戻る



ぱられる

作:sino




 9月1日。

 けだるい新学期の始まり。
 長ったらしい始業式が終わり、生徒達は各教室に戻り、ホームルームが始まった。
 俺が暑さで机に臥せっていると、担任が何か話をして、そのあと、前の扉の開け閉めの音が聞こえた。
 誰かが入ってきた。
 転入生を紹介しているようだ。……公立だが、進学校でもあるこの学校では珍しいことだ。
 隣や後ろの席から、「可愛いじゃん」とか声が聞こえるところを見ると、女子らしい。

「早乙女 優です。三つ葉女子高校からきました。ヨロシクお願いします。」

 と、綺麗な女の声が耳に入ってきた。
 サオトメ ユウ? どっかで聞いた名前だ。
 顔を上げて教壇を見ると、女の子が立っている。
 何処かで見たような気がする。
 サオトメ 早乙女 さおとめ……記憶の糸を辿っていくと、一人思いあたった。
 小学校一年のとき、入学して間もなく仲良くなった女の子が、確か「さおとめ ゆう」だった。
 彼女とは同じクラスで、たまたま通学路が同じだった事で仲良くなった。
 カード集めとか趣味が同じだったから、自然と一緒にいるようになったが、一学期が終わる頃、男女にグループが分かれ始め、男子の誰かが黒板に相合傘で俺と彼女の名前を書いてから、間が疎遠になった。
 その後、彼女とは同じクラスにはならなかった。
 情けない話、女の子と一緒に遊んだ記憶は後にも先にもあれが最後だった。
 教壇に立っている女生徒の顔を見る。たしかに彼女の面影が見える。
 同一人物か??
 中学校まで同じ学校だったはずだが、彼女の成績は、この高校に入れるものではなかったはずだ。
 三つ葉女子高校といえばそこそこのレベルである。
 そこで猛勉強でもしたのか?
 やはり彼女なのだろうか?
 そんな事を考えていると、彼女と視線が合った。
 見知った顔を見つけたように、彼女の顔が少し明るくなった。
 教室の一番後ろに机とイスが用意されていた。彼女は担任にそこに座るように指示され、歩きだした。
 視線が合ってから、彼女は俺を見つめつ続けている。
 彼女が座席に座った後、俺は後ろの席にいるクラスメートから、「オイ、お前彼女と知り合いか?」ときかれた。

「いや。……小学一年生の時のクラスメイトに同姓同名の子がいたけど、彼女かどうかはっきりしないし、特に親しくしていたわけじゃないし……」
「じゃ、お前を追っかけて来たわけじゃないのか。」
「ああ、少なくとも心当たりはない。」
「でも、さっきの視線はただ事じゃなさそうだけど。」
「俺に思い当たることはない。」
「ふーん。」

 何処か納得していないようだった。



 ホームルームが終わり、男子が彼女の席に群がったが俺には関係ない。
 俺は机のまわりに忘れ物がないか確認して、席を立とうした。
 その時、

「カズ……上杉数馬くん」

 と、呼び止められた。
 振り向くと彼女がいた。

「えっ、君 俺のこと知っているの?」
「杉谷中学校出身の上杉くんでしょう?」
「ああ、そうだけど……」
「僕も、杉谷中学校出身なんだ。」

 早乙女さんって、自分のことを「僕」って言うのか。
 俺の記憶の「さおとめ ゆう」は、たしか「わたし」と言っていたようだが。

「そうなの? という事は、小学校1年の時同じクラスだった早乙女さん?」
「うん、うん。……ところで上杉くん、これから何か用事があるの?」
「いや、特に無いけど。」
「同じ中学校のよしみで、学校を案内してもらいたいだけど?」

 彼女の席からついて来たのであろうクラスの男子生徒たちの一人が、

「上杉みたいなオタクじゃ無くて、俺が案内してあげるよ。」
「いや、俺が。」「俺が」……

 何人か立候補している。俺は彼らを指しながら、

「こういっているけど?」
「みんなには悪いけど、カズ……上杉くんにちょっと聞きたい事もあるから。出来れば二人っきりで。」

 彼女が自分の席にカバンを取りに戻っている間、さっき俺に彼女のことを聞いた男子が、

「さっき、心あたりが無いようなこといっていたけど、本当にお前を追いかけてきたわけじゃないのかよ?」
「ああ。少なくとも俺の記憶にある彼女との関係は、小学校1年の時までだよ。」

