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One-Way(前編)

作:Kardy


 




読解のてびき
本作品は、以下のCVを当てていただくと、よりそれらしくなります。

雅紀(♂):堀川亮  (ベジータ・横島忠夫・etc.)
雅紀(♀):桑島法子 (ミスマル=ユリカ・シロボン・etc.)
裁判長:松井菜桜子 (香津美=リキュール・コボちゃんのママ・etc)
謎の声:林原めぐみ (あえて説明省略。ここでは「綾波」のイメージで)
榎本女史:久川綾  (保科智子・ケルベロス・スクルド・etc.)
奈緒先輩:玉川沙紀子 (辻本夏美・取石神無・etc.)



 
 

妙にいやな感じだな、と思った。それは事実なんだ。
だからどうしろって?
単なる偶然だと受け止めるのが普通だろ?
別に、僕の身になにかあるわけでもなし、彼女たちに迷惑をかけたわけでもない。
大体、そんなばかげた規則があってたまるか。
僕は一人で、階段を降りていた。
それだけじゃないか!!

新宿チカナード入口。その日は何でもない一日だった。
いつものように、午後5時で仕事を終えた僕は、その足で新宿駅へと向かった。
いつもなら、駅の外を歩いて歌舞伎町を目指す。別に遊びたいわけじゃない。
僕の住む町は、石神井線の沿線。この線は変わっていて、新宿のターミナルからちょっと離れた、歌舞伎町のど真ん中に駅があるんだ。不便な事この上ないだろ?
まぁそのおかげで、帰りがてら本屋に寄ったりしてるんだけど。
でもその日、ちょっと気が変わって、その駅まで続く地下道を通ってみようと思った。

目的の地下道に出るには、ターミナルに直結している地下道から、地下鉄のコンコースに出て、別のビルの地下を通ってと、結構ややこしい。それでも僕は難なく、新宿最大の地下街
「チカナード」につづく階段に出た。
その時、頭の中で声がしたんだ。
 

「やめなさい!」


・・・あたりを見渡しても、誰も僕の方なんか見ちゃいない。
空耳かと思って歩き出した僕に、また声がした。
 

「今、そこを通っちゃだめ!!」


・・・あたりを見渡しても、誰もそんな事を言っている風には見えない。
大体、何の権利があって、僕の通行を妨げようと言うのか。ちょっと腹が立った僕は、声に逆らうように、階段を降りはじめた。
その時、僕は今自分が置かれている光景に、ちょっとした奇妙さを感じたんだ。
もともと人通りのあまり多くない階段だけど、さすがに夕方のラッシュだけあってちらほらと階段を上り下りしている。
でも、階段を降りているのは、僕以外みんな女性だ。ふと後ろを振り返っても、僕以外の男なんていやしない。こういうのも、役得って言うんだろうか?いや、単なる偶然だな。
僕はさして気にも留めずに、そのまま歩きつづけた。

通路を歩いて行くうちに、僕はなんだか不安になってきた。
どう考えても、狭い通路へ連れて行かれているようにしか見えない。
僕は確かに、案内に従って進んでいる。
でも、僕はどうも駅とは別の何処かに連れて行かれているような気がした。

通路はだんだん狭く、殺風景になって来た。もう案内なんて出てやしない。
ホントにこっちで合ってるんだろうか?
でも、僕は何かに突き動かされるように、その道を進んでいた。
気が付くと、僕は大広間のような所に出ていた。


入るや否や、後ろで自動的にドアが閉まった。
と同時に電灯が一斉にともり、僕にスポットライトが浴びせられる。
突然、何百人はいようかという女の子たちが、僕に激しいブーイングをかましてきた。

な、なんだ!!??
僕には、これだけ大人数の女性から非難されるいわれなど、何もなかった。
とっかえひっかえ泣かしてきた!?僕のどこを押せば、そんな事ができるんだ!?
常日頃セクハラの嵐!?そんな事したら、ここに引っ立てられる前に人生終わるよ!
痴漢の常習犯!?自慢じゃないが、そんな覚えも度胸もないぞ!!
僕が事態を飲み込めずに呆然と立ち尽くしていると、突然後ろから両腕をつかまれた。
警備員のような服を着た2人の女の子が、僕を中央に引きずって行く。
なんだか分からないうちに、僕は中央の椅子に座らされ、気が付くと手錠までかけられていた。
いくらなんでも、こんな仕打ちはあんまりだ!!僕が抗議しようと口を開いた瞬間、槌音が響いた。

