少年少女文庫100万Hit記念作品

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――無限に広がる大宇宙……

生まれくる星もあれば、

死にゆく星もある…



天使パラレル・リンクが進藤伊織の前に姿を現してから、

幾重もの日々を重ねてきたが、

しかし、無限の営みを続ける大宇宙にとって、

それは、ほんの一瞬の出来事でしか過ぎない。



そしていま、伊織の身に新たな試練が忍び寄っていた。

時に西暦2001年……



ビー!!

「警告!!

 ディメンジョンナンバー UC457LD298 と RL338PMQ248 が異常接近しています!!

 警告!!

 ディメンジョンナンバー UC457LD298 と RL338PMQ248 が異常接近しています!!

 警告…」

天上界・3番札所にある時空間管理局の中枢”発令所”内に

突如警報音と共に機械的な警告が繰り返され始めた。



『(ミアミアミア)…波動砲用意っ…発射!!』

『…面白い…踏みつぶせっ!!』

警報音の鳴る中、局長席を陣取る女神は、

人類の命運をかけて銀河宇宙へと船出していった、

1隻の宇宙戦艦の壮大な物語を描いたアニメを食い入るように見入っていた。

「警告!!

 ディメンジョンナンバー UC457LD298 と RL338PMQ248 が異常接近しています!!」

尚も繰り返される警告に、

「なによぉ、これから良いとこなのにぃ」

そう文句を言いながら、

褐色の肌と銀色の髪を持つ彼女が、髪を掻き上げ顔を上げたとたん、

「げっ!!」

その顔が引きつった。



カチャカチャカチャ!!

そんな彼女を横目で見ながら、

隣の席に座っている黒髪の女神が素早くコンソールを叩くと、

「 RL338PMQ248 が当初予想進路を外れたために UC457LD298 のエリアに接近、

 あと2時間ほど後に両エリアの一部が接触する模様っ」

と告げる。

「まずいわね」

爪を噛みながら銀髪の女神が呟くと、

「うん…もぅ少し前に発見できれば回避策が立てられたんだけど…」

ジロっ!!

銀髪の女神を軽蔑するような眼差しで黒髪の女神が答える。

ジト…

額に冷や汗を浮かべながら銀髪の女神は、

「よっよしっ

 とにかく両世界の外周にクラスAの結界を張り、

 相互が干渉することを最大限に阻止っ

 それから、双方に駐在している天使に対し特別警戒任務に当たらせろ!!」

と矢継ぎ早に指示を出した。

そして、その声に合わせるようにして、

パ・パ…

っと正面のパネルスクリーンに、

駐在している天使の顔写真と名前が表示された。

「………えっと…」

銀髪の女神は目を通し始した途端、

「パラレル・リンク………」

能天気そうに写っているパラレルの顔写真を見た彼女の表情が凍り付いた。

「パラレル?…」

──はっ!

「まさか…あの”上司殺し”のパラレルか…」

呆然と立ちつくす女神の顔から見る見る血の気が引いていく、

「どうしたの?」

隣でそれを見ていた黒髪の女神が尋ねると、

「悪い…

 ここから先の指示はアンタがやって…」

──あたしは関わりたくない…

そう言い残すと銀髪の女神はソソクサと退席してしまった。

「ちっちょっとぉ…」

黒髪の女神にとって半ば頼りにしていた彼女の退席は、

どうしても避けたかったが、

しかし、銀髪の女神は退席すると一目散に発令所から姿を消していた。

「あぁんっもぅ!!

 こんな時にお姉さまが居てくれれば…」

黒髪の女神はそう呟くと、

彼女はもっとも信頼を寄せている金髪の女神が天界に不在なのを呪った。

そう、彼女の姉である金髪の女神は、

先日人間界からの呼び出しで降臨してしまったのであった。

その結果、この事態の解決はすべて黒髪の女神の肩に掛かっていた。








――少年少女文庫100万Hit記念作品――




原作 100万Hit記念作品製作委員会

第四話担当:風祭玲

[title:Dora/illustration:HikaruKotobuki & Hamuni]








第四話「伊織、鏡の世界へ行く…」




カッ!!

ゴロゴロゴロ!!

「ふわ?…雷?…」

ズズズズズズン!!

家中を振動させる唸るような音に伊織は目が覚めた。

「ふぇ?」

条件反射的に時計を見ると、針はセットしていた時間の直前を指す。

もそもそ…

伊織はベッドの中を移動していくと、

そっとカーテンを開けてみた。

すると、

カッ!!

突然の閃光が伊織の顔を照らし出した。

「キャッ!!」

それに驚いた伊織は悲鳴を上げると頭から毛布を被った。

その途端、

ガラガラガラガラ!!

雷鳴が頭上から降ってくると、

ズズズン!!

衝撃波が早川家を直撃する。

そしてそれは、

ビリビリビリ…

と伊織の部屋を細かく振動させた。

「うひゃぁぁぁ」

両手で耳を塞ぎなら毛布の中で丸くなっている伊織に、

今度は、

ジリジリジリ…!!

起床時間を告げる目覚まし時計が追い打ちを掛けた。

(カチッ)リン!!

毛布の中で固まっている身体を解かすように

鳴り響く目覚まし時計を手探りで止めた伊織は、

「うぅ、やだなぁ…」

そう言いながら頭を出すとベッドから抜け出した。

「…この雷…只の雷じゃない」

ムクリ…

伊織より先に目を覚ましていたシリアルは、

起き上ると空を見上げるようにして呟く、

──よしょ

「ん?、何が違うの?」

パジャマを脱ぎ、制服の上着に頭を突っ込みながら伊織はシリアルに尋ねると、

「…よく判らないけど…

 なにかこう…何かが迫ってくる感じがする…」

まるで何かを察知しようとすかのごとく

シリアルは目を閉じ、鼻を高く上げるとそう呟いた。

「何かって?」

──ふぅ

頭を出した伊織は、今度はスカートに手を伸ばしながら聞き返すと、

「それが判れば誰も苦労はしないよっ」

顔を戻したシリアルが突き放したように言う。

「なんだ、結局は判らないのか…

 意外と役に立たないんだなぁ…」

セーラーのタイを整えながら伊織がため息をつくと、

──むっ

それを聞いたシリアルは不機嫌そうな表情をすると、

ピョンとベッドから飛び降り、

ドアを開けるとスタスタと部屋の外へと出ていった。

「何処行くの?」

伊織の問いかけに、

「パラレルの所ぉ…」

そう言ってシリアルは伊織の前から姿を消した。

「ふぅ〜ん…あっ、もぅこんな時間」

時計の針が指し示す時間を見るなり、

パタパタ!!

スリッパの音を響かせながら伊織は部屋を飛び出して行く。

ゴロゴロゴロ…

空からは相変わらず雷鳴が鳴り響く、



ビーっ!!

「UC457LD298 並びに RL338PMQ248 第1次接触まであと5分」

ブザーと共に感情のない機械的な声が発令所内に響くと、

ゴクリ!!

中にいるスタッフ全員に緊張が走った。

「双方、軌道の狂いはない?」

黒髪の女神が尋ねると、

「双方共に軌道は安定、

 このままの進路を維持する模様!!」

監視をしている者の声が響く、

「ようし…

 1次や2次程度の接触では結界が完璧に防御してくれるけど、

 問題は3次4次接触と来たときにどうなるかね…

 とこで、パラレル・リンクへの連絡はどうなっているの?」

と女神は未だ連絡が付いたと言う知らせが来ない天使の事を尋ねると、

「それが、先ほどから呼び出しているとのことですが、

 未だにコンタクト出来ないそうです」

と言う返事が返ってきた。

「まったく、緊急事態だというのに何をやっているのかしら…」

パネルスクリーンを眺めながら女神は呟く、

ピッピッピッ!!

既にスクリーンの上では、

この2つの世界はニアミス(異常接近)ではなく衝突を起こしていた。



ガラガラガラ!!

一際大きな雷鳴が轟くと、

「うひゃぁ!!」

伊織は思わず声を上げ両耳を塞ぐと、その場にうずくまった。

「あら…伊織ちゃん、雷は苦手?」

「え?」

恐る恐る伊織が掛けられた声の方を向くと、

──クス…

真織が軽く笑いながら彼女の後ろに立っていた。

「真織さん…」

──はっ

「あっいえ…」

あわてて伊織が立ち上がると、

「いいのよ、いいのよ、

 誰だって苦手なモノはあるんだから…」

真織がそう言った途端、

ゴロゴロゴロ!!