 カバンを持って彼女がやってきた。

「お待たせ。案内よろしく」
「どこから回る? 図書室? 体育館?」
「とりあえず、さっき言ったように聞きたいことがあるから、人気の無い所……そうだ屋上へ行こう。」



 学校の構造を知っているのか、彼女は何の迷いも無く屋上に上がっていく。
 俺は彼女の後に続いた。
 屋上についた時彼女は、周囲を見渡しながら、

「誰も居ないよね。」
「なあ、聞きたいことって?」
「カズ……上杉くんて、確か期末試験の後にパソコンのパワーアップ、マザーボードとCPUとメモリを買い直したよね。確かアス○ン1ギガだったけ?」
「ああ、確かにそうだけど……聞きたいことってそれか? 誰に聞いたんだそんな事? 俺の家族はそこまでは知らないし……」
「やっぱり!! 僕の思い込みじゃなかったんだ!!」

 彼女はにっこりと笑みを浮かべた。そして、

「あのサ。……パラレルワールドって分かる?」
「パラレルワールド? 多重世界……この世界とはほんの少しだけ違うところがある世界だよな。そこには俺や君のそっくりさんなんかもいて……『ドラ○もん』とかに出てくるやつだな。」
「うん。そういうものがあるって前提で聞いて欲しいんだ。」
「?」
「僕……そう、少なくとも僕の記憶では、一学期の終わりまで僕は正真正銘の『男』だったんだ。でも、ある日突然気が付いたら、女の子になって病院のベットに寝ていたんだ。」
「はぁ?」
「名前も同じ、両親も同じ、家も……でも、家族にきいたら僕はもともと女の子だったらしくて、自分は男だって言っても取り合ってくれなかった……」
「…………」
「僕は僕が男だった世界から、意識だけこっちの世界に来たらしいんだ。おかしくなったんじゃないかって思われたけど、どうやらこっちの僕は自殺しかけたらしくて、下手に思い出さない方がいいって、腫れ物に触るように扱われたんだ……」
「……それが、この俺とどう結びつくんだ?」
「これから、それを話すよ。こっちの世界でもそうだけど、僕と数馬……上杉くんとは、小学校一年生のときのクラスメイトだった。それからは同じクラスになったことなかったけど、こっちの世界とは違ってずっと友達だったんだ。少なくと僕は親友だと思っていた。」
「…………」
「こっちの世界じゃ違うけど、前の世界では中学の時、数馬と一緒に勉強をしてこの高校に受かったんだ。僕の男だったときの記憶の最後は試験休みに秋葉原に数馬……ごめん、『数馬』って呼ばせて欲しい。前の世界では、そう呼んでたから。……僕のことも、『優』ってよんでいいから。」
「うーん。男女間でいきなり名前を呼び合うのは……」
「男女間……そうか……やっぱり駄目?」
「まあ、二人だけの時はいいけど。」
「わかった。気をつける。……で、さっきの続きなんだけど。男だったときの数馬といた記憶は、僕がこっちの世界にくる前日、秋葉原にさっき言ったパソコンのパーツを一緒に買いにいったところまでなんだ。」
「それでさっき確認したんだな。」
「うん。僕がおかしくなっているのか、それとも本当に別の世界なのか。……そう、数馬と僕しか知らないことを確認できればって。」
「別世界から来た証拠になるってことか? うーん。そんなマンガみたいな……」
「…………」
「……でもそれが判ったからってどうするつもりだ。俺は一介の高校生にすぎん。高名な科学者でもマットサイエンティストでも何でもない。君を別世界に返すことなんか出来ないぞ。」
「まさか。君と会えたからって元の世界に戻れるなんて考えてないよ。……ただ、さみしかったんだ。父さんも母さんも同じだけど違う。友達も僕の知らない人たちばかりだった。だから、数馬に会うために一生懸命がんばってこの学校の編入試験受けたんだ。」
「それで、元の世界で友達だった俺の所に来たってわけか? ……ふむ。しかし、俺も君を知らない点では君の両親と同じだ。それに、君が女になったように、俺の性格が元君が居た世界の俺とは違うかもしれないぞ。」
「……うん。そうだね。そんなこと考えもしなかった。数馬に……君に会えれば、また前の世界のように過ごせるんじゃないかって、そう思って……」