「静粛に!!」
声につられて前を向くと、黒い服を着た妙齢の熟女がハンマーを持っていた。
「これより、大和撫子高等裁判所・第801071045法廷を開廷いたします。
 一同、起立!!」
なんだか訳が分からなかったが、ともかく警備員に促されて、僕も起立した。
やがて着席を許されると、僕の左前方にいたキャリアウーマン風のお姉さんが、何か書類を読みはじめた。

「では、これより起訴状を公開いたします。
 被告人氏名、大原雅紀(おおはら・まさき)。職業、システムエンジニア。
 生年月日・・・、住所・・・。
 まず、被告人はこれらの情報が、被告人自身のものに間違いないかどうか確認してください。」
たしかに、そこに読み上げられた個人情報は僕、大原雅紀の物に間違い無かった。
でも、僕が被告人!?いったいどういう事なんだ!?
「次に、被告人の罪状を申し上げます。
 大原被告人は、本日午後6時25分前後、新宿チカナード・A14階段を北方向に通行しました。事件当時、このA14階段に対し、乙女文化保護条例第661条に基づく通行規制が敷かれていました。被告人はこの通行規制を無視し、問題の階段を通行したものです。」
もう、彼女が何を言ってるのか分からなくなっていた。
どうもここの連中は、僕がさっきの奇妙さを感じた、あの階段の事を言ってるらしいんだけど。
「A14階段の通行規制は以下の通りです。
 勤労女子の速やかかつ安全な帰宅を保証するため、午後5時半から7時までの間、別に定める個所における男子の通行を全面的に禁止、もしくは制限する。
 別表:新宿チカナードA14〜16階段。男子の通行は南方向のみに制限する。
 大原被告人の行動は先述の通りであり、これは只今の通行規制を明らかに逸脱しています。」
「ちょっと待ってくれ!!僕はそんな規則は・・・」
どうにも我慢できなくなり、抗議しようとした僕を警備員が押さえつけた。
「不規則発言は慎むように。被告人には、後ほど発言の機会を与えます。では検察官、続けて。」

「被告人の行動は、男性特有の威圧感を乱発する事によって、勤労女子の精神的な安定を阻害しました。
 のみならず、当該ルートが今後勤労女子に敬遠される事によって、付近の地下街における衣料・化粧品関係の商店に与える打撃は少なくないものと推察されます。
 以上の事実にかんがみ、ここに検察側は乙女文化保護条例違反として、被告人・大原雅紀に対し一年間の文化奉仕を求刑いたします。」
「では被告人、反論があればどうぞ。」
何が通行規制だ!なにが男子特有の威圧感だ!!乙女文化保護条例!?聞いた事も無い!!
僕は待ってましたとばかりに、このインチキ裁判に対する文句をつけてやった。

結果は、ことごとく悪い方に転がってしまった。
裁判官や検察官はもちろん、僕の味方をするはずだった弁護人(もちろんこれも、20歳ぐらいの女の子だ)まで僕が喋っている間、わけが分からなそうな顔をしていた。
まるで外ハリン語で経済学の授業を受けているようなリアクションだった。
僕は彼女たちの行ってる事が全くわからないし、彼女たちには僕の言う事が伝わってない。ほとんど一方通行状態だ。
当然のごとく、僕の主張は全く受け入れられなかった。それどころか、興奮のあまり口走ってしまった数々の悪口ばかりが捕らえられ、僕は法廷侮辱罪とやらになってしまった。
肝心のナントカ条例違反の方は、言い逃れの聞かない状況らしい。
僕が問題の階段を降りて行った事は、僕自身がさっき認めてしまったし、どこからか現れた女性が「自分は、確かにこの人に警告した」と証言してしまった。
・・・どうやら、あの時聞こえた幻聴がそれだったらしい。声がすごく似てたんだ。

