を休むわけには行かないから

 いまこうして練習をしているんだけど…

 男の子の身体じゃぁ全然美しくないのぉ」

と言うと芹沢は泣き出す。

「おいおい…

 なんなんだよ今日は…

 何でこんな事が起きるんだ?」

フルフル

身体を震えながら伊織が起きあがると、

「せっ芹沢さんなの?」

瑞樹が芹沢に近寄ると声をかけた。

「あなたは?」

「ぼくだよ、笹島瑞樹だよぉ」

「うそ、笹島君は女の子になっちゃったの?」

そう言いながら見つめ合う二人、

程なくしてヒシッと抱き合ったとたん、

「おぉぉぉぉ!!」

それを見ていたギャラリーから一斉にどよめきが沸き上がった。

スゥゥゥゥゥ…

伊織は大きく息を吸い込むと、

「くおらぁ!!、貴様らっ、見せもんじゃねぇーぞ!!」

と思いっきり声を張り上げた。

その途端、

ズズズンンンン…

体育館全体が大きく振動した。

ギシギシギシ!!

建物のあちらこちらからきしむ音がこだまする。

「じっ地震だ!!」

一人が上げたその声と共に、

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

「うわぁぁぁぁ」

まるで蜘蛛の子を散らすようにギャラリーは一斉に雲散霧消していった。

程なくして地震が収まると、

静かになった体育館には伊織以下3名の姿が残っていた。

――とっとにかく…助かったけど、

  でも、ここんところ地震が多いなぁ…

そう思いながら静まりかえった体育館を一通り見渡すと、

「さて、芹沢さんっ、

 ここはあなたの居た世界とはちょっと違う世界なんです。

 つまりこの世界のあなたは、芹沢秀一と言う男性で、

 サッカー部のキャプテンをしているんです」

と伊織は芹沢を見据えながら説明すると、

「そんな…」

顔を上げた芹沢は困惑した表情をする。

「え?、”違った世界”ってことは…

 じゃぁ…ぼく達って別の世界…パラレルワールドに来ているの?」

伊織の話を聞いていた瑞樹が声を上げると、

「鋭いな、瑞樹…

 そうだ、いまの瑞樹達はパラレルワールドの別の世界に来ているんだ」

と伊織が答えた。

「なぁ一つ聞いて良いか?

 進藤…お前はどうしてそんなに詳しいんだ?

 それになんで、朝っぱらから俺ん家にいたんだ?」

これまで黙っていた真織が首を傾げながら尋ねた。

「うっ…それは………

 まぁ黙っていても仕方がないか…」

真織の指摘に伊織はそう呟くと、事の顛末の説明を始めた。




「……と言う訳なんだ」

伊織の話を聞いた後、

「はぁぁぁ…天使のお仕事とはねぇ…」

腕を組みながら真織が呟くと、

「ココの伊織さんって男の子だったんだ…」

呆気にとられながらも芹沢が呟いた。

「そっかー、ここの進藤も俺に惚れていたのか…

 しかし、憧れの女性と一つ屋根の下だなんて羨ましいじゃねぇーか、

 この野郎!!(うりうり)」

真織がそう言いながら伊織の脇腹をつつくと、

「あのぅ、真織さんの姿でそれやるのヤメテいただけませんか?」

伊織が複雑な表情で言う。

「で、その天使のパラレルさんにはこのことは伝えなくて良いの?」

瑞樹が伊織に尋ねると、

「もぅ学校には来ていると思うんだけど…」

校舎の方を見ながら伊織が返事をした途端。

「ふぅ〜ん、なるほど…

 要するに俺達はひっくり返しの世界に来ている。

 ってことなんだな?」

真織が腕を組みながらそう呟くと、

「強いて言うならそう言うことになるな」

「へへ…面白いじゃないか…」

伊織の返事を聞いた真織は鼻の頭を掻きながら微かに笑みを浮かべた。

「まっ真央?」

恐る恐る瑞樹が聞き返すと、

「…ふふふ…

 瑞樹も芹沢も折角こういう世界に来たんだから、

 少しは楽しまなきゃぁ損だぜ」

と言うとコレまでとはうって変わった態度で真織は体育館から出ていった。

「おっおいっ、真央…お前…」

伊織はただ呆然と彼女の後ろ姿を眺めていたが、

――そうだ、追わなきゃぁ。

と気づくと、

「あっ…いいか、芹沢っ

 とにかく、戻れる方法が判るまで大人しくして居るんだぞ」

そう言い残すと、伊織は瑞樹の手を引いてスグに真織の後を追っていった。




伊織が真織の姿を追って体育館を出たときにはすでに真織の姿はなかった。

――あんにゃろう、

「…もぅ教室まで行きやがったか」

そう呟きながら伊織は一直線に教室へと向かって行く、

そして、教室のドアに手をかけたとたん、一瞬躊躇した。

「どうしたの?」

伊織の行動に瑞樹が尋ねると、

「いっいや……」

――もしも、

  クラスのほかの連中までもが入れ替わっていたら手に負えないぞ、

伊織の脳裏に混乱しているクラスの様子が映し出された。

しかし、

「きゃははは…やだ、真織ったもぅ」

笑い声が中から響いた途端、

ガラッ!!

伊織は反射的にドアを開けた。

すると、真織が机の上に立ち、

何かパフォーマンスのようなことをしている真っ最中だった。

「何をやっているのですか?、真織さんっ!!!」

そう言いながらズンズンと伊織が真織に迫ると、

「あっ、伊織…

 ほらっ、芹沢の件をちょっとね…」

気迫で迫ってきた伊織に弁明するようにして真織が言うと、

「ねぇ…伊織知ってた?

 芹沢くんの今朝のパフォーマンス…」

「はぁ?」

「瑞樹っ…彼、あんなに頑張っているんだから、

 ちゃんとフォローしてあげなきゃダメでしょう」

とクラスメイト達は口々に伊織と瑞樹に向かって言う。

「へぇ?

 なっ何がどうなっているんだ?」

状況が飲み込めず、伊織と瑞樹が唖然と顔を見合わせていると、

「それにしても、俺には出来ないなぁ…あんなマネは」

たまたまC組に来ていた他のクラスの男子がそう言いながら出て行く。

「真央…お前、一体どういう説明をしたんだ?」

伊織は降りてきた真織に小声で尋ねると、

「なぁに、

 芹沢をあのままにしておくわけには行かないから…

 ちょいとね」

伊織の質問に真織は片目を瞑って答えた。




程なくしてホームルームが始まったが、

しかし、その時間になっても伊織(=パラレル)の姿は教室にはなかった。

「どうしたんだ?パラレルは…」

伊織は未だ主がこない席に視線を向けていると、

「…では、ミス・天ヶ丘実行委員会の方から…」

と進行役の生徒に告げられて一人の生徒が正面に立つと、

「この間お話をしました、

 ”ミス・天ヶ丘”ですが、

 このクラスから挑戦してみようと言う方はいませんか?」

と彼は伊織たちに向かって尋ねた。

「なぁなに?、ミス・天ヶ丘って?」

彼の言っている意味が理解できない伊織はスグに隣の席の男子に尋ねた。

「早川さん、なに言ってるの?

 今度の週末に開かれる校内ミス・コンテストの事だよ」

と彼は言う。

「ミス・コンテストぉ?」

それを聞いた伊織が思わず声を上げると、

「本当に知らなかったの?」

彼は首を傾げながら尋ねると、

コクリ…

伊織は素直に頷いたが、

――ちょっと待て…

  確か真織さんの占いでは

  俺がミス・コンテストに出た時に運命の出会いをする。

  って言うんじゃなかったか?