再び雷鳴が轟いた。

「うわっっっ!!」

「きゃっ!!」

雷鳴に驚いた伊織は反射的に真織の身体に抱きついていた。

──フワッ…

柔らかい感触と甘い香りが伊織を包み込む。

「………あの…」

「え?」

どれくらい時間が経ったかは判らないが、

真織から掛けられた声で伊織はハッと我に返ると、

「わわわわわ!!、ごっごめんなさい!!」

と叫びながら伊織は慌てて真織から離れる。

──うふ

「…ほんと伊織ちゃんって面白いわね」

真織は微笑みながら戸を開けると、

──フッ

とみそ汁の香りが彼女たちを包み込んだ。

テーブルの上には茶碗などが伏せられ、

既に起きていた守衛が朝刊に目を通していた。

「おはよう」

二人の姿を見た守衛が広げた新聞を折り畳みながら先に挨拶をすると、

「おはようございます」

「おっおはようございます、おじさん」

真織と伊織は朝の挨拶をしながら入っていく、

「はははは…雷は苦手か…」

守衛が伊織に尋ねると、

「えっ聞いていたんですか?」

ばつの悪そうな顔をして伊織が席に座ると

「まぁ人間、一つや二つ苦手なモノがあるものだよ

 なぁ、おまえ…」

と奥の台所で支度をしている真須美に声を掛けた。

「おはよっ、真織ちゃんに伊織ちゃんっ」

そう言いながら盆を持って真須美が台所から出てきた。

「あっ手伝います」

それを見た伊織が腰を上げると、

「あら、悪いわねぇ…」

「今朝は和食なんですね」

「えぇ、たまにはこういうのも良いでしょう」

などと会話をしながら真須美は伊織と一緒になって朝食の配膳をした。

そして、4人が席につくと、

「いただきまぁす」

と言う声と共に朝食に箸を付けた。

「…伊織ちゃん、お醤油とってぇ」

「…はぁいっ」

「…おまえ、納豆にネギが入っていないぞ」

「…あら…」

「…真織さん、タクアンの皿、こっちにお願い」

といつもと変わらない早川家の朝食シーンが繰り広げられているのだが、

しかし、

ゴロゴロゴロ!!

ズズズズン!!

その間にも絶え間なく雷鳴が響いていた。

「やぁねぇ…こんな朝から雷だなんて」

シャケの切り身をかじりながら真須美が呟くと、

「うむ…」

既に納豆を口に運んでいた守衛が頷く。

「雨…降るのかな?」

真織がそう呟きながらリモコンでTVを付けると、

丁度天気コーナーで気象予報士が概況を説明しているところだった。

『…雷があちらこちらで鳴っているようですが…』

と言うキャスターの問いかけに、

『…えぇそれなんですが…』

気象予報士は困った表情をすると、

この雷は日本のみならず世界的規模で発生していることを告げた。

「へぇぇぇ…」

感心したように伊織が声を上げると、

「あらまぁ…」

真須美も同じように関心をする。

「あっ、伊織ちゃん、時間、時間」

その一報で画面表示されている時刻を見て真織が声を上げると、

「いっけなぁい」

伊織はササっと食事を済ませると、

「ごちそうさまでした」

と使った食器を真織と共に台所まで運んで行く。

「それじゃぁ、私は社務所の方に行ってくるか」

二人の行動を見守っていた守衛が腰を上げると、

「雨が降るかも知れないから、大きめの傘を持って行きなさい」

真須美は玄関へと向かう伊織と真織に声を掛ける。

「はぁぁい」

「行って来まーす」

そう言い残して二人は元気よく早川家を後にした。



ゴロゴロゴロ…

相変わらず空はどんよりと曇り、雷鳴が鳴り響く、

「…こんなに雷が鳴っているのに雨が降らないなんて変ね…」

空を見上げながら真織が言うと、

「最近異常気象が多いからそのせいでは…」

などと喋りながら石段を下りたところで、

「あっいっけなーぃ」

何かを思いだしたように真織が声を上げた。

「どうしたの?」

伊織が尋ねると、

「急いで来ちゃったから…忘れ物しちゃった」

ペロッと舌を小さく出して真織が答えた。

「あらら、真織さんが忘れ物をするなんて珍しいですね」

「悪いけど、伊織ちゃん先に行っててくれない?」

真織は申し訳なさそうに伊織に言うと、

「うん、じゃぁ先に行っていますね」

そう言って二人は別れた。

「真織さんのあんな表情、初めて見たな…」

などと思いつつ伊織は参道を歩いていくと、

『瑞樹の…力に…』

「え?」

伊織は突然何か囁きかけられた様な感じがすると立ち止まった。

キョロキョロ

周囲を見渡すと、

「誰もいませんよね…」

と言いながら首を捻った。



「第3次接触確認!!」

天界の時空間管理局・発令所内に現況を告げる声が響く。

すると

ビィィィイ!!!

「緊急事態発生!!」

「緊急事態発生!!」

鳴り響く警報音と共に

「RL338PMQ248 に異変発生!!

 RL338PMQ248 の結界が破られた模様!!」

と言う報告が入った。

「なっ何が起きたの?」

黒髪の女神が叫ぶと、

「RL338PMQ248 より発生した”腕”が結界を突き破りました!!」

監視員が声を上げる。

「そんな…

 クラスAの結界を突き破ったの?!

 スグに消滅させて!!」

驚きながら黒髪の女神が叫ぶと、

「間に合いません!!」

と言う声が響く、



「空耳?」

そう呟いて再び伊織が参道を歩きだしたとき、

パァァァァァァ!!

突然、彼女は強烈な光に照らし出された。

「え?」

思わず見上げると、

上空より巨大な腕のような光の塊が降ってくる。

「落…雷…?」

伊織は落ちてくる光の塊を見上げながら固まっていた。

それはまるでスローモーションの様にゆっくりと接近してくると、

まるで、伊織を捕まえに来たかのように先端が大きく開いた。

『…瑞樹の力に…なって…』

そう言う女性の声が再び伊織の耳に届くと、

伊織はその光の中に消えていった。

ドォォォォォォォン!!

同時に耳を劈くような衝撃波が街の中を広がっていく。



「RL338PMQ248 より発生した腕が UC457LD298 の結界を突き破り結合!!」

「小規模の空間転移現象を確認しました。」

矢継ぎ早に入る報告に、

「なんで…

 もぅ…

 スグに追跡して!!」

発令所内の黒髪の女神は即座に指示を出す。



それより少し前…

「これは、パラレル殿…」

社務所に入った守衛はパラレルの姿を見つけると声を上げた。

「おはようございますでわぁ」

パラレルが相変わらずのんびりとした挨拶をすると、

「伊織たちなら先ほど出かけましたが」

と守衛は彼女たちが不在なのをパラレルに告げた。

「あら…まぁ…」

パラレルがちょっと困った顔をしていると、

「あっ、居た居た。パラレル、散々さがしたぞ」

社務所を覗き込んだシリアルはパラレルの姿を見つけると声を掛けた。

「あらぁ、シリアルお久しぶりですわぁ」

するとパラレルはシリアルにも頭を下げた。

「はぁ……相変わらず緊張感のない人だなぁ」

そうシリアルが呟いていると、

「じゃぁ、学校に行った方がイオちゃんに会えますわねぇ」

と言ってパラレルが進藤伊織に姿を変えようとしたとき。

ポトッ!!

パラレルの身体から小型の機械が落ちた。

「パラレル?…何かが落ちたぞ」

──ヒョイ

シリアルが傍に行ってそれを拾い上げると、

それは一見すると黒電話の受話器の様な姿をしていた。

「あっ、電話の電源を切っててはダメだって言っているだろう!!

 いつ天界から呼び出しが在るか判らないんだからさぁ」

と文句を言いながらパラレルがそれのスイッチを入れると、

──ジィィィィ…

それは機械的な軽い動作音を立てながら背の部分が観音開きに開いた。

そして、

──スルスルスル!!

っと中から棒状のモノが伸びると、

──パシャッ!!

っと傘の様に開き、それは小いさなパラボラアンテナへと変化する。

──クルクルクル…

受話器の上部でしっかりと固定されたアンテナが2・3回、回転した途端、

”ちゃんちゃかちゃかすっちゃんちゃん(パフっ)!!”