「判決!
 被告人、大原雅紀は乙女文化保護条例を無視したばかりか、『フェミニストの陰謀』などと誹謗し、もってかかる条例を汚した。
 また、かかる審理の最中にも、当法廷を「インチキ裁判」などと侮辱した事はすでに明白である。
 被告人の行動は極めて悪質で、反省の色さえ微塵も見せていない。
 一方で、かかる条例はその成立過程が極めて秘匿色の強いものであり、被告人がこれを知らなかったと言う事実は、被告人が男子である事を考慮すれば、これを否定する明確な根拠は示されていない。
 しかし、知った所でかかる条例に敬意を表し、これを遵守する見込が無い事は、当法廷における被告人の態度を見れば一目瞭然である。
 よって、当法廷は被告人に対し、かかる条例の重要性を真に学んでもらう必要があると判断した。」
もう、文句を言う気力も失せていた。
どうせ、これは夢だ。僕は悪い夢でも見てるんだ。
その証拠に、さっきから手錠が手首に食い込んでるのに、全然痛くないじゃないか。
「被告人・大原雅紀。右の者に乙女文化保護条例違反、ならびに大和撫子高等裁判所侮辱罪を認定し、一年間の実地教化訓練を言い渡す。
 なお、判決は即日執行とする。以上をもって閉廷!」
その瞬間、法廷中が傍聴人の女の子たちの歓声に包まれ、検察官や弁護人が帰り支度を始めた。
警備員が僕をどこかに連れて行こうとしていたその時、僕は急にこの状況に恐怖を覚えた。
いくら夢だからって、どうなるか分かったもんじゃない!!
実地教化訓練って、何の事だよ!?
わめき散らす僕にかまわず、警備員はずるずると僕を広間から連れ出してしまった。

薄暗い通路を、2人の警備員に引きずられながら進んで行く僕。
やがて、分厚いアルミの扉の前で止まった。警備員がドアを開ける。
その瞬間、僕の視界に飛び込んできたのは、想像を絶する恐ろしい光景だった。
得体の知れない機械。中央に、人が一人横になれるだけの台が備え付けてある。
そこには人の形の線が描かれ、手と足の部分にはベルトみたいな物が付いていた。
中から、これまた得体の知れない女医みたいな人がやってきて、こう言ったんだ。
「また実地教化の準備?今度は何ヶ月?
 え?一年ですって?またずいぶんと長いのね。
 まったく、しょうがない生き物よね、男ってのは。」
そういうと、女医は僕たちに部屋に入るよう促した。
足がすくんで一歩も動けない僕を、警備員がずるずると引っ張って行く。
部屋の中央に連れてこられた僕は、そのまま中央のベッドに乗せられ、手足を固定された。
これからどうなるんだろう?ロボトミーにされて、一年間どこかの刑務所に入れられるんだろうか?
それとも、冷凍漬けにされるんだろうか!?
恐怖のあまり焦点の合わない目で、ぼくはぼんやりとその女医を見ていた。
「あら、怖いの?
 大丈夫、苦しいのはほんの2〜3秒よ。あとは普通に生活していればいいの。
 むしろ、こんな体験めったにできないと思ってた方が、前向きになれるわよ。」
やっぱり何かされるんだ。怖い!怖い!怖い!!
どうして、僕がこんな目に合わされるの!?僕は何も悪い事はしてない!!
世の中、もっと鬼畜なやつはいっぱいいるじゃないか!?
どうして、階段を普通に降りたくらいで、こんな目に合わな・・・

そこで思考は中断した。


「うわぁっ!!」
自分の声で目を覚ますと、そこはさっきの得体の知れない研究室ではなかった。
その証拠に、僕はきちんと布団に入っていた。それに、あの部屋に入ったときはスーツを着ていたのに、今はちゃんとパジャマを着ている。
・・・ん、ちょっとまてよ。
パジャマを着ている事を確認したところで、僕は妙なところに視線を落としていた。
なんだか、胸のところが膨らんでるよな気がする。
試しに触ってみると、この世の物とは思えない軟らかさ。そう、まるで女性のバストのような・・・!!
位置といい形と言い感触と言い、これって女の子のバストじゃないか!!
思わず覗き込もうとして、僕は首筋に違和感を覚えた。なんだか、髪の毛がまとわりついてるような気がする。
触ってみると、僕の髪は肩まで届くか届かないか、くらいまで伸びていた。
思わずパジャマを脱いで、全身を姿見に写してみる。

