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One-Way -the final way-

作:Kardy






 
 

電車は福井町を通過する所だった。
ボクは思い切って、禁断の質問をぶつけてみた。
「ねぇ、和弥?」
「ん?どうした?」
「もし・・・もしボクが、和弥の前からいなくなったら、どうする?」
「いなくなる・・・って、どこへ?」
「何処か遠い所。もう二度と会えなくなっちゃうような。」
「やっぱり、悲しいよな。」
「だよね・・・」
一瞬、気まずい沈黙。
「でも、もう二度と会えなくなる、なんて事はないと思うぜ。
 確かに雅紀は会社員だから、どこかへ転勤、って事もあるだろうけど。
 でもそうなったら、俺もついて行く。それが出来なくても、必ず会いに行く。
 ブラジルだって、南アフリカだって、中東だって。」
「それよりもっと遠いとこ。ホントに、もう二度と会えないような。」
「38度線とか?」
「うん・・・そんな感じ。」
「そんな所まで取引してるのか・・・凄いんだなぁ、雅紀の会社って。」
「そうじゃなくて・・・仮定の話だよ。
 もしボクが、二度と和弥に会えなくなったら、どうしようかって。」
「会いに行く。たとえ絶海の孤島でも、市街戦の真っ只中でも。」
「やさしいね、和弥って・・・」
「だって、やっと見つけたんだぜ。俺の一番大切なもの。
 それを失うぐらいなら、どんな困難でも乗り越えるさ。」
「ホント?」
「あぁ、誓うよ。
 だから雅紀も、『二度と会えない』なんて悲しい事、言わないでくれ・・・」
和弥がボクの肩を抱きしめる。あったかい・・・
でも、・・・でもあと3ヶ月で、ボクはこの幸せに別れを告げなきゃいけないんだ。

「もし、ホントに二度と会えなくなったら・・・
 その時はボクの事、思い出にしてもいいからね。
 もし和弥に新しい彼女が出来たら、その時は絶対応援してあげ・・・」
「どうしてそういう事ばっかり!
 なんか、今日の雅紀って変だぜ?
 榎本さんが来てから何となく上の空だし、俺の方見ては悲しい顔するし、挙げ句の果てに『もう二度と会えなくなったら』なんて!
 ・・・もしかして、俺の事嫌になったのか?」
「そんなんじゃないよ!ボクだって、世界中で和弥が・・・」
「・・・おい、声でかいってば・・・」
気がつくと、車内中がボクたちに注目していた。あわてて声をひそめる。
「ボクだって、世界中で和弥が一番好き。
 でも、もしかしたらホントに別れなきゃいけないかも知れないの・・・」
ボクがそれだけ言うと、和弥も黙り込んでしまった。
5分もたった頃、急に和弥がボクの目を見つめて言った。

「その時は、じたばたせずに雅紀と別れる。
 でも、新しい彼女は作らない。
 俺にとって、雅紀以上の女性の存在なんて考えられないよ。おそらく、この先誰が言い寄ってきても、君以上の魅力を感じる事はないと思う。
 大丈夫。この先何十年一人で過ごす事になっても、雅紀との思い出があれば、それだけで一生支えて行ける。」
「そんな・・・ボクのために?」
「半分は、俺自身のためさ。
 それに、もし俺たちが本当に結ばれる運命なら、今別れても、もう一度どこかで巡り合える。たとえ、それがン十年後でも。それまで気長に待つ事にするよ。」
「和弥・・・ボクだって、ホントは別れたくないよ・・・」
「わかってる・・・もう、何も言わないでいいから。」
・・・涙が後から後から溢れてきた。
やっぱり言えないよ・・・もう、今のボク・・・女の子のボクとは二度と会えないなんて・・・


5月17日。
1通のハガキが送られてきた。
差出人は・・・大高裁矯正管理局・返還促進課。
ボクの教化期間があと2週間になったという通知と、元に戻ってからのアフターケアの相談などのために、一度矯正管理局の担当官と面談してほしい、という事だった。
ドアを開けたら、留守電にメッセージが入っていた。ハガキと同じ内容、榎本女史からだった。
ボクの携帯番号は知ってるはずだけど、やっぱり彼女も一方的に通告するのはためらったらしい。だから、留守電でワンクッション入れたみたい。
でもその時のボクは、不思議と落ち着いてた。
だから、何時でもいいから折り返し連絡を、と言っていた榎本女史に、何のためらいもなく電話を入れたんだと思う。
今後のアフターケアなどの事務的な事に加えて、今の生活の清算、それから、和弥とどうやって別れるか、と言ったメンタルな部分についても相談に乗ってくれるという事で、20日に打合せする事になった。
いよいよ、来るべき時が来た。

