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§本当の自分 第2版

連載第2回

第1章


 2001年5月下旬

 学園長に呼び出され、検診結果を元に、市立病院にて精密検査を受け終わった悠。そして、彼の母親は、担当医にその結果を聞くために、再び病院に出向いていた。


「あの、それで、悠はいったい・・・。」
「悠さんの場合は、はっきり申し上げますと、その・・・外見上からいままで男性として間違われていただけなのです。」
「えっ?」
「当病院には、悠さんのような病気・・・まぁ、病気と言ってしまうと語弊があるかもしれませんが・・・・申し上げましたように、悠さんは女性、ただそれだけの事なのです。」
「はい?」
 悠の母は、すらすらと診断結果を述べる医師の言葉を、最初はよく理解することは出来ずにいる。
「あの、半陰陽という病気をご存じですか?」
「はい・・・半陰陽・・・?」
 医師から述べられた、その聞き慣れない言葉に、母は困惑する。
「あまり良い言い方とは言えませんが、つまり”ふたなり”ということなのです。」
「”ふたなり”・・・?」
 その言葉を聞いて、母は、まだ理解出来ない。
「見た目は男性なのですが、実は女性なのです。」
 ふたたび医師は最初に述べたことを言うと、
「ただ、詳しいことは、専門医に聞いてみなければ分かりません。非常に珍しい症状ですので・・・。でも、私の友人の医師に専門にしている医師がおりまして。彼女に聞いてみました・・・」


 病院から帰宅した母は、息子として育てきたはずの娘、2階の悠の部屋にやってくる。帰宅するまでの間、母はどう悠に医師から告げられた事を伝えるべきか、悩みに悩んだ。帰宅までの短い時間に、とうてい結論が出るわけもなく、とりあえず悠の様子だけでも、と思った。
「悠、いるの?」
 あれ以来、部屋にいるときは鍵を閉めるようになった悠の部屋のドア越しに、話しかける。しかし、部屋の中からはなにも返事がない。
「悠?」
 玄関には、悠の靴が置いてある。出かけてはいないはずだ。しかし、部屋の中からは、悠の答えどころか、物音一つしない。
「悠?」



「悠さんの症状ですが、最初に結論から言います。酷かもしれませんが、現在の段階であれば、かならず完治出来るでしょう。息子さんには、ガンの疑いが出ています。」
「え・・・??」
 翌週、悠は、学校に指示されたとおりに、市立病院で精密検査を受けていた。そして、さらに、その結果を母が病院に赴いて聞いている。悠はというと、とりあえず学校の方に通学していた。
 そして、学校での健康診断の結果と、今回の病院での精密検査の結果に、悠の母はずっと驚愕させられ続けている。
「ガンですか・・・?」
「はい。まぁ、それには原因がありまして・・・。しかしながら、当病院の設備では、息子さんを正確に診断するにはまだ無理があります。よろしければ、東京の大学病院で、さらに検査していただくことをお奨めします。私の友人で、息子さんの症状に精通している医者がいますので、そちらに紹介させていただければと・・・。」
「東京・・・といいますと・・・」
「弁応大学になります。」
「弁応大学・・・ですか・・・。」
 市立病院の医師は、東京六大学の中の一つとされる名門私立大学の名前をあげた。その知名度は、おそらく大人なら知らない人はいないだろう、その名前だった。
「弁応大学ならば、メンタル的な部分でも十分な対応が出来るでしょう。何しろ、セラピスト育成の分野に於いても、最先端でありますし・・・。」
 医師は、右手にボールペンを持つと、カルテにドイツ語であろうが、何かいろいろと書き込みながら言った。
「メンタル・・・セラピスト・・・ですか?」
「ええ。息子さんの事ですから、この時点で分かった事といえば、息子さん・・・悠さんには・・・」
 医師は、視線を悠の母の顔と、机上に置かれた悠のカルテを往復させながら続ける。
「おそらくですが、なんらかの理由ででしょうがー・・・男性と誤認されてしまった女性かもしれません。」
「え、ガンではなくて・・・?」
 問いかける悠の母の姿を見ると、医師はボールペンを机上に置き、彼女の方をしっかり向く。
 そして、言い放った。

「とにかく、現時点でここで息子さんを正確に診断し、そして治療しきるのは無理なのです。」



 悠を呼ぶ母の声は、徐々に震えが強くなっていく。母には、病院で医師から聞かされた事実を、どのようにして悠に話すべきなのか、その事自体、どうすればいいかも分からない。


「もうすこし、時間がほしいから。」
 その時、ドアの向こうの悠の声が、母の声を止める。
「悠、話が・・・あるの・・・」
「・・・お母さん、まだ・・・・もう少し、時間がほしいから・・・お願い、今はまだ、このままでいさせて・・・。」



 最近の悠は、毎晩眠るのが怖いような気があって、ならなかった。
「これから僕はどうすればいいだろう?」
 その答えは、自分自身でないと無理なのは理解していたつもりだったけど、それでも自分は毎日の生活を続けている。
「これからどうしようか?」
 この1ヶ月間、何度も自問自答しても、答えを得られるようなことはなかった。
 もうすこしで、その答えは得られる気があるような、無いような気がして、ならなかった。


 相変わらず遅いペースの、神川です。
 さっそくですが、第2回目の掲載をさせていただきます。まぁ、それでも展開は遅い遅い^-^;

 少年少女文庫のスタッフのみなさまには、ご迷惑をおかけすることになりますが、お赦しいた
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 本当の自分 
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