 彼女は突然ボロボロ泣きだした。

「おいおい。泣くなよ。」
「ごめん。女になってから涙を抑えきれなくて。」
「俺って、お前の元居た世界ではどんなやつだった?」
「気を悪くしないでね。はっきり言ってコンピューターオタク。」
「…………」
「頭は良いけど人付き合いが苦手なタイプ。口下手。」
「なるほど。認めたくないが、そっちの俺とこっちの俺は同じタイプかも知れない。」
「まあ、僕もそんな数馬の親友だったから似たようなもんだけど。もし良ければ友達になってほしいんだけど」
「俺はそいつの代わりってわけか……? まあ、君の気がまぎれるなら、同じクラスなんだから、親友はともかく、友達からならいいんじゃないの?」


 あれからすぐに、彼女と一緒に帰った。
 学校の案内は、「向こうの世界と同じだろうから、案内されても無意味だよ。」とのことである。
 小学校が同じなのだから、当然帰る方向も同じである。
 やはり彼女の話は、本当の事なのだろうか……
 こちらの世界では俺一人だか、彼女の元居た世界では、二人で体験したイベントやアルバイトの話がでてきた。
 俺の性格が彼女の元居た世界の俺と相似しているのだろう。
 堰を切った様に話し掛ける彼女に、俺は、

「へぇ」「そうなの」「こっちじゃそれは無かったなぁ」

 と、合いの手を打つばかりだった。

「……あのさ、君は向こうの世界でもそんなにおしゃべりなの?」
「あれ? 僕こんなにおしゃべりだったかな? う〜ん、確か、向こうじゃ数馬の方がしゃべってたな〜。
 きっと数馬に合えて興奮しているんだよ。……迷惑だった?」
「別に迷惑じゃなけど。……いや、ちょっとあるTV番組のこと思い出して。」
「TV番組?」
「うん。男と女の脳の違い。男は結論に向けて会話をするんだけど、女は会話を楽しむって言ってたから」
「?」
「こっちに来て性格変わってない?」
「別に自覚してないけど。転入試験のことで家族以外とろくに話していないし……」
「ふむ」

 彼女の言うことは本当の可能性が高いが、彼女は女なんだ。その行動は女性を感じさせる。
 彼女は俺に男同士の親友の関係を望んでいるのだろうが、人付き合いの苦手な俺にそんな器用なまねが出来るだろうか?
 しばらくして、彼女が、

「そう言えば、数馬って彼女いるの? 向こうじゃいなかったから……てっきり」
「……いや、いないけど。」
「好きな女の子は?」
「それも、特には。」
「よかった。」
「何が?」
「さっきの話って、僕が『女』だってことだろう? 数馬に親しい女性がいるってこと全然考えていなかったから。それを壊してしまうのが怖かったから。」
「…………」
「やっぱり、数馬には迷惑なんだよね。」
「いや、そんなことは……」

 しばらく気まずい空気が流れた。

「俺、女の子と付き合ったことないから。……君の求めているのは男同士の友情だろう? でも、俺から見れば君は『女』なんだよ。」
「!」
「さっき話していて判ったよ。趣味も合う、俺のことを理解してくれる。俺にすれば君は理想的な女なんだ。ただでさえ人付き合いが苦手なのに、二人の求めるものが違っていると……その、怖くなって……」
「僕が?」
「違う。君との関係がだ。……ちょっと時間ある? そこの公園で話をしよう。」

