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バイオハザード(TS版)
作:YOKO


 眼下に見える洋館。
 全てはそこから始まり、そこで終わりを告げた。
 オレは今、仲間のヘリに乗り、この手記を書いている。
 Tウィルス・・・その恐るべき牙に囚われた今、オレの身の安全が
 どこまで保障されるか・・・それは定かではない。
 だから、記しておこうと思う。
 オレの生き方が180°変っちまったあの洋館での出来事を・・・。





 ラクーン市警に所属している特殊工作部隊(通称S.T.A.R.S.)のブラヴォーチームを
 乗せた捜索用ヘリコプターが消息を絶った。
 遭難者が相次ぐアークレイ山地、ラクーンフォレストの現地調査に出動したが、
 昨夜未明の通信を最後に連絡も途絶えちまった。
 何らかの重大なトラブルに巻き込まれた可能性が高いということで、オレ達、
 アルファチームが捜索に投入されたんだが・・・。

 オレの名はクリス、クリス=レッドフィールド。
 身長181cm、80.4kgの鋼のように鍛えた肉体がちょいと自慢の男さ。
 射撃じゃ、けっこう有名になるくらいの実力はある。
 まだ25歳と、S.T.A.R.S.の中じゃ同僚のジルと同じで、一番、若い。
 技術じゃさすがにエンリコ(副隊長)なんかにゃ適わないが、そのかわり
 体力勝負なら負けない自信があるぜ。

 ブラヴォーチームも降り立った森林地帯の中の空き地に降り立ち、荷物を
 降ろしている最中に、ドーベルマンの群に襲われたんだ。
 ヘリのパイロットのブラッドの奴が小心者根性が出たのか、とっととオレ達を置いて
 逃げちまった。慌てて荷物をまとめて威嚇射撃をしながら、遠くに見えた洋館に
 逃げ込んだんだが、辿り着いた時には、オレ以外にはウェスカー隊長、ジルの3人しか
 残っていなかった。

 古びた洋館。
 だが、手入れは行き届いていて人が住んでいる気配もある。
 オレ達は広間を探したがその時は人の気配はなく、なにかあったときは
 無線連絡を取り合う約束をして、館の中へと探索に向かった。

 その後はショッキングなシーンの連続だった。

 廊下の奥、倒れこんだS.T.A.R.S.の制服の足と、その上に圧し掛かるように
 している白衣の存在。
 ピチャピチャとやけに耳に障る音。

 窓ガラスの向こうは暗雲が垂れ込めているせいか、室内は酷く暗い。
 1歩、1歩、懐のナイフをいつでも抜けるように注意しながら、
 近付いていった俺が、あと少しで倒れこんでいる仲間の顔を
 見える距離まで来た時・・・白衣の男はゆっくりと振り向いた。

 倒れたケネス(ブラヴォーチームの偵察任務等をしている45歳の禿た頭の男)の上に
 覆い被さってた白衣の男。
 足音に気がついて振り向いた奴らの姿を見た瞬間、オレはその光景を
 見なかったことにして、そっと扉を閉めた。
 中年親爺同士の口元に繋がる唾液の橋・・・思い出すだけで
 気持ち悪い・・・夢にみそうで気が滅入る。
 ケネス、初孫が生まれたって喜んでたはずなのに、一体、何があったんだ!?

 その後に見たベランダの光景も・・・ありゃ、駄目だ・・・。
 妙に人懐っこい鴉の群に餌をやってるドレスを着たフォレスト。
 (ブラヴォーチームで主に整備を担当している30過ぎの男でワイルドな外見)
 ・・・男っぽさでは、仲間からも一目、置かれていたナイスガイが、
 鳥と戯れながら歌を口ずさむ・・・化粧が死ぬほど似合ってない・・・。
 なぜだ・・・なにが起こったんだ?

 洋館の中を彷徨く奴らも・・・ありゃ目が違ってた。
 やつらに気がつかれないように歩くのはとにかく命がけだった。
 S.T.A.R.S.の猛訓練のおかげか、何とか逃げ続けているが。
 気がつかれたらどうなっていたか・・・うぅ・・考えたくもない。
 似合わない女物の服を着た男、サイズの合わない男物の服を着た女。
 いったい、ぜんたい何がどうなってる?
 ここは変態の巣窟だったのか?
 だがオレの仲間はノーマルだったはずだ、そうだよ、バリーなんて
 バリバリの愛妻家だったじゃないか。
 ・・・他の奴らだって確かまともな交際相手がいたはずだ・・・。
 ウェスカー隊長くらいなもんだよな・・・私生活が一切不明だったのは。

