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RAINY
〜前編〜

作:いちろう

 
 

 6月6日沖縄・・・・。

 『ドーーーーーーーン!!!!!』

 その日の午前二時・・・那覇市内は突然の爆音に包まれた。

 原因は町外れにある那覇国立生物学研究所の大爆発・・・・。研究所内に残っていた小笠原所長など十数名の命が失われた。

 そう・・・この事件が、後の世界中を巻き込んだ大混乱の引き金となったのだ・・・。

 
 

 6月6日午前四時、福岡市内

 市内にある福岡国立生物学研究所から一人の若い男が出てきた。

 この男の名は前田誠司。この研究所の所長をやっている。

 前田の元に小笠原の訃報が届いたのは前田が徹夜で疲れてウトウトしていた午前五時のことだった。

 「まさか、あいつが・・・・・」

 前田はまだその事実が信じられなかった。小笠原とは九州大学の同級生で、同じ生物学部で勉強していた。親友だった。

 そして、いつか賞をとる位の大物のなって会おうと卒業の時に約束をして別れた。しかし、その夢は絶たれた。不運な事故によって・・・。

 そのため、前田は早く研究所を出て、通夜のため福岡空港に向かっていた。

 周りの景色はいつもと同じだったが、空は今の前田の気持ちを表しているように厚い雲に包まれていた。

 天気予報では今日から梅雨入りと言っていた。

 
 

 「あっ・・・・雨!?」

 前田が空港に向かって歩いている途中、頬に冷たい物が触った。

 前田はすぐにカバンから傘を取り出した。テレビの天気予報を見て、折り畳み傘を持ってきていたのだ。

 傘を開くと、前田は再び歩き出した。周りでは傘を持っていなかった帰宅途中の中学生やサラリーマンが足早に帰路いついていた。

 前田はバス停に着くと、傘を閉じ、椅子に座ってタバコを取り出した。

 「うわぁぁぁぁぁぁーーーー!!!!」

 しかし、タバコに火をつけようとしたとき、後ろから物凄い悲鳴が聞こえた。

 見ると中学生の少年が道で倒れている。

 前田は再び傘をさすと、少年に近寄った。

 「おい、どうした!大丈夫か?」

 「う・・・・・か、体が熱い・・・・」

 「え!?」

 その瞬間、前田は信じられない物を見た。

 少年の体がどんどん変化しているのだ。

 まず、髪が肉眼で確認できるほど物凄い速さで伸び、それと同時に腰はくびれていき、腕はどんどんほそくなって胸には小さいがふくらみが出てきた。それだけでなく、苦しむ声がだんだん高い、女性のようなものになっているのだ。

 「そ、そんなバカな・・・・!」

 少年・・・いや、もう少女と呼ぶべきであろう、先ほどまでの筋肉質な体はすっかりなくどこからみても10代の少女の姿がそこにあった。

 変化が終わると同時に、少女は力尽きて倒れこんだ。

 「だ、誰か救急車・・!」

 「キャアアアアアアア!!!」

 前田が叫ぼうとしたその時、近くからまた悲鳴が聞こえてきた。

 その悲鳴は道路をはさんだ反対側にいる女性のものだった。その隣には女性の恋人と思われる男性がこの中学生と同じように苦しんでいた。

 しかし、それだけではない。周りを見ると、何人もの男性が同じように苦しんでいる。しかもこの中学生と同じように変化が始まっている。

 「ど、どういうことなんだ・・・・・」

 前田はただ立ちすくむしかなかった。

 数分後、救急車が多数到着し、周りは騒然とした雰囲気に包まれた。

 
 

 数時間後、前田は市内の総合病院にいた。さきほどの中学生の付き添いとして、救急車に乗っていたのだ。

 中学生の生徒手帳から名前は佐藤孝一といった。家にも連絡したところ、両親もすぐに駆けつけた。

 「そ、そんな・・・・・孝一が・・・・!?」

 母親はまだ意識が無い孝一の体を見るなり、病室に座り込んでしまった。父親も下を向いている。

 前田はそんな両親の姿を確認すると病室を後にした。もう自分はいない方がいいと悟ったのだ。

 「あなたが前田さんですね。」

 「!?」

 病室を出ると、突然近くにいた30代と思われる男に声を掛けられた。その横には警官が一人いる。

 「ええ、そうですけど。」

 「わたしは福岡県警の田村というものです。」

 田村といった男は警察手帳を取り出しながら言った。

 「生物学の権威のあなたが事件を目撃していたと聞きまして、お話をうかがいたいのですが。」

 「ええ、わかりました。」

 「ありがとうございます。ちょっと場所を変えましょうか。」

 
 