っと日曜日の夕方におなじみの曲が流れた。

「……ホラ、言わんこっちゃない、

 パラレルっ、電話だぞ」

っとシリアルは呼び出し音が鳴り響く受話器をパラレルに手渡した。

「はぁ、あの曲を聴くと何故かブルーなる…」

壁に手をつきながらシリアルが呟いていると、

「はーぃ、もしもしぃ、パラレルですぅ」

とパラレルは受話器に話しかけた。

その途端、

──ビィムッ…

受話器から一筋の光が発せられると、

──フォン!!

瞬く間に空中にスクリーンが現れ、

その中にパラレルと同じ服装だが気品のある天使が姿を現した。

「まぁまぁ…これはミカエルさま、

 お久しぶりでございますですわぁ」

彼女の姿を見たパラレルは深くお辞儀をすると、

「……(はぁ)やっと繋がりましたか」

と相手の天使は大きくため息を付いた。

「はぁ?」

パラレルが首を傾げると、

「パラレルが電話に出たですてぇ〜っ」

──ズドドドドド!!

と何かが接近してくる音共に、

──ドカッ!!

映像は優しさと気品のある天使から

まるで仁王のようなそして正義感あふれる天使の姿へと取って代わられた。

──ジっ、

彼女がパラレルを見据えたとたん、

「パラレルっ!!、

 あんた、いまのいままで何処で、何をやってたのっ!!

 この緊急事態にずっと留守電だなんて良いご身分じゃないのっ!!」

といきなり怒鳴り声を上げた。

──ハァハァ…

肩で息をしている彼女の姿を見たパラレルは、

「まぁまぁ…

 アーリィさまも、

 これはこれはお久しぶりでござますですわぁ…」

パラレルは深々と丁寧に頭を下げた。

──ピクッ!!

しかし、アーリィと呼ばれた天使は、

パラレルのその行動を見た途端、

表情が一瞬引きつった。

そして、その一言が彼女に怒りの火に油を注いでしまった。

「一大事だから…

 こっちは一刻を争っていると言うのにぃ…

 …そんな悠長な…」

肩をワナワナと震わせてそう呟くと、 ──フッ!!

突然彼女の姿がスクリーンから消えた。

刹那

ガラガラガッシャーン!!

と何かが倒れる音がするのと同時に、

「…わっ!!、アーリィを止めさせろぉ!!」

「…離せ!!、今日こそはパラレルに引導を渡す!!」

「…いいから落ち着きなさい!!」

「…コレが落ち着いていられるか!!」

「…誰か鎮静剤を持ってきてっ」

「…うっきぃぃぃ!!」

人物の姿は映らないもののドッタンバッタンの大騒動の模様が、

スクリーンを通じてパラレル達に伝わってくる。

「一体…何が起きているんじゃ?」

守衛が怪訝そうな顔をしてスクリーンを眺めていると、

「あのぅ、ケンカは良くありませんですわぁ…」

その様子を見ていたパラレルが話しかけた。

すると、

「…あぁパラレルか(ふぅ)」

衣服を大きく乱したミカエルが再びスクリーンに映し出された。

「…ミカエルさま…

 いつもいつも、アーリィさまがご迷惑をおかけしていますわぁ」

と言うとパラレルは再び頭を下げた。

「いやぁ…彼女も彼女なりに頑張ってくれているのだがね…

 しかし、その様子ではまだ異変は起きていないようだな…」

ミカエルはパラレルを一目見てそう言うと、

「さて、実はだ、

 そっちの時間で今朝方、ここ天界の時空間管理局から警報が出てな、

 パラレル…

 お前がいま居るその世界と別の世界とが接触を起こすそうだ」

「まぁまぁ…」

それを聞いたパラレルが他人事のような困った顔をすると、

ミカエルは額に手を置き、

「でだ、時空間管理局では両世界の外周にクラスAの結界を張り巡らし、

 お互いが相手に干渉しないように万全の体勢を整えた。

 そして、双方に駐在している天使に警戒に当たるようにと、

 言う指示が出たのだが…」

とミカエルがそこまで状況説明をしたところで、

──パァッ!!

ガラガラガラガラ!!

ズズズズン!!

ガタガタガタ!!

閃光と轟音、そして振動が社務所を直撃した。

「じっ地震だ!!」

シリアルが叫び声を上げる。

「何かが爆発したのかもしれん!!」

慌てて外へと飛び出していく守衛に対して、

ブツッ…プー・プー・プー

「あら?…ミカエル様?…

 まぁどうしましょう…」

会話の途中で回線が切れた電話を眺めながら、

パラレルは困った顔をしていた。



『だれ?…』

『お願い…瑞樹の力になって…』

『瑞樹の力…?』

『それは、あたしの願い…』

『だから君は…』

『あたしは…い……』

「…り…伊織…」

「起きなさい、伊織っ」

「うっうん?」

聞き慣れた女性の声に伊織が目を覚ますと、

「ほらっ、いつまで寝ているの?

 学校に遅れるでしょう」

っと進藤伊織の母親である昌江が伊織に声を掛けていた。

「あれ?、かあさん?」

目を覚ました伊織が天井を一目見ると

「この天井は…

 そうだ、ここおれの部屋だ…

 でも、あっあれ…おれどうしたんだろう?

 パラレルや真織さんって…全て夢?だった?

 あれ?

 え?え?えぇぇ?」

伊織の頭が混乱する、事の状況がつかめない。

──シャッ!!

昌江の手で窓のカーテンが開けられると、

どんよりよりと曇った空と共に部屋の様子が目に入ってきた。

──なっ

「ちっ違う!!、ココはおれの部屋じゃない」

そう確かに部屋の間取り等は進藤伊織の部屋なのだが、

揃えられている調度品などは早川伊織の部屋ほどではないものの、

女の子を意識した物になっていた。

さらにそれよりも、

本来なら学生服が掛かっているはずのハンガーに、

女子のセーラー服が掛かってた。

「こっコレは…」

驚きながら伊織がベッドから出ると、

「どうしたの?、伊織…」

母親は伊織の行動を怪訝そうに眺めていた。

「母さん、なんでこの部屋…おれ…男…」

無茶苦茶な文法の言葉を言いながら伊織は母親を見ると、

昌江は呆れるような顔で、

「何言ってんの、伊織…あなた女の子でしょう!!

 一体、どうしちゃったの?」

と怪訝そうな表情で話しかけてきた。

「女の子?…おれが…」

──ハッ

慌てて伊織は自分の股間に手を持っていくと、

「無いっ…」

と呟く、

そして慌てて壁に掛かっている鏡を覗くと、

そこには紛れもない早川伊織が寝起きの状態で立っていた。

「なっ!!」

伊織が呆然としていると、

「もぅ…寝ぼけるのも程々にしてよね…

 ほらっ、瑞樹”クン”はもぅ学校に行ったわよ」

と外を眺めて昌江そう言うと部屋を出ていった。

「…瑞樹…クン?」

母親の言葉か引っ掛かった伊織は急いで窓の傍に駆け寄ったが、

しかし、登校途中の瑞樹の姿は見えなかった。

「なっ、なんなんだ?」

伊織は訳も分からず取りあえずセーラー服に着替えると、

朝食の用意がしてあるリビングへと向かった。

「なんだ、伊織…寝坊か?」

起きてきた伊織の姿を見た父親の文隆は、

いつもと同じように新聞を広げていた。

「ほんと、いくら女の子っぽくないからって、

 いきなり変なことを言うから母さん驚いたわよ」

そう言いながらも母親の昌江もいつもと同じ行動をする。

しかし、伊織にとって、

この場面にいるのが学生服を着た進藤伊織ではなく、

セーラー服を着た早川伊織であることが信じられなかった。


「ほらっそんなところに立ってないで、はやくご飯食べてよ」

「あっ…うっうん」

母親に促されると伊織は席に着くと、朝食に箸を付ける。

そして、TVのニュースではいつもと同じキャスターが、

『…雷があちらこちらで鳴っているようですが…』

と気象予報士に話しかけている場面が映っていた。

『…えぇそれなんですが…』

キャスターに聞かれた気象予報士は困った表情をすると、

この雷は日本のみならず世界的規模で発生していることを告げた。

「この天気予報…(さっき見たよな)」

その途端…

ゴロゴロゴロ!!

ズズズズン!!