予定より少し早く行くと、駅前の喫茶店で榎本女史が待っていた。
いろいろなデータを照合する必要があるとかで、ボクたちは1年ぶりに基礎訓練センターに出向く事になった。郊外に建っている、ガラス壁のビルは相変わらずだ。
面談室と書かれた部屋でしばらく待たされていると、榎本女史ともう一人の係員が、いくつかのファイルを持ってやってきた。
「さて・・と。それじゃ、始めましょうか。まず、教化関連データの再確認からね。」

それからしばらく、ボクが男に戻ってからの問題について話し合った。
いろんな個人データは、ボクが1つ年を取った時点からの再スタートになるらしい。住んでいる部屋は、今までと同じ。ただし、教化開始の時に入れ替えた家具や洋服があるので、それを元に戻す事になる。
クレジットカードは、マサキ名義のものが使用停止状態になっているとかで、それを解除すればもう一度使えるようになるらしい。
「それで・・・仕事なんだけど、この先もSE続けていきたい?」
「え?・・・う、うん・・・」
「だったら、その線で紹介する事になるわ。」
「うん・・・」
「ただし、去年の5月までいた会社は退職扱いになってるから・・・聞いてる?」
「うん・・・聞いてるよ」
「・・・なんだか上の空ねぇ。
 いい?ここで決定した事が、来月からのあなたに直接降りかかってくるんだから、しっかり聞いておかないと後悔する事になるわよ?」
「別に、そんな細かい事・・・。」
「『そんな細かい事』ですって?
 あなた、自分の置かれた状況分かってるんでしょうね?
 あなたの実地教化期間は、あと11日間なのよ?11日目に最終審判を受けて、12日目の朝、あなたは元の身体で目覚める事になるのよ!」
「それって、さぁ・・・。キャンセルとか出来ないのかな?」

「キャンセル?」
「つまり、その最終審判とかをサボったりして、元に戻らないように・・・」
「そんな事出来るわけないじゃない。だいたい、期間中に教化の意義を大きく逸脱した行動とってないか、とか、そういう事を調べるだけなんですからね。
 これまでのあなたの行動にはそういう所はないみたいだから、たとえ審判を欠席したとしても結果は変わらない。あなたが女でいられるのは、あと11日間だけよ。」
「じゃぁ、今からでもそういう行動起こせば・・・!」
「いい加減にしなさい!」
榎本女史の迫力に、ボクは一瞬気押されてしまった。
「・・・まぁ、あなたが元に戻りたくない気持ちもわかるわよ。今のあなたは、男だった頃には考えられなかった幸せ掴んでる訳だし?さぞ手放したくないでしょうね。
 でもね雅紀ちゃん、これは運命なの。もともと1年間だった事は、あなたも知ってたはずでしょ?その中でいくら女としての幸福を手に入れても、教化終了と同時に全てを手放す事になる。ちょっと考えればわかりそうな事だと思うわ。
 だいたい、あなたは言ってみれば『受刑中』の身なのよ?いきなり性転換されたのだって、元はと言えば自分のせいじゃない。それを利用して勝手にややこしい愛情なんて・・・」
その瞬間、ボクの中で何かが音を立てて切れた。

気がついた時には、ボクの平手が榎本女史の頬に飛んでいた。
「さっきから黙って聞いてりゃ・・・自分勝手はどっちだよ!?
 こっちに何の相談も無しに、勝手に自分たちで変な規則作って、知らせもしないで裁判だけはきっちりやるのかよ!おまけに訳の分からない方法で人生計画メチャクチャにして、変な監視役まで付けて!
 しかも?そっちで『女性らしさの移植プログラム』まで強行しておいて、1年経ったら全部ひっぺがして男として放り出すなんて、ボクの人生弄んでる以外の何物でもないじゃんか!
 何が『大和撫子』だよ?何が『女性文化の発展のため』だよ?
 あんたたちは、ボクら教化対象者を不幸のどん底に突き落として楽しむだけのサディストだ!!」
それだけ言うと、ボクは面談室を飛び出した。
後ろから榎本女史の声が聞こえてきた。
「待って!雅紀ちゃん、これだけは聞いて!
 あなたがどういう選択をしようと、12日目の朝にはあなたは元の身体で目覚める事になるわ!これだけは、決定済のシステムなの!それだけは覚えていて!」
ボクは振り返らなかった。
 