顔は、言われてみれば僕に似ている。でも、これは明らかに女の子の顔つきだ。
喉からは、昨日まであれだけ自己主張していた喉仏が消えている。
胸は、さっきも言ったように、それなりに厚い胸板だったのが、Cカップはありそうな乳房になっていた。
肩口からウエストにいたるラインは、見事な円錐状。まさしく「女性の理想的ライン」だ。
その下に目が行ったところで、僕は恥ずかしさのあまり赤面してしまった。
僕がはいていたのは、レモンイエローの木綿のパンティ。
股間はフラットになっていて、とても昨日まで付き合ってきたアレが収まっているようには見えない。
足からはムダ毛が消え、すべすべとした「女性の足」になっていた。
ちょっと後ろを振り返ってみると、真ん丸のヒップが上を向いておさまっている。
・・・てーことは、その、つまりなんだ。僕は・・・
女の子になっちゃったんだ!!
今おかれている状況は、とても理解できる物ではない。でも、目の前の姿見に映っている・・・
ちょっと待て?姿見?そんなもの、僕の部屋には無かったはずだ!!

慌てて部屋中を見渡す。間取りは僕の部屋と同じ。でも、家具の配置が変わっていた。
命の次に大事な本や雑誌を納めていた本棚が消えて、代わりに大きなクローゼットがおいてあった。
パソコンはかわいらしいデザインになって、部屋の中央のテーブルに置いてある。
で、もともとパソコンラックがあったところに、いまあるのは鏡台。
鏡台の上には、見た事も無いような化粧品が所狭しと並んでいる。
どうなってるんだ!?僕は夢でも見てるのか!?
すっかりパニくった僕に追い討ちをかけるように、玄関のベルが鳴った。
恐る恐るドアを開けると、スーツ姿の女性がいきなり、靴を脱いで上がり込んできた。
「ちょ、ちょっと!いくらなんでも、こんな朝っぱらから・・・」
しどろもどろになって抗議を続ける僕を制して、彼女は一枚の名刺を取り出した。
「大和撫子高等裁判所・矯正管理局・・・!!」
この肩書きを見た瞬間、さっきまで見ていた悪夢がまざまざとよみがえってきた。
「第一指導部の榎本(えのもと)ジュンと言います。大原雅紀はあなたね?」

とりあえず2人分のお茶を入れて、片方を榎本女史にお出しする。
彼女はさかんに僕の方を見ていたが、一言ぽつりとつぶやいた。
「ふ〜ん、なかなかいい感じに仕上がったじゃない。 これなら、彼氏もすぐにできるかも知れないわよ♪」
「・・・ちょっと待ってください。僕はもう何がなんだか・・・」
「そうそう、忘れるところだったわ。今日は実地教化の初日って事で、ガイダンスに来たのよ。」
「だから、その実地教化ってのは何なんですか!?だいたい、僕は夕べから訳の分からない裁判を受けさせられて、変な研究室に連れて行かれたと思ったら、今朝は今朝でこのザマだ!いったい、あなたたちは僕に何をしようとして・・・?」
「本当に、何も知らないの!?」
僕が力強くうなずくと、榎本女史は僕に座るように促してから、説明を始めた。

最近活発化している女性の地位向上運動に反比例して、男子の反動行為がとみに陰湿化している。セクハラはより陰惨な物となり、向上運動の参加者はあらゆるストーキングを覚悟しなければならない。そういった、いわゆる「女の敵」は、全女性の総意のもとに裁かれ、その罪を償う事になる。その裁定を行なうのが大和撫子高等裁判所なんだそうだ。その実体は、とうとう教えてくれなかったけど。
で、僕が食らったのは「実地教化訓練」というもの。
これは、机上の講義だけでは改善の見込が無いほど鬼畜な罪を犯したり、あるいはそういったお題目だけでは解決できない微妙な問題について、被告人に「女性としての立場」を身を持って知らしめるべくできた制度で、定められた期間、被告人の肉体はもちろん、その社会的地位までも女性のものに変えて放り出すシステムらしい。
「つまり、今のあなたは誰がどう見ても、どこを調べても女なのよ。」
「じゃぁ僕はこの先、最低でも一年は・・・」
「女の子として暮してもらう事になるわ。
 大丈夫よ。何も刑務所に入れようってんじゃないし、あなたには戸籍はもちろん、職場まで用意されている。
 もし何か困った事があったら、普通の女性以上に手厚いアフターケアが待ってるわ。」
「榎本さん、もともと女性だからそんな事が言えるんですよ。僕はつい昨日まで、23年間も男として生きてきたんです。今更人生リセットしろったって・・・」
「私がもともと女だった?誰がそんな事言ったの?」
「え?・・・そ、それじゃあなたも・・・」
「そうよ。私も実地教化の最中。それも、あなたの3倍の期間が残ってるのよ。
 でもね、最近はもう『一生このままでもいいわぁ(*^^*)』なんて考え始めてるの。
 一年後には、あなたの考えも変わってると思うわ。ミキちゃん♪」
「ミ、ミキ!?誰ですかそれ?まさか、僕!?」
「そうそう、忘れるところだったわ。」
そう言って、榎本女史は今の僕に関する説明を始めた。