雷鳴が轟いた。

「雷か…」

伊織は上を眺めるとそう呟く、

朝食が終わり、玄関へと向かっていく文隆と伊織に昌江は、

「あなた、伊織っ

 雨が降るかも知れないから、大きめの傘を持って行きなさい」

と二人に声を掛ける。

「あっ…うん…(それも言われた)」

伊織はそう返事をしながら靴を履くと玄関のドアを開けた。

いつもと変わらぬ朝の風景が彼女を出迎える。

「…行ってきます」

そう告げると伊織は状況に流されるようにして進藤家を後にした。

「…パラレルが何かドジッたのかな?」

と思いながら伊織はヘアクリップを取り出すと

パチン

と髪に止める。

──スゥ…

その途端伊織は自分の心の形が変わっていく感触がした。

そして、

『…パラレル………』

と伊織はいつもと同じように呼びかけたものの、

『サーーーー…』

ホワイトノイズのような音がするだけで

いつもならスグに聞こえてくる脳天気なパラレルの声は聞こえなかった。

「あっあれ?」

『…パラレル…

 …パラレル…』

伊織は何度も呼びかけを試みてみたが

しかし、一向に脳天気な返事が返ってこなかった。

「どうなっちゃったんだろう?

 しょうがないなぁ…

 まぁ学校に行けば会えるはずから、

 そのときワケを聞いてみましょう」

と思うと伊織は丁寧にヘアクリップを外すと、

足を天ヶ丘高校へと向けた。



キーンコーン…

予鈴が鳴る中、

──ふぅ…どうやら雨に降られずに済んだな

伊織は上履きに履き替えると自分のクラスへと向かっていく、

廊下を歩く伊織にはいつもと何も変わらない朝の光景が繰り広げられるが、

しかし、

ガラッ!!

「おはよう!!」

と言いながら教室のドアを開けた途端、

「あっあれ?」

いつもと違う教室の雰囲気に伊織は驚いた。

「間違えて別のクラスのドアを開けたのかな?」

そう思いながら伊織はドアの上部に掛かっているクラス札を

改めて見直してみたが、

そこには”2−C”と言う文字が書かれていた。

「間違っていないよなぁ…」

伊織は書かれている文字に誤りがないことを確認していると、

「おはよう、伊織っ

 どうしたの?」

彼女の姿を見た女子が一人声を掛けて来た。

「え?、えっと」

──誰だ彼女?…おれ知らないぞ…

と伊織がどう返事をして良いのか困惑していると、

「ほらっ、そんなところに立ってないでサッサと入ったら?」

と彼女は気さくに声を掛ける。

「うっうん…」

まるで彼女に促されるように伊織は教室に入ると、

ザワザワ…

教室の中は普段と変わらない喧噪に包まれていたが、

しかし、席に着いている者、立ち話をしている者…

伊織にとっては誰一人として覚えのない者たちばかりだった。

「どうなってんだ?」

伊織は自分の席につくと教室の中をぐるりを見渡す。

そのとき、

ガラッ

一人の大人しそうな男子が教室に入ってくると、

「よう、笹島っ、

 今日も芹沢さんの所か?」

  「毎日毎日、精が出るなぁ」

「ところでお前、昨日芹沢さんにアタックしたんだって?」

「なにっ、顔に似合わず大胆なことをするなお前…」

「進藤さんの許可はちゃんと取ったのか?」

と男子たちが声を掛けながら彼を取り囲んだ。

「はぁ?、笹島だってぇ?

 おれの許可?」

伊織は呆気にとられながら男子たちから小突かれる彼の姿を眺めていた。

やがて解放された彼が伊織の傍に来ると、

「おっ、おはよう…伊織さん」

とオズオズと伊織に挨拶をした。

──瑞樹に双子の弟なんていたっけ?

呆気にとられながら伊織が彼を眺めていると、

「あっあのぅ…」

彼にとって伊織の反応が普段と違うらしく、

不安そうな面もちで声を掛けてくる。

「…なぁ…、お前……瑞樹の弟か?」

指を指しながら伊織が尋ねると。

「え?、伊織さん…なに言っているの?

 僕だよ、笹島瑞樹だよ」

っと彼は伊織に実質的な自己紹介をした。

「はぁ?……」

伊織は呆れた顔すると、

──バッ!!

と彼を抱き寄せると、

「なぁ、瑞樹は何処に隠れている?、

 瑞樹からこうしろっ

 って言われたんだろう

 全く手の込んだ悪戯をして…」

と呟くと、

「ちょちょちょっと、伊織さんっ、

 どうしたの?

 僕だよ瑞樹だよ!!」

彼は驚いた顔をした後に真剣にな表情で伊織に告げる。

「だからぁ…」

伊織が声を上げると、

「どうしたの?、笹島君に進藤さん」

一人の女子生徒が声を掛けてきた。

「あぁ、藤本さん…

 伊織が…進藤さんがおかしいんだよ」

と彼は女子生徒に告げた。

――藤本?…藤本って……幸也の妹か?

伊織がキョトンとしていると、

「進藤さん…

 幼なじみだから、からかいたい気持ちは判るけど、

 ココは学校なんだし、始業前なんだから、

 こう言うのは放課後とかにしてね」

と優しく言う、

「あっあのぅ…あなた、幸也の妹さん?」

恐る恐る伊織が尋ねると、

「進藤さん、ふざけないのっ

 あたしに幸也なんて兄や弟は居ませんよっ」

と彼女は伊織にきつく告げた。

――なっ、どうなんってんだ?…え?

伊織の頭が混乱し始める。

――瑞樹が男で、藤本が女?

そのとき伊織の頭がポンと叩かれた。

「誰?」

振り返ると、一人の男子生徒が伊織の後ろに立ち、

「よぅ、進藤っ

 ほらっ、昨日言っていたCD持ってきたよ」

と彼は伊織にCDが入ったケースを手渡した。

「………」

伊織はCDのタイトルを怪訝そうに眺めると、

――はっ!! と何かに思い当たったが、

しかし、頭の中でそれを否定すると改めて、

「…えっと、失礼ですが…

 どちらさんでしょうか?」

と彼に尋ねた。

「おっ、おいおい、進藤…

 俺をからかっているのか?

 俺だよ、早川真央だよ!!」

と彼は自分を指さして伊織に告げた。

「そうよ、進藤さん、

 どういうつもりかは知らないけど、

 朝早くから記憶喪失のふりをしないのっ」

藤本もきつく伊織に言うと立ち去っていった。

――早川真央って…あはは…まさか、そんな…

「どうしたんだ?、そんな深刻な顔をして…

 いつものお前らしくないな…あははは…」

と彼は笑いながら伊織の肩を叩いたが。

「えっ?、そう?

 あははははは…」

伊織も彼につられて笑ったが、

しかし、既に伊織に頭の中は大量の処理しきれない情報があふれ出し、

オーバーフローを起こしていた。

その結果、伊織の意識はユックリとフェードアウトしていった。

――ふらぁ…ドタン!!