 その後だ・・・巨大な蛇に襲われて、ナイフで応戦したんだが、
 噛まれちまった・・・視界がぐるぐるまわって、その後の
 記憶がない・・・。





 気がつくとそこは、見覚えのある倉庫の1室だった。
 簡易ベットにオレは寝ていたらしい。
 ふと見上げると、何故か頬を赤らめた少女が一人。
 ショートカットの髪、華奢な体格。年の頃は17、8歳か。
 ・・・たしか、ウェスカー隊長が眺めていた配属表にあった新人・・・
 レベッカ=チェンバースだったな。瞳の色が緑色とは珍しい。

「・・・ここはどこだ?」

 声をかけたが何か変だ。オレの声はこんな澄んだ高いもんじゃない。
 疲労感が酷くて、身体を動かすのも億劫だ・・・。

「クリスさん目が覚めたんですね・・・よかった・・・
 心細かったんです、仲間はみんなちりぢりになっちゃって
 私、ひとりぼっちで・・・。」

 不必要に近い距離で頬を赤らめて話すのがちと、怪しいと思ったが
 不安だったのだろう、と思い直し、抱き締めて落ち着かせようとした。

  ぷよん

「お、おぉぉ?」

 胸元に感じた得もしれぬ感触に思わず、抱き締めようとした手を離し、
 自分の胸元を見た。

  ・・・なんだこれ?

 シャツを捲って、中を覗く。
 ちょいと小ぶりだがいい形の胸じゃないか・・・って、これは
 オレの胸だろ、おい!?

  なぜか、こんな時の嫌な予感はよく当たる。

 だいたい、シャツを捲った手も小さいし、さっきから肩に当たる
 髪はなんだ? まるで女みたいじゃないか・・・お、女!?

 レベッカに後ろを向いていてもらい、確認してみたんだが・・・
 ない・・・っていうか・・・あるっていうか・・・
 そりゃないぜ、おいおい、な状態だってことがわかっちまった。

「・・・嘘だろ?」

 何となく現実を認めたくなくて、レベッカに聞いてみる・・・が、
 なぜか彼女はどことなく嬉しそうに応えた。

「落ち着いて聞いてください。」

「・・・聞きたくない。」

 レベッカの顔を見てると、なぜか不安に駆られる。
 本能が危険を感じ取っているのかもしれない。

「実は・・・」

「(ごくっ)」

「クリスさんは、Tウィルスに感染しちゃったんです♪」

 ・・・お願いだから、嬉しそうに言うのだけは止めてくれ。
 ちなみに、オレはまだ洋館の中しか彷徨いてないから、
 情報はほとんど持っていない。
 だから、”T”ウィルスとか言われても何のことだか
 全然わからなかった。

「Tウィルス?」

 レベッカはどこからともなく取り出したスクラップファイルを見せた。
 ほとんど全てのページに付箋がついている・・・。

「簡単に言うと、Tはトランスの頭文字。つまり、性転換ウィルスです。
 感染すると、徐々に身体が別の性別に変化していっちゃいます。
 その際、大量のエネルギーが消費されるせいで、怠くて、動きが
 鈍くなる、思考速度が低下する等の副作用がしばらく続くようです。
 ちなみに、若い人ほど変化スピードが速くって、脳の変化が
 追いつかないみたいですね。」

「じゃ、歳をとった奴だと・・・?」

「脳の変化が先で、肉体変化が後になるそうです。」

 オレはなんとなくだが、納得してしまった。
 館を彷徨いてた変態・・・もとい感染者達は、その・・・変化の
 最中だったんだろう。
 異性化した脳に合わせて服装を決めるから、変化途中の肉体との
 違和感が激しかった・・・そういうことなんだろう。

「奴らがオレを襲ってきたのは?」

「(ぱらぱら)・・・、変化中は、正常な性別の人がとっても
 魅力的に見える・・・ってことで、果敢にアタックしてた
 だけみたいです。」

 どうでもいいが、なぜキミはそんなに詳しいファイルをもっている?
 クリア直前データ並じゃないか、その情報は!?

