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§本当の自分 第2版

連載第4回

第1章


 病院の受付の看護婦に、地元の市立病院の医師、鈴木が書いた紹介状を手渡すと、再び20分ほど待たされた後、再び受付に呼ばれていた。
「紹介状の方、確認させていただきました。ただいま山河内と連絡したところ、本日は・・・」
 そう言いながら、看護婦は左腕にしているピンク色の”Let's G”ブランドの腕時計の表示をちらりとみてから、さらに
「・・・いまから10分後には、研究棟にて会議に出席の予定が入っています。誠に申し訳ありませんが、当院と併設されています、研究棟の方、大河内研究室でお待ちいただけないでしょうか?会議の方は、30分から1時間程度になる予定とのことなのですが。」
「は、はぁ・・・?」

 地元の医師、鈴木に紹介状を手渡された際、とりあえず母、和代だけでも6月14日に向かうということは決まっていた。

「もし、柏木さまが研究棟にてお待ちいただけるのなら、今から大河内研究室の者に来させますが・・。」
「あ、はい・・・分かりました。」
「それでは、研究室の者を呼びますので、待合所の方でお待ちくださいませ。」

 和代は、ふたたび、大勢の患者や、見舞いに来た人だろうか、そういう人たちがいる待合所のベンチに腰掛ける。
『あの先生に紹介された先生って、研究室を持っている・・・ってことは、きっとすごい先生なのよね・・・?』
 等と、待合所で待つ間、和代はいろいろ思っていた。



 その頃、悠は夢を見ていた。


 2001年3月1日

「いよいよみなさん、卒業式がやってきましたね。6年間、小学校で学んだことを、これからの中学校というあたらしい生活の場で、活かしていってください。そして、今日、みなさんにお知らせがあります。坂上祐希さんが、今日を持って、東京の方に引っ越されます。」
「えっ・・・!!」
「祐希ちゃん、東京に引っ越し!?」
 先生は、卒業式のあとの、卒業お別れ会の時に、突然祐希が引っ越すことを告げた。クラスのみんなは当然のこと、幼なじみである僕にも、隆博にも、一言も話さなかった。
「・・・そんな・・・祐希が・・・東京に・・・」
 祐希とは中学校は違うことになっても、幼なじみだから、これからも離れることは無いと思っていた。

 クラスのみんなは、祐希の方を一斉に向いて、彼女を見つめている。
「祐希ちゃん、それ本当なの?」
 クラスの女子の中でも、祐希といつも仲良くしていた、佐藤が立ち上がって、大きな声で言う。
「坂上さんからの希望で、卒業式が終わる今まで、ずっとみなさんにはお話しませんでした。坂上さん、東京の方に引っ越されても、元気でがんばってください。」



 卒業証書の入った筒状のケースを手に、祐希と隆博、そしてそれぞれの保護者たちと一緒に、帰路についていた。
「なぁ、祐希・・・今日引っ越すって、本当か?」
「うん・・・」
 祐希は、卒業と引っ越しというせいなのか、お別れ会の半ば頃から、ずっと泣いていた。
隆博と、隆博の両親と別れてから、5分も歩いただろうか。僕は、ブレザーのポケットからハンカチを取り出すと、祐希に手渡した。
「・・・ありがとう・・・。」
 祐希は、僕からハンカチを受け取ると、目元に当てる。それからしばらくの間、なぜか僕と祐希は無口で、ただ歩きながら祐希のすすり泣く声がするだけだった。母は、と言うと、祐希の祖父母と話しながら、15mくらい先を歩いている。

 この先の、次のT字路で、祐希と僕は別の道に分かれる。
 そして、さしかかろうとしたとき、祐希は立ち止まって、僕にこう告げた。

「あ、あのね・・・祐希ね・・・ずっとずっと、悠君のこと・・・好きだったよ。」
「え?」
「ずっと、ずっと好きだったよ。これからも、ずっと一緒だと思ってた。悠君が中学別になっちゃうのにはびっくりしたけど、それでもずっと一緒だと思ってた。だから・・・だから・・・」
「祐希・・・」
 祐希の泣き声が、いっそう大きくなっていく。
「悠君も、元気でがんばってね。私も、東京に引っ越しても、悠君のこと忘れない。落ち着いたら、手紙を書くね。」

 祐希は、最後にそういうと、瞳に涙を浮かべて、頬を紅く染めながらも、無理に笑顔を
創った。

「祐希・・・・。」
「悠君・・・また、きっと会えるよね! 悠君もがんばってね!」

 祐希は、そう言いおえると、僕の目の前から走り去っていった。その時、僕は祐希に何も言えなかった。

 僕は祐希の小さくなっていく後ろ姿をみて、はっとなった。何故か、もう会えない、そんな気がして、ダッシュで家に帰り、すぐに着替える。卒業式の為に新調したブレザーなんか、そのまま放り投げて。
「悠、どこに行くの?」
「ん、祐希っ家(ち)!」
 数分後、着替えた僕は、またダッシュして200mも離れていない祐希の家に急いだ。


 でも、もう祐希の家には、誰もいなかった。

 こうして、祐希は小学校の卒業式の日、東京に引っ越してしまった。




「また、あの時の夢・・・」
 いつしか、ベットの上で眠っていた悠は、静かに身を起こした。
「祐希が引っ越してからもう3ヶ月・・・僕は、いったい、何してるんだろう?」

 悠は、そうつぶやくと、白い無機質な天井を見つめた。


 本当の自分 
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