 「えっ!?ここだけじゃないんですか?」

 自動販売機の近くに二人は座ると、田村はわかっている範囲のことを話した。

 「ええ・・・県内だけで被害者は300人以上・・・長崎、佐賀、山口でも報告されています。病院がたりなくて他の県に搬送されている人もいるくらいですよ。」

 「そんなにですか・・・」

 前田は飲んでいた缶コーヒーを置いた。

 「あの・・・専門家から見て、毒ガスということは考えられませんでしょうか?」

 「詳しく調べてみないとわかりませんがそれは無いと思います。あそこにいた全員が被害を受けているわけではありませんし、第一、一瞬で男性が女性に変わってしまうものなんて聞いたことありませんよ。」

 前田は少し笑いながら答えた。

 「なるほど・・・」

 田村は前田の意見を懸命にメモしている。

 「でも、なんらかの化学物質が関わっているのは間違いないでしょうね。」

 前田は考えたが、今までにそんな物質があるというのは聞いたことが無い。その前にどうしていきなりこんなことが起こってしまったのだろうか。小笠原の通夜にもいけなくなってしまった。

 何も思いつかないままただ時間だけが過ぎていく。

 前田はふと外を見た。

 外では雨が本格的に降り、雷もなっていた。

 しかし、雷鳴が響いた瞬間、前田の脳裏に一つの考えが浮かんだ。

 「・・・・!?そうだ・・・・雨!」

 「え!?」

 いきなりの言葉に田村は驚いた様子だった。

 「雨ですよ!雨が降り出した直後に事件が起こったんです!」

 「本当ですか!?」

 田村はメモ帳に勢いよくペンを滑らせた。

 「すみませんが気象庁から四時ごろの天気図がわからないか聞いてきてくれませんか?」

 「わかりました!」

 そう言い残すと田村は勢いよく、部屋を出て行った。

 
 

 「わかりましたよ!」

 数十分後、田村は興奮した面持ちで戻って来た。

 「前田さんの言った通り午後四時ごろは福岡から長崎にかけて梅雨前線がのびています。」

 「そうですか!でも、まだ雨が原因だとはわかりませんよ。」

 プルルルル・・・・プルルルル

 その時、田村の携帯が鳴った。

 「ちょっと失礼!」

 そう言うと、携帯で話し出した。

 「・・・・・・そうですか。わかりました。すぐに向かいます。」

 少し話があった後、田村はすぐに携帯を切った。

 「何の電話ですか?」

 「福岡県警から連絡があって東京で大臣達を交えた緊急対策会議があるので行ってほしいと・・・」

 「そうですか、頑張ってきてください。」

 「ありがとうございます。今まで付き合ってもらってすいませんでした。」

 田村は深深と頭を下げたが、突然思いついたように顔をあげた。

 「そうだ、前田さん!私と一緒に行きませんか?」

 前田は突然の田村の一言におどろいたが、すぐに「結構ですよ。」と断った。

 「そうですか・・・わかりました。それでは私は失礼します。」

 田村は再び頭を下げると、部屋を後にした。

 
 

 前田が病院を出る時、雨はますます激しさを増していた。

 周りではまだ、救急車のサイレンが多く聞こえる。

 「そうだ・・・!?」

 前田はふと思いつくと、ポケットに入れてあったカメラのフィルムケースを取り出した。雨水を回収しようと考えたのだ。

 ケースの半分ほどまで雨水を入れると、前田はしっかりと蓋をした。

 そして、近くにいたタクシーに乗り込むと研究所に向かった。

 
 

 午後九時、羽田空港

 田村は空港に降り立つと、足早に国会議事堂を目指した。

 東京は晴れ渡っていて、満天の星が夜空に輝いていた。自分の故郷であんな事件が起こっているなんて嘘のようである。

 国会議事堂に到着すると、田村は急いで会議場にむかった。

 会議場の扉を開けると、中では他の全ての出席者が着席していた。

 「すみません。雨のために飛行機が遅れてしまいました。」

 田村は一言言うと、空いている自分の椅子に座った。

 周りには総理大臣や各種大臣、官房長官や大学の教授などが集まっていた。さすがに田村も緊張してしまう。

 「それではこれより緊急対策会議を開きたいと思います。」

 司会がそう言うと、全員が礼をした。

 「それではまず、事件の報告を福岡県警の田村亮警視から報告してもらいます。」

 田村は緊張していたが一つ咳払いをすると立ち上がり、報告書を読みはじめた。

 「この事件は今日の午後未明、九州地方を中心とした福岡、佐賀、長崎、山口などで歩行中の男性が次々に女性に性転換したというものです。被害者は福岡県内でわかっているだけでも500人以上・・・まだまだ増えることが予想されます。原因は全くわかっていません。」