「・・・オレが倒れてから何日経過した?」

「3日です。でも凄いですねぇ、蛇の毒が混じったせいでしょうか?
 こんなに早く変化が完了するなんて、記録更新ですよ、クリスさん。」

 ・・・だから、何がそんなに嬉しいんだ。

 とにかく、このままじゃどうにもならない。
 一刻も早く、まともな病院で治療してもらわなくては・・・。

 と、起きあがってみたが、服がだぼだぼで、サイズが合わない。
 ベットに寝てたせいでわからなかったんだが、小柄に見えた
 レベッカと比べてもほとんど体格に差がない。

「・・・服・・・どっかにないかな。」

 オレの質問を待っていたのか嬉しそうに鍵を取り出して見せる。

「それは?」

「クローゼットの鍵ですよ、鍵。
 さ、コスチュームチェンジをしましょ、クリスさん。」

 確かクリアしないと手に入らないアイテムじゃなかったか?
 それって。

「細かい事は気にしない、気にしない。
 さ、行きましょ。」

 オレは腑に落ちないことが多かったが、サイズが合わない服を
 来ていても仕方がないので、荷物を持ってレベッカの後に
 ついていこうとした。

  お、重い・・・。

「駄目ですよ、クリスさん。
 アイテム欄の限界を超えて持ったら動けませんよ?」

  オレは自分のアイテム欄を見た。
 ・・・なぜか、4つしか欄がない。

 ちなみに身体変化の悪影響なのか、コンディションも黄色の警告状態だ。

「身体がちっちゃくなったのに、前と同じように持てるわけが
 ないですよ、え? 4つは少ない? もう、そんな細かいこと
 きにしちゃ駄目です。」

 ズルズルと引きずられるようにオレはクローゼットまで
 連れて行かれた。広い部屋に山ほど服が並んでいるんだが、
 どうにも、サイズが今のオレには全然、合わないようだ。
 ・・・結局、今のオレの体格に合う服はサイズフリーの
 エプロンドレスしかなかった。

  するするする〜(着替え中)

 大鏡に自分の姿を映してみたが・・・元のオレを示す特徴なんて
 ほとんどなかった。どっちかというとハイスクールにいたころの
 クレア(オレの妹)に似てる・・・か。

 レベッカに揃えてもらった髪は、急激な変化の影響か、背中まで
 伸びて柔らかな雰囲気だ。華奢な手足、少女っぽい成熟しきる前の
 体型、やけに似合うエプロンドレス・・・。

  可愛いじゃないか・・・。

 などと、鏡に映った姿に見とれてたせいで、レベッカが肩に置いた
 手に少しずつ力が篭もっていくのにも気がつくのが遅れた。

「可愛い・・・可愛い、クリスさん、めっちゃ可愛いですぅ。
 なのにどことなく無防備な男の子っぽい仕草が、とっても
 素敵な雰囲気を醸し出してくれてる〜。
 ・・・もう駄目・・・我慢の限界なんです・・・
 ごめんなさい♪」

 疲労感のせいでぜんぜんまともに動けないオレを組み敷いて
 妖しい視線で全身を舐めるようにみて、うっとりとしている。
 瞳が不必要に輝いているのは気のせいか?

「ま、まて、・・・まさか、お前・・・」

「失礼ですね、私だって”元”はノーマルだったんです。
 でも、ここで生きるために無謀な行動を繰り返した結果・・・
 私も感染しちゃたんです・・・”G”ウィルスに。」

 レベッカと一緒に館内を歩いているとき、なぜか
 1人も近付いてくるモノはいなかった。
 本能的に悟っていたのだろうか? 彼女が既に
 別世界に足を踏み入れていたことに。

「まさか・・・その”G”って・・・」

「”ゲイ”の”G”。つまり・・・同性の子がとってもとっても
 魅力的に見えるんです〜・・・ってわけで、
 いっただきまーす♪」

「ま、まって・・・あっ・・・やめっ・・・」

 ・・・その後、何があったのかは語りたくない。
 レベッカの好意(強制)で究極ハーブ(緑ハーブ+赤ハーブ+青ハーブで
 合成される体力フル回復+毒消し効果のある回復薬の決定版)を2つも
 使わされた・・・レベッカ・・・キミ・・・中ボス並にタフだね。

 ・・・ともかく、すっかり、満足そうな表情になったレベッカと共に
 館の地下にあるという秘密研究所に向かっていくことになった。
  ※そこに行けばこの洋館の脱出手段があるので。
 ふにゃふにゃ状態のオレは半分、引きずられてたんだが。

