特務機動部隊シュガーエンジェルス



第3話 『炎上 -they look at the "Heaven"-』

作:神川綾乃
(C)Ayano Kamikawa 2002 / studio "Horizon"


「ここは………?」
気がつくと、そこは公園だった。見覚えのある風景、彼の家のすぐそば、子供の頃に遊んだ公園だった。
「あ、あれ………柏木さん………松岡さんは??」
周りは、夕方の公園。まもなく、陽が落ちようとしている。そして、右手に、ブルゾンの生地ではない、何か紙のようなものを触れるのを感じる。
「え?何?」
視線を、ブルゾンの右ポケットに落とすと、ポケットの中からピンク色の便せんが、収まりきれずにはみ出た状態になっていた。
「便せん?」
そして、彼は、その便せんを手に取る。便せんには、何も書かれていないのを確認してから、裏を見る。
「封、されてないや。」
そして、中身を見てみると、コンサートのチケットが2枚入っていた。
「あ、え、チケット?確か、今日は予約開始の日で、まだチケットは発売されていないはず、なのに?」
しかも、前から3列目の場所だ。
「え??どういうこと?」
雅は、いったいどうしてチケットを持っているのか、よく理解することは出来なかった。記憶にないチケット2枚、しかも、それはまだ発売はされていないはずの物。そして、そのチケットを両手に持って、じっと見ているその時、北風が彼を包む。
「さ、寒いな。」
彼は、ずいぶんと寒いと感じ、チケットを便せんにしまうと、ブルゾンのポケットの中に、落ちないように入れ込んだ。
「………とりあえず、帰ろう………。」
 それから、まもなく、家に着いた雅は、すぐに自分の部屋がある2階に上がった。そして、ブルゾンのポケットから、ピンクの便せんを取り出すと、無造作に勉強机に置いた。そして、ブルゾンを脱ぐと、それをハンガーに掛け、ベットに身を投げた。
『確かに、僕は、ブウラカスとかいう、何かを見たんだ。それは、間違いのないことなんだけど。』

 その日の夜。 「起動に失敗したって、どういう事です!?」
作戦司令室に、秋美が鬼のような形相で入ってきた。
「遠隔操作の実験をした、その結果よ。」
その声は、暗い声だった。春菜は、普段は柏木が座る司令席の後ろで、両腕を組みながら立っていた。
「で、少佐はどうしたの!?」
詰め寄る妹。普段はポーカーフェイスに仕事をこなしている秋美であったが、柏木に何かが起こると、その顔は感情によって支配されていく。
「今、手当を受けているところよ。大丈夫、命には別状は無いと思うから。」
「貴方ねー。」
「やめなさいよ。ここは司令室、みんな見てるわ。」
春菜は、秋美をあくまで冷静に対応した。こういう時、春菜と秋美は、その性格を入れ替えたような部分を持っていた。
 秋美は、力を入れた両手の拳の力を、徐々に緩めていった。
「ここの医者はみんな、トップクラスよ。ICUで看てもらっているから、大丈夫だって。」
念を押すように、春菜は秋美に言う。
「そ、そう。ICUですか、わかりました。」
すると、秋美は作戦司令室を出て行った。

時間後、研究施設に併設された病院の中に、姉妹の姿はあった。
「珈琲、飲むでしょ?そこの自販機のだから、あんまり美味しくは無いけど。」
姉の春菜は、ICUの入り口で座っている、妹の秋美に、紙コップに入った珈琲を差し出す。秋美は、黙って、両手で紙コップを受け取った。そして、春菜は、秋美の隣に座る。
「それにしても、立派なものね。ここ。」
手渡された珈琲を一口含んでから、秋美は言った。
「ええ、そうね。研究してるのは、私たちのグループだけではないって話しだし。どこの誰が、ここで何やってるなんか、さっぱり分かんないわよ。」
「そうね。」
「ましてや、あんなものなんてもの作ってるから、目立っちゃってしね。プロジェクトは小さいのにさ。」
春菜は、両足を適当にのばしながら言った。
「やはり、実戦テストはここで行うの?」
「分からないけど、たぶん無理ね。今日のアレは、あくまで特例の一つ、なわけだし。いきなり核が首都に、なんてことになったら大変だしね。おかげで、報告書つくるの大変だったけど。」
「そう………大変だったわね。それにしても、心配ね。」
「少佐のこと?」
「……………。」
それっきり、秋美は口を閉ざしてしまった。
「でも、結城君っていう素材も見つけたわけだし。」
「彼、男の子でしょ?可愛い顔してたけど。」
「そうそう、それなのよ、それ。そこがね。それさえなければねー。」
春菜は、そう言うと、天井の方をみつめる。
「あれ、使えばいいんじゃない?」
「そ、それは………。」
春菜は、あれ、といわれてハッとする。しかし秋美は、姉の方は見ない。春菜の戸惑いを察したのか、秋美は話しをすり替える。
「春菜、貴方がうらやましいわ。少佐のように、貴方のことを真に信頼して、自ら女になるなんて事、普通は出来やしないわ。」
「少佐のその気持ちは、とてもありがたいの。でも怖いのよ。分かってくれる?」
「ええ。」
春菜は知っていた。妹の秋美が、柏木少佐に恋をしていた事を。そして、今の少女の姿になっても、妹は恋をし続けている。
 しかし、少佐が少女の姿になってから、女の子としての手ほどきをしているのは、春菜であった。妹の思いを気にして、少佐のことは、秋美に任せるつもりでいたのに、秋美はそれを頑なに断り続けていた。
「あのね、秋美。少佐の体は、いま、思春期を迎えようとしている女の子の状態なのよ。 」
そして、ここで一息間を置いてから、春菜は話し続ける。
「………もしね、もし、その時がきたら、秋美、貴方に任せたいの。」
「え………。」
「だって、その方がいいと思うな。もし、秋美、貴方が本当に少佐の事、好きなのなら。信頼と、恋、愛は、別の感情よ。」
その言葉に、秋美は、すぐに答えることは出来なかった。
 その時だった。突然、外から大きなサイレンの音が聞こえてきた。
「え、何、空襲警報!?」
 この夜、この戦争が始まってから4ヶ月、初めて日本本土で空襲警報が出されたことを告げる、サイレンが夜の街をけたたましく騒ぎ立てた。
「秋美、行くわよ。ここは安全だから。」
「ええ、そうね。」
二人は、作戦司令室に向かって走っていった。