 俺と彼女は、自宅の近くの児童公園に入っていった。
 しばらく彼女と俺は黙ったままだった。
 緊張に耐え切れず、俺が話し出した。

「あのさ、ごめん。会ったばかりでこんな話してしまって。忘れてくれていいよ。」
「…………」
「とりあえずさぁ……」

 俺がそう言いかけたとき、彼女は真剣なまなざしで俺を見つめてきた。

「うれしいよ。数馬が真剣に考えてくれて。……でも、僕の方は考えが足りなかった。あの学校に転入できれば、数馬と会えればいいって考えてた。だから二人の関係が数馬の望むものになってもいい。……けど、その関係に進む前に、これだけは知ってほしい。」
「なっ、何?」
「こっちの世界の僕、優のことだ。屋上で彼女は自殺しかけたって言ったよね。」
「ああ。」
「彼女は付き合っていた男とその仲間にレイプされたらしいんだ。」
「……!」
「本当のところはわからない。僕は彼女の記憶を引き継いでいなし、彼女の友達も父さん母さんもそのことに触れないから。」
「…………」
「……おかげで父さん母さんも一見無謀な転入試験を受けさせてくれたし、その付き合っていた男を追い払ってくれた。ただ、この身体はその男以前に、中学の時から男女の関係を経験しているらしいんだ。」
「……!!」
「僕は数馬のことよく知っているつもりだから、いずれはこの話するつもりだったけど……再会して2時間で話すことになるとは思わなかった。」
「……それはこっちの『早乙女さん』のことだろう。君自体はそんな経験をした記憶はないんだろ?」
「ああ。」
「まあ仮に経験していても関係ないけどね。……でも、正直に話してくれて良かった。」
「数馬……」
「これでこの話はなし。屋上で話したように、友達から始めていこう。」
「うん。」

 そうして、俺と彼女は友達になった。



 翌朝。

 じりりりり……

 頭の上で目覚まし時計の音が響く。
 俺はベッドから身を起こし、風呂場に向かった。
 まあ、趣味がパソコンである上、夏休みの生活パターンが身に付いている為、寝起きは最悪だ。
 いつもより10分オーバーしている。
 朝の支度をしたあと、トーストの上に目玉焼きをのせ、急いでパクついているときそれは起った。

 ピンポーン。「……誰かしら?」

 お袋が玄関の扉を開けた。

「おっ、お早ようございます。数馬……くんいらっしゃいますか?」
「えっと、あなたどなた?」
「今度、数馬くんの……クラスメイトになった、早乙女 優と申します。もしよろしければ一緒に学校に行こうと思いまして。」
「数馬〜っ。早乙女さんって言うお嬢さんが迎えにいらしているわよ〜!」
「なにっ!?」

 俺は飲みこもうしたトーストを喉に詰まらせかけた。
 一緒に行く約束なんかしていなかったが……? とにかくお袋と彼女に話しこまれるとヤバイので、トーストの残りを口に詰め込み、なんとかコーヒーで流しこむ。
 俺はカバンを掴んで、急いで玄関に走っていった。

「あれ、一緒に行く約束していたっけ?」
「おはよう数馬……くん。別に約束していないけど、ここ僕の通学のコースなんだ。このままじゃ、次の電車にも間に合わないよ!」
「数馬。このお嬢さんどなた?」

 お袋が彼女の事をききたそうにしていたが、俺は腕時計で時間を確認すると、

「ヤバイ、駅まで走らないと間に合わないっ。……母さん。それ帰ってから話すから、早乙女さんとにかく急ごう!!」

 俺は急いで靴を履き、駅に向って走り出した。
 2分も走った頃、右後方に感じていた彼女の気配が消えたので振り返ると、15mほど後ろに彼女の姿があった。
 少しスピードを緩めると彼女が追いついてきた。

「ごめん……ごめん……前の世界では……数馬より……僕の方が……早いのに……」

 途切れ途切れの息を引き継ぎ、謝る彼女。カバンが重たそうだ。
 「そのカバン貸してっ」と言って彼女からカバンをひったくるように受け取ると、俺はまたスピードを上げて走り出す。
 重い荷物が無くなったせいか、彼女もどうにか走ってついてこれた。