「いっ伊織ぃ!!」

「おっおいっ、進藤!!」

クラスメイトたちの叫び声が遠のいていく。



「え?、伊織ちゃん、まだ来ていないの?」

天ヶ丘高校に登校した真織は、

先に登校したはずの伊織が、

未だ学校に来ていないことを知り、驚きの声を上げた。

「うん…まだだよ」

彼女に尋ねられたクラスメイトはそう言って頷くと、

「おかしいな…どこで追い抜いちゃったのかしら…」

真織は心配そうな顔をしながらそう呟くと、

生徒達が続々と入ってくる校門を眺めた。

そんな彼女の様子を横目で見ていた瑞樹は、

何喰わぬ顔で登校してきた伊織(=パラレル)の肩をつつくと、

「…なにかあったでしょう!!」

と小声で尋ねた。

「え?、判りますかァ?」

ハッキリと顔に”あった”と書いて伊織(=パラレル)が振り向くと、

「一体、何があったの?」

瑞樹がヒソヒソ声で尋ねた。

すると、

「えっとそれがですねぇ、

 何か一大事が起きたらしくって、

 どうも、イオちゃんがそれに巻き込まれたらしいのですが、

 私もよく判らなくて…

 それで、いまシリアルが天界に行って確認をしているところですわぁ」

と伊織(=パラレル)は瑞樹に答えた。

そう、あの落雷の後、

一時不通になっていた天界との通信が回復した途端、

パラレルはスグ近くから人一人が空間転移したことが知らされた。

そして、どうもそれが伊織らしいと言うことだった。


「ちょちょっとぉ、それてどういうこと?」

真剣な表情で瑞樹が聞き返すと、

「あっ、先生が見えられたようですわぁ」

伊織(=パラレル)は前を指さすと、

「おーぃっ、ホームルームを始めるぞ」

と言いながら担任が姿を現した。



♪〜♪〜

『真織さん…この歌良い歌ですね…』

真織の部屋でCDを聞きながら伊織が感想を言うと、

『でしょう…あたしもこの人の歌、大好きなの…』

ベッドの上でお気に入りの特大のネコのヌイグルミを抱きかかえながら、

真織もステレオから流れる曲を静かに聞き入っている。

♪〜♪〜

『うん…良い歌…』

目を閉じて伊織が聞き入っていると、

『じゃぁ、コレ貸してあげるから、ダビングしさないよ』

演奏が終わると同時に真織は伊織にケースに入れたCDを手渡した。

『あっありがとう…』

そう言ってCDを受け取ったところで伊織の目が覚めた。

「うっ…」

伊織が目を開けるといつの間にか彼女は保健室のベッドの上に寝かされていた。

「あっ目が覚めた?」

伊織が目覚めたことに気がついた養護の教師が声を掛けると、

「え?、えぇ…」

上半身を起こして伊織が返事をする。

「どうしたの?、

 ココに連れてきた子の話では

 大分疲れていたようだけど」

養護の教師が尋ねながら、伊織の耳に耳温計を差し込むと体温を測る。

「うん、熱はないようね」

耳温計の数値を見た彼女は、

「あんまり夜更かししないことと、

 ちゃんと朝食を採ること…、

 うん、もぅお昼だし…教室に戻って大丈夫よ」

と言うと教師は机に向かって書類に目を通し始めた。

「…失礼します」

乱れた制服を整えた伊織はそう挨拶をして保健室を後にしたが、

しかし、教室には戻る気は無かった。



「はぁ…一体…何がどぅなってんだ」

保健室を出た伊織はそのまま屋上に上ると、

カシャッ

金網にもたれ掛かるように呟く。

ゴロゴロゴロ…

相変わらず空はうねるような黒い雲が覆い、

所々が思い出したように光り輝く。

「瑞樹が男で、

 藤本が女…

 そして、真織さんは……男だった。

 ………」

そう呟きながら、しばし伊織は黒雲を眺めていると、

ゴロゴロゴロ…

再び雷鳴が轟く、

「これは夢なんかじゃない…

 …真織さんの家から出たおれは確かに落雷に会った」

伊織は自分目がけて降ってくる光の固まりを思い浮かべる。

「で、目が覚めたら、おれは女の子の進藤伊織になっていた。

 あり得るはずのない、自分の部屋で…

 思い返せば、これ自体がおかしい…

 そして学校に来てみると、瑞樹たちは男は女に女は男になっていた。

 クラスの他の連中も顔に見覚えがないところを見ると……

 クラス全員が一斉に性転換した?

 あははは…まさか、

 だったら、なぜおれは男の早川伊織ではなく、

 女の進藤伊織になっているんだ?」

などと呟いていると、

「おねぇーちゃん」

「え?」

突然掛けられた声に伊織が振り向くと、

小学生ぐらいの一人の少女が立っていた。

「だっ誰?」

伊織が尋ねると、

「はいこれ」

と言って少女は伊織に名刺を手渡した。

「ココロとカラダの悩み、お受けいたします 真城 華代」

と名刺に書いてあった。

「悩みの相談?」

怪訝そうに伊織が少女を見ると、

「あっその目疑ってますね…

 華代はどんな悩みでも一発で解決できるスーパーレディなんだから」

と胸を張って答えた。

――ふぅん…まっ別に構わないか…

伊織はそう判断すると自分の置かれた状況を華代と名乗る少女に話し始めた。

「…ってね、まるで夢みたいな話でしょう」

そう伊織が経緯を説明すると、

「…あらま…クラスメイト達が一斉に性転換ですか、

 まるでパラレルワールドに迷い込んだみたいな話ですね…」

と華代は感心しながら言うと、

「え?、パラレルワールド?」

彼女のその言葉が伊織の心に引っかかった。

「……判りました、ではクラスメイト達の性をひっくり返せば解決ですね」

華代はそう言うと大きく手を挙げ、

「そうれっ!!」

と言いながら手を振り下ろし始めた。

しかし、振り終わる寸前。

「ストーップ!!」

伊織が声を上げた。

「え?、どうしたんです?」

不思議そうにする華代に、

「うん、いいのいいの、いまの君の言葉で大分楽になったよ…」

と伊織は事態が解決したことを彼女に告げた。

「…そうですか、ならい良いのですが」

不満そうに去っていく華代の後ろ姿を見ながら、

――そうか…ここはパラレルワールドの世界か…

伊織は自分の置かれた状況が少しづつ見えてきていた。

しかし、屋上のスグ下にある柔道場では悲劇が起きていた。

柔道場で柔道の授業を受けていた男子生徒達が、

ムクムクムク――

突然膨らみ始めた胸に驚くと、

『え?』

『なんだ?』

『うわぁ!!』

と言う声を残してレオタード姿の新体操選手を手始めに、

ブルマ姿の女バレ選手、セーラー服にブレザーの女学生、

はてまた巫女さんに看護婦さんと… 瞬く間に柔道場はコスプレ会場と化しパニックに陥っていた。


「そうかそうか、

 ここがパラレルワールドの世界だと言うのなら、確かに…」

そう伊織は呟いたところで、

――じゃぁ、どうやって帰れば良いんだ?

と事の重大性に気づいた。

「はっ、しまったぁ!!」

大声を上げて頭を抱えていると、

「い・お・り」

と言う言葉と共に、

ヒュン!!

っとシリアルが伊織の前に姿を現した。

「恐らくここに来るだろうと思って張ってたんだぜ」

そう告げるシリアルを、

「シリアル!!」

伊織は敵地の中で戦友を見つけたような表情をしながら、

抱き上げるとギュッと抱きしめた。

「心細かったよ…」

そう言いながら伊織はわんわんと泣き出す。

「おっ、おいっ、どうしたんだ、伊織っ

 らしくないぞ」

伊織の意外な行動にシリアルは戸惑ったが、

ジワッ

と締め上げられてきたので、

「くっ苦しい…

 とっとにかくだ、

 パラレルからの説明があるんで、その手を離してくれないか」

と顔を赤く腫らしながら声を上げた。

「あっゴメン…」

それを聞いた伊織は慌ててシリアルを手放すと、

ゼェゼェ…

「あ゛〜っ、死゛ぬかと思ったぁ…」

シリアルは肩で息をしながら、

「一応、怪我は無いようだなっ」

と改めて伊織を見上げながら言うと、

「うん…」

コクリ

伊織は頷いた。

「さ・て・と、

 ではパラレルからの説明が始まる前に、

 ぼくの方から状況の説明をした方が良さそうだな」

「そっそう!!」

そう告げたパラレルの言葉に、伊織はグッと乗り出した。

「まず、さっき伊織が言っていた、

 ココがいわゆるパラレルワールドの別世界と言うのはビンゴ!!」

「やっぱり」

「で、”なんで伊織がこの世界に来てしまったのか”なんだが、

 実はこっちの時間で今朝早くから、

 伊織が本来住んでいる世界とこの世界とがニアミスを起こしていたんだ」

「ニアミス?」

「そう、天界の視点で見ると、

 世界と言うのは一つではなくいっぱいあって、

 それぞれが固有の運動をしているんだ、

 で、天界はそれらが衝突を起こさないように管制を行っているんだけど

 その管制は人間のシステム同様完璧ではなくて…」

とそこまでシリアルが説明すると、

「…なんとなく判る気がする」

伊織は以前、パラレルがイグドラシルとか言う

古風な機械の写真を披露していた事を思い出した。

――あんな前時代的なマシンが管理しているのなら、

  ニアミスの一つや二つ起きても不思議ではないな…

っと思っていると、伊織の表情を読み取ったシリアルは

「あっ、こらっ伊織っ、変なことを考えているなっ

 言って置くが、イグドラシルシステム・MAKIは

 天界が誇る”松・竹・梅”の3つの超電子頭脳が

 それぞれが導き出した演算結果を持ち寄って、

 多数決によって意志決定すると言う、

 人間界でもお目にかかれない無い最新システムなんだぞ!!」

と胸を張った。

「本当?」

疑惑の目で伊織がシリアルを見つめると、

「オペレーションシステムだって、

 本格的GUIを採用した窓2000XPだし、

(ちゃんとサービスパックも”6a”を当ててあるんだぞ…)

