特務機動部隊シュガーエンジェルス



第2話(part-B) 『接触 -the first contact-』

作:神川綾乃
(C)Ayano Kamikawa 2002 / studio "Horizon"


 柏木、松岡、雅。その3人が、会議室で話し始めたその時だった。突然、施設内に大きな警戒放送が入る。
『緊急警報発令、緊急警報発令。朝鮮半島において、大陸間弾道ミサイルの発射準備を確認。S級・A級者は、至急配置位置につけ。繰り返します、緊急警報発令、緊急警報発令。朝鮮半島に置いて、大陸間弾道ミサイルの発射準備を確認。S級・A級者は、至急配置位置につけ。』
そして、けたたましいサイレン音が、地下施設全体に響き続ける。
「なんだと!?」
雅に、説明を始めようとしていた二人ではあったが、突然流れるアナウンスに、迅速に対応しなければならない。
「少佐!」
柏木と松岡は席を立つ。
「結城君、君も来るんだ!!急げ!!!」
「しかし、少佐。あれは!」
「説明するよりも、見せた方が早いだろう!行くぞ、ついてこい!」
というと、柏木と松岡は、今にも走り出しそうな勢いで、会議室を出て行く。
「あ、はい!」
一瞬、雅は何が起こったのか戸惑ったが、それでもすぐに我に戻り、彼らの後を追った。
 5分ほど、ほぼ全力で走った3人は、作戦司令室と塗装された、大きな鉄扉の前に立った。施設のどこをどのようにして通ってきたのかは、今の雅は覚えることは出来なかった。ただ、何層か、さらに地下の階層に入ったのは、階段を下ったのだから間違いは無い。
「こ、ここは………?」
雅は、そう呟く。そして、自動的にその鉄扉は開いた。
「この先は、極秘ですけど、よろしいのですか?」
「構わない、自体は一刻も争う。発射されたら、15分もしないうちに来るんだからな。」
「はい、わかりました。」
そして、3人は作戦司令室に入った。
 雅の目の前には、巨大なスクリーンが広がっていた。そのスクリーンには、日本とその周辺の地図、さらに海軍の艦隊の正確な位置情報もその地図に表示されているようだ。そして、20人近いオペレータが、忙しく端末の操作をしている。
「敵の発射は本当なの………か?」
柏木は、作戦司令室の中ではスクリーンから一番遠い位置、そして一番大きな机に腰掛けると、すぐにそう問いただした。しかし、その顔色は急変し、青ざめて脂汗をかいているようだ。声も、弱い声に変わりつつある。
「厚木からの入電です、暗号コード、マスタータイプF、間違いありません。」
「そうか………もし発射されるとして、あと何分後だ?」
「正確な時間は分かりません。厚木とのコンタクト取れました、衛星からのライブをスクリーンに回します!」
若い男性オペレータ2人が、ものすごい早さでコンソールを操作している。
「出ます!」
その時、スクリーンの右上、北海道の北部が表示されていた部分が、何かの軍事施設を上空から撮影している映像に切り替わる。
「こ、これは………スカッドミサイルの新型か?射程距離は6800km、発射されたらどこに着弾するかわからん!」
「いえ、ミサイルの弾頭タイプはアンノン(用語集 ※1参照)、スカッドに似ていますが、形状の照合結果ありません!」
「何、新型!?まさか、例のアレか?」
柏木のその言葉に、そこにいるスタッフたちは一瞬振り向く。そして、すぐに作業に戻る。
「し、新型って何ですか?」
柏木が座っている席の右後ろで、その様子を見ている雅は、松岡に質問する。
「ステルスの大陸間弾道ミサイル、核装備も可能なねっ、てとこかしら。」
「え?」
その時だった。
「私は、ブウラカスを起動する。松岡、結城君、ついてきたまえ!!」
「ブウアカスを、あれをですか、少佐。無理です!」
「しかし、発射されて、もし通常弾頭でなかったらどうするのだ!」
柏木のその顔色は、先に比べて幾分回復しているようには見えた。
「あれがあれば、最低首都圏だけは、防衛することが出来る、それは松岡、君にはわかっていることだ。」
「わかりました。」
そして、司令席を立つ柏木。
「ここの指揮は、岸和田に任せる。情報は逐次報告せよ。」
「了解しました。」
先ほど、スクリーンの映像を変更した男のオペレータが、コンソールに向かったまま答えた。
 数分後、3人は施設内のエレベータの中にいた。ここまで、急いで走ってきたのであるが、やはり柏木の体の様子は、明らかにおかしい。再び、青ざめているのである。
「柏木少佐、やはり無理なのではありませんか?」
柏木に肩を貸す、松岡は、項垂れて息を肩で吐いている柏木に、心配そうにのぞき込みながら話した。
「座ってしまえば、体は使わない。だから、大丈夫だ。」
「確かに、そうかも知れませんが………。」
「それに、あれを開発したのは、君が中心になってのことだ。一番信頼している君のことを、きっと大丈夫。」
「少佐………。」
二人のやりとりを目前にしていながら、雅は何も言い出すことは出来なかった。何かを言うことが出来る、範疇ではなかった。
「いいか、結城君。今度の戦争は、いままでの戦争とは全く違う戦争だ。情報、そしてアウトレンジの攻撃が圧倒的に有効なのだ。そして、そのアウトレンジによる攻撃から守るために開発されたのが、ブウラカスなのだ。」
傍目から見たら、今にも倒れそうな少女は、そう告げた。
「まさか、君にすべてを見せる時が今日になるとは、それは計算外だったが。」
松岡に肩を借り、青ざめた顔で雅を見上げるように柏木が言っている間に、エレベータは目的のフロアに到着したらしい。停止する重力の感覚が、3人を包む。そして、静かに、エレベータのドアは開いた。
 そこには、空に向かって伸びる、巨大なライフルと、それを支え持つ、人の腕のような形をした台座があった。全長で15mくらいにはなるだろうか。
「これが、Brain Wave Land Cannon for Stelth、我々が実験段階の兵器、ブウラカスだ。」
「こ、これが?」
太陽の直射日光を反射した、塗装されていない銀色の金属質がまぶしかった。
「まだ、たった3回の実験しか行っていない、新型の兵器よ。」
その時だった。
『緊急警報解除、緊急警報解除。S・A級勤務者は、通常体制に戻れ。繰り返す、緊急警報解除、緊急警報解除。』
「な、何だと?」
すると、ブウラカスの台座の部分についている扉が開き、中から、一人の整備兵らしき人物がやってくるのが見えた。
「どうした、解除だと?」
「はい、アメリカ海軍の部隊が、破壊に成功した模様です。巡航ミサイルの着弾、および、対象兵器の破壊を衛星で確認しました。」
その報告を聞いて、大きく息を吐いて、柏木は言った。
「そうか、そうだったか………。」
「少佐、ところで、彼は?」
「ああ、彼は。」
隣にいる、見知らぬ少年、つまり雅に、怪訝そうな顔をする整備兵。そして、その瞬間、雅は、背後から何者かに首を叩かれ、気絶した。
 雅は、この時、もう一人の松岡、秋美が背後から近寄っていることには気づかなかった。コミュニケータにより、柏木から命令を受けた秋美の姿だった。
彼女が、雅を気絶させたのである。