今日から、来年の6月1日までの間、僕は「実地教化訓練」を受ける事になる。
当該期間中、僕の社会保障は「大原 雅紀(おおはら・みき)」という名前でなされる事になった。
いきなり名前が変わると混乱する人が多いので、なるべく元の名前に近づける事にしてあるらしい。でも、いくらなんでも「雅紀」を「みき」なんて読む人いるかなぁ?確かに、高校時代のクラスメイトに「雅哉」って書いて「みや」って読む子はいたけど、常に男に間違えられて、変なDMが届いて困ってる、って言ってたぞ。
住所や電話番号、生年月日、血液型その他はそのままらしい。ただし、性別が女になっているので、ハローぺージの名前は削除されている。それから、クレジットカードはもう一度作り直す必要があるらしい。理由を聞いたら、女性には女性向けのパンフレットが来る、としか説明されなかった。まぁいいけどね。
なお、部屋の賃貸条件は今まで通り。衣類は、当面必要な物を部屋においてくれたとの事。無料貸与だってさ。
職業は、今までと同じSEになるそうだ。ちなみに転職は自由。
その他の行動についても、特にこの実地教化の目的を逸脱しなければ何をしてもかまわないらしい。
ただし、しばらくの間「男らしい趣味や言動」に関しては心理的にブレーキがかかる。
これは被告人に「一刻も早く女性と同化し、その心理を体現してもらうため」だそうだ。
言われてみると、ズボンよりスカートがはきたくなっているし、いつのまにか女の子らしい座り方をしている。

「とりあえず、あなたが女性として生きるには、これだけの下準備があればOKでしょ? ちなみに、まだ雅紀ちゃんは実地教化を始めて間が無いので、当面は私が生活を監視します。
 いろいろな相談にも乗ってあげるから、何かあったら管理局第一指導部の榎本を呼び出してくれればいいわ。」
そこまで親身になってくれるなら、僕としてもあまり邪険にはできない。あまり乗り気ではなかったが、どうせ一年間は元に戻れる見込みもなさそうだし、しばらくはこの榎本ジュンなる姉御に付いて行くのも悪くないかもしれない。
「じゃ、行きましょうか。」
「・・・行くってどこへ?」
「基礎訓練センターよ。お化粧とか細かい仕種とか、覚えてもらう事はいっぱいあるからね。」

それから4日間、僕は榎本女史からいろいろな事を教わった。
僕が僕でなくなるような奇麗なメイクもできるようになったし、難しい料理も自分で作れるようになった。
女子トイレにも間違えずに入れるようになったし、笑い方もちょっとだけ変わった。
でも、やっぱり乙女心って奴はわからないし、着飾りたいとも思えない。
それに、女になるって事は、必然的に男に抱かれるって訳で・・・おえ(ToT)
「無理しなくてもいいわよ。天然の女の子の中にも、男に拒絶反応示す子はいっぱいいるし。」
榎本女史がそう言ってくれたのは救いだった。
最終日の夕方、僕は榎本女史につれられ、とあるビルの中に入った。そこは、僕が来週の月曜日からお世話になる会社だった。
僕に対しては矯正管理局の紹介だと言っていたが、どうやら会社に対しては「人材派遣業社からの紹介」という事になってるらしい。
社長も僕の事をえらく気に入ってくれたようで、あっという間に採用決定となった。
(もっとも、こういうのは得てして書類送付の段階で採用が決まってるから、この決定はあくまでも形式上のものなんだけどね。)
ちょうど大口の契約がまとまり、その打ち上げで全社をあげての大宴会があるらしい。
そこに、歓迎会と称して僕も連れて行ってもらえる事になった。
「あんまり羽目を外さないようにね。はしたないと思われるわよ。」
一言だけ僕に注意を促して、榎本女史は帰って行った。