 最新のGPUによる3Dグラフィックス・フルアニメーションも…」

「判った判った…」

そう言いながら全身を使って説明するシリアルの頭を、

伊織はしゃがみ込んでポンポンと叩きながら

「で、おれがこの世界に来てしまった原因ってなんだ?」

と事件の真相を尋ねた。

「あっ、そうだな…

 でだ、元々伊織の存在は本来の世界でも不安定な物で」

そうシリアルが説明を再開すると、

「まぁ…確かに早川伊織と言う女の子自体、本来は居ない子だよね」

伊織は唇に人差し指を当てながら答えた。

「けど、この世界には新藤伊織と言う女の子が居る…」

「え?」

「つまりだ、元々不安定な存在だった伊織は、

 たまたまニアミスを起こした相手の世界に、

 女の子の伊織が居たためにそっちに引っ張り込まれた。

 と言うわけだ」

とシリアルは伊織に真相を説明した。

「そんなぁ!!」

シリアルの説明に伊織は声を上げると、

──ガシッ

っとシリアルの胸元を掴み上げ、

「で、元の世界に戻る方法は在るのか?」

と真剣な表情で尋ねた。

「そっ、そんなに慌てる゛な゛っ」

とシリアルが声を絞るように言うと、

「あっ」

伊織はパッと掴み上げていた手を離した。

途端、

──ボテ!!

シリアルは自由落下の法則で床へと落ちて行った。

「あ゛〜っ、命が幾つあっても足り無いぞ」

首をさすりながらシリアルがグチをこぼしていると、

「で、そのパラレルからの説明って?」

──ズイッ

伊織がシリアルに迫る、

──ったくぅ…

やれやれと言う表情でシリアルは起きあがると、

「伊織っ、ヘアクリップ…ちゃんと持って来ているな?」

「え?、うん、でも…さっきコレ使えなかったよ」

シリアルの尋ねられた伊織はそう言いながら、

スカートのポケットからヘアクリップを取りだして見せた。

「よしっ、いまは使えるはずだから、それを髪に付けてみな」

「え?、そうなの…」

伊織はシリアルに言われるまま髪にヘアクリップを付ける。

パチン…

っとヘアクリップを留めたとたん、

スゥ――

っと自分の心の形が変る感覚が走る。

「じゃぁ、静かに目を閉じて、

 そして心を落ち着かせたら、

 パラレル…って呼びかけてみ」

伊織は言われたとおり、目を閉じて大きく深呼吸をすると、

『パラレル…』

と呼びかけるように念じてみた。

すると、

『サーー………』

さっきと同じホワイトノイズの様な音がした後、

『…ちゃん…イオちゃん聞こえますかぁ?』

と暢気そうなパラレルの声が聞こえて来た。

『パラレル?』

その声に伊織が返事をすると、

『あぁよかったですわぁ!!、

 イオちゃんとまた話が出きるなんて』

と相変わらず緊張感のない声が鮮明に聞こえてきた。

――この人の天然はこういう状況下でも変わらないのね。

伊織はと思いながら、

『で、パラレル…あたしの帰れる方法なんだけど…』

と尋ねると、

『そうそう、それですわぁ』

ハタと何かを思いだしたようにパラレルが声を上げた。

――2の次にしないでよ、こっちは一大事なんだからさぁ

『で、イオちゃんの帰還方法なんだけどぉ

 天界の方に色々と調べて貰ったところ、

 どうも、イオちゃんの中にあるシードの力を増幅させてぇ、

 で、その力でそこから一気にジャンプするのが、

   一番簡単だって事に決まりましたわぁ』

と帰還方法の概略を説明した。

『決定しましたっ…てなんですか?、それ?

 それにシードの力を増幅って言うけど…

 そんなことあたしに簡単に出来るの?』

パラレルの説明を聞いた伊織が質問をすると、

『うん、それがありますのよぉ…』

もったいぶりながらパラレルが言うと、

「もぅ、もったいぶらないでよ!!」

しびれを切らし掛けた伊織はつい言葉で叫んでしまった。

『それは…すばり”天使の必殺奥義・運命の赤い糸”!!…ですわぁ』

『はぁ?』

『イオちゃん…”赤い糸”の話って聞いたことがありますでしょう?』

『赤い糸?

 赤い糸ってあのぅ…

 小指から出てて、それを結ぶと縁結びになる。

 ってと言うヤツの?』

思い出しながら伊織が答えると、

『そうそれですわぁ!!、

 必殺奥義というだけあってぇ

 天使がその力を使うにはリスクが大きいのですがぁ、

 その分リターンも多くってねぇ…

 成功すればその世界からのジャンプも軽々と出来るくらいの、

 パワーを得られますわぁ』

とパラレルは縁結びによる効果を説明する。

『しかし、そう簡単に行くかしら…

 それに、そんなアブナイ賭をするのなら、

 あたしは地道にコツコツと貯める方が良いと思うけど』

そう言いながら伊織はハイリスクに難色を示すと、

『あっでも…

 イオちゃんには時間がありませんのよ』

とパラレルは伊織に他に選択肢がないことを匂わせた。

『時間がない?』

『うん、実はさっきぃ…天界の方で重大な決定を下されましてぇ』

「は?」

『実は…イオちゃんがいま居る世界とこっち世界は、

 お互いから伸びた腕で絡まっちゃった状態になってますのぉ、

 それでですが、そちらの時間で3日後になりますがぁ…

 絡まったままの二つの世界を切り離すためにぃ

 ”N2超時空振動弾”と言う物の使用を決定したのですわぁ…』

と重大な事実を伊織に伝えた。

『えぬつぅ…ちょうじくうぅ??』

それを聞いた伊織が意味が分からない返事をすると、

「パラレル!!、それって本当か?」

横にいたシリアルが突然声を上げた。

「シリアルなんなの?、その超時空なんたらって…」

伊織が尋ねると、

「いわゆる、天界の最終手段、

 パラレルの話だと、

 もはや2つの世界はニアミスから衝突状態になりつつあるみたいだな、

 で、完全に衝突状態になると双方にとんでもない影響が出るので、

 その前に強力な力で引き離そうと言う訳か…

 パラレルっ、

 その指揮をとっているのは誰だ?」

シリアルが尋ねると、

『えっと、だれでしたっけ?