真織の占いを思い出すなり伊織の額に冷や汗が流れた。

そのとき、

「はーぃ、あたしっ、立候補しまーす」

と声と手を挙げながら真織が立ち上がった。

「おぉ…」

同時に教室中からどよめきがわき起こる。

「ちょちょっと!!」

それを見た伊織が慌てて真織の傍に駆け寄ると、

「真央っ!!、お前…何をしようとしてるのか判っているのか!!」

と小声で怒鳴った。

「なにって…折角女の子になったんだから、こう言うのもいいんじゃねぇか」

真織はあっけらかんと答えると、

「そうだ、伊織っ、お前も一緒に出ようぜっ、なっ」

そう言いながらさらに瑞樹の方にも視線を送ると、

「あっ、瑞樹ぃっ、

 お前…じゃなかった、あなたも出るんでしょう?」

真織は瑞樹にも声を掛けた。

「そっそんなぁ…ぼっ僕はイヤだよう!!」

驚いた瑞樹はそう呟くと顔を赤くして俯いた。

「ねぇねぇ…早川さんと笹島さん…

 いつもとなんかイメージ違わなく無い?」

「うん、あんなに快活な真織を見たのも初めてだし、

 こんなにしおらしい瑞樹も見たことはないわ」

と真織と瑞樹の様子を見たクラスメイト達が囁き逢う。

「では、この2−Cからの挑戦者は、

 早川真織さんと伊織さん、

 そして笹島瑞樹さんの3名でよろしいですか?」

確認するように実行委員会の生徒が言うと、

「はーぃ」

真織は笑みを浮かべながら返事をした。




その夜…

「全く、真央ったらどういうつもりなんだ?」

伊織はそう呟きながら、真織の部屋をノックしようとすると。

『…ック…ック……あぁぁん…』

部屋の中からかみ殺したようなうめき声が漏れてきた。

「………このかみ殺したようなうめき声は…

 ハッ…

 まさか……

 真央の奴、真織さんの体で…(カァァァ)」

伊織はそう思いながら部屋の中の真織の姿を妄想したとたん、

見る見る顔が真っ赤になっていった。

そして、

バン!!

と勢いよくドアを開け、

「コラッ、真央っ!!

 …貴様

 …やってはいけないことを…

 ……あっあれ?」

と叫びながら伊織が見たものは、

「おっ、伊織かっ

 丁度良かった手伝ってくれ」

そう言いながらベッドの下の隙間に腕をつっこんでいる真織の姿だった。

「なにをやっているんですか?」

こめかみに手を置きながら伊織が尋ねると、

「いやっ、この中にチョロQが入っちゃってな…

 女の力じゃぁベッドは動かせないし、

 かといって手は届かないし、

 いやぁ、正直困っているところなんだよ」

と説明した。



「で、俺に何か用事か?」

伊織が手伝ってようやく取り出せたチョロQを転がしながら真織が尋ねると、

ポン!!

伊織は手をたたくと、

「あっそうそう、

 昼間のこと、いったいどういうつもりなんだ?」

と伊織は真織にミスコンテストのことを尋ねた。

「なにって?」

「ミス・コンテストのことだよ」

「あぁ、あれか…」

真織はそう返事をしながらネコのヌイグルミを抱くと、

「折角、こういう世界に来たんだし、

 それに俺、一度こういうのに出てみたかったんだ」

と悪びれることなく答えた。

「こういうのって…」

そう言いながら伊織が渋い顔をすると、

「それより、お前が言っていたパラレルって言う天使とは連絡が付いたのか?」

と真織が尋ねると、

「うっそれは…」

途端に伊織の旗色が悪くなる。

「つかないのか?」

「うんまぁね」

あの後、伊織は再三に渡ってヘアクリップを使った交信を試みていたのだが、

しかし、未だにパラレルとの連絡はついていないのが現状だった。

「とにかく頼むよ、そのパラレルとか言う天使が、

 おれ達が元の世界に戻る鍵を握っていると思うんだからさ」

と言う真織に、

「………」

伊織は何も答えなかった。




翌朝…

「え?、

 真央…じゃなかった真織さん、

 もぅ学校へ行ってしまったんですか?」

真須美から真織が既に学校に行ったことを聞かされた伊織は声を上げた。

「もぅ、パラレルとは相変わらず連絡はつかないし…

 シリアルは行方不明だし…

 これ以上俺の頭を悩ませないでくれ!!」

そう文句を言いながら大急ぎで伊織が学校へ向かうと、

「はーぃ、登校中のみなさーんっ

 ミス・天ヶ丘にエントリーしたわたしこと早川真織と、

 笹島瑞樹の両名が朝のご挨拶をしていまーす」

っと頭に2本の耳を立て、

金色のバニースーツと黒の網タイツに身を包んだ真織と、

赤のバニースーツに同じく黒の網タイツに身を包んだ瑞樹が、

校門の前でビラ配りをしていた。

「なっなっ何をやっているんですかぁ!!」

ドアップになって伊織が二人に迫ると、

「だっだってぇ、真央がこうしろって言うから…」

瑞樹が校門の陰に隠れるようにして言うと、

「ナニ怒っているんだよっ

 こうしてPRをしなくっちゃダメだろうが、

 ほれっ、ここに伊織の分も用意したぞ」

と真織は伊織に言うと黒のバニースーツを手渡した。

「真央さん…やって良いことと悪いことがありますっ」

真織に向かって伊織が怒鳴ると、

「まぁまぁ、知名度向上のためなんだからさっ」

と真織が言ったとたん。

「おほほほほほほほ!!」

朝の校門に高らかな笑い声が響き渡るのと同時に、

ブワッ!!

あたり一面にユリの花吹雪が舞い始めると、

花吹雪の中から一人の女子生徒が姿を表した。

「春日野麗華…」

伊織がそう呟いた相手は春日野財閥の一人娘で、

容姿端麗にして頭脳明晰、

さらにはクラシックバレエ部・華道部・テニス部・手芸部のキャプテン並びに、

生徒会副会長を務める才女であるが、

少々性格に問題がある御仁でもある。

ササっ…

たちまち取り巻き達が彼女を警護すると、

麗華は真っ直ぐ伊織達の方へと向かってきた。

「邪魔だ、どけっ!!」

取り巻き達は伊織を一喝すると、

今度は真織の前へと向かって行く。

「なるほど…どんなアヒルがあたしに歯向かうのかと思えば、

 大したことないですわねぇ」

優雅に扇をはたきながら、麗華が真織に告げると、

「なんだと?」

真織の顔が一瞬引きつった。

「いい事を教えてあげましょう。

 アヒルはどんなに頑張ってもあたしみたいな白鳥にはなれませんことよ、

 ほんと、身の程知らずは困りますわぁ〜」

と言う声を残して麗華は真織の前から立ち去っていった。

「まっ真央…」

隣の瑞樹が心配しながら声をかけると、

「けっ、上等じゃねぇーか」

真織は麗華を睨み付けながらそう呟いていた。




昼休み…

「あーっ、朝の女、むっかつくなぁ…」

そう文句を言い続けている真織と伊織・瑞樹の3人が

机を寄せ合って昼食を取っていると、

シャッ!!

カツン!!