「誰も近付いてこないなんて、楽でいいですね、クリスさん。」

「・・・そりゃ、誰もノーマルな世界からカミングアウトしたい
 なんて・・・」

 オレの言葉に、レベッカの瞳が妖しく反応するのを見て、
 それ以上、話すのを止める。

「そんな怯えた表情をしなくてもいいじゃないですかぁ?
 ・・・後でちゃーんとお相手、しますから、ね?」

「遠慮したい・・・って言っても駄目・・・?」

 嬉しそうにエプロンドレスを着てるオレを引きずり歩くレベッカが、
 最深部の一室に入ろうとしたとき、後ろから撃鉄をあげる音が聞こえた。

 振り返ると、銃を構えた男・・・サングラスを常につけている
 オールバックの髪が特徴の我らが隊長、ウェスカーだ。

「こんな所まで入り込んでくるとは、な。
 さすがS.T.A.R.S.といった・・・って、お前、誰だ?」

「クリスだよ、こんなナリじゃわからないだろうけど。
 ・・・それにしてもあんた、妙な研究をしてたんだな。
 何のタメにこんなことをしてたんだ?」

 ※レベッカに見せてもらったファイルによると、我等が隊長は
  T、Gウィルスの研究をやっていたらしい。

「・・・そうか。惜しい男を亡くした・・・。
 まぁいい。お前達に最高の私の作品を見せてやろう。
 そうすれば、ここでの出来事を口外する気も失せる。」

 なぜ、そこで本人を前に”亡くした”と強調する!?
 それに”惜しい”と言われた瞬間、走った悪寒は一体なんだ?
 ウェスカーは銃で俺達を脅し、室内へと歩みを進める。

「見たまえ、これが私の作品・・・タイラントだ。
 こいつさえいれば、世界が獲れる・・・。」

 奴が指し示した円筒形の透明なカプセルの中に、身長2m近くある
 巨漢といっていい全裸の男が目を閉じて浮いていた。

 確かに美形な気はするが、どこをどう考えれば、「世界が獲れる」
 のだろうか? 満足そうな笑みを浮かべるウェスカーの考えが
 オレには理解できなかった。

「まさかそのために仲間を犠牲にしたというのか!?」

 どうでもいいが、今のオレの声じゃ、こういう台詞を言っても
 緊迫感に欠けるらしい。
 背後からオレを抱き締め、頭を撫で撫でしているレベッカの
 態度もそれを冗長している。

「きゃんきゃん騒ぐな、耳障りな声だ。
 そうだ・・・私のタイラントが完成した今、もはやこの研究所も
 煩く嗅ぎ回る君達も邪魔だ。
 ・・・そこで全てを闇に葬ることに決めたのだ。」

 オレの耳元で「クリスさんの声は可愛いもん」とレベッカが
 頬を膨らませたが、とりあえず無視して話を続けることにする。

「・・・こいつで世界を? どこかおかしいんじゃないか?
 ただのでかい男じゃないか。」

「甘いマスク、頑健且つ無駄のない肉体、疲れ知らずの(ピッー)。
 どこをとっても超一級品だというのにその素晴らしさが
 理解できないとは・・・まぁ、いい。
 さぁ、タイラントよ、自らその実力をこの小娘達に
 教えてやるのだ!」

  まさかウェスカー・・・

 オレは目の前にいるウェスカーに、なぜかレベッカと同じものを
 感じて後退った。横を見るとレベッカがブツブツと文句を言ってる。

「・・・不潔、男同士なんて・・・」

 オレはレベッカからも一歩、後退った。
 どうも、彼女の基準では、ウェスカーのタイラントを見る目は
 十分、犯罪行為レベルらしい。

 ガン、ガン、ガン、ガシャッ

 アホな会話をしているうちに、カプセル内の液体が抜かれ、
 タイラントと呼ばれた男が室内に降り立った。

「・・・。」

 満足そうにその肉体を眺めていたウェスカーだったが、周囲を
 眺めたまま、彼の望んだように活動しようとしないタイラントに
 徐々に焦り始める。

「どうしたんだ? タイラント、私の言うことが聞けないのか!?」

「・・・。」

 ブンッ ガシャッン

 無造作にタイラントがウェスカーを払いのけ、ウェスカーは
 5mほど吹き飛ばされ、貯水槽に叩き付けられると、
 力無く崩れ落ちた。
 サングラスが弾き飛ばされ、一瞬見えた奴の瞳の色は緑色だった。
 ・・・やっぱ感染してたんか、あんたも。

 タイラントの視線がオレを捉え・・・なぜか奴は控え目とも言える
 笑みを浮かべた。タイラントが戦闘態勢(なにが?)になり、
 近付いてくる。

「レベッカ、逃げろ!」

 レベッカだけでも逃がそうと声をかける。

「え? 逃げる?・・・・・・(ぽん)。
 クリスさん、・・・好意に甘えて後は任せます。
 私、アレを見てるだけで鳥肌がたっちゃって、駄目なんです。
 んじゃ、ごゆっくり〜。」 

 彼女はどこからか取り出したロケットランチャー(∞仕様)を構えていたが、
 オレの呼びかけに、照れくさそうにそれを降ろすと、すちゃっ、と
 爽やかに笑顔を向けて、ドアの向こうへと去っていった。

  なぜ、それを持ってるんだ、キミわ?