 ほらっ、髪が黒い女神の…』

パラレルのその女神の名前が喉元まで出かかっている様子を悟ったシリアルは、

「誰だかわかったから、もぃいいっ」

と返事をした。

「はぁ…彼女か…

 確かに”N2超時空振動弾”を使うのも判る気がする」

シリアルは大きくため息をして呟くと、

「え?、じゃぁ」

その様子を見た伊織がシリアルに尋ねた。

「あっそうだったな、

 もしも、”N2超時空振動弾”が使われると、

 ココと向こうの世界は絡まっている腕を切断されて離れていくから、

 伊織っ

 君は元の世界に戻れなくなる!!」

とシリアルは”N2超時空振動弾”が伊織に及ぼす効果を説明した。

「そっそんなぁ…

 何とかならないのっ、パラレル!!」

驚いた伊織が声を上げると、

『うん、ですからぁ

 さっき言いましたように

 ココは一つ縁結びで一発勝負に出た方が良いと、

 わたくしは思いますわぁ。

 それに、さっき申し上げたリスクについてですがぁ

 本来なら一度縁結びに失敗しますとぉ、

 シードの源である”幸せの力”が大幅に減ってしまうのですがぁ、

 でも、今回は緊急事態ということでぇ

 天界から特別にチャージして貰うことになりましたわぁ

 けど…

 あくまで損失分を補填するだけですからぁ…

 やっぱり最後はイオちゃんのガンバリに掛かっていると思いますのよぉ

 でも、大丈夫、イオちゃんなら、自信を持って…

 もぅ適当に見つけてチャチャチャと済ませてしまえばOKなんですからぁ…』

と全く人ごとのようにパラレルが言うと、

『そんなこと言ったってぇ…』

伊織は困惑した返事をする。

『絶対大丈夫ですわぁ…

 何とかなりますよぉ!!』

パラレルは何処かで聞いたような台詞で励ますが、

『パラレルに”絶対”と言われるとよけいに不安なのよねぇ』

”不安”という言葉を思いっきり顔に書いて伊織が呟く、

『とにかく難しいことを考えませんで、

 誰でも良いですから縁を結んじゃえばOKですわぁ、

 ただしぃ、

 3日後、土曜日の昼までの72時間以内に済ませないとなりませんからぁ、

 そんなに時間はないですわねぇ』

と付け加えた。

「そんなぁ…」

「…い…伊織…」

心配そうにシリアルが見上げると伊織は呆然と立ちつくしていた。



ゴロゴロゴロ…

思い出したように雷鳴がとどろく、

チキ…チキチキチキ…

5時限目の授業から教室に戻った伊織は、

教師の言葉も上の空でパラレルから告げられた縁結びのことばかり考えていた。

チキチキチキ…

手にしたシャーペンをノックし続けた後に、

ある程度出た芯を押し込むと再びノックをする。

同じ作業を繰り返しながら伊織は考え込んでいた。

――縁結びって簡単に言ってもなぁ…

  目で見て判る連中は既にくっついているし、

  ”募集中”なんて輩はそう簡単に…」

などと考えながら教室を見渡すと、

ふと伊織の目に彼女を心配そうに見つめる瑞樹の姿が目に入った。

「!!」

一瞬、伊織と視線が合うと瑞樹はスグに目を反らして下を向く。

『…よう、瑞樹っ、

 お前、昨日笹島さんにアタックしたんだって?…』

朝、彼が登校した時、

他の男子生徒達からそう言われながら小突かれているのを思い出した伊織は、

――確か…   おれの世界では笹島が瑞樹にアタックして玉砕したんだよなぁ、

  で、それが元でパラレルがやってきて…

  あっ待てよ…

  ココは逆の世界だから…

  そうか!!…

ガタン!!

突然伊織は立ち上がると、瑞樹の傍へと向かい、

「そうかそうか、瑞樹…お前がなぁ…

 あははははは…」

と笑いながら、

パンパン!!

と彼の肩を数回叩いた。

「いっ伊織さん…僕…何かした?」

状況が飲み込めない瑞樹はやや怯えながらそう言うと伊織を眺める。

その途端、

「進藤…廊下に立っとれっ」

教師のいかにも心にこもっていない言葉が伊織の背後から響いた。



「さてと…瑞樹の縁結びか…

 ふふふふ…

 元の世界ではまずお目にかかれないことだな…

 まっ、あんな男だか女だか判らないようなヤツの

 縁結びなんてことは絶対に起こるはずないから…

 よぉしっ

 この愛のキューピット…もといっ

 愛の天使のマジカル・イオちゃんが一肌脱いでさしあげましょう!!

 おーほほほほほほ!!」

放課後、体育館の裏で伊織が高笑いをしながら決意表明をすると、

「おぃおぃ、覚悟を決めたとは良いとしても、

 真織さんに声を掛けられず、

 黙って見守っていたヤツの台詞とはとても思えないなぁ…

 それにひとこと言っておくけど、

 この世界ではマジカル・イオは放送していないよ」

とその傍でシリアルが呆れながら呟いた。

その途端、

ズンッ!!

伊織の片足がシリアルの尻尾を直撃した。

「○△◇×!!!」

声にならない叫び声を上げてシリアルが飛び跳ねる。

「いーぃっ、

 ココからの脱出には手段を選ばないのっ!!」

と伊織はシリアルを見下ろしながら言う、

「いっ伊織…お前、性格が変わったんじゃないか?」

激痛に体毛を逆立てながらシリアルが叫ぶと、

「それにしても、なんでシリアルはココに来れたの?」

っと伊織は異世界にシリアルが来ている理由を尋ねた途端、

「う゛っ、それはだなぁ…

 まぁ、天界の者にとってはそう言うルートがあるんだよ」

とシリアルは視線を逸らしながら説明をする。

「ふぅ〜ん

 ってことは、もしも間に合わなかったらシリアルはどうするの?」

ニッコリと微笑みながら伊織が尋ねると、

「そっそれは…」

大粒の汗をかきながらシリアルは答えに窮する。

「まさか、おれを見捨てたりはしないよねっ」

ズィッ

伊織はドアップになってシリアルに迫ると、

キュッ

っとシリアルの首に手を掛けた。

「ひっ!!、

 捨てません、見捨てたりはいたしません。

 一生涯、伊織様についていきますっ」

真っ青な顔をしてシリアルが叫ぶと、

「なら、よろしいっ」

シリアルの態度に満足した伊織が手を離すと、

「伊織さん、ダメですよぉ、ネコをいじめないでください」

と彼女の行為を窘める声が響いた。

「あっ」

その声に伊織が振り向くと、

いつの間にか瑞樹が伊織の後ろに立っていた。

「あっあのぅ…

 僕が何をしたのかは知りませんが、

 ネコに八つ当たりをするのは止めていただけませんか」

そう言いながら瑞樹は、

「放課後、体育館裏まで来い 伊織」

と書かれた手紙を伊織に見せる。

「……これじゃぁ、不良の呼び出しだよ…」

その文面を一目見たシリアルはぼそっと呟く。

「えっ、あぁ…来たか来たか…

 瑞樹っ、ちょっとつき会って」

そう言いながら伊織が手を差し出すと、

ビクッ!!

瑞樹の身体が小さく動いた。

「どうした?」

「まさか、新しいプロレスの技を思いついたんじゃぁ」

恐る恐る尋ねる瑞樹を見た伊織は、

「…それはアンタがおれにやっていたことだよ…」

と呟くと、

――そっか…ひっくり返しと言うのは性別だけではなくて、

  おれと瑞樹との立場も逆になっているのか…

  ふっふっふっ…

  おもしれぇ…

キラッ☆!!

一瞬伊織の目が輝いた。

――なにか、とんでもないことを思いついたな…

それを見たシリアルは瑞樹の訪れるであろう運命を悟った。


「ねぇ…そっちは…」

瑞樹の手を引きながら伊織は一路体育館の玄関へと歩いていく、

「あぁ?、

 なぁ瑞樹…昨日芹沢…あっここじゃぁ”さん”か、

 に告白したんだってな?

 ”好きです”って…」

歩きながら伊織は瑞樹に尋ねると、

「そっそんなこと、大きな声で言わなくても…」

周囲を気にしながら瑞樹が小声で言う、

「それにしても芹沢…さんって、

 新体操部のキャプテンなんだって?

 いやぁ、その話を聞いて驚いたよ…

 で、返事はどうだった?」

と伊織が尋ねると、

「…………」

目線を反らしたまま瑞樹が黙ってしまった。

「門前払いか…」

彼のその様子を見た伊織が結果を推測すると、

「ちっ違うよっ!!、

 芹沢さんは、あさっての大会に全力を傾けたいから、

 こう言うことは後にして…

 って言ったんだ」

と瑞樹は猛烈に反論した。

「ふぅ〜ん、

 つまり、先送りね…

 よぅしよし、ではこの”愛の天使のマジカル・イオちゃん”が

 その縁を取り持ってあげようじゃないの」

と伊織が力強く言ったとたん、

「ちょちょっと伊織っ、今日の伊織はやっぱり何処か変だよ!!」

瑞樹が叫んだ。

すると、伊織は、

「変も変、大変なのっ!

 3日のうちにチャチャチャとまとめなければ帰れないんだから…

 瑞樹っ、コレまでたっぷり溜まった貸しの分、

 しっかりと使わして貰うわよっ」

そう言いながら体育館のドアを開けた。

「かっ貸しって…

 ここの瑞樹と向こうの瑞樹とをごっちゃにするなよ…」

伊織達の後をついてきたシリアルは額に縦線を引きながら呟く。



「おぉ…居た居た!!