一本の矢が瑞樹の机の上に突き刺さった。

「矢文?」

額に冷や汗を浮かべながら瑞樹が引き抜くと、

”早川真織殿、並びに早川伊織殿・笹島瑞樹殿、

 お三方に大事なお話があります。

 放課後「生徒会室」までお越し下さい”

と言う内容の手紙が巻き付けられていた。

「なんだろうこれ?」

訝しげに手紙を見る瑞樹に、

「春日野の陰謀じゃぁなさそうだな」

内容を読んだ真織は答える。

「どうするの?」

「行くに決まってんだろう」

手紙をクシャクシャに丸めてごみ箱に放り込んだ真織はそう言うが、

――なんか、いやな予感がする…

伊織は文面の裏に潜んでいる策略の匂いを嗅ぎ分けていた。




そして、放課後…

コンコン

「早川ですがぁ…」

そう言いながら真織が、

”生徒会室”

と言う表札が掛かっているドアをノックしながら開けると、

「ようこそ…お待ちしておりました」

夕日を背に一人の男子生徒が声を上げた。

「?」

真織たちに続いて部屋に入った伊織が眩しそうにしながらも、

シルエットなっている男子生徒の素性を探ろうとすると、

「まぁ、遠慮しないで掛けてくれたまえ…」

彼はそう言って真織達に用意した席に着くように促した。

「はぁ…」

早速席についた真織と瑞樹に対して伊織は席にはつかずに、

「あのぅ、お話というのは…」

と探りを入れるように男子生徒に尋ねると、

グィ

彼はメガネを上に上げ、

そして、三人に背を向けると夕日を眺めながら、

「さて、早川真織さん・伊織さん、そして笹島瑞樹さんに

 ご足労願ったのは他でもない。

 この週末に開催されるミス・天ヶ丘コンテストに

 あなた方が参加してくれたこと、

 非常ぉーに感謝しています」

と告げた。

――あっ…お前は生徒会書記の高田敏次…

伊織は彼の声と仕草で正体を見抜くと、

「しかし、コンテストは生徒会とは関係の無いはずでは…」

と尋ねると、

「ふむっ、良いところに気づいたね…

 そうっ、コンテストと生徒会とは関係はない…

 このコンテストはあくまで校長の発案が元で開かれ、

 実行委員会が運営をする。

 しかし、

 伊織さんが既に察している通りこのコンテストにはウラがある」

と告げた。

「ウラ?」

「そうだ、我が天ヶ丘高校を牛耳っている春日野麗華一味に対して、

 正義の鉄槌を振り下ろすための仕掛けとして利用させて貰うのだ」

と彼は力説する。

――まぁ…あのお嬢様には確かに困ったところがあるけど、

伊織はそう思いながら、

「それで?」

と高田に尋ねると。

「わからんのかっ!!

 春日野麗華の増長ぶりはおとなしくなる所か日に日にエスカレート、

 その為に生徒会は機能麻痺に陥りつつある!!

 もしも、この状態が続けば私の輝かしい経歴に傷が付く!!」

そう言いながらなおも力説するが、

「はぁ?

 そっそんなこと言われても…ねぇ」

「うん…」

真織と瑞樹が顔を見合わせながら答えるのを見て、

ツカツカ

高田は伊織達に近づくと、

「しかし、天は私を見放さなかった!!

 早川真織くんに伊織くん、

 そして、笹島瑞樹くん。

 天は君達を私の元に遣わしてくれたのだから!!」

ビシッ!!

そう叫びながら高田は三人を指さした。

「天?…」

伊織が怪訝そうな表情をすると、

「そうだ、キミ達は天から私の元に使わされた天使なのであろう?

 黙っていても、僕にはわかる」

と高田は自信たっぷりに言った。

「げっ」

ドキン!!

その指摘を受けた直後、伊織の心臓は一瞬大きく鼓動した後、

ザァ…!!

っと頭のてっぺんから血がもの凄い勢いで下がっていった。

「なっ何のことですか…」

伊織はカラカラに乾き始めた口からやっとの思いでそのセリフを絞り出すと、

高田は笑みをこぼしながら、

「ふっふっふっ…

 星は何でも知っている…

 私はこれまで毎晩に様に”打倒・春日野”をお星様にお祈りをしてきた。

 ところが、そんなある晩のこといつものようにお祈りをしていると、

 空から声が聞こえたのだ。

 ”お前のその願い聞き入れた。

  お前が行動を起こすとき、私の使いをやろう”

 っとな」

そう高田がジェスチャーを交えながらそう言うと、

「なるほど…」

じっと高田の話を聞いていた真織の口が開くと、

「伊織…いつまでも黙っていても仕方が無いわ、

 そうです。

 確かにあなたが言うように私達は天から使わされた天使です」

真織は高田に告げた。

「おぉ…やっぱりそうなのか!!」

それを聞いた高田はぐっと身を乗り出すと、

「はいっ…黙っていて申し訳ありませんでした」

真織は笑みを浮かべてそう返事をする。

「おっおいっ、真央っ、

 お前何を…」

その真織の言葉に伊織が驚くと、

「伊織は黙って…」

すかさず真織は伊織を制し、

「それで、ミス・コンテストでどうやって麗華達を陥れるのですか?」

と尋ねた。

「ふっ」

それを聞いた高田はメガネを外して汚れを拭くと、

「決まっているだろう、

 今朝の君の行動で春日野達は否応にも、

 ミス・コンテストを無視できなくなった。

 恐らく、今スグにでも参加を打診してくると思う。

 そこでだ、このコンテストを思いっきり盛り上げ、

 そして、ミス・天ヶ丘の栄冠をキミ達が勝ち取るのだ!!」

と高田はオーラを吹き上げながら叫んだ。

「…しかし…

 そんなこと、簡単に行くのかな?

 だって、全校生徒の投票なんでしょう?」

そう伊織が指摘すると、

「ふっふっふっ、

 生徒会は何のためにあるのかね?」

高田は顔を伏せて言うと、

「あのぅ…まさか票を操作するのですか?」

それを見た瑞樹が恐る恐る尋ねた。

「さぁ…それはどうかな?」

そう言いながら顔を上げた高田のメガネが怪しく光る。

――げっこいつマジだ。

伊織は高田の並々ならぬ執念を感じ取ると、

思わず身の毛がよだった。

「その辺のカラクリはまぁ横に置いといて、

 真織君に伊織君、そして瑞樹君っ

 キミ達は思う存分戦いたまえっ!!

 バックには全校生徒を束ねる我々生徒会がついているのだから!!」

とまるで天下を取ったような態度で宣言すると、

「…けど、春日野さんも生徒会の副会長ですし…

 それに会長はこの事を知っているのですか?」

伊織はそれとなく尋ねると、

「春日野は副会長と言っても、

 まさか身内から造反が起きているとは思ってもいないはずだし、

 それに、会長はね…

 まぁ、彼にはいざという時に責任を取ってもらうつもりだから、

 この件については伏せてある」

と他人事のように話す。

「そんなぁ…」

伊織が声を上げると

「いいかいっ、

 責任者というのは責任をとるために居るのだよ、

 その下で働く者の責任は責任者にすべて集約されるのだ」

と高々に宣言した。

――おいおい、ってことはお前の責任はどこにあるんだ?