 田村は報告書を読み上げると席に座った。

 「ありがとうございました。それでは原因についての推測を東京国立生物学研究所の鈴木賢治所長にしてもらいます。」

 鈴木と呼ばれた20代の男は立ち上がると、報告書を読み始めた。

 「原因は田村警視の言った通り、詳しく調べてみなければわかりませんがいきなり性転換するということは考えられませんので何らかの化学物質が関係していると推測されます。しかも、この事件では女性には全く被害がありませんので男性のみに作用があるものと考えられます。しかし皆さんもご存知の通り一瞬で性転換が起こってしまう化学物質などこの世には存在しません。未知の化学物質だと思われます。他の方で何か意見はございませんか?」

 鈴木は一通り説明すると、周りをみた。

 「ちょっといいですか?」

 その時、田村が手を上げた。

 「田村さん、どうぞ。」

 田村は司会者の言葉を確認すると、立ち上がった。

 「私は事件の直後に偶然事件を目撃した福岡国立生物学研究所の前田所長の話を伺ってきました。その話から事件は雨が関係していると思われます。」

 「雨・・・ですか!?」

 鈴木は予想外の言葉に驚いた。

 「ええそうです。前田さんの話から、事件は雨が降り出した直後に起こったということです。その後、長崎県警、佐賀県警、山口県警にも連絡したところ、目撃者の証言から確かに雨が降り出した直後に事件が起こったということが確認されました。気象庁にも確認を取っております。」

 「気象庁、どうですか?」

 司会者の言葉に気象庁の関係者は立ち上がった。

 「はい、田村さんの話どおり、事件の起こった地域には梅雨前線が停滞しています。」

 気象庁の関係者はそれだけ言うと、着席した。

 「そして、鈴木さんの話とあわせて考えますと雨になんらかの未知の化学物質が溶け込んでいて、その雨を浴びた人たちが被害にあったのではないでしょうか。」

 田村はそう言い終わると着席した。

 「なるほど・・・・」

 鈴木も着席した。

 「それでは今後の対策について官房長官からお話を伺います。」

 司会者がそう言うと、官房長官は立ち上がった。

 「田村さんや鈴木さんの話からこれから雨が予想される四国、中国、近畿、中部、北陸地方には外出禁止令をだし、各所には外出禁止を呼びかける警官を配備、どうしても必要な水道、電気関係は雨に濡れない服装で作業する事を呼びかけるべきだと思います。」

 そう言い終わると、官房長官は着席した。

 「それでは最後に総理大臣からお願いします。」

 「今回の事件で国民は不安を感じていると思われます。対策をしっかりして、混乱が起きないように努めていきましょう。」

 総理大臣が着席したのを確認すると司会者は会議の終了を告げた。

 「それでは会議は終了したいと思います。皆さんはこれから対策にあたってください。」

 会議が終わると出席していた人たちは足早に会場を後にした。これから対策にあたるのだろう。田村もこれから福岡県警に連絡しなければならない。

 「田村さん・・・でしたよね?」

 田村が会場を出ようとしたところ、後から声を掛けられた。

 田村は後ろを振り返ると、そこには鈴木が立っていた。

 「あなたはたしか・・・・」

 「ええそうです。東京国立生物学研究所の鈴木賢治です。よろしかったら少しお話を伺いたいのですが・・・?」

 「ええ・・・・いいですよ。」

 田村は『連絡』という仕事があったが情報収集もできそうなので話をすることにした。

 
 