5日後、ボクは会社を辞めた。
もともと1年間の契約だったんだけど、わざわざ契約終了を1週間早めてもらったのには訳がある。
最後の1週間は、和弥と一緒にいたかったんだ。
和弥にもバイトがあったみたいだけど、ボクが真剣なのを見てわざわざ休んでくれた。以前ああいう話があったから、もしかするとその時期が近いって、感じたのかも知れない。

一週間というと長いようだけど、何しろ168時間しかないんだから。
2人で、いろんな所へ行った。いろんな事をした。全部、2人で。
ボクたちは、片時も離れなかった。

5月31日の朝、ボクは和弥のアパートを出た。
あと1日しかなかったけど、最後の1日は、1人になって考えたい事があったからだ。
横浜を出て、ボクはいつのまにか大東京線とかいう、この前開通したループ地下鉄に乗っていた。


明日の朝には、ボクはボクでなくなる。
1年前の自分・・・何だか、思い出せない。
今よりもうちょっと背が高くて、腕なんかももうちょっと筋肉ついてて、少しヒゲも生えてた・・・はず。
どこから見ても「男」だった自分。
今は、その頃より背が低くて、胸があって、足なんかもスベスベのぷるるんで、結構ハスキーな声。
どこから見ても「女」の自分。
全てが、明日の朝には入れ替わる。

・・・全てが変わってしまうなら、じゃぁ「ボク」って何なんだろう?

性格とか人格とか・・・でも、この一年で結構変わったよ?
去年の6月の時点で、もしボクに男が言い寄ってきたら。
ボクは間違いなくそいつに蹴り入れて、「100年後に出直して来な!」とか言ってたと思う。
でも、ボクは和弥に何をした?
蹴りどころか出会ったその日に、生まれたままの姿で彼を受け入れたはず。
それまでの半年で、ボクはボクでなくなったの?
違う。見ている景色が、名前が、身体が、少し変わっただけ。
なのに、あの頃では考えられなかったけど、ボクは確かに和弥を愛してる。
和弥のためなら、新○久保で山手線の線路に飛び込んでもいいぐらい。
「ボク」自身は何一つ変わっていない。なのに、大原雅紀は確かに変わった。

それはボクじゃない?
違う。確かに両方とも「ボク」だよ。

明日の朝、ボクはボクを捨てて、和弥の愛情までも忘れ去って、何もかも変わってしまうんだろうか?

違う。それなら、最初に変わった時に「悪夢」を覚えていたのはおかしい。

じゃぁ、ボクって、誰?
大原マサキ?
違う。それは今のボクじゃない。
大原ミキ?
そうだけど・・・それじゃ、マサキとミキの違いって何?
外見?社会的地位?それとも・・・恋愛対象?

違う。
恋の始まりは、ほんのきっかけに過ぎないはず。
あの日、ボクがもしマサキだったら、和弥は声をかけてくるはずもなかった。

じゃぁ、和弥は何故「ミキ」に声をかけてきたの?

ボクが結構魅力的に見えたから、って、和弥は言ってた。
でも、それってただのきっかけに過ぎないんじゃない?

『俺が欲しいのは、君のIDじゃない。君と言う存在そのものなんだ。』

初めて出会ったあの日、和弥はベッドの中で、確かにボクにそう言った。
それは、ボクの何を欲しいという事だったの?
・・・多分、今こうして考えている「ボク」自身なんだと思う。

じゃぁ、明日の朝覚えていたら、真っ先に和弥に会いに行こうよ。

男の姿で?

ボク自身に代わりはないでしょ?

男だろうと、女だろうと、ボクはボクに違いない。
だけど・・・それはボクであって、ボクでない存在。

明日の朝、ボクはボクでいられるのだろうか?