それを聞いた伊織は心の中で突っ込む。

「…コレまでの話をまとめますと、

 私達には生徒会の全面的なバックアップが得られる。

 と理解してよろしいのですね」

真織が念を押すように尋ねると、

「あぁ、大船に乗ったつもりでいたまえっ

 資金や要員などで困ったことがあれば、

 気軽に声をかけてくれたまえっ

 なにしろ、私には天使が見方に付いているのだかな」

と高田は豪語した。




「失礼しましたぁ」

そう挨拶をして伊織たちは生徒会室を後にすると、

「くくくく…」

廊下を歩きながら真織は笑いをかみ殺しはじめた。

「なにが、おかしいんだ」

怪訝そうな顔で伊織が尋ねると、

「いやぁ…

 あの真面目が制服を着たような高田が俺達のことを天使だって言うからさぁ」

必死で笑いをかみ殺しながら真織がそう返事をすると、

「ホント、驚いたね…

 この世界でも高田君があのまんまだったなんて」

瑞樹も意外そうな顔をして言う。

「なぁ伊織、これもお前の言っていたパラレルとか言う天使の仕業なのか?」

と真織が伊織を見ながら尋ねると、

「う〜ん、パラレルからはそういった事は聞いていないけど…」

そう言いながら伊織はヘアクリップを髪に止めると、

――どうかなぁ…

と思いつつ、

『…パラレル…』

と呼びかけてみたが、

しかし、相変わらず、

『サー……』

というノイズしか聞こえてこなかった。

――おかしいなぁ…

  もぅ次元の絡まりはとっくに解消しているはずなのに…

伊織はそう思いながら首を傾げると、

「何しているの?」

瑞樹が伊織の行動を尋ねた。

「あぁ…これねぇ

 そのパラレルとの通話装置なんだけど、

 ダメだな…

 繋がらないや」

伊織はクリップを外してそう返事をすると、

スカートのポケットにクリップをしまいこんだ。




「何ですってぇ、生徒会があのアヒルのバックに…」

「はいっ」

その夜、麗華の元に忍び装束姿の男が現れると、

真織と高田との内通の件を麗華に知らせた。

「あの高田がねぇ…」

「いかがいたしましょうか?」

「決まっているでしょうっ

 スグに追放…いや待って、

 ここは2度とああいう輩が出てこないように

 徹底的にお仕置きをする必要があるわ、

 しばらくの間、泳がせておあげなさい。

 それと、

 生徒会の資金の流れをしっかりと調査しておいて…

 こういう事をしている以上、

 何がしかの不正を行っているはずでしょうから…」

「ははっ」

そう言って麗華の元を辞した忍びは深夜の天ヶ丘高校へと向かう。

「さてと…誰か居る?」

麗華が呼びかけると、

「お呼びでございますか、麗華お嬢様…」

待機していた取り巻きが姿をあらわした。

「まずはほんのご挨拶代わりに、

 相手の鼻っ柱をへし折ってあげなさい」

麗華がそう告げると、取り巻き達は一礼をして去っていった。

――うふふ

  この私に楯突くとどうなるか目に物を見せてくれるわ

「ほーほほほほほほほ!!」

闇夜に麗華の高笑いが響き渡った。

トッカン!、トッカン!

深夜の天ヶ丘高校に金槌の音が響き渡る。




そして迎えた翌水曜日の早朝、

まだ朝靄が立ちこめる中を、

タッタッタッ!!

3人の女子学生が街中を走り抜けていった。

「ふわぁぁ〜っ

 俺もつき合うのかよぉ

眠そうな目で伊織が文句を言うと、

「また今日もやるの〜っ?」

続いて眠そうな目をこする瑞樹が声を上げた。

「なに言ってんだ、伊織に瑞樹っ

 俺達のバックには生徒会がついてくれたから、

 大船に乗ったつもりで今日は巫女装束で勝負だ!!

 あんな女狐ごときに負けられるかっ」

と真織は巫女装束を掲げながら校門に来たとたん、

「んなにぃ!!」

っと3人は思わず声をあげた。

ずらり!!

そう校門を手始めに校舎玄関先まで

春日野麗華のポスターがまるで回廊のように貼り巡らされていた。

「はぁぁぁぁぁ…」

呆れ返りながら3人が眺めていると、

「おーほほほほほほっ

 まぁ誰かしら…

 こんな余計なことをして…

 犯人を見つけ出してきつくお仕置きをしなくてはね、

 まぁあなたみたいなアヒルには無理でしょうけど」

と言いながら現れた麗華は見下げる眼で真織を見る。

「てってめぇ!!、いい根性じゃねーか」

真織は麗華に向かってそういうと、

「あら…なぁに…あたしと勝負しようって言うの?」

振り返りながら麗華は真織に言う。

「その態度、前々から気に入らなかったんだが、

 もぅ堪忍袋の緒が切れたぜ」

「まっ真央っやめなよっ」

瑞樹が止めに入ったが、

ザっ…

たちまち取り巻き達が麗華を取り囲むと臨戦態勢を整える。

「あらぁ、ケンカですかぁ

 野蛮ですわねぇ…」

麗華はあくまで冷静さを保っていた。

「ちっ」

真織は拳を下ろすと、

「もしも、あたしに負けたらどうなさるおつもりで?」

と麗華に尋ねると、

「おーほほほほほほほ…

 面白いことを言いますのね、

 この私に敗北と言う2文字はありませんのよ」

「あーら、そうかしら…

 あたしが負けたらそうですわねぇ…

 今度の週末にウチの神社で奉納相撲がありますの、

 そこにこの3人が褌を締めて相撲を取って差し上げますわ…

 まぁ、お嬢様のあなたにそんな度胸は無いと思いますが…」

と真織は麗華にそう言い放つと、

「おっおいっ、そんな話…聞いてないぞ!!」

伊織が小声で怒鳴った。

「むっ」

しかし、真織の言葉に負けず嫌いの麗華に火がついた。

「あーら、面白い提案ですわねぇ…

 あたしだって、負けたら

 この全員が相撲をとってあげますですわ」

 おーほほほほほ」

メラメラ

と闘気を上げながら麗華が言うと、

「…そんなこと言って大丈夫かなぁ」

「…シッ声が大きいわよ」

取り巻き達がひそひそ話をする。

「おっ、おいっ

 こりゃぁスクープだ!!」

ところが、この申し出に

取材をしていた新聞部とふぉーかす部が色めきたった。

そしてその日のうちに二人の一騎打ちは全校中の話題となってしまった。

「おいっどっちが勝つと思う?」

「俺はやっぱ春日野だろうと思うよ」

「いやぁ、早川も中々かわいいし…」

「僕は女らしくなった瑞樹さんがいいと思うよ…」

という具合に発展し、しまいには賭け事の対象にまでなっていった。

一方、引くに引けなくなった両陣営はますますエスカレート、

麗華陣営が学食定食の”プラス1品券”を配りまわれば、

真織陣営は早川神社の縁結びのお守りの無料配布を行ったり、

麗華陣営が彼女なしの男子生徒に彼女の斡旋を始めれば、

真織陣営は彼氏なしの女子生徒に彼氏の斡旋を始める。

と言う按配で、

もはや、ミス・コンテストはこの二人のためだけにあるという状況を呈していた。

そして、あまりもの加熱ぶりを憂慮した校長裁定により、

投票権は全校生徒から無作為に抽出した100人のみとすることが決定された。

「くくくくくく…

 いいぞいいぞ…

 すべては私のシナリオどおりだ」

生徒会書記・高田は笑いが止まらなかった。

「あの、春日野がミス・コンテストで敗北の後に、

 褌姿で相撲を取る

 完璧だ…

 これで春日野麗華は終わりだ

 ついに天はわれに味方した!!!

 はーははははは!!」

生徒会室に高田の笑い声が響き渡った。




そしてついに、決戦の朝がやってきた。

「真織は居ないのか?」

台所に顔を出した守衛が真須美に尋ねると、

「えぇ、なんでも今日は決戦だとか言って、

 朝早く伊織ちゃんと一緒に学校へ行きましたけど…」

振り返りながら真須美がそう返事をすると、

「やれやれ、学校では仕方がないな、

 今日は奉納相撲があるから、

 いろいろと手伝ってほしい事があったのだが」

と守衛が言うと、

「そういえば、真織が小学生の頃、

 それに出たがって手を焼いていたことがありましたね」

しみじみと真須美が言うと、

「まぁ、女の子が土俵に上がるわけには行かないからな…」

守衛は頷きながら湯気が上がる湯飲みに口をつけた。




その頃…

ミス・天ヶ丘コンテストの会場脇に設置された控え室は、

エントリーしている女子生徒でにぎわっていた。

「大丈夫です、すでに票は固まっています」

衣装に着替える真織に向かって壁越しに高田はそう告げると、

「本当?…」

真織と共に着替えをしている伊織は高田に聞き返した。

「ははは…戦う前から春日野の敗北はすでに決定していますよ」

伊織の不安をうち消すようにしてそう告げる、高田の口元が笑った。

一方、麗華の陣営では、

「切り崩しはどうですの?」

同じように衣装に着替え終わった麗華が尋ねると、

「はいっ、ご安心ください

 投票権を持つ者はすべて麗華さまに投票をする。

 という血判書を書かせましてでございます」

と告げると、

ドサッ!!

っと麗華の目の前に置いた。

それを満足そうに眺めた麗華は

「ほほほほほ…これであたしの優勝は決定ね」

と高らかに笑う、

「なお、謀反人の高田ですが、

 すでに生徒会からの追放を決しましてございます」

と付け加えた。

「ふふ…それでよいっ

 さて、アヒルをからかって来ましょうか」

麗華はそういうと立ち上がった。




ポーン!!