 アレだねぇ…」

伊織は体育館の一角で手具を持ちながら、

練習をしているレオタード姿の一団を見つけると、

そのまま、彼女たちの所へと向かう、

「あら?…

 ねぇ秀美ぃ、昨日の彼、また来たわよ」

髪をシニョン・スタイルに結い上げた少女が、

近づいてくる伊織達を見つけると声を上げた。

「えっ…?」

その声にコバルトブルーに白のストライプが入ったレオタードに身を包んだ芹沢秀美が体を休めると、

「進藤さん…どうしたの?」

と伊織に声を掛けてきた。

――え?、彼女があの芹沢なのか…

  うわぁぁぁ…

伊織はレオタード姿の芹沢を眩しそうに見つめると、

「いや…ちょっと…ね」

やや誤魔化し気味に伊織は返事をする。

「あっ、やっと決心してくれたんだ」

そんな伊織の様子に芹沢は腕を組みながらそう言うと、

「へ?」

伊織は彼女のその言葉の意味が分からなかった。

「良かった…ずっと前から誘っていた甲斐があったわね」

と芹沢はなおも話しを続ける。

「なっなんのことでしょうか?」

ズンズンと話が先に進んでいく様子に慌てた伊織は、

彼女に改めて言葉の意味を尋ねると、

「なにって、新体操部に入ってくれる決心をしてくれたんでしょう?」

と芹沢は伊織に言う。

「はぁ?」

意外な展開に伊織が戸惑うと、

「え?、伊織さん…新体操するんですか?」

と瑞樹が声を上げた。

「ちっ違うっ、おれはただ…」

「ただ?」

そう言いながら、

ズイッ

っと芹沢は顔を伊織に近づけた。

「…くっそう、赤い糸を引き出したい…

 なんて事は言えないし…」

もどかしさに伊織は臍をかむと、

「で、笹島君はなんで進藤さんと一緒なの?」

と芹沢は瑞樹を一目見ると、彼がこの場にいることを尋ねた。

「昨日、言ったと思うけど、

 いまのあたしはあさっての大会のことで頭が一杯なのっ」

そう強い調子で芹沢が瑞樹に告げたとき、

――糸だ!!

伊織は芹沢の左手の小指から短い糸が、

顔を覗かせているのを見つけると素早く掴んだ。

スルスルスル…

なんの抵抗もなく糸はスーと伸びていく、

――面白い…

そう思いながら伊織は糸を眺めていると、

「いっ伊織っ、行こう!!」

瑞樹は伊織の腕を掴むなり体育館を出ていった。

「あっ進藤さん」

芹沢が伊織を呼び止めると、

「すみません、もぅちょっと考えさせてください」

伊織はそう言い残すと引きずられるように体育館を後にした。

「あたしは諦めないから…」

芹沢は伊織を見つめながらそう呟く、



「もぅ、伊織っ

 一体、どういうつもりなんだよ」

体育館を出た途端、瑞樹は伊織に文句を言う、

「どういうつもりって、

 まさか、あぁ言う事態になっていたなんて、

 おれ、全然知らなかったから…」

照れ笑いしながら伊織が答えると、

「お陰で恥をかいちゃったじゃないか」

瑞樹はプッと膨れた。

――でも、芹沢の糸を引っ張って来れたのは大収穫!!

そう思いながら伊織は体育館から伸びてくる赤い糸を引っ張った。

「何しているの?」

伊織の行動を不審そうに尋ねると、

「ううん、なんでもない…」

――なるほどパラレルの言ったとおり、

  この糸は普通の人間には見えないんだ。

  …じゃぁ次は瑞樹の糸だけど…

そう返事をしながら伊織は注意深く瑞樹の左手を見たとたん、

――あった!!

瑞樹の左手の小指から赤く短い糸が伸びているのを見つけた。

「ちょっとゴメン!!」

と伊織は瑞樹にそう言うなり、

バッ

っとその糸を掴むと、

「悪いけどそこで待っててね」

と言い残すと脱兎のごとく走り去った。

――やったぁ!!

  これで、真織さんが待つ世界に帰れる!!

こみ上げてくる喜びをかみしめながら校舎の裏庭に来ると、

周囲を確認した後にシゲシゲと2本の赤い糸を眺めた。

「クゥゥゥゥゥゥ!!

 長かった!!

 目覚めて起きてからこの時まで、よく頑張った」

ツツツ!!

っと伊織は頬を伝わる涙を拭うと、

「さぁ、愛の天使っ

 マジカル・イオちゃんの

 一世一代の大勝負!!

 いざ、真織さんの元へ!!」

と気合いを入れると2本の糸を

キュッ!!

と結んだ。

すると、

パァァァァァァ!!――

結ばれた糸は一瞬7色に輝いたとたん、

パキン!!

まるで氷が砕けるように、粉々に粉砕すると消滅してしまった。

「………」

沈黙の時間が流れる…

「…なに?、いまの…」

呆気にとられた伊織が呟くと、

「まぁ、こんなこったろうと思った」

そう言いながらシリアルが校舎の陰から顔を出すと、

「…パラレルは言い忘れたみたいだけど、

 赤い糸を結ぶときは、

 双方がお互いを意識したときにしか発動をしないんだ」

と重大な注意事項をシリアルは伊織に告げた。

「へ?」

目を点にしながら、伊織がシリアルを見ると、

「そうだね、いまの芹沢さんと瑞樹くんの関係を見ると、

 瑞樹クンの熱意に対して、芹沢さんに照れがあるみたいだね。

 だから、あんな素っ気ない態度をとる」

と二人の関係を断じる。

「そうかなぁ…」

そう言いながら首を捻る伊織を見たシリアルは、

「伊織…もし、いま、真織さんから”好きです。”って言われたらどうする?」

と伊織に質問をした。

「え?…そっそれは…」

「喜んでつき合うかい?、それとも臆するかい?」

「う゛っ…」

「まぁねぇ…人の心って言うのは、

 タイミングが重要なんだよ、

 いまの瑞樹クンみたいに一方的に押すだけでは、

 相手は逃げてしまうだろうし、

 かと言って、伊織みたいに待っているだけでは、

 待ちくたびれた相手は余所へ行ってしまう」

答えにつまる伊織を見てシリアルはそう促したが、

「え゛っ、まさかそれって…真織さん、誰か好きな人がいるの?」

と伊織は声を上げた。

「例えばの話だよ…

 いまの伊織はパラレルのお仕事を手伝っているんだろう?

 天使のお仕事の期間中は個人的な問題は二の次だよ」

とシリアルは言う、

「そうだっけ?」

「おいおい、  まっ、いまはこっちの瑞樹クンと芹沢さんを第一に考えないとね、

 向こうの世界の問題はその後にしよう。

 さて、さっき言ったように、

 二人がお互いを意識するにはまだほど遠い状態のようだね」

「じゃぁどうすれば…」

そう言いながら伊織が考え込むと、

「まぁ、

 伊織があの二人がちゃんとお互いを意識するように数々の場面を整えて、

 そして、めでたく瑞樹クンと芹沢さんがそれぞれ相手を意識したときに、

 素早く糸を結ぶ。

 天使が縁結びの仕事をするときはいつもこうやっている。

 そ・れ・と、再挑戦はシードのチャージに時間が掛かるので、

 少なくても、1回使ったら必ず6時間以上は間隔を開けること」

とシリアルは伊織に縁結びの心得と注意事項を説明した。

「そんな…それをたった3日でやるのぉ…」

そのときになって伊織はようやくこの仕事の困難さに気が付いた。




第四話:「伊織、鏡の世界へ行く…」おわり







−予告−

縁結びのお仕事の大変さを知った伊織は自信を無くす。
雷鳴の轟く街中を彷徨う彼女に救いの手をさしのべたのは他ならない真央達だった。
守衛の一言で自信を取り戻した伊織は決意を新たにする。
迫り来るタイムリミット。
一発逆転の望みを掛けて、伊織は瑞樹と共に作ったオニギリに全てを託す。
果たして赤い糸は…
そして伊織の運命は如何に…

次回、天使のお仕事 第五話「プロジェクト・縁結び」
(担当:風祭玲)

次回もサービス!、サービス!!。







あとがき…

こんにちわ、風祭玲です。

さぁて、私の担当の
『天使のお仕事 ―The Angelic Calling― 第四話:伊織、鏡の世界へ行く…』
は如何でしたでしょうか?

伊織がクラスメイト達の性別がひっくり返しの世界に落ちる。と言うストーリーは
『天使のお仕事』の初期設定が参加者の話し合いで固まったとき、
ふと、クラスメイトの性別が入れ替わった世界に
伊織が迷い込んだら面白しろそうだなぁ…と考えたのがそもそもの発端で、
それに初期設定案の締め切り日をうっかり間違えて日の目を見ることが出来なかった
私案にあった”赤い糸”のエピソードを絡めてみました。

さて、後編になる次回は「鏡の世界」に来てしまった伊織が、
元に世界に戻るために一世一代の大勝負に出ます。

さて、吉と出るか、凶と出るか、こうご期待!!


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