全社をあげて、と言ってもそれほど大きくないソフトハウス。せいぜい20人前後の規模だ。
とはいえ、これから1年間はお世話になる会社、第一印象が大事である事には変わりない。
「来週から開発部勤務になりました大原雅紀です。よろしくお願いします♪」
僕は、男に対しても女に対しても嫌味にならない範囲で、精一杯の笑顔を作って自己紹介した。
席に戻ると、あっという間に男子社員からの質問攻め。でも、不思議と下心が感じられない。女子社員も何人か声をかけてくれる。
僕はどうやら、この会社の一員として認められたらしい。思わず気持ちが高揚し、周りの人たちにお酌して回る。
最近は、男女問わずこういう事を引き受けるのが当然になってきたが、やはり男子社員は嬉しそうだ。
宴もたけなわになってきた頃、僕の隣に一人の女の子がやってきた。
「大原さん、だったっけ?」
「あ、はい。大原雅紀っていいます。よろしくお願いします。」
「ミキちゃんね。あたしは広報部の神代奈緒(かみしろ・なお)。よろしく♪」
「奈緒先輩、ですね。」
「そう。半年前までは『尚也(なおや)』だったんだけど。」
「・・・え!?」ちょっと寒気を覚えた僕に、奈緒先輩は悪戯っぽく微笑んだ。
「同族のにおいはすぐにわかるわよ。あなたも、『実地教化』の最中なんでしょ?」
「そうですけど・・・でも、僕は全然分からなかったなぁ。すっかり女が板に付いてますね。」
「うふふ♪今の雅紀ちゃんって、ホントに半年前のあたしを見てるみたい。 そうねぇ・・・こんなウブな時期もあったのよねぇ・・・」そう言って、ため息を吐く奈緒先輩。
「・・・ねぇ先輩?ちょっと聞きたいんですけど・・・」
「どうしたの?マジな顔になって?あ!もしかして、自分が女としてやっていけるか、不安なんでしょ?」
図星だった。やっぱり「昔の自分を見てるみたい」というのは嘘ではないらしい。
「そりゃそうですよ。なんたって、僕は4日前までは男だったんですよ? いくら基礎訓練を受けたからって、いきなり女になって放り出されるってのは・・・」
「まぁ、最初はあたしも不安だったわ。ひょっとしたら男だってバレてひどい目に合わされるとか、セクハラされるとか、いろいろ悩んだものよ。
 でもね、それに耐えるのも『実地教化』の一環みたいなものだし、慣れればどうってことないわ。幸い、この会社の男の子達って、みんな紳士ばっかりだったし。
 むしろ、それが自分に向けられてるって意味を、良く考えてごらん?
 逆に言えば、自分はそれだけ魅力を持った女の子として認められてる、って事なのよ。」
ある意味おぞましい事を、目を輝かせながら言ってのける奈緒先輩。でも、今の彼女を見てるととても幸せそうで、僕はなんだか少しうらやましくなってきた。

「あ〜っ、だめだよ奈緒ちゃん、新人一人占めにしちゃ。」そう言いながら、ちょっと出来上がった風の先輩たちがやってきた。
「ねぇ雅紀ちゃん、いろいろ話したい事もあるんだけど、いいかな?」
「え!?い、いいですけど・・・やさしくして下さいね♪」
顔を赤らめながら、ちょっと冗談めかして言う僕。
「かっわい〜っ!!お姉さんも遊んであげたいわぁ(*^o^*)」
と言って、お局様風の先輩が抱きついてきた。
「雅紀ちゃんて、なんだか『守ってあげたい!』って気になるのよね。」
「そうそう。それでいて、笑顔を見てると心が洗われてくるようだしな。」
その言葉に恥ずかしさと、ちょっとの嬉しさをかみ締めていると、奈緒先輩がやってきた。
「かわいく見られるのって、なんだか楽しいでしょ?」
「先輩・・・僕・・・」
「ん?どうしたの?やっぱり気色悪い?」
「・・・なんだか自身が湧いてきました!!」
そう言うと、先輩は「ほら見てごらん」といった表情で、僕に笑いかけた。

その時の僕は、初めて「女である自分」を好きになり始めていた。
魅力的な存在でいる事って、こんな素敵なことだったんだ・・・。
 
 


ええいっ!こうなりゃ開き直りだっ!
どうせ魅力的になれるなら、
行き着くところまで女を磨いて、
もっともっとちやほやされてやる!!