10時の時報と共に、

パンパカパーン!!

校庭に設けられた野外特設ステージにファンファーレが響き渡る。

そして司会役の男子生徒が元気良く駆け上がると、開口一番、

『みんなーっ、アメリカに行きたいか!!』

と声を張り上げた。

するとすかさず、

『おーっ!』

と返事が返ってくる。

『ニューヨークに行くぞ!!』

『おーっ!』

――うっウルトラクイズですかいっ!!…

司会と観客との異様なノリに舞台裏から覗いていた伊織がコケていると、

『お待たせしました!!

 平成13年度・ミス天ヶ丘コンテストをこれより開催します!!

 ではエントリーしている方々、どうぞ!!』

司会者にそう告げられ、

待機していた少女達が番号順に舞台上に並んでいく、

そして伊織達が登場したとき、

「おぉ…」

会場内から一斉にどよめきが上がった。

「…スクール水着とは、逆転の発想だな」

「う〜む…このポイントは高いぞ!!」

そう、他の出場者たちはみなセパレートや色使いの派手な水着なのに対して、

伊織達はスクール水着を着て出てきたのであった。

パシャパシャパシャ!!

一斉にフラッシュが焚かれる。

「真央…目立つのは良いんだけど…

 …コレってちょっと意味が違うんじゃないの?」

水着を指さして伊織がそう呟くと、

「何を言ってんだ、

 お前も男なら男心の一つくらいは判るだろう…

 男と言うのはあぁ言う派手な水着よりも、

 こういう一見地味に見えるスクール水着に萌えを求めるモノなんだよ」

と力説するが、

しかし、真織の視線は頻りにある人物の姿を追い求めていた。

そうその人物の姿はまだ舞台には居なかった。

「…春日野がいない…」

真織がそう呟いたとたん、

カチャッ!!

一斉にスポットライトが舞台の一点を照らし出すと、

「おーほほほほほほほ」

高らかな笑い声と共に

グィィィィン…

と舞台がせりあがりはじめた。

「なっ、なんだぁ?」

全員が呆気にとられる中、

煌びやかな電飾と仕掛けが施された巨大な衣装に身を包んだ麗華が姿をあらわした。

――今度は紅白ですかぃ

呆然としながら伊織が麗華を眺めていると、

――ふふふ、勝った!!

麗華はシンと静まり返る観衆をみてそう確信した。

『えっと…これで全員揃いましたね…

 では、今大会の提案者であり、

 大会実行委員長でもあられる校長先生からお一言どうぞ!!』

大汗をかきながら司会がそう告げると、

壇上にトレードマークとなっている禿頭が姿を現し、

『えーっ、みなさま、本日ご多忙の所をおくりあわせ下され、

 この様ににぎにぎしくご来賓下さいまして、

 まことにありがとうございます。

 思い起こせば、去る……』

と言う調子で話し始めた。

――おいおい…校長のスピーチは結婚式と来たか…

伊織は呆れ半分に延々と続く校長の話を聞いていた。

『…と言うわけでありまして、

 美人の誉れの高い我が天ヶ丘高校のナンバーワンは誰か、

 実に素朴かつ緊急を要するこの問題を明確にしようと思い立ちまして、

 ミス・天ヶ丘コンテストを開こうと決意したわけであります。

 以上を持ちまして、コンテスト開会の宣言といたします』

そう校長は言い終わると、ピストルを高々と掲げ、

『あなた方の知力体力時の運をフルに活用して闘ってきてください。

 では、このゴールに多くの方が戻ってこられることを祈りつつ、

 よーぃ!!』

パーーーン!!

っとピストルが鳴った。

ウワァァァァァ…

出場者が一斉に駆け出す中、

「え?、おいっ、なんだこれ?、

 コンテストじゃなくてマラソンでもやるのか?」

と顔を左右に振りながら状況を飲み込めていない伊織が声を上げると、

ドン!!

「おほほほほ…

 そんなところで突っ立っていると皆さんの邪魔ですわよ」

高笑いしながら衣装から分離した麗華が、

伊織と突き飛ばすと駆け抜けていった。

「……てめぇ」

起きあがった伊織が食ってかかろうとすると、

「まて…」

真織が手で遮り、

「なるほどねぇ…

 俺達には競技方法の詳しい内容を知らせないようにしたワケか…

 まぁ、少しはハンデをあげたと思えばいいじゃないか」

そう言って片目を瞑って見せた。

「真央…お前…」

伊織は真央の懐の広さに感激したが、

「(ニッ)この借りは十倍返しにして返してやる」

真央は一瞬笑うと走り出していった。

「………一瞬だけ感動した自分が情けない」

真織の後ろ姿を眺めながら伊織は呟いていると、

ポン!!

そんな伊織の肩を瑞樹が叩き、

「ドンマイ、ドンマイ…さぁ行こう」

と言うと伊織の手を引いて走り出した。

そして、会場から出た途端、

「んなぁ…」

伊織は我が目を疑った。

校庭の至る所に穴が口を開き、

そして数多くのコンテスト参加者が落ちていた。

「おーほほほほほ…

 まぁ誰かしら、

 落とし穴を掘るなんて…」

麗華は優雅に笑うとまるで落とし穴を避けるようにして、

第1チェックポイントへと向かって行った。

「ヤツの仕業だな…」

それを見た真織は伊織達に言うと、

「目的のためには手段を選ばず…か…」

伊織は麗華の強引さを肌で感じていた。




『第1チェックポイントでーす!!』

実行委員会の腕章をつけた女子生徒が声を上げると、

『コレをお願いします!!』

と言いながら、

ドン!!

と伊織達の前に問題集を積み上げ、

『まずは知力試験からです。

 過去30年間に出された定期試験の問題集ので

 しっかりと解いてくださいね』

と説明をした。

「……あのぅ…コレを全部解くの?」

伊織が問題集を指さして尋ねると、

コクリ

実行委員は頷いた。

――ひぇぇぇぇ!!

それを見た伊織が思わずムンク(叫び)と化すと、

「春日野さん達はすでに解き終わって、

 第2チェックポイントに向かっていますよ」

とさらにダメ押しをした。

「どうする?」

「やるっきゃないだろう」

瑞樹と真織がシャーペンを片手に問題集を開こうとしたとき、

「(ポショ)答えは適当に書いて下さい。

 採点は生徒会の方で行いますから…」

と別の実行委員がそばに近寄ると他には聞こえないような小声で告げた。

「え?、ってことは…?」

真織が尋ねると、

「そういうことです…(はい)」

と彼女は笑みを浮かべて返事をした。



「助かったね…」

「良いのかなぁ…」

「まっ細かいことは気にしない気にしない」

などと言いつつ、

第1チェックポイントを無事通過した伊織達は、

麗華を追って第2チェックポイントへと急いだ、

『…麗華様に報告っ

 マーク中の3人組は第1ポイントを通過、

 第2ポイントへと向かい始めました』

伊織達の動向を監視していた麗華派と思われる女子生徒が携帯電話でそう報告をすると、

『こちら麗華っ、判りました。

 スグにプロジェクトPを発動せよ』

と麗華が命じたとたん、

『はっ、畏まりました』

女子生徒は直立不動でそう返事をすると、

グッ

と手前のに下がっている紐を引いた。

すると、

ガシャッ!!

校舎の奥に置いてあった箱の鉄格子が開き、

ギン!!

妖しく目が光る生き物の大群が一斉に箱から飛び出していった。

そして、程なくして、

ズドドドドドド…

廊下を地響きがこだまする。

「なっなに?」

それを聞いた伊織が立ち止まると、

廊下の彼方から黒い津波のような物体が徐々に迫ってきた。

「なんだアレは?」

真織が凝視すると、

フゴッ!ブィブィブィ!!

