特務機動部隊シュガーエンジェルス



第14話

作:神川綾乃
(C)Ayano Kamikawa 2002 / studio "Horizon"


「雅は、その後調子はどうなの?」
「雅は順調順調、沙百合も何ら問題なし。この内容なら、スケジュールの遅れを取り戻すことも出来るかも知れないわね。」
「そんなに楽観していいわけ?」
「そうでもしなきゃ、この仕事、やってられないわよ。」
雅と沙百合がそれぞれの脳波のチェックを終え、サイエンスから帰宅の途についた後、春菜と秋美はモニタ室で話していた。
「で、雅には沙百合のことも守れって言ったわけ?」
「そうよ。」
「………そんな事言って大丈夫なわけ?雅、まだあの体になってから完全に慣れてないみたいじゃない?理恵も言ってたわよ?」
「そうかもしれないけど………沙百合と比べたら、雅の方がずっと大人な訳なんだし、心はね。」
「でも、何かが起こったら、きっと雅は無理するわよ。」
「何かが………って、そんな事………」
「ま、普通に生活してれば、今のところはそんな事は起きないかも知れないけど?」
雅は、確実に新しい人生を歩み出そうとしている。本来のその原因を作ってしまったサイエンスの関係者達の、せめてもの雅への謝礼。それは、身の自由をある程度保証すること、その答えの一つが学校への通学だった。
「ま、雅は昼間は学校に行ってる訳だし、不幸中の幸いといえば幸いかもね。学校にいる限り、彼女には接近しづらいでしょうしね。」
秋美は、雅と沙百合へのセキュリティーガードに関する書類を手に取っていた。
「どうするの?今のところは3人ずつつけてるみたいだけど、みんな男じゃない?」
「本当は女のガードを付けるべきなんでしょうけどね。あちらの方も何かと人材不足のようで回ってこないのよ。」
「こういうところ、軍令部は抜けてるのよね。”多感なお姫様たち”を守ってるのが無骨な黒服じゃね。」
秋美は書類を置くと、春菜に言った。
「どうかしら、大佐に掛け合ってみる?」
「大佐に?」
「ええ。大佐なら、きっと分かってくれるような気がするのよ。」
そう言うと、秋美は口元を緩めた。

 春菜の業務日誌、2014年4月5日
『安定した結果を次々に出している柏木雅と菊正宮沙百合は、いよいよ正式なパイロットとして認められる見込みになりそうだ。ただし、二人の行動は気になることが多い。ただ、そう思うだけなのかもしれないが、二人にはきっと間違えずに、事実を伝えることは出来るだろうか………。』

 6日の午後3時、休憩時間になって雅と沙百合と春菜は、訓練用のシミュレータ室から休憩室に歩いていた。
「基本的な脳波のコントロールの方法は分かった?」
春菜が横を歩いている、雅と沙百合に聞いた。
「分かったと言われても、実感できるものでは無いですから。」
雅は率直に答える。
「何か見える形に出来ないでしょうか?」
沙百合が雅の方を向いていった。
「コントロール室には、脳波のモニターがありますよね、あれをシミュレータにも取り付けるというのはどうでしょう?」
雅が提案をする。
「うーん、確かにそれは有効かもしれないけれど、最初のコントロール状態に入っているときは、二人とも目をつぶっているでしょ、集中するために。」
春菜はその考えにそう答える。
「そうですねー。」
「それなら、モニタで表示されていても、まったく意味が無いじゃない?」
「うーん………。」
確かに、一度シミュレータに乗ってしまったのなら、ひとまずは起動させることが必要と
なる。現実に存在する”物”ではなく、目に見えない脳波という存在をコントロールする
には、まだ試行錯誤するばかりであった。

 訓練とはいうものの、思春期の体を持つ彼女たちに、この訓練を課すのは大きな負担となっていた。時間は待ってはくれない。それでも、ブウラカスのパイロットの訓練は、1日に2時間までと定められていた。
 学校が終わり、サイエンスにきては2時間ほどの訓練。夕食もとらず沙百合は早々に帰宅するのが日常となりつつあったが、雅は違う。積極的に、パイロットが関わる部分でのシステムの開発に、いつしか参加するようになっていた。
 春菜も雅の意見でそのうちの良い物のいくつかは採用していた。
 去年、雅が10月頃に提案していた事案の一つは、解消しつつある。現在訓練で使用しているシミュレータは、実機のコックピットと寸分も違わない。そして、そのシミュレータには、間接空調のシステムが採用された。これは、雅の出した提案が元になったものである。