「「はぁ、はぁ、はぁ……」」

 いつもより一本遅い電車に、何とかかけこむ。
 この電車でも始業にはギリギリ間に合う。だた、混雑するのである。

「はぁ、ごめん。はぁ、カバンもってもらってありがとう。はぁ……」

 彼女は俺からカバンを受け取ると、

「体が違うことを計算に入れていなかった。」
「でも、ビックリしたよ。突然迎えになんてくるから。」
「数馬の家って僕のうちから駅に向うコース上にあるから、この一本前の電車に合わせて前を通るんだ。そこでしばらく待ってから、今日みたいに遅い電車になるときは呼び鈴を押して休みかどうか確認していたんだけど……」
「それって、元居た世界の事?」
「うん。いつもはインターホンで休むとかどうかやり取りするんだけど、おばさんが出て来てビックリしたよ。」
「こっちの世界じゃ俺を迎えに来る奴なんかいないし、そうゆう習慣はないからな。……お袋、ビックリしてたな。女の子が俺を迎えに来たんだから。」
「ごめん。前の世界で当たり前の行動だったから、そこまで考えてなかった。」
「でも、お袋のやつ、君を俺の彼女だって勘違いしたかもな。」
「そっ、そっかな。ごめん。」
 彼女は顔を少し赤らめた。
「でも、前の世界とおばさんの性格が同じだとすると、晩ごはんなんか豪勢にして、『今日は数馬の彼女が出来たお祝いよ〜!』ってはしゃぎそう。」
「確かに。あ〜あ、お袋になんて言おう……」
「数馬の迷惑じゃなければ、彼女でも構わないけど。」
「しかしそれじゃ……」
「おばさん相手に友達ですっていってもからかわれるだけだし、変な説明をするよりか……」
「マシってことか」
「そう。それにその方が数馬の家の出入りがしやすそうだし」

 彼女が突然体をもぞもぞし始めた。
 俺が彼女の後ろに立っている男に目をやると、彼女の表情が普通に戻った。
 学校の近くの駅に電車がついて、俺たちは電車から吐き出されるようにホームにでた。
 改札を出て学校に向う道で、俺たちはなにも喋れなかった。
 彼女はうつむきながら俺の横を歩く。緊張に堪えかねて、俺は口を開いた。

「おい、あれって……」
「やっぱし痴漢かな。……初めてだよ。この体になってから夏休みに入っていたから、混雑する電車なんかに乗った事なかったもん」
「う〜ん、迎えに来てくれたのありがたいんだけど、さっきみたいな事あったらいけないから、今日みたいに俺を待たないで、一本前の電車に乗るべきだよ。」
「あ〜あ。女って大変だ。この電車使えないのは痛いな。……まあ、数馬が何時も通りに出てくれば良いんだけど」

 このときは気がつかなかったが、いくつかの視線が俺たちを見つめていた。
 学校の校門で彼女と別れて下駄箱で靴をはき直していると、

「おい、上杉。今日、早乙女さんと一緒に来なかったか?」

 後ろを振り向くと、昨日早乙女さんに話し掛けていたクラスメートがいた。

「ああ、たまたま電車が同じだったんだ。」
「ホントかよ。……それにしては、仲よさそうじゃないか。彼女、上杉のこと下の名前で呼んでたじゃないか?」
「まあ、同じ中学だったからある程度は。」

 そんな話をしていると、女子の下駄箱の方から、「ええっ?」「ホント?」などと、結構大きな声が聞こえてくる。
 何だろうと思っていると、始業のチャイムが鳴ったので、とりあえず教室に向かった。
 俺が席に着くと、ちょうど担任が入ってきた。
 担任が教卓に付く前に彼女を含む女子の一群が教室に入ってきて、小走りに席についた。
 ホームルームが始まると、俺の席の後ろのやつが話しかけてきた。

「昨日、早乙女さんを案内したんだろう。……彼女の話ってなんだったんだ?」
「同じ中学出身だから仲良くしましょうってことだけど。」
「本当か。そんな感じじゃなっかたけど……」
「ああ。」
「でも、彼女かわいいな。」
「確かに。」
「で、お前はどう言う返事をしたんだ?」
「別にいいけど、って。」