「ま、いいんじゃない?」
「貴方、軽いわね、相変わらず。」
「これだって、少佐の指示なんだから。」
お互いにそっくりの女性2人、つまり双子の姿が、雅の家の近くに停めた、指揮車両の中にあった。一人は、白衣を着ていない。もう一人は、灰色のスーツで決めた女性。その傍らに、雅が、まだ意識を取り戻さずにシートに寝かされている。
「結城雅君、君には悪いことしたわね。お返しとはいっては何だけど、これ、いれとくから。」
そして、二人のそっくりの女性のうち、灰色のスーツを着た姿の女性が、雅の白いブルゾンのポケットの中に、ピンク色の便せんを入れ込んだ。
「その中身は何でなのよ?」
白衣を着た女が、スーツの女に問いただす。
「コンサートのチケット。」
「コンサート?」
「ええ、彼のコミュニケータのメモリ、見たわ。そうしたら、コンサートの情報を呼び出した形跡があって。今日、チケットの予約開始日だったのよ。」
「秋美、あんたって娘(こ)は………」
コミュニケータのメモリ、それは、今や人の記憶の一部をそのまま持っているものである。
「仕方ないじゃない、機密保持の為ですもの。人のメモリなんて、勝手に読み出そうなんて、そんなこと思うわけ無いじゃない。」
「………ま、それもそうね、仕方のない事なのかしら。雅君、ごめんね………って、そのチケット、もしかして、そういうこと?」
「そう、そういうこと。」
「秋美、貴方だって、人のこと言えないじゃない?」
白衣の女が、左肘で軽く、秋美と呼ばれたスーツの女の右肘を叩いた。春菜は、秋美の気持で用意したのだと思った。しかし、秋美からは、
「春菜、貴方だって。このチケットだって、少佐の指示なんですからね。」
今度は、秋美が少々むくれながら言い返した。そして、二人は、お互いの顔を見合わせると、それぞれ、軽く笑った
「あはは、少佐もいいところあるんだ。」
白い白衣を着た、春菜がそう言うと、
「そうね、そうかも知れないわ。。」
と、スーツを着た、秋美が続いた。
「さてと、結城君、君のコミュニケータ、返すわね。」
秋美は真顔に戻って、ポシェットの中から、100円ライターと同じくらいの大きさの、黒い色をしたプラスチックケースを取り出す。そして、それを、雅のブルゾンの首の真裏の襟元の部分に入れ直す。春菜は、その様子を見ながら、
「それってさ、もしかして………。」
「ええ、さっき言ったでしょ。中身は見させてもらったって。」
「ということは………。」
春菜は、右手の人差し指と中指を、口元に当てながら言った。
「ええ、そういうこと。」
その反応に、秋美は、分かり切ったことのように、きっぱりと答えた。
「まぁ、後は、彼次第ってところね。」
「ええ。」
二人は、そういうと、気絶して静かな表情で眠り続けている、雅の顔をみつめた。


用語集
【アンノン】※1
 英単語、unknown(未確認)アンノウンの日本語略


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