「岸和田君、現在の状況は?」
「はい、IFR識別不明機が6機、首都に向かって高速で移動しているようです。小笠原諸島方面から、突然出現しました。」
「なんですって?そんな位置から?」
「はい、間違いありません。未確認機はステルス機で、超低空を飛行して接近しているようです。」
ブウラカスの実験設備用に設置された、作戦司令室。とはいっても、得られる情報は、必要最低限の物しか入ってこない。あくまで、ブウラカス専用の施設に過ぎないのだ。
「現在、空母赤城からF−3戦闘機12機と、陸軍の首都防空航空隊F−2戦闘機6機が迎撃に出たようです。米軍も、迎撃機をスクランブルさせたようです。迎撃機は、その他各基地から順次出撃しているようです」
「そう、6機。いくらステルスで来たっていっても、たかが知れてるわね。」
しかし、春菜の予想は、外れていた。決死覚悟の敵機は、とにかく日本の首都にミサイルを着弾させることを目的としていたのである。
 ほどなく、全機撃墜の報がもたらされたが、6機の不明機が放った17発の誘導弾は、首都圏の不特定のエリアの着弾し、死者・負傷者が合計100人以上出た。そのうちの1発は、鉄道施設に命中し、相当数の犠牲者が出た様相を呈していた。
 首都は、この日、68年ぶりに空襲を受けたのである。
 その衝撃が、日本全土を包むのには、わずか数分足らずであったのは、言うまでもなかった。

「こんな、ひどいことが………。」
雅は、一家揃って、報道特別番組を見ていた。先の空襲の被害の模様が、即座に報道されているのだ。
「あの空襲警報、本当だったんだ。びっくりしたよ。本当に。」
テレビは、どのチャンネルも着弾して爆破された地域からの生放送を続けている。どの場所も、消防隊や警察、そしてパニックになっている人々の姿を映し出している。
「雅、よく見ておきなさい。これが、戦争というものなんだ。」
雅の父、雅彦はそう言った。日本は、今回の大戦では出兵することはなく、ただ本土を中心に防衛体制を強化する方針を貫いてきた。日本は、アメリカの前線基地として、その大きな一翼を担っていることには間違いない事実ではあるが。
「しかし、この空襲は………日本に戦争の火を付けさせる、危険なきっかけになるかもしれないな。」
とも、雅彦は言った。その時、雅は、ハッとした。
『そうだ、柏木少佐たちは、いったい何をしていたんだろう?確か、そういう目的の物じゃなかった?』
そして、その事を、両親に話そうと、
「あのさ、お父さん、お母さん。今日僕、あの人……あ、あの………」
口に出そうとしたとき、雅の頭に激痛が走る。
「………あ、あの人………あ、頭が………」
雅は、突然の激痛に、両腕で頭を抱えて、うずくまる。
「おい、どうした、雅?」
「雅、どうしたの?」
ただごとでは無さそうな雅に、両親は座っている席を立つと、雅に近づく。
「あ、頭が………頭が………って、あれ?」
あのことを、話そうとすることを忘れると、その痛みは嘘のように消えた。
「え、え?」
「雅、大丈夫なの?」
母が、雅の顔をのぞき込む。
「う、うん、だいじょうぶ。それよりさ、今日、ある場所に………っ、い、痛い!!」
そして再び、あのことを話そうとすると、雅は同様に、激痛が頭を支配した。
「な、なに、これ………。」
頭を抱えなおして、再び苦しみだした雅を前に、両親は動揺を隠せない。
「大丈夫か、雅!」
「本当に大丈夫なの!?」
「あ、あああ………、あれ………。治ってる。」
気がつくと、雅は激痛が取れたことに気づく。
「あれ………??」
「雅、今日は早く眠りなさい、疲れてるんだろう。」
「そ、そうだね。」
雅は、両親に促され、今日はそのまま休むことにしたのであった。


【閑話休題】vol.1  さて、ついに連載を始めさせていただきました。
 作品の全体像もつかめぬまま、ただ書き始めたのはいいのですが。
 近日、簡単な設定をアップロードできればと思うのですが、何せ神川が独自に考えた戦争戦術理論が、今作品には多量に入っております。某モビルスーツが、光学式目視による近距離格闘戦をしなければならない理由となったミノ△スキー粒子のように、ブラウカスシステムもまた、独特な理論によって考えました。
 というわけで、今後もよろしくお願いいたします。


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