それらは夥しいブタの大群であった。

「暴れブタだぁ!!」

伊織が叫ぶと、

「俺に任せろ!!」

そう言って真織がブタの大群の前に立ちはだかると、

「はぁーーーーーーー」

肺の空気を抜いて筋肉を引き締め始めた。

ドドドドドド!!

ブィブィブィ!!

その間にもブタの大群は見る見る真織に迫ってくる。

「真央っ、早く逃げろ!!」

伊織がそう叫んだ瞬間、

カッ!!

真織は大きく目を見開くと、

スゥー――

っと両手を大きく広げた。

――え?

その途端、伊織には真織が千手観音の様に見えた。

ドドドドドドドドドドド!!!

ブィブィブィ!!

まさに、ブタの大群が真織を飲み込もうとしたとき、

「アータタタタタタタタタタタタタ!!!」

と叫びながら、

真織は目にも留まらない猛スピードで押し寄せるブタの急所を、

ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!ビシッ!!

と打ち抜き始めた。

『こっこちら…』

ブタが伊織達を蹂躙していく様子を麗華に報告しようと

女子生徒がそう言いかけたところで、

彼女の顔から徐々に血の気が引いて行く。

『…どうしたの?、

 状況を説明しなさいっ』

しびれを切らせた麗華が怒鳴ると、

『あっ悪魔です……いや、地獄の天使だ……』

そう報告をする彼女の目の前では、

まさに地獄の使者と化した真織によってブタは素早く処理され、

そして、たちまちのうちに廊下には白目をむいたブタで溢れかえっていった。

――すっすげぇーぜ。

その様子を見ていた伊織は真織の破壊力に唖然とする。

「アータタタタタタタタタタ、オワァタァ!」

ついに真織は最後のボスブタを仕留めたが、

ブゴッ!!

しかし、ラスボスだけあってブタは倒れまいと踏ん張った。

それを見た真織はブタを指さし、

「(ふっ)、おまえはもぅ死んでいる!!」

そう告げた途端、

――(グラッ)ズシーーーン

ボスブタは崩れるように倒れた。

「早川くんって、向こうの世界では

 無差別格闘・早川流の後継者なんだよ」

と呆気にとられている伊織に瑞樹が説明すると、

「ふぅ〜っ、

 おーぃ、伊織ぃ

 この程度動いただけで息が切れてきたけど、

 ココの真織って何もやっていないのか?」

と汗を拭きながら真織が尋ねて来た。

「いっいや、

(これだけのことをしただけでもすごいと思うけど)

 こっちの真織さんは何もやってないよ…

 やっているとしたら…

 そうだ瑞樹っ、お前が合気道をやっているくらいだな」

と伊織が瑞樹を指さして答えた。

「へぇ…こっちの瑞樹は合気道をやっているのか…

意外そうな顔で真織が答えると、

「さっ急ごう…」

話の流れが自分に向き始めたことを感じ取った瑞樹が促すと、

伊織達は再び進み始めた。

『……無念であります。

 ぷっプロジェクトP、敗北しました』

ブタの下敷きになって息も絶え絶えの監視員が報告をすると、

「なんですってぇ!!

 …あのプロジェクトPが失敗するなんて…」

報告を聞いた麗華は爪を噛みながら、

「…いいわ、第2チェックポイントで潰しましょう」

と言うと先を急いだ。




『第2チェックポイントはこちらで〜す』

順路に従い武道場に到着した伊織達を実行委員が呼ぶ、

「あそこみたいだな…」

「うん」

伊織達が実行委員の所へ行くと、

「ここでは体力測定をしてくださいね」

実行委員はそう言って微笑むと、

「では、先生っどうぞ!!」

と言う声と共に

ズシン!!

ズシン!!

ユラリ…

伊織達の目の前に身の丈3mはあるかと思われる巨大なパンダが姿を現した。

「ジャイアント・パンダだ…」

目を丸くして伊織が叫ぶと、

「言わなくても判るよ…」

身構えながら真織が叫ぶ、

「でもなんで…こんな所に」

真織の陰に隠れるようにして瑞樹が呟く、

「おーほほほほほ…

 悪いがお前達にはコレより先には通させないぞ!!」

突然実行委員が声を上げると、

「あぁっ、お前は麗華の一味だな!!」

真織が指さした途端、

「やっておしまいっ!!」

その声が響くと、

ドガッ!!

パンダの一撃が真織の足下を襲った。

ハッ

すかさず真織の身体が空中を舞うと、

「であっ!!」

ゲシッ!!

パンダの顎を下から蹴り上げた。

「ヤッタ!!」

伊織の言葉に力が入る。

しかし、

タン!!

舞い降りた真織は、

「ダメだ、このパンダはブタと違って図体がでかいから、

 軽い女の身体では大きなダメージを与えることができない!!」

と叫ぶと、

「くっ」

口元を拭きながらパンダが身構えた、

刹那

ドカ!ドカ!!ドカ!!!

巨体のモノとは思えぬ俊敏さでパンダは伊織達を突いてきた。

「わっわっわぁぁぁ」

パンダの突きを必死でかわす伊織…

「まっ真央何とかしろっ!!」

思わず声を上げると、

「そんなこと言ったって、

 コレじゃぁよけるのが精一杯だ」

ビシッ!ビシッ!

真織も繰り出してくるパンダの突きを腕で防戦するので手一杯だった。

「はははは…どうだ、我が麗華様に逆らうとこうなるのだ!!」

実行委員が笑い声を上げていると、

パンダの攻撃目標が瑞樹へと移った。

「え?、ひゃぁぁぁぁ!!」

ガシッ!!

パンダからの一発目の突きを瑞樹は悲鳴を上げながら捕らえると、

「えいっ!!」

と言うかけ声と共にパンダの巨体は宙を舞った。

「はははは…はぁ?……」

見る見る実行委員にパンダの影が迫ると、

ズシィィィィィィン!!

建物を揺るがす地響きとともにパンダは実行委員の真上に降ってきた。

「ほぉ…魂は知らなくても身体は覚えていたみたいだな」

すかさず真織が瑞樹に声をかけると、

「すっ凄い…」

瑞樹は自分があのパンダを投げ飛ばしたことが信じられなかった。

「……あれ?、こんな所にバーコードが…」

仰向けになって白目をむいているパンダの太股を眺めていた伊織が声を上げると、

「これは…あっレンタルボディーか!!

 道理でねぇ…」

バーコードを一目見た真織が声を上げた。

「レンタルボディーってあの身体貸しますって奴の?」

伊織が聞き返すと、

「こっちの世界にもあったんだ」

瑞樹も感心しながら言う。

「お嬢様の考えることはよくわからん、

 さっ先を急ごう!!」

真織はそう言うと、伊織達の手を引いていった。

『こっこちら…第2ポイント…むっ無念であります』

パンダの下敷きになった実行委員はそう告げると事切れた。

「くっ、やるわねっ

 でも、次の第3チェックポイントがアヒルちゃん達の墓場になるわ、

 おーほほほほほ!!!」

未だ勝ち気の麗華は高らかに笑う。

しかし、この第3チェックポイントのお料理試験は、

「(はい)一丁上がり!!(ズシーン)」

伊織の機転を生かした”鮪の味噌煮”でくぐり抜け、

続く第4チェックポイントの裁縫試験も、

「…デアッ(カッカッカッ!!)」

「うっ、動けない!!」

「(ふっ)無差別格闘・早川流、奥義!!、”影縫い”!!」

と真織の”影縫い”で見事完勝。

こうして麗華の仕掛けた妨害工作は全て失敗に終わった。

またその時点での出場者も麗華・伊織・真織・瑞樹の4人しか残っていなかった。




そのころ、野外ステージでは正面に据えられた特大スクリーンに

校内に設けられた各チェックポイントからの映像が刻々と映し出されていた。

『…いやぁ、校長っ、予想以上の熱戦が繰り広げられていますね』

『はいっ、容姿も大事ですが

 知力・体力・時の運、さらにお料理にお裁縫と

 これらが全て秀でていなければいけません』

と司会から話しかけられた校長は眼鏡を輝かせて熱っぽく語る。

『それって、校長の趣味ですか?』

大汗をかきながら司会が尋ねると、

『はいっ』

彼は胸を張って答えた。




「待ちやがれ!!」

すべてのチェックポイントを通過し、

野外ステージへと戻っていく伊織達は、

ついに先を行く麗華の後ろ姿を捕らえた。

「ふんっ、アヒルの分際でこの私の追いつくなんて

 100万年早いですわ」

伊織達接近の気配を察した麗華はそう呟くと、

ピィィィィ!!