「・・・間もなく、東新宿、東新宿です。」
アナウンスの声に、ボクは我に帰った。
このままじゃ、いつまでたっても堂々巡りでしかない。
ボクはちょっと気分を変えるべく、東新宿で降りた。
そのまま、誘われるようにチカナードへ入っていった。

だんだん人気がなくなった所で、ボクは「はっ」と気がついた。
ボクは確かに、案内にしたがって進んでいる。
でも、もうこの先に店なんてない。
もしかして、この先には・・・
でも、もう行ってみるしかない。
どの道、榎本女史の言うとおり他に方法がないのなら、その最終審判とやらに顔を出してみるのも悪くないかもしれない。
ボクは意を決して、通路を先に進んでいった。


「被告人、入廷しました。」
そんな声がしたかと思うと、後ろでドアがしまり、瞬間的に電気がついた。
忘れもしない。
1年前、ボクの人生をいろんな方向に変えてくれた、あの法廷だ。

「被告人、まずその中央の席に座ってください。」
「その前に聞かせて。ここは間違いなく、大和撫子高等裁判所なの?」
「・・・その外枠組織と思ってくれてよいでしょう。
 被告人からの質問タイムは後程設けます。今はこちらの質問に答えなさい。」
その声に、ボクは法廷の中央に設けられた、ものものしい感じのする椅子に座った。
「これより、大高裁矯正局矯正審判部、F級第655921法廷を開廷致します。」

それからは、何やら正面の審判員とかいうおばさんと、矯正局の係官らしき人が、一つ一つ事実を羅列して
「被告人は、間違いないかどうかチェックしてください。」と質問していった。
別にどれも、審理を大幅に遅らせる要因はないらしい・・・と思っていた、その時だった。

「さて、現段階で、被告人の教化終了に際する障害が、一つだけ残っています。
 被告人、『阿久津和弥』という名前に聞き覚えが有りますね?」
こんな所で和弥の名前が出てくるとは思わなかった。
「は、はい・・・」
「被告人は、現在この阿久津和弥と深い恋愛関係にある。間違い有りませんか?」
「えーと・・・間違いないです。でも、それがどんな・・・」
「被告人の質問は大体見当がつきます。どんな関係があるのか、という事でしょう?」
「そうです。」
「1年前、あなたがこの法廷で受けた判決の内容を覚えていますか?」
「はい、確か変な通行規制の話が・・・」
「詳細な内容はよろしい。
 実は、当法廷では被告人に未練を残さずに、教化を終了して欲しいと考えました。」
「そ、それって・・・まさか・・・」
その時、閉まっていたはずのドアがいきなり開かれた。

「・・・え、榎本女史!?それに・・・和弥まで!!」
「はぁ、はぁ・・・雅紀ちゃん、遅くなってごめんね。」
「榎本女史はわかるにしても、どうして和弥がこんな所へ!?」
「話は、さっき榎本さんから全部聞かせてもらったよ。
 どうして俺に何も相談してくれなかったんだ?」
「だって、こんな事信じてもらえるわけないもん・・・。」
「阿久津くんね、あなたが明日には男に戻る、って聞いて、それでもあなたが好きだって言ってくれたのよ。」
「なにも、男と女でなくたっていいじゃないか。
 世間がどう言おうと、俺は一生涯雅紀を愛し続ける。そう決めたんだ。」
「和弥・・・そんなにボクの事・・・」

「あなたはそれでいいかも知れませんが、当法廷としてはそのような不毛な行為を認めるわけに行きません。」
それまで沈黙していた審判員が、厳粛に口を開いた。
「被告人、大原雅紀に残された選択肢は二つ。
 二度と阿久津和弥と合わないと誓うか、それとも再変換の際に記憶を消去されるか。
 被告人、この場でどちらか選びなさい。」
「どうして!?何の権利があってボクたちを引き裂こうとするわけ!?」
「男同士で恋愛感情に走るなんて、不潔な事甚だしい!それを黙って見過ごすほど、
 大高裁矯正局は甘くありませんよ。」
「いいじゃないか!世の中、世間に公言できない愛情持ってるやつらなんて、星の数ほど・・・」
「あなたが今持っている恋愛感情は、教化によって得た物でしょう?
 だったら、終了と同時にそれは終わってしかるべきものです!」
「ボクは・・・あんたらの策略には負けない!絶対、和弥の事覚えてて見せるさ!」
「であれば、脳の記憶領域の初期化も含めた措置が必要ですね。これを超える事は、医学的にも不可能です。」
「何で・・・」

絶望に打ちひしがれるボクの横で、和弥が何かをひらめいたように、審判員に向き直った。
「要するに、男と女ならいいって事だよな!」
「そうです。早く、新しい人生の伴侶を見つけるよう、あなたからも被告に進言・・・何をするつもりです?」
審判員の質問には答えずに、和弥が速記官らしき女の子の元へ歩いていった。
そして次の瞬間、ボクは我が目を疑った。

なんと和弥ってば、その女の子に抱きつくが早いか、着ていた服を引き裂いて裸にひんむいちゃった!!