 緊急対策会議が行われていたころ、前田は研究室で電子顕微鏡を覗いていた。

 「だめか・・・・・何にも見えない・・・・・」

 顕微鏡を覗いて早三時間・・・前田はすでに諦めかけていた。

 「所長、失礼します。」

 声とともに女性研究員の金村洋子が研究室に入ってきた。

 「どうぞ。」

 洋子はコーヒーを置いた。

 前田はコーヒーを一口飲むと、再び顕微鏡を覗いた。

 「まだみつからないのですか?」

 「うん・・・・全然ダメだ・・・・」

 前田は顕微鏡から目を離すとテレビをつけた。今日はどのチャンネルも事件のことをやっている。

 『それでは官房長官の正式報告の映像が届きましたのでご覧ください。』

 アナウンサーの言葉に前田は音声を大きくした。

 テレビでは官房長官がマイクの前に立っている。

 『え〜、それでは緊急対策会議で話し合ったことを報告します。この事件は今日の午後未明、九州地方を中心とした福岡、長崎、佐賀、山口県で歩行中の男性が次々と女性に性転換してしまったということです。現在、確認されているだけで被害者は一万人以上・・・まだまだ増加が予想されます。そのため会議で話し合ったところ、今現在原因はわかっていませんが気象庁のデータを元に雨に何らかの未知の化学物質が混入していたという見方が強まっています。つきましてはこれから梅雨前線がのびてくる中国、四国、近畿、東海、中部、北陸地方には外出禁止令を出し、被害を最小限に食い止め・・・・』

 「あ〜あ・・・・田村さん、俺の推測を言っちゃったのか・・・・」

 前田はコーヒーを飲みながら呟いた。

 「え!?あれは所長の意見なんですか?」

 洋子は驚いたように聞いた。

 「うん・・・これから会議に出席するっていう刑事さんに会ってね・・・」

 「すごいじゃないですか!これで被害が食い止められたら所長の大手柄ですね!」

 「そうだといいけどね。」

 前田はコーヒーを置くと、再び顕微鏡に目を移した。

 
 

 国会議事堂を出た後、田村と鈴木は飲み屋に入っていた。

 「え!?前田さんと知り合いなんですか?」

 「うん・・・誠司とは九州大学の同級生でね、昨日死んだ祐二と三人で一緒に研究してたんですよ。」

 鈴木はビールを一杯飲みながら答えた。

 「あの・・・祐二というのは?」

 「あ!?すいません・・・。小笠原祐二ですよ・・・那覇生物学研究所の所長の・・・」

 「え!?あの人とも知り合いだったんですか?」

 「うん・・・ほんとにいい奴だったんですよ・・・。私は大学を卒業した後、実家のある東京で研究を続けていたのであの時以来は祐二とは会ってないんですけど・・・。こんどの夏に三人で久しぶりに会うことにしていたんですよ・・・それが、あんなことになるなんて・・・」

 鈴木はコップを見つめた。

 「・・・すいません・・・嫌なこと聞いてしまって・・・」

 「気にしないでください・・・。それより、誠司は元気でしたか?」

 「ええ・・・元気だったと思いますよ。一緒に来ないかと言ったんですけど来ませんでした。」

 「でしょうね。あいつのことだから研究所に帰って顕微鏡でも覗いてますよ。」

 「「ハハハハハ・・・」」

 
 

 二人は一時間ほど会話を交わした後、店を出た。

 「お忙しい時にすいませんでした。」

 「いえいえこちらこそ貴重なお話をありがとうございました。」

 「それではお互いがんばりましょう。」

 鈴木はそう言うと、一人暗闇の中に消えていった・・・。

 
 

 夜が明け、事件2日目の朝を迎えた。
 「ん・・・・・・」

 外からの日の光が頬を照らし、前田は目を覚ました。

 自分の隣には電子顕微鏡があった。どうやらいつのまにか寝てしまったらしい。テレビもつけっ放しである。

 前田は変な寝方をして痛めた首を押さえながらカーテンを開けた。

 空は雲ひとつ無い快晴である。どうやら九州地方からは梅雨前線は離れたようだ。

 前田は一つ背伸びをするとテレビの方に目をやった。テレビでは今日も昨日の事件のことをやっている。

 『・・・・現在、わかっているだけで被害者は十万人以上・・・まだまだ増えることが予想されます。そのため、今日梅雨前線の通過が予想される広島、岡山、島根、鳥取、の中国地方4県では午前中から。兵庫、大阪、京都、滋賀、福井、岐阜、石川では午後から外出禁止令が出る予定です。では、すでに外出禁止令の出ている広島県と中継がつながっています。広島の山本さん?』

 テレビ画面は雨の降る広島県に切り替わった。

 『はい、こちら広島です。現在、外出禁止令の出ているここ広島では人通りに全く人の姿がみえません。広島電鉄の路面電車も今日は運休ということになり、道路には先ほどから外出禁止を呼びかける広島県警のパトカーが走っているだけです。広島県警では雨が完全にやんだ事を確認次第、外出禁止令を解除する方針です。以上、外出禁止令の出ている広島でした。』