 いつのまにか、女子のグループが俺の周りを取り囲んでいた。

「今朝、下駄箱で早乙女さんと話したんだけど……彼女って、上杉君を追いかけてこの学校に編入したそうね。」
「……へっ?」

 確かに彼女の視点で考えれば、そういう表現が出来るだろう。

「……で、あなたはどう言う返事をしたのかしら?」
「友達からなら、って。」
「お前、さっきの話とえらくニュアンスが違うじゃね〜か……」

 後ろの席のやつが、そう言ってにらみつけてきた。女子たちは女子たちで、

「どう受けとる?」「あんまりはっきりしないわね〜。」
「……それって、付き合うことを前提にしてるのかしら?」

 確かに俺は彼女に惹かれているところがあるから、ここで強く否定すると事態がややこしくなりそうだ。

「まあ、それはこれから次第だろうけど……」

 女子たちは彼女の方に行って、

「早乙女さん。私達、あなたを応援するから、がんばってね!!」

 何かややこしい方向に話が進んでいるようだった。



 次の休み時間、俺は彼女を廊下に連れ出すと、人気のいない階段の下に行った。

「ごめん。数馬っ」

 手を合わせてあやまる彼女に、

「俺は別にかまわないけど、何でまたそんなこと言ったんだ?」
「話の流れで、つい……。でも、正直本当の事だし、数馬が話を合わせてくれて助かったよ。」
「まあ、な。」
「それで考えたんだけど、数馬さえよければ僕たち付き合っている事にしてほしいんだ。」
「付き合う?」
「ああ。数馬の都合が悪ければ付き合っているふりでいいんだけど。その方が二人っきりになっても別に変な勘ぐりを入れられなくていいだろう?」

 彼女の言う通り、付き合っている事にすれば、彼女のことを探られずにすむが……
 一番の問題は、俺が彼女に惹かれている事だろう。
 付き合っている「ふり」では我慢できなくなるかもしれない。俺は自分の考えを言った。

「はっきり言うよ。中途半端は精神衛生上よくない。『ふり』をするぐらいなら、正式に付き合いたい。」
「!!」

 彼女は元男だから、男と付き合うのは抵抗があるだろう。これで彼女が俺から引いても仕方がない。
 自分に正直が一番いい。
 ……しかし、彼女の返事は、

「いいよ。」
「……へっ? 早乙女さん。元男なんだろう。男と付き合うのになんの抵抗もないのか?」
「確かに、男と付き合うのは抵抗ないわけじゃないけど、数馬に対してはそんなにないんだ。……親友だし、今の僕は女なんだから、他の誰かに取られるぐらいなら、恋人にでも何でもなってやる。」
「そんなやけにならなくても……」
「やけじゃないよ。このまま女として生きるなら、いずれは男と付き合う事になるだろうって、最近思うようになってきたんだ。」
「…………」
「この体になってから最近、女の子を異性として感じなくなっているんだ。雑誌のグラビアなんか見ても特に何も感じない。そういう意味では女性化が進んでいるんだろうな。それに、数馬に合いたくて編入試験で勉強していた時、数馬の事考えると胸がキュンキュンして、数馬に抱かれる夢を見たこともある。」
「……そ、そうなのか?」
「それだけじゃない。昨日、数馬と再会してから、やっと会えたって気持ちからか妙に興奮しているんだ。……それって男同士の再会となんか微妙に違う。」
「…………」
「……今朝だって、数馬の家の前で待っているときも妙にどきどきしたし。僕が数馬に特別な感情をもち始めているってことだろう。正式に付き合ったほうが、このもやもやも解消できるかもしれない。」
「……いいのか?」
「それに僕って独占欲が結構強いんだ。彼女になって数馬を独占できるならその方がいい。……それより数馬の方こそいいのか? 僕の心は元男だし、この体は処女じゃないよ。」
「それは昨日言ったじゃないか。俺は今の早乙女さんに惹かれているんだって。」
「じゃあ、僕の事『優』っ呼んでよ。……数馬に『早乙女さん』って呼ばれるたびに壁を感じるし、付き合っているんなら、名前同士で呼んでもいいじゃない。」
「ああ、それじゃ……ゆっ、『優』っ」
「はい。『数馬』っ!」



 彼女と会って二日目で、俺たちは付き合う事になった。




後書き

 以前エンドレスストーリーに書いていた物です。
 パラレルワールドもので男と女の違いがあった場合は、高校生ぐらいになると人間関係はだいぶ変っているんじゃないかと思い書き出しました。
 ストーリーを書くにあたり、三浦実子先生の「リターン」のオリジナルの読みきり版「Return」のように、TSした本人でなく、その親友の一人称で何所まで引っ張れるかをテーマにツリーを繋げて行った練習作です。
 エンドレスストーリーの終了に合わせてキャラをくっ付けて一応終わらせたのですが、読み直して見るとまとまっていたので、「第二掲示板」に載せました。
 以外に好評だったので、投稿する事にしました。

戻る


□ 感想はこちらに □