特務機動部隊シュガーエンジェルス



第9話『初日 -She have to expensive to the first sentents-』

作:神川綾乃
(C)Ayano Kamikawa 2002 / studio "Horizon"


 彼女の入寮は、寮内では誰もが知っていた。今日、海軍の極秘プロジェクトに携わる重要人物が入寮することになる事を。しかし、どのような人物なのかは、知らされていなく、まさか”柏木少佐の従妹”がやってくることになろうとは、関係者以外は知る由もなかったのである。
 しかも、その”従妹”が、これから大人になろうとしている美少女だったとしたら。
 雅は、まだボストンバックと壁に掛けられた2着の洋服だけがあるという部屋で、寮母から渡された入寮規則を読んでいた。手渡される時、
「難しいことも書いてあるから、分からないことがあったら聞いてちょうだいね。」
と言われていた。小学生か中学生くらいにしか思われていないのだろう、そう言われて当然と言えば当然だが中身は大学生である。
「ふーん、なるほど。」
畳に座り壁を背もたれに雅は、正座をしていた。ワンピースのスカートのために、足の動きに制限があるのに気がついたからだった。
「基本的には男を連れ込まなければ、それなりの自由はあるってことか。って、僕は男なんだけど………本当は。」
軍隊の、しかもある程度階級の高い人の施設のためか、門限は無い。軍隊という性格上、門限などを設定していたら成り立たないからであろう。
「で、施設は………」
概要の書かれたプリントをじっと見ていた。
「これか………」
春菜が言っていたように、天然温泉がひかれた浴場がある。この二つの事は、彼女は後で知ることになるのだが、この施設を建設する以前にあった、天然温泉や様々な種類の浴槽などを売りにしたスーパー銭湯といわれたものが流行したが、その名残をそのまま使用したに過ぎない。また、建設された当初は、温泉があると言うことからか、海軍の客などを招くゲストハウスとして、短い間使用されていた事があったという。
「確かに、天然の温泉………らしい………。」
”蕁麻疹や皮膚炎などがひどい場合などは、基本的に大浴場の使用は禁止”
とある。さらに、
”大浴場での飲酒は禁止”
「………大浴場で飲酒………?」
よく分からない規則まで書いてある。
そして、一通り読んで分かったこと、それは
・男性を連れ込まないこと。
・軍関係者に対しても、この施設の存在は機密事項であること。
・基本的に門限は無いが、セキュリティーは激しく厳しい。
・個室の中は自己責任とする。個々の個室へのセキュリティーも厳しい対策。
・食堂設備があって、基本的に食事は用意されているが、前日からキャンセルできる。
・大浴場は、管理人が掃除をしている時やメンテナンス時以外は原則使用自由。
・大浴場での飲酒は禁止。
 主立った点は、このあたりである。ほかに分からないことがあったら、春菜や寮母さんに聞けばいいだろうと思った。
 時刻は、まもなく夕方になろうとしていた。

「で、雅君はいま寮ってわけ?」
「そうよ。ままだ何も無い部屋だし、暇してるかもね。」
研究棟にある事務室に、春菜と秋美。春菜は、候補者リストから最終選考をすることで悩んでいた。
「あら、三人とも、かわいいじゃない」
候補に残った3名の顔写真、経歴などの報告書、そして診断書が、春菜のデスクの上にあった。
「この資料で決めるんでしょ?面接も無しに決めろって言うんだから無茶なのよ。」
春菜は疲れたような顔をしていた。
「あら、この娘………セシリア女学院に通ってるの?」
並べられた3人の候補者と資料の中で、右側にある写真を左手の人差し指で指さして言う秋美。
「そうよ、って、まだ12歳よ………小学生なのよ。」
「小学生でも、適合者は適合者って訳ね。」
「少佐と雅君だけじゃ、駄目なのかしらね………」
「あくまで雅君の場合は例外だったでしょ。それに今のようになってしまっては、脳波の方だってどうなってるかわからないんでしょ。」
「それはそうなんだけどね………。」
春菜の心の内、それは。雅には、午前中愛想良く寮に連れて行きそして午後の今、こうして新しい候補者を選考している自分がなんとなく嫌だった。
「いくら任務(しごと)って言ってもね………」
「あなた………いい姉になれるわよ………それじゃ、行くわね。」
秋美はそう言って、春菜のデスクがある事務室から立ち去った。
「………菊正宮沙百合ね………」
春菜は呟いた。先ほど秋美がセシリア女学院に通っていると反応した少女の名前だった。