 








今にして思えば、この時の決心に後悔していいやら、感謝していいやら・・・。
 
 

【 One-Way 後編に続く 】
 


97年12月 「BBS・ランナウェイ!!」にてデビュー。
98年 1月 「ネットの言霊」発表
98年 3月 「でゅある・まいんど」発表。
        「春樹くんのアンパランスな1440時間」発表。
98年 5月 風水師のアドバイスにより(嘘)、PNを「K-KADD」に変更。
98年 5月 「蒼い瞳の中へ」発表
98年 7月 「でゅあるまいんど」大幅加筆修正の上、再発表。
     8月より長い絶筆生活が続く。
99年 4月 言語学者のアドバイスにより(本当)、PNを「Kardy」に変更。

そして、99年6月・・・!
 

Kard 「つーわけで、どもm(__)m10ヶ月の絶筆生活にピリオドを打ち、見事に復活の大砲を打ち上げました
         「K−KADD」 改め 「Kardy」でございます。
         これでようやく作家としての名誉が回復出来そうです。」

雅紀 「なーにが名誉だよ。人をこんな目に合わしといてさ。」
Kard 「それは悪かったと思ってるよ。責任とって、必ず幸せにしてやるから・・・」
雅紀 「何が責任だ!男にそう言われると気持ち悪いんだよ、このヘボ作家!!」
    【雅紀の真空飛び膝蹴り炸裂】
Kard 「どぼげし!!・・・てめぇ!!作者に向かって何しやがる!!消すぞコラ!!」
雅紀 「自業自得だよ!!・・・ったく、ただでさえこっちはシャレにならない立場だってのに・・・」
Kard 「いいじゃん。たかだか1年間の辛抱だよ。
       それに、雅紀言ってたじゃん。もっと魅力的な女になってやる、って。」
雅紀 「!!・・・だ、だから、それは『どうせなら』って事で・・・その・・・違うんだ・・・」【赤面】
奈緒 「あらあら、恥ずかしがらなくてもいいのよ、雅紀ちゃん♪
       最近の雅紀ちゃんは、女の子でいることが楽しくて仕方ないのよね♪」
雅紀 「奈緒先輩までぇ・・・
        そ、そうだ!そんな事より僕、どうしてもKardyに聞きたい事があったんだ!」
Kard 「・・・うまく逃げやがったな・・・」
雅紀 「僕や奈緒先輩をこんな目に合わせた『大和撫子高等裁判所』って、一体何なの?」
奈緒 「あ、それあたしもKardy君に聞いてみたかったの。」
雅紀 「あれだけの女の子を一度に動員出来て、しかも本人に一切苦痛を与えずに、
     薬品だけで性転換しちゃうような科学力まで持ち合わせてるんだ。
     ちょっとやそっとの財団じゃぁ、賄いきれないよね。」
Kard 「うっ・・・さすがシステムエンジニア。細かい所までよく見てやがる・・・」
雅紀 「いくらあんたの世界とは言え、僕たちにだって人権ってものがあるんだからね。
     少なくとも僕には苦痛を与えた以上、あんたには、答える義務がある!」
奈緒 「確かに、ぽっと出すにしては大掛かりすぎるわよねぇ・・・」
Kard 「いや・・・実は・・・それが・・・その・・・なんだ・・・つまり・・・」
雅紀 「まさか・・・設定考えてないんじゃないだろうね!?」
Kard 「いや、原案はいろいろ考えてあるんだ。
     ただ、この作品って、『女の敵を女にしちゃう』って言う、結構不条理かつシリアスな内容だろ?」
雅紀 「確かに、一歩間違うとフェミニストに利用されがちだよね。」
Kard 「例えば国家の秘密プロジェクトとか、真○寺とか言う性転換萌えの科学者の仕業とか、
     挙げればたくさん出てくる。でも、それに下手に理由付けしちゃうとものすごく説教臭くなると思ったんだ。」
奈緒 「ちなみに、只今お聞き苦しい点がありましたことをお詫び申し上げます(ぺこ)」
Kard 「だったらいっそ、大高裁の正体は不明のままにしておいて、そういう機構が存在する事だけ示しておけばいい。
     むしろ役所だと法倫理がどうの、科学者だと人体実験は海の向こうからどうの、いろいろうるさいんだよ、最近は。」
雅紀 「まぁ・・・ただ女にしただけじゃなくて、戸籍まで用意出来るぐらいだから、
     ただの伊達や酔狂でやってるんじゃない、って事だけは確かだけどね。
     でも、今までのKardyの作風からは信じられないよね。」
Kard 「おまえねぇ・・・『男子3日合わざれば剋目して見るべし』って言うでしょ?」
雅紀 「えー、ぼくおんなのこだからわかんなぁい♪」
Kard 「お黙り。俺の場合、絶筆状態に入ってから10ヶ月だよ?
         しかも、その間に新しい作家さんたちがどんどん入って、新しい作風がガンガン生まれてるんだ。