法廷はパニック。たちまち、和弥は警備員に取り押さえられる。
「い、一体、何の真似です!こんな事をして、ただで済むとおもってるんですか!?」
「わかってるさ。ここで変な真似したら、『実地教化』の対象になるんだろ?」
「!!」

・・・まさか和弥、最初からそれが狙いで・・・!!??

「あ〜、ほんっとにやると思わなかったわ。」
「てことは、榎本女史のアイデア?」
「私はただ、変な真似したらあなたまで女にされちゃうわよ、って注意しただけよ。
 でも、もしかしたらこれが一番の解決法だったかもよ。あたしの仕事は増えるけどね。」

警備員に両腕を捕まれながら、和弥は審判員に向き直って言った。
「階段逆走して1年なら、これだけハデにやれば10年は固いよな?
 ・・・これで、俺たちはまた『男と女』だ。文句があるか!?」
「あなた自身はどうなんです?『実地教化』と簡単に言いますけど、慣れるまでは大変ですよ?」
「自分の最愛の女が通ってきた道だぜ?俺自身が出来ないはずはない。いや、やって見せるさ。」
「和弥・・・そこまでしてボクのために・・・?」
「まぁ、いろいろあると思うけど、これで俺は雅紀と離れずに済む。それでOKだよ。」
「よろしい!では阿久津和弥の教化開始を条件に、大原雅紀の記憶照査を免除します。
 彼を、次の開廷まで拘束しておきなさい。」
そのまま和弥は法廷から出された。
でも、また会えるんだ。

「さて、これで被告人の教化終了に関する全ての障害は取り除かれました。
 予定通り、本日5月31日付を持って、被告人の教化を終了、再変換を行ないます!」


翌日1時、「僕」はベッドの中で目覚めた。
あたりを見渡す。おぼろげだけど、見覚えのある風景だ。
僕は、先日まで住んでいた天川台のアパートに戻ってきた。
部屋の家具配置が微妙に変わっているのは、1年前まで使っていた物に戻したためらしい。

ふと自分を見てみる。
短くなった髪。ちょっと厚くなった胸板。筋の浮き出た両腕。
間違いない。僕は1年前の「男の姿」に戻っていた。
・・・という事は、和弥は!?
こうしちゃいられない!とばかりに着替えを捜し出し、外に出ようとした所で、
榎本女史がアパートを訪ねてきた。
「マサキくん、雅紀くん!あたし、榎本ジュンだけど!
 もうお昼過ぎなんだけど、まだ寝てるのかな?
 いろいろ話したい事があるの。それと、お客さんも連れてきたわ。」
お客さん?
まぁいい。教化終了直後だし、アフターケアなんかもいろいろあるのだろう。
もしかしたら、和弥の現況を聞かせてもらえるかも知れない。
ドアを開けると「まぁ、随分たくましくなって!」と感心された。
「それで・・・お客さんってのは?」
「あぁ、紹介がまだだったわね。」
といって入口に招き入れた。
その姿に、僕は思わず見とれてしまった。
170は楽にありそうな、スレンダーな身体。
バストが少し小さめだけど、見ていてなかなかにそそる体型。
水色のサマーセーターと、白いフレアスカートがよく似合っている。
ちょっと長めの髪。
なにより、その顔は・・・
「紹介するわ。今日から実地教化が始まった阿久津和恵(かずえ)ちゃんよ。」
「もしかして、この子ってば・・・」
「・・・やっと、会えたね・・・雅紀くん・・・」
その一言を待ちきれず、僕は彼女を抱きしめていた。



1年後。

『婚約、おめでとぉ〜っ!!!』
打ち鳴らされるクラッカー。
先日、僕と和恵はみんなに結婚を宣言した。今日は仲間を集めての婚約パーティ。
僕たち2人のために、榎本女史、奈緒さん、瑠衣ちゃん、それと男に戻ってから
いつのまにか飲み友達になっていた保、鷹寛、さらに小樽から修一郎も駆けつけてくれた。