 サイエンスの春菜の研究室の隣に、雅の専用の部屋が設けられたのは、そのことがあってからまもなくのことであった。

4月7日月曜日。

「今日は元気なさそうですね、どうされたのですか?」
「別に…………何でもないよ。」
「そうですか、それならよろしいのですけれど。」
雅にとっては、まだ慣れていない”同性”だけの学校の教室。なぜか、雅は朝から機嫌が悪かった。まだ、沙百合にしても、そしてクラスメイトにしても、まだ出会ってから10日も経っていない。雅の普段の様子も、そして雅からみたら他の全員の普段の様子など、まだよくはわからない。それでも、沙百合とその友達3人組は、席に座る雅のところにきていた。そのとき、不意に「そうそう、そういえば今日は身体測定だよね。」
と、衣里がいった。
「え、ええええええっっっ!!」
雅は、そのとき驚きの声を出してしまった。朝のホームルームの前、次々と登校してくる生徒の雑踏で、教室の全体にまで雅のその声は届かなかったが、それでも雅の突然の驚いた声に、何人かのクラスメイトは雅達グループのほうを注目する。そして、なんでもないとわかると、それぞれがまた元にしていたようにもどる。
「え、しらなかったの?」
今度は、明日香がいった。
“そういえば、先週ってオリエンテーションとか、クラスの委員会の人選びとか、上級生
達の部活動の勧誘会とか、そういうことしかしてなかったっけ………”
「たぶん、私たちのクラスが一番最初だと思います。」
と、沙百合がにっこりとほほえみながら言った。
「……………はぁ……………」
「はぁって、どうかしたの?」
今度は優子につっこまれ、雅は机に突っ伏してしまった。
 その姿を4人で囲む沙百合達は、不思議そうに顔を見合わせた。

 そして、その日の昼休み。学生用に用意された食堂で、5人は昼食を摂っていた。
「それにしても、雅ってまだまだだったんだねー」
「うんうん、まさかって思ったけど。」
「まだまだ、これからですわ。」
「そうそう、めげないめげない。」
口々に、言いたいことを言われている。セーラー服という制服からして、体型はわかりに
くい部分ではあった。雅のその幼い姿を思い出すかのように、4人は話していた。
「………………。」
雅は極端に赤面し、昼食に選んだナポリタンが盛られた皿を前に、右手に持つフォークの動きは止まっていた。
「ま、あんまり気にすること無いよ。大丈夫だって。」
「そうそう。ブラってきついしね。」
「明日香、それ嫌み?」
女の体になってしまってから、成長が進んだ女性の体を何度も目撃することになってはいたが、中学1年生、思春期の頃の異性のことなど、雅にとってはほとんど知るよしもなかった。このような会話が続く中、かろうじてその内容をパスすることができるようになった雅は、細々とナポリタンを口に運ぶのだった。

「……………。」
その日の夕方、サイエンスの休憩室に雅の姿があった。今日は沙百合は用事があって、沙百合はサイエンスには来ていない。雅は、角の席に一人座り、突っ伏していた。
「あら、どうしたの?」
雅が休憩室にいたのは、休憩時間だからであってそれは何でもないことである。その時、渚も休憩室にやってきた。
「あ、ああ、渚さん………。」
「どうしたの?雅ちゃん?元気ないって言ってたけど?」
「あー、いえ、何でもないです……………。」
「悩み事でもあるの?お姉さんに相談しなさいっ!」
浮かない顔をしている雅に、渚は微笑む。
「女の子って、あーなんですか?」
「………どうしたの?」
雅は、今日学校で会ったことを渚に話した。
「そっか、そうだったんだ。雅ちゃん、身体測定は初めてじゃないでしょ?」
「それはそうですけど、それは昔の事で、今は………。」
「んー、雅ちゃんは、これから成長するんだし、もっと素敵になれるわよ。まだまだこれからこれから、気にしない気にしない。」
「って、どういうことですか?」
「私は、雅ちゃんには素質があるって思ってる。いまも十分可愛いけど、これからもっと素敵な女になれるんじゃないかなー?」
「……………そうですか…………。」
「そうそう、なんならね、バストが大きくなるストレッチとか、教えてあげようか?」
「あ、それは……………遠慮しておきます……………。」
「そっか、残念。そうそう、それと体重には気をつけてね。」
「……………はい……………。」
渚の答えは、雅にとってはまるで宛もない答えではあった。それでも、自分を元気づけよ
うとしている渚の思いは感じていた。


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