と笛を吹いた。

すると、

ドドドドドドドドドド!!

地響きが上がると同時に、

百人近い麗華が押し寄せてくると、

ズザザザザザ…

巨大な人間ピラミッド作ると

文字通り巨大な壁となって伊織達に立ちはだかった。

「なんだぁ?」

伊織達が呆気にとられると、

『おーほほほほほ…

 この私の壁を突き崩せます?』

「てめぇ…」

真織は睨み付けると、

「これも、レンタルボディ?」

伊織は瑞樹に尋ねた。

「うん、おそらく…

 これだけの物を一度に、

 しかもオーダーで借りるとなると

 結構するよぉ…」

瑞樹は一人一人数えながらそう言うと、


『校長!!、こういうのは有りですか?』

中継を見たいた司会が尋ねると、

『一応、あの中に本人が居ると言う前提ですが…』

と前置きしてこれを有効と認めた。


「ここはおれに任せろ」

伊織はそう言うと一歩前に出た。

そして、右手を大きく前に出し、

「右っ!!」

と言って右側を指す。

すると、

ザッ!!

麗華達は一斉に顔を右側に向けた。

「左っ!!」

ザッ!!

と言うと麗華達は左を向いた。

そして、

「上っ!!」

ザッ!!

と言うと、上を見上げ、

最後に

「下っ!!」

と言った途端、

ズドドドドドド!!

人間ピラミッドは呆気なく崩れ去った。

「むなしい戦いであった…」

伊織は感慨深げに無惨に崩れたピラミッドを乗り越えると、

ついにゴールへとたどり着いた。

「やったな…」

「おうっ」

ガシッと手を握り合って伊織がゴールを踏もうとしたとき、

「おまじなざい…」

這い蹲るようにして麗華が鬼気迫る表情で伊織の脚を握った。

「うっわぁぁぁ!!」

麗華を引きずるようにして、伊織達がゴールを踏んだ途端、

パーーーーン!!

ゴールを知らせるピストルが高らかに鳴った。

『では、戦い抜いてきた彼女たちに大いなる拍手で迎えましょう』

白地らしく響く司会のその言葉に、

パチパチパチ!!

伊織達は観衆からの拍手に送られながら舞台の上へと導かれた。

「えへへへ…どうも、どうも…」

「ふんっ!!」

対照的な態度を見せる伊織達と麗華が舞台上に並ぶと、

『では、見事勝ち残った、

 早川真織、早川伊織、笹島瑞樹そして春日野麗華の

 4人の中で誰がミス・天ヶ丘にふさわしいか

 投票の方をお願いします!!』

司会のその声と共に一斉に投票と集計が始まった。

――うふふふふ…裏切りは許しませんですわ

ボロボロになりながらも麗華は舞台の上から睨みを利かす一方で、

――くくく…春日野の天下もこれまでだ。

高田も舞台の角から睨みを利かせていた。

やがて集計が終わり、

一通の封筒が司会の手渡された。

『では、平成13年度、ミス・天ヶ丘を発表します…』

と司会者がそう叫ぶと、

ダラララララララ!!

ドラムロールが回る。

その間に司会者は封書を開け、紙を取り出す。

ジャン!!

とシンバルンが鳴り終わると、

「芹沢修一さんに決定しました!!」

っと高らかに読み上げた。

と同時に、

レオタ姿の芹沢がスポットライトに浮かび上がった。

「んなにぃっ!!」

「どーゆーこと!!!!」

麗華と高田が声をあげた。

同じく唖然とする観衆達、

「あいつ…まだ、あんな格好をしていたのか…」

芹沢のレオタ姿を見ながら伊織がつぶやいていると、

「うおっほん!!」

一つ大きな咳払いをして壇上に校長が上がると、

『えーっ、

 実行委員長として一言申し上げておきます』

と話し始めた。

『えーっ、近年まれにみる大接戦だったらしく、

 投票に相当悩まれたようです。

 そのためか投票総数100票のうち99票は残念ながら白票でしたので、

 無効と判定し除外しました。

 そして残った1票が有効票となりこのように決定いたしました』

と説明をした。

「そんな、生徒会長はエントリーしていないはずです」

なおも麗華が食い下がると、

『春日野さんのお気持ちは察しますが、

 芹沢君は私の推薦でエントリーしていましたよ」

と校長が言うと、

『というわけで、今回のミス・天ヶ丘は厳正なる審査の結果、

 芹沢修一クンに決定しました。

 いやぁ、キミの新体操に対する情熱と指導、

 この校長、深ぁーく感動したよ。

 おかげでウチの新体操部もみなやる気が出てきたみたいだよ』

そう言いながらにこやかに芹沢に握手を求めると、

「そんな…あたし…あたりまえの事をしていただけです」

と言いながら芹沢ははにかんだ。

「まったく、とんだ茶番でしたわ」

そう言って麗華が舞台から降りようしたとき、

『あぁ…待ちたまえ…

 麗華くん、確かキミは何か約束をしていたんじゃなかったっけ?』

校長が声をかけた。

「はぁ?」

麗華が振り向くと、

「そうだ、負けたからには褌を締めて相撲を取るという約束のはずだ」

高田が壇上に飛び出すと声を張り上げた。

「ほほほほほ…いきなり何を言い出すのかと思えば…」

パチン!!

麗華が指を鳴らしたとたん

ブワッ!!

一斉に紙が会場に舞い始めた。

「なんだこれは…」

「げっ生徒会費の不正流用!?」

「こらぁ高田どういうことだぁ!!」

「しまった!!」

たちまち壇上の高田に向けて一斉に非難が上がった。

「ほぅら、御覧なさい、

 わたくしに楯突くとこうなりますことよ」

そう言って麗華が優雅に立ち去ろうとすると、

「あっ春日野が逃げるぞ!!

 約束を守れぇ!!」

と今度は観衆が一斉に麗華に向かって襲いかった。

「なっこのわたくしに向かって無礼ですわよ!!

 やっておしまいっ!!」

「はっ!!」

「えぇい日頃の恨みだ!!」

ウオォォォォォォ!!(ゲシ、ゲシ、ゲシ)

たちまち会場は麗華を警護する取り巻きと観衆との間で騒乱状態に陥った。




「おっおいおい、どうなってんだ〜っ」

混乱の中で伊織は状況の変化に戸惑っていた。

グィッ!!

突然伊織の腕がつかまれると、

「おいっ、伊織…この隙にずらかろうぜ」

と何時の間か制服に着替えた真織が声をかけた。

「あっあぁ…瑞樹は?」

瑞樹の姿が見えないので尋ねると、

「ここに居るよ」

と言う声と共に、

ひょい

瑞樹が顔を出す。

「あっ早川と笹島が逃げたぞ!!」

観衆の中からその声があがると

「うぉぉぉぉぉぉ」

暴徒と化した観衆が伊織達の後を追いかけ始めた。

ズドドドドドド!!

「うわぁぁぁ!!」

それを見て慌てて走り出す伊織たち…

「なんでこうなるんだ!!」

と伊織が叫ぶと、

ブワッ!!

「やっと見つけましたですわぁ〜っ」

と言う声と共に天使姿のパラレルが姿を表すと、

伊織たちと平行に飛ぶ。

「ぱっパラレルっ!!」

伊織が声をあげると、

「うわっ!!、本当に天使だ!!」

「ぼくっ、始めて見た…」

真織と瑞樹は目を丸くする。

「パラレルっ、

 お前、天使なのに何処で油を売っていた!!