         俺1人、いつまでも昔の自分にこだわり続けるわけに行かないの。」
雅紀 「な〜に『わたしゃこの間山篭もりでもしてました』みたいに悟ったこと言ってんだよ。
         自分が恐ろしく遅筆なだけだろ?」
奈緒 「そうよ。『キャリアパス』ネタはどうなったのか、去年の暮れに書き始めたって言う
     某シリーズの続編はどうなってるのか、きちんと説明すべきだと思うわ。」
Kard 「い、いや・・・まぁ・・・それは・・・ぼちぼち執筆中ってことで、ここは勘弁しておくんなせぇ」
雅紀 「ったく、書きかけのシリーズ放り出して新作書く癖、いい加減止めろよな・・・。
     ま、でもそのおかげで僕たちがこうして出られたから、それはそれでいいんだけどね。」
奈緒 「ところでKardy君?あたしたち、後編ではどうなるの?」
Kard 「これは基本的に雅紀の物語だから、奈緒さんはマイペースで生きててくれて構わないよ。」
奈緒 「まぁっ!それってキャラ差別だと思うわ。(--#)」
Kard 「まぁまぁ落ち着いて。分かったよ。特別に、奈緒さんにだけ教えてあげるから。」
    【後編の原稿をディスプレイに映すKardy】
奈緒 「あらっ!・・・まぁ!雅紀ちゃんたら!・・・うそぉっ!こんな・・・だって・・・これって・・・え〜っ!?」
雅紀 「ちょっと〜!僕にも見せてよぉ!」
Kard 「ダーメ。お子様にはショックが強すぎるよ。」
雅紀 「そんなぁ〜。僕にだけ意地悪しないでぇ。おねがぁい♪」
Kard (こ、こいつ・・・すっかり女の武器を手に入れやがった・・・)
     「しょうがない。一つだけ教えてやるよ。」
雅紀 「うんっ!」
Kard 「お前は、後編である人物に出会う。その人物こそ、お前がこれから・・・・・・」
雅紀 「ちょっと、どうしたの?その人物が僕にどうするの?」
奈緒 「だからね雅紀ちゃん、あなたとその素敵な・・・・が○○○な▽▽×でピィーッするのよ。」
雅紀 「先輩!?全然わかんないよぉ!
     先輩もKardyも、一体どうしちゃったのぉっ?」
Kard 「すまん雅紀、どうやら何者かがこのファイルに『うゐるす』を仕掛けたらしい。特定の単語に対するマスクトラップがかかってる。」
奈緒 「まぁそりゃ大変!早く逃げなきゃ!!」
    【Kardyと奈緒、水を得た魚のようにすたこら退散。】

「あぁっ、ちょっとぉっ!!・・・あぁ、行っちゃったよ・・・どうすんだよ、この後!
 ・・・あ、どうもお騒がせしました。
 One-Wayの後編は、6月中にアップの予定です。
 後編では・・・なんか、僕がすごいことになるらしいです。
 ほんのすこ〜しでいいですから、期待して待ってて下さいね♪
 以上、大原雅紀がお伝えしました(ぺこ)」
 



 
 

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