「いやぁ、しかし一時はどうなる事かと思ったけどな。」
「ホントホント。まさか和弥が女になるなんてな。」
「でも、初めて俺達の前に出た時の和弥・・・じゃなくて和恵ちゃん、きれいだったよなぁ。」
「確かに、どうみても男には見えへんかったもんね。」
「そうねぇ。最初に出会った時のミキちゃんより、ずっと女らしかったわよねぇ。」
「それは・・・多分、覚悟が出来てたからだと思うの。」
「まぁ、確かに僕の時はほとんど何の前触れもなかったからね。」
「しかし雅紀さん、あんたってば最強の幸せもんだよな。」
「ホントホント、こんなかわいい彼女が、自分の事一途に思ってくれるなんて、そうそうないっすよ。」
言われてみれば、客観的に見ても超美人の和恵が彼女なんて、僕は結構ラッキーかも知れない。
「えへへ、そうかなぁ。(照)」
「雅紀くんてば、あたしの話になるといっつも表情だらしなくなるんだもん。」
「それだけ、和恵ちゃんの事が好き、って事でしょ?」

「ところで、俺ずっと気になってる事があるんだけど。」
保が、いつになく神妙な表情で僕に尋ねてきた。
「何?」
「以前、雅紀さんが元に戻る時に大騒ぎになっただろ?
 和恵ちゃんも同じ目に合ってる、って事は、いずれ元に戻る日が来るわけだ。
 その時、あんたはどうするんだい?」
「確かに、いつかは避けて通れない道なんだろうけど・・・
 まだ11年もあるんだ。これからゆっくり考えるさ。たとえ別れる事になっても・・・」
その時、榎本女史が割り込んできた。
「その心配はいらないわ。」
「どういう事?」
「和恵ちゃんの教化期間は12年。という事は、永続アフターケアの対象になるのよ。」
「永続アフターケア・・・って、何それ?」
「雅紀くん、あなたの時を思い出して見て。たった一年でも、女としての生活に未練を残してたでしょ?
 ましてそれが10年も続けば、無理矢理元に戻す事で、とんでもない災厄を招く危険がないとも限らない。
 実際、この制度ができるまでは何人もの自殺者が出てるのよ。元の、男としての生活になじめなくてね。」
元に戻す事で災厄が起きる。それを防止するため・・・って事は!!
「まさか、和恵はこのまま・・・」
「そう。教化期間が10年を超える場合には、『そのまま永遠に教化を続ける』事もできるの。
 最終的には、教化終了の半年前に本人が選ぶんだけどね。」
「それじゃ、和恵はこのまま女として生きる事ができる、って事?」
「そういう事。特に、教化期間が長い受刑者はそれだけ、変換時の心理操作が深い部分まで行なわれているからね。」
「そっか。それであたし、『女としての自分』に抵抗がなかったんだ。」
「よかった。これで、一生離れなくてすむんだ♪」

「ついでに言うと、私もその制度を選ぶ事にしたの。」
「榎本女史が?・・・そうか、あんたも『教化対象者』だったっけね。」
「去年の一件で、私の教化期間が倍に増えたのよ。『法廷を混乱させた責任をとれ』ってね。
 もともと7年だったから、あわせて14年。
 まぁ、最近ではすっかり女が板について来たから、元に戻っても苦しむだけだったでしょうね。」
「あぁん、悔しい。私にもそんな事件が、降ってわいてこないかなぁ・・・」
あと2年で教化期間が終了する奈緒さんが、ホントに悔しそうに呟く。

「それにしても・・・」
「?・・・どしたの、瑠衣ちゃん?」
「自分の惚れた女が男になるからって、自分が女になってまで追いかけるって・・・
 あたしやったら、絶対そこまでできんよ?」
「実を言うと、あたしもあの時は無我夢中だったの。愛する人がもうすぐこの世から消えてなくなる!
 そう思ったら、いてもたってもいられなくなって・・・
 実際、教化開始からもう1年になるけど、楽しい事ばっかりじゃなかったわ。
 ストーカーに追っかけ回されたり、電車で何回も痴漢にあったりして。」
「あぁ、僕も教化中はよく変な酔っ払いに絡まれたよ。」
「でも、雅紀くんと一緒にいるだけで、嫌な事全部忘れられるの。
 やっぱり、あの時の選択は間違ってなかった。こうやって雅紀くんに抱きしめられるだけで、『あぁ、女になってよかった♪』って、心の底から思えるようになったの。」
「はぁ・・・何か、和恵がうらやましいわ。そこまで惚れられる相手がおって。
 しかも、男より女の方が明らかに得やろ?」
「確かに、食費が結構浮くのは事実よね。デートの時も、大抵雅紀くんが出してくれるし。」
「・・・そして、影で泣く男約一名。」
「でも、僕は男とか女とか、それほど気にしてないよ。
 『和弥Xミキ』だろうと『マサキX和恵』だろうと、僕ら2人である事に違いはないし。」