 この状況をなんとかしろ!!」

伊織が叫ぶと、

「色即是空、空即是色…

 この世はすべて夢幻ですわぁ

 目を覚ませば全て解決!!

 イオちゃん落ち着いて…ねっ」

と言うと伊織の前に降り立った。

「おっおいっ、パラレルっ

 スグに逃げないとやばいぞ」

あせりながら伊織が叫ぶと、

「はいっこちらパラレルですぅ

 残っていた遭難者3名、無事発見保護しましたぁ」

取り出した携帯電話に向かって話すと、

『了解っ、ただいまより該当エリアを初期化します』

という返事がした途端、

ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

大地が大きく揺れ始めた。

「じっ地震だ!!」

瑞樹が叫び声をあげる。

すると、

シュバ!

シュバ!

シュバ!!

次々と街を構成する建物が姿を消し始めた。

「なっなんだ?」

伊織たちが呆気に取られていると、

目の前に迫った暴徒たちも一瞬のうちに消失する。

それを見届けるとパラレルは、

バサッ!!

っと大きく羽を広げ、

「さぁ、では参りましょう!!」

バサッ!! 翼を羽ばたきながら伊織達の手を引くと、

フワリ…

伊織の体が宙に浮かんだ、

「こっこれは」

「すげぇ…」

「飛んでいる…」

伊織に引かれて浮き上がった真織や瑞樹も信じられない顔をする。

ゴゴゴゴゴゴ…

消失していく街を見ながら、

「パラレル、コレは一体…」

伊織が尋ねると、

「実はですねぇ…

 イオちゃんが帰るために使ったN2超時空振動弾の影響でぇ

 空間に歪みが出来てしまったのですわぁ

 その為に時空震が頻発しましてぇ…

 でその影響で運命管理局と言うところの

 コンピュータが異常を起こしましてぇ

 そのためにイオちゃんとイオちゃんが関係した数人の方々が

 運命として未承認の世界に入ってしまったのですわ」

と説明をした。

「運命として未確定?」

伊織が聞き返すと、

「ええっと

 この世というのは一本の大きな川のような物で、

 人は生まれ落ちたときから死を迎えるまでの間、

 その川の流れ(運命)に身をゆだねることになりますわぁ

 ですから、流れ(運命)に沿って努力をすれば、

 それなりの人生を送ることが出来ますが、

 しかし、自分に与えられた流れ(運命)が気に入らない場合は、

 よその流れ(別の運命)へと泳ぐ分苦労がありますですわぁ…

 で、天界の運命管理局はそれら全てを把握して、

 それぞれの方の運命と努力、さらには周囲への影響を考慮して、

 最適な世界を構築していくのがお仕事なんです。

 ところが、時空震によってその管理をしているシステムが異常を起こしてしまって、

 そのためにイオちゃん達は運命としての認定が終わっていない

 未承認の世界に来てしまったのですわぁ」

とパラレルが答えた。

「?」

意味が分からず伊織が首をかしげると、

「ははん…判った!!、要するに俺達は夢の世界に来ていたのか」

と何時の間にか男の姿に戻った真央がパラレルに言った。

「え?あれ?」

それを見た瑞樹が声をあげると、

「瑞樹っ、自分は男だと念じてみろ…」

それを見た真央は瑞樹にアドバイスをしたとたん、

見る見る瑞樹は女から男へと変化していった。

「これってどういうこと?」

驚きながら瑞樹が尋ねると、

「運命としては認められない、もしもの世界…

 それがあるとしたらどこだ?

 そう、あるとしたらそれは夢の中…

 おそらく俺達はその伊織の夢の中にいたんだ。

 違うか?パラレルさん」

真央がそうパラレルの尋ねると、

「ピンポーン!!」

とパラレルは答え、

「さらに一つ付け加えると、

 あなた方のも反映されていますですわぁ」

と付け加えた。

「じゃぁここで起きたことと言うのは…」

伊織が尋ねると、

「運命管理局の承認を得ていない運命は認められませんですわぁ

 ですので、

 ココで起きた出来事は全て”夢”と言う形で処理されますですわぁ

とパラレルはこの世界を説明をした。


「やっと来たか…もぅ会うことは無いと思ってたのだがな」

と言う声が響くと伊織たちの前に、

上空で待機していたアーリィが姿を現した。

「どうもご迷惑をおかけしましたぁ」

パラレルがアーリィに頭を下げると、

「この方は?」

瑞樹が伊織に尋ねると、

「真央と瑞樹さんたちの世界の天使だよ」

と伊織は説明をする。

「私の方で救出をした者達はすでに送っておいたぞ」

アーリィが説明をすると、

「え?、アーリィさんの方で救出って誰を?」

伊織が尋ねると、

「それはですねぇ…

 イオちゃんの世界の真織さんや瑞樹さん達ですわぁ」

とパラレルが答えた。

「では、この3人で任務完了ですわねぇ」

そう言いながらパラレルは真央と瑞樹をアーリィに引き渡した。

そして別れ際、

「おーぃ、伊織ぃ、

 楽しかったぜ!!

 また機会があったら夢の中でもいいから会おうなぁ!!」

と真央は大きくてを振った。

「あぁ、真央も瑞樹も達者でなぁ!!」

伊織はそう返事をしながら手を振ると、

「では行きましょうか?」

パラレルは伊織の手を引いた。




ジリジリジリ!!!

セットした目覚し時計の音が大きく響くと、

「ふわっ」

伊織は目を覚ました。

チュンチュン

窓辺からスズメたちが奏でる声が聞こえる。

「…夢…だったのか?」

周囲を見渡しながら伊織が呟くと、

「お帰りっ、伊織っ

 色々と大変だったな」

あくびをしながらシリアルが伊織にそう言うと、

「うっうん…」

伊織はそう返事をしながらカーテンを開けた。

サァァァァ!!

朝日が伊織の部屋を照らし出す。

「なぁシリアル…

 俺の運命というのはどうなっているのかな?」

と外の景色を眺めながら伊織はシリアルに尋ねた。

「さぁな…

 選択のし方一つで、

 このまま女の子として一生を送る事だってあるかもしれないし、

 一方でめでたく真織さんとゴールインすることもあれば、

 案外、瑞樹さんとゴールインする可能性だってある」

「うっそれはイヤだなぁ…」

思わず伊織が口を挟むと、

「可能性としては0ではないぞ、

 伊織は一人で生きていくわけではない、

 必ず誰かと接触してそして選択をする。

 それに運命管理局もその人の未来を定めているわけではない、

 運命管理局が管理しているのはこの現在のみ…

 伊織の未来を決めるのは伊織しかいないんだよ、

 そして、ついさっき伊織はある選択をした」

「え?」

シリアルの言葉に伊織が驚くと、

「朝、目が覚めたってことさ」

とシリアルはそう言うと片目をつむった。


「おはようございます、おじさんおばさん」

挨拶をしながら伊織が席につくと、

ドタドタドタ!!

ガラッ!!

っと戸が空くと慌てふためいた真織が姿を現した。

「まっまさか…」

一瞬、伊織がたじろぐと、

「ごめん、伊織ちゃん、おとうさん…あたし寝坊しちゃった!!」

真織はそう謝りながら席につく、

「もぅ、真織ったらはしたない…」

怪訝な顔をして真須美が注意すると、

「だってぇ…」

真織はプッと膨れた。

「あははは…真織さん、何かいい夢でも見ましたか…」

伊織はそう言いながら朝食に箸をつけた。




番外編:「ミス・天ヶ丘コンテスト」おわり







あとがき…

 ども、風祭玲です。
 「ミス・天が丘コンテスト」は如何でしたか?。

 鏡の世界の連中がこちらの真織や瑞樹と入れ替わってのドタバタが
 巧く表現できればと思いながら書きました。

 ちょっと疲れたときの清涼剤的な話として読まれれば本望でございます。


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