真夏の夕方も、いよいよ夜の暗さに包まれてしまおうという頃、雅の部屋の扉をノックする三人の姿があった。
「雅ちゃん、いるー?」
数秒間を置いてから、中から、可愛らしい少女の声で
「はい、どなたですか?」
と聞こえてきた。
「春菜よ、いま帰ったの。」
「春菜さんですか?」
そして、扉のロックが外れる音と、ゆっくりと部屋の中に向かって開く扉。身長が低くなって、すこし上目使いの雅。そして、今のその仕草と雅の姿が相まって、
「着替えたんだ、かわいいーー!!」
「あらその姿、よく似合うってるわよ………。」
「雅君、本当に女の子になってたんですね!」
と、雅の部屋に訪れた3人は口々に言った。
「あ………あははは」
雅は、そういえば今自分が着ている服のこと、そしてこの姿になってはじめて会う片倉。
「は、春菜さんと秋美さん、それに渚さんまで………。」
「これから雅(まさ)君………じゃなかった、雅(みやび)ちゃんもここで暮らすって、さっき聞いたばっかりだったからびっくりしちゃったけど、これなら大丈夫ね!」
ひょっとしたら、春菜さん以上にある意味も喜んでいるかもしれない渚さんだった。少なくとも、僕にはそう見えた。
「あ、あの………いろいろ聞きたいこととかあるんですけど………。」
「………っとその前に、お風呂にしない?」
「え、お風呂ですか?」
「そうそう、先にお風呂よ、お風呂。」
語尾に音符”♪”が付きそうな口調で、春菜さんは妙にご機嫌。
「お風呂、いいですねー春菜さん。」
渚さんも、なんとなくご機嫌な様子。
「そうですか、じゃ………後でまた………。」
「そうね、じゃ、またね。」
というと、3人は戸を閉めそれぞれの部屋に向かったようである。
「そっか、お風呂かー。」
そして、再び僕は部屋の奥に戻ると、コミュニケータを使用して放送されているテレビ番組を投影させると、ちらほらとチャンネルを変えてゆく。
 ちょうど、夕方だったせいかニュース番組しか放送されていない。今日も、戦況を伝える内容がトップ項目だった。
「あーあ、退屈………。」
寮母さんからもらった入寮規則の資料などを読み終えてからは、何もすることが無かったので、インターネットを使ってのゲームなどをしていたけれど、それでも暇だった。徐々に薄暗くなってゆく部屋。僕は、そろそろ照明を付けようとしたとき、再び部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「あ?はい?」
「雅ちゃん、ちょっといいかな?」
春菜さんの声が、ドア越しに聞こえてきた。
「春菜さん?」
と、僕がドアを開けると、
「雅ちゃん、雅ちゃんもお風呂に行かない?」
と、いままでに見たことのないくらいにこにこした春菜さんの顔。
「え?」
「だから、お風呂よ、お風呂。雅ちゃん、どう?」
先ほど帰ってきた姿と変わらない春菜さん。上はTシャツで、下は古着調の色合いのジーンズという。ただ、左手で胸に押しつけるように抱えているそれは、着替えと思われる衣類とそして下着の類まで見えた。
「お風呂って………。」
明らかにお風呂に向かいますと言わんばかりの春菜を前に、ここに午前中に連れてこられた時の春菜の言葉を思い出す。
『2LDKのバス・トイレ付き、だけどバスは大浴場もあるわ。部屋のバスは普通のお湯だけれど、大浴場はなんと温泉なのよ。掃除もしなくていいし、昼間の掃除の時間以外は使えるから、実際はみんな大浴場を使っているわね』
「………って、まさか………」
春菜さんが言っていたその事が脳裏によぎり、僕は口を詰まらせた。
「ここ、お風呂だけは最高なのよっ!」
しかし、春菜さんには僕の言葉は聞こえていないみたいだった。
「雅ちゃん、どうしたの?」
「い、いえ、僕は結構です。」
「雅ちゃん、駄目よ。雅ちゃん、女の子になってから、もうお風呂入ってるだろうけど、女の子としての入り方、教えて貰ってないでしょ?」
「っ………!それに………僕、パジャマとかそういう服持ってないですし、だから………」
雅お風呂に行くということは、春菜さんと一緒に、いえ、さっき秋美さんと渚さんもお風呂に行くって言ってたし、あのその・・・。
「ああ、そういうこと?ここ、どこだと思ってるの?女子寮よ、女子寮。そんなの借りれば良いだけじゃない?まぁ、雅ちゃんが下着は持ってるの分かってるんだから。」
その時、秋美さんと渚さんもやってきた。僕と春菜さんがドア越しで何をしているの?という顔をしながら。二人も、着替えを抱え持っている。
「あ、渚?悪いんだけど、この娘(こ)に何か着る物を貸してあげてくれる?」
「着る物ですか?」
「うん、この娘の服、まだそんなには用意してないし。病院は病院で貸してくれたのとか着てたみたいだからよかったけど。私のと秋美のじゃ、ちょっと合わないかも知れないし、渚だったらこの娘に合いそうなの持ってるでしょ?」
「あ、わかりました。雅ちゃん、下着は?」
すんなり渚さんは、僕に着替えを貸してくれることにOKしてくれたらしい………って、何それ!でも、渚さんに”下着は?”と聞かれて、思わず顔が熱くなるのを感じてしまった。
「………も、持っています………下着の替えは………」
「雅ちゃん照れてる、かわいいー、じゃ先輩、持ってきますね。」
そう言うと、渚さんは部屋に僕に貸す着替えを取りに行ってしまった。
「という事だから、雅ちゃん」
再び、にこやかな顔を僕に向ける。そして、秋美さんもなにやら微笑んでいる。
「ああ………ははははは………」
僕の口からは、引きつった可愛い声が漏れていた。


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