そうなんだ。
どっちが男でどっちが女なんて、そんな事はどうだっていい。
男同士でも、女同士でも、僕たちは確かに愛し合っている。それだけでいい。
よくテレビで「男は損だ」「女は得して当然」とか、したり顔で語ってる評論家がいるけど、両方を体験してきた身からすれば、
そんな些細な事にこだわってる、一方通行なライフスタイルの方が、よっぽど損してるよ。
大切なのは、本当に分かり合える人と一緒にいる事、じゃないのかな?
その大切な人と一緒にいられるなら、男とか女とか、そういう事はどうでもよくなって来るんだよね。
僕がたまたまそういう人と巡り合えたから、そう思ってるのかも知れないけど。

「どうしたの、雅紀くん?さっきから黙り込んじゃって。」
「・・・何でもない。
 和恵・・・」
「なぁに?」

誰よりも僕を信じ、理解し、そばにいてくれる人。
一生、彼女の心と通い合い続けるんだ。
そう。僕たちは、決して一方通行なんかじゃない。

「愛してる。世界中の誰よりも。」



それだけ言うと、僕は和恵のほっぺに軽くキスした。

(Fin)


【あとがき】

ども。Kardyです。約1年ぶりの御無沙汰・・・つーか、もう21世紀になっちゃいました。

この「One-Way」という作品は、99年のある日、新宿地下街を歩いていて思い付いた作品です。
最初は「ここを通っただけで、南アフリカみたいに突然警官に殴られる世界って・・・」という、極めて非TSなネタから始まり、
「ここを通っただけで、不条理なTSワールドに引きずり込まれるようなネタ」に発展した段階で、まず書くだけ書いたのが99年6月。
当時は、女になった主人公がその快感を忘れられず、一生を女で生きる決意を固めるというオチだったのですが、
それだけでは物語として、ちとメリハリに欠けようという結論に達しました。

そして、中編のキャラ対談でも書いた通り、「One-Way」はラブコメ路線を貫く事になりました。

その直後に思い付いた、バイオ科学の力で変身する美少女アイドルの台頭と共に、
「One-Way」は未完のまま、歴史の片隅に葬り去られていました。
しかし、それでは余りにもったいない。雅紀と和弥のエッチシーンだけのために生み出した作品ではないのです。
そんな時、ふと気がつきました。
「入れ替わり以外で、再び性別が逆転する作品って、これまでなかったような・・・」
その瞬間、「One-Way」のラストは決まりました。
あとは、和弥が女性化する必然性を思い付けば、ネタ的には完璧でした。

前編を発表してから、既に1年半。
「遅筆にも限度があるぞゴルァ」という方もおられるでしょう。
そういう方は、大変申し訳有りませんでした。
あるいは「One-Wayって何?」「そもそもKardyって誰よ?」という方もおられるでしょう。
そういう方は、旧作品の「7」のあたりに、前編および中編が眠っていますので、そちらを参考にしてください。
「すっかり待ちわびて、頭にクモの巣はっちゃったよ」という方。
大変お待たせ致しました。これが、Kardyなりの「雅紀の運命」に対する結論です。
「初めて読んだけど、なかなか面白そうじゃん。」という方。
大変ありがとうございます。
「イラストがねぇからつまんねぇぞゴルァ」という方。
では、美術センス皆無のKardyに変わって、雅紀や和恵のイラストを描いていただければ幸いです。

世紀越えとなってしまいましたが、ようやくキャラクター達を静かに解放してやる事ができそうです。

雅紀 「な〜んてね。もしかしたら、どこかでボクたちと出会えるかも知れないよん♪」
 

2001年2月2日
Kardy C.Vax
死亡寸前のパソコンの前で、モーニング普耳茶を飲みながら
 

ちなみに、自分の最愛の彼女(or彼氏)がもし異性に変身する運命だとしたら、あなたはどうします?
 



 
 

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