 既に戦闘態勢のタイラント。臍まで反り上がった奴の(バキューン)。
 そりゃ、オレだって見たくないけど、さ。





 疲労感が抜けないオレがタイラントから逃れられる訳もない。
 戦闘態勢なタイラントはそのまま、行動に移ろうとした。

「ま、まって、STOP!」

「?」

「オレもまだ死にたくないし、ほら、な、サイズが違い過ぎるって
 もんだよ・・・わかるだろ? 怪我するだけだし、きっと、
 そっちも寝覚めが悪くなる、そうだろ?」

 とにかく必死にオレは奴を説得しようとがんばった。
 レベッカには効果的だった涙で瞳を潤ませて甘い声でお願いするのだって
 なんだって。だってやっぱ、イヤに決まってるじゃないか。
 タイラントの、オレのよりよっぽどでかかったんだぜ?

  ヒョイ

「ちょっと、どこにつれてく気だよ!?」

 なぜか、お姫様抱っこ状態にして、洋館は元より、別館も地下研究所も
 ずんずんタイラントは歩いていくと、所々にあるハーブを集め始めた。
 お楽しみ中(?)なカップルの寝室にまで押し入り、ハーブを奪い取る
 姿は正にタイラント(暴君)の名に相応しい自己中心的態度。
 だが、それが至極当然の権利と言わんばかりに堂々としていて、
 まったく違和感がない。当然の権利を当然のように行使しているだけ。
 される側もそれを拒絶することはできず、ただ彼に従うのみ。

 集めたハーブを混ぜ合わせて、究極ハーブを作るとタイラントは
 それを全てオレに笑顔で差し出した。

「怪我したら使えばいいって?」

 オレの問いに、満ち足りた表情で笑みを浮かべるタイラント。
 だ・か・ら、その爽やかな顔と、さっきから背中に当たってる
 (ピーポーピーポー)のギャップが激し過ぎるのは止めてくれ〜。
 ・・・いや、下半身に合わせて顔も変わったらもっとイヤだけど。

 時折、遠くから見るTウィルスに感染した奴らの猛禽類のような
 視線に寒気を感じて身を竦めると、タイラントはオレを護るように
 抱き締めて、鋭い眼光で奴らを追い払う。

 ・・・ちょっと格好いいかもしんない。

 表情に出ていたのか、オレに魅力的な笑みを浮かべる。
 けど、そんな勘違いも、ベットルームが見えてきた時点で一気に
 醒めた。

「やっぱ、パス、モノには限度ってもんがある、そうだろ?」

 じたばたと無駄な抵抗をすると、悲しげな瞳でオレを見る。
 そ、その目は止めてくれよぉ、なんか罪悪感が湧くじゃないか。

「あの、な、キミのことが嫌いって訳じゃないんだ。
 そんな顔するなっ、まるでオレが悪いことしているみたい
 じゃないか。」

 なぜか「嫌いじゃない」の言葉に笑みを浮かべると、
 喜び勇んで、オレの服を器用に脱がせていく。
 どーして、力が入らないんだ〜。
 Tウィルスの影響で倦怠感がどうしても抜けない。

 巨体に似合わない繊細な手付きで抱き締めて、耳元を甘噛みされて
 思わず、身体がピクッと引きつる。
 それが面白いのか、どんどん大胆になっていくタイラント。

「い、やだ・・・やめろって・・・」

 本人の意思とは関係なく、自分でも自覚するほど甘い声が零れる。
 やっぱり、さっきレベッカに延々と玩具にされたのが効いてるようで、
 身体を触れられるたびにその時のことを思い出してしまって
 過剰に反応してしまう。