 画面上では雨具を完全装備したアナウンサーが報告した。

 『広島から中継をお伝えしました。では次は午後からの発令が予定されている大阪からです。小川さん?』

 『はい、こちら大阪です。大阪ではまだ外出禁止令が発令されていないため多少人通りはありますが、いつもの通勤のサラリーマンや学生の姿は見られません。大阪府警では・・・』

 プルルルル・・・・プルルルル・・・・

 その時、部屋の電話が鳴った。

 「はい、生物学研究所です・・・・。」

 前田はすぐに受話器を取った。

 「え?・・・・佐藤さん?・・・・はいはい!?憶えてます。・・・・・え!?孝一君が目を覚ましたんですか?はい、すぐに行きます!」

 電話は昨日の中学生が目を覚ましたということだった。

 前田は上着を取ると、すぐに研究所を出た。

 
 

 三十分後、前田は総合病院に到着した。

 孝一の部屋は705号室。前田はエレベーターで七階に上がると、705号室の扉を勢いよく開けた。

 中には両親と医者と看護婦、そして女の子のパジャマを着た孝一がベットの上にいた。今見ても、昨日まで男だったとは信じられない。

 「あ!?おはようございます、前田さん。」

 初めに母親が挨拶をした。

 「どうも。おはようございます。」

 前田も挨拶を返す。

 「そちらの方は?」

 医者が聞いてきた。

 「私は福岡国立生物学研究所の前田誠司というものです。孝一君を両親が来られるまで付き添っていたんです。」

 「そうですか!あなたが前田先生でしたか。事件の解決を頑張ってください!」

 「できるかどうかはわかりませんが、出来る限りは協力するつもりです。」

 「そうですか。それでは私はこれで。」

 医者はそう言うと、看護婦とともに部屋を出て行った。

 医者が部屋を出ると、前田はベットの隣に座り、孝一に話し掛けた。

 「孝一君・・・具合はどうだい?」

 「大分いいです・・・。最初に自分の体を見たときは驚きましたけど・・・それに話すと声が違うんで違和感があります。」

 「そうだろうな。いきなり性転換するなんて考えられないもんな。」

 前田は笑いながら答えた。

 「それで、倒れる直前のことで何か聞かせてくれないかな?」

 前田はやさしく問い掛けた。

 「え〜と・・・まず僕が学校を出て少ししたら雨が降り出したんです。傘を持ってきてなかったんで走ったんですよ・・・でもその時突然体中に激痛が・・・」

 「なるほど・・・ところで雨水が口に入ったっていうことはないよね?」

 「いや・・・それは無いと思いますよ。」

 「そうか・・・ということは口からの侵入は考えられないか・・・」

 前田は少し考え込むと立ち上がった。

 「ありがとう。また来るかもしれないけど、その時はよろしくな。」

 孝一は小さくうなずいた。

 「ではお父さん、お母さん、私はこれで失礼します。」

 「すいませんでした。また来てくださいね。」

 前田は「はい!」と返事をすると病室を後にした。

 「口がダメならあとは皮膚からか・・・もうすこし高度の電子顕微鏡で調べてみるか!」

 前田は急いで病院を後にした。

 
 

 そのころ東京では、鈴木が部屋で受話器を持っていた。電話の先は福岡国立生物学研究所・・・そう、親友の前田に電話をしようと考えたのだ。

 もちろん「何かわかったか?」ということである。

 しかし、さっきから何回も電話を掛けたが、誰も出てこない。それもそのはず、前田はお見舞いに行っているし、他の職員は今回の事件で「研究どころではない!」と家族が心配なため実家に帰っている。

 「くそっ!あいつ全然でてこねーじゃねーか!」

 鈴木は少し考え込んだがすぐに答えを出した。

 「こうなったら俺があいつのところへ行ってやるか!」

 鈴木はそう決めると、さっさと荷物をまとめて東京駅へ向かった。

 
 

 二人はまだ知らなかった・・・。この事件には意外な人物が関わっていたことを・・・。

 
 

 つづく


 <あとがき>

 どーも、こんにちは。カープ四連敗(6月18日現在)で元気のない『いちろう』です。

 しかし、梅雨はいやですねぇ。外に出るには傘を持っていかなくちゃいけないし、じめじめするし、野球は中止になるし・・・(泣)。皆さんのなかにも梅雨は嫌いというかたが多いことでしょう。でも、この小説のような雨だったらどうです?嬉しいと答える人が多いのではないでしょうか。

 さて、次回は中編!雨による被害は治まったものの、新たな問題が発生!そして前田は意外な人物と出会います。

 
 

※この物語はフィクションです。実在の人物、団体には一切関係ありません。

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