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本当の自分

作:神川綾乃

【第1話】

 それは、自分にとっては必然だったのかもしれないけど、もし自分が認めてしまえば、今まで生きてきた事すべてを否定しなければならないのかもしれないと思い、どう結論づければいいのかもわからず、すでに1ヶ月が経とうとしている。
「しっかり朝食は食べなさいよ。食堂に用意しておくから。」
 全くの男の部屋に、アンバランスな、襟に2本の白い線が走ったセーラー服が掛けられた部屋。あれから、自分の部屋のドアには、鍵をかけている。
 俗に言う、引きこもりと思われているのかもしれない。登校拒否と言われているかもしれない。義務教育を受けているはずの年の自分に、俗世間はどのような評価をしているかなんてことも、心の隅に残っている。
 すくなくとも、あの学校に入学がきまり、最初の3週間までは、まともに学校に通っていた。その特徴のある制服で、近所の人たちから噂されていた。
「柏木さんのお子さん、あの名門校に入学されたみたいよ・・・」

 毎朝ドア越しに聞く母の声は、おそらく、相当悩み、そして疲れきってしまっているように聞こえる。母には申し訳ないと思い続けながら、いまはこうしている自分が精一杯になっている。

”ごめんね、お母さん・・・”



 いまからちょうど1ヶ月ほど前、まだ中学に入ってまもない、初夏を感じさせるような日に、それは突然やってきた。
 学校の健康診断で、初めて撮影されたレントゲン写真の結果に、あるあってはならない状態が発覚されたのだ。
僕は、今年の春、都内でも有数の有名私立男子中学校に入学した。幼い頃に事故で父を亡くし、片親ですべてをがんばってきた母のために、せめてもの恩返しのつもりがすこしでもあったのか。その学校に入れば、将来は保証されたような物である。そんな学校に、特待生の待遇を得て合格したのだ。
 有名な学校であるらしく、僕は入学して初めて、しっかりとした健康診断を受けた。レントゲンはもとより、心電図検査や血液検査もした。

 そして、その健康診断の結果がでようとしていた2週間後、突然母とともに、僕は学園長室に呼び出される事になる。高額なお金を免除された特待生待遇があったから入学出来たから、その事なのかもしれないと思っていた。
 しかし、実際には母と僕には、何も心当たりはなく、まさか呼び出された原因が健康診断の結果であったとは、学園長室で偉そうにソファー座っている学園長と、そのとなりで同じくソファーに座り、なにやら複雑そうな顔をしている教頭から話されることになるとは、思ってもいなかった。
「柏木悠君とそのお母様ですね。今年入学された・・・。」
 教頭のその言葉は、普段廊下で走る生徒を怒るような大きな声とは対照的な、細い声だったのが印象的だった。
「はい、そうですが・・・うちの息子が、何か問題でも・・・?」
「いや、悠君は、今年当学園の入学試験でトップ10に入る成績でしたし、学校での生活にまったく問題はございませんが・・」
 そう言いながら、教頭は、ソファーとセットになっているテーブルに置かれていた、A3版の封筒を手に取る。
「入学されて1週間が経ちました時、全新入生に健康診断を実施いたしました。その結果なのですが・・・」
「え、悠になにか病気でも・・・?」
 とっさに、母が心配そうな声。自分も、その教頭の言葉に、不安を感じる。自分は、何も言わず、教頭のほうを見つめる。
「いえ、その・・・なんと申し上げたらよろしいのでしょうか・・・。」
 教頭はどもり気味に言うと、封筒の中から1枚のレントゲン写真と、数枚のA4版のプリントを取り出す。
「その・・・悠君はですね。実に申し上げにくいのですが・・・」
「なんでしょう?」
 母は、すぐに答えるが、教頭は、すぐには言おうとしなかった。数秒間を置いてから、「あの・・・悠さんは・・・息子さんじゃなくて、娘さんではありませんか?」
「えっ?」
「えっ!?」
 その教頭の言葉に、母よりも自分が大きな声で相づちをしたのを、今でも鮮明に覚えている。
「こちらに、医師の診断結果がございます。当学園としては、悠さんに精密検査を受けていただきまして、今後のことを検討していただきたく思います。」
 偉そうに座っていた学園長が一言述べる。

 廊下からは、学生たちの雑踏に包まれた音が聞こえていたー



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