 結果はご想像の通り。究極ハーブ4つを使い切ったおかげか、全てが
 終わった後もオレは生きてた。さすがボスキャラ。レベッカとは
 比較にならないタフさだった・・・。
 ま、なぜか、今のオレは肌は艶々してるし、気分も悪くない。
 逆に、タイラントのほうはなんとなくげっそりしているけど、
 表情は満ち足りてるようだ。
 文句があるなんて言ったら、ショットガンで頭をシェイクしてやるけど。

 部屋を出ると、コンバットマグナム(∞仕様)を構えて暇そうにしていた
 レベッカが出迎えてくれた。
 所々に返り血があるが、何をしていたんだろうか。

「・・・レベッカ、その血は・・・」

「二人がお楽しみの間に、発電施設の自爆を計ろうとしてた
 変態がいたんで、ちょっとお仕置きしてただけです。」

「お楽しみって・・・」

 タイラントに抱えられて胸元に頭を寄せていても
 説得力がないかもしんない。
 仕方ないじゃないか・・・うまく立てないんだから。

  フッ

 レベッカの言葉にタイラントは勝者の笑みを浮かべ、
 抱いていた腕に少しだけ力を込める。

「うぅぅぅ、1回や2回やったくらいで、いい気になってんじゃないです。
 クリスちゃんは、”私のモノ”なんだから。
 ・・・ね?」

 あの・・・1回や2回どころじゃなくって・・・って
 それを言ったら、キミだって似たようなもんじゃないか!?
 しかも、いつのまにか「さん」から「ちゃん」に変わってる〜。

  タイラントに弱いレベッカ。
  レベッカに(も)弱いオレ。
  オレにいろんな意味で優しいタイラント。

 オレとどっちか1人になると、必ず餌食にされる
 困った三竦み状態が続いていたが、外から、ヘリの
 ホバリングの音と共に、スピーカーが煩い音を立てて
 中庭のヘリポートに着陸することを伝えてくれたおかげで
 その場は、うやむやのうちに収まった。

 そうそう、タイラントにあった服がないから、シーツを
 古代ローマのトーガのように巻き付けて、着せている。
 甘いマスクと引き締まった肉体のおかげか、そのままでいれば
 かっこいい奴なんだけど・・・。





 洋館を後にオレ達を載せたヘリは帰路についた。
 別行動していたバリーが遠い隅の席で家族の写真を見ながら
「やっと帰れるぞ、お前達の元へ」などと逃避行動をしている。

  なぜかって?

 オレの目の前では、緑色の瞳のジル(同僚の理知的な印象のある
 女性)が、猛禽類の目つきでさっきからオレを見ているからだ。
 危険を察知したレベッカが間に入り込んで牽制を続けているが
 いつまで持つことやら。
 ・・・ちなみに、”G”ウィルス感染者同士は食指が動かない
 んだそうだ・・・残念なことに。

 で、オレは甘いマスクの大男タイラントの膝の上に乗って
 苦笑している。

 合流した仲間達と話し合ったんだが、そもそもタイラントは
 そのコードネームが示す通り、本来は誰かの指示を受けて
 行動するほど従順じゃないらしい。
 オレの言うことを聞いて行動しているのは奇跡って話だ。
 彼を放置することなど論外である以上、オレとセットで動かなくちゃいけないが、
 あの変態の巣窟となった洋館にいたら、今のオレじゃ、
 あっという間に餌食になりかねない、ということで、
 全員の意見が一致した。
 結局、洋館で保護した成人男性ってことで連れ帰ることにしたんだ。
 言葉はしゃべれないけど、彼は十分、賢かったし。

「ねぇ、クリス〜。」

 オレが報告書代わりにメモを書いていたが安息の時間は終わったようだ。
 ジルの今まで聞いたこともないような甘い誘惑の声が絡み付いてきた。

「クリスってばぁ、お姉さんとちょっと遊びましょうよ。
 今なら明朗会計、後腐れなしの特典付きよ♪」

「キミは恋人がいただろ? 机の上に写真まで飾ってた癖に。」

「それはそれ、これはこれよ♪」

「二股なんて不誠実ですぅ、私はクリスちゃん一筋!
 ね、クリスちゃん、私のほうがいいでしょう。」

 そんな一筋って力説されても。

「・・・(フッ)。」

 タイラントが笑みを浮かべて、目の前の二人を挑発する。
 火花を散らす3人の視線。それらが全てオレのほうに迫ってくるのも
 時間の問題だ・・・。



 なぜ、こんなことになったんだ・・・!?



 しかし、オレの空しい呟きに応える者は、残念なことに
 狭い機内の中には一人もいなかった。(END)



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