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果穂達のマンション。学校休みの日曜日。
「行ってきます」
果穂がよそ行きの格好で玄関を出ようとする。
水色の半袖ワンピース。白い帽子もかぶって涼しげな格好だ。
「気をつけてな」
「はい。明日は学校にまっすぐ行きますから」
同居している少女の見送りに笑顔で答える果穂。
今日は果穂は実家にお泊まり。果穂の父、紳二との約束で、月イチの恒例行事になっている。
「今日は早く出かけるんだな」
「最初に父の仕事場に寄っていきますから」
「あ、そうだ。これ持ってけよ」
そう言って手渡されたのはセロハンで可愛くラッピングされた小さな包み×2。
甘い香りが漂ってくる。
「昨日焼いたクッキーですか」
「親父さん喜ぶぞ。娘の手作りならなおさらだろ」
紳二の喜ぶ姿が容易に想像できるだけに、笑顔が引きつる果穂。
ドアノブに手をかける。
「邪魔はいませんから、彼氏とごゆっくり」
「な」
「じゃ、行ってきます」
顔を赤らめているルームメイトを後に、果穂が出かけていく。
梅雨に入ったにもかかわらず、今日も一日、いい天気になりそうな予感だった。



らいか大作戦・番外編1

〜果穂の6月第3日曜日〜

作:かわねぎ

画:南文堂 様



白鷺重工業(株)航空宇宙システム研究所。第3宇宙研究室群。
室長の庄司紳二は休日返上で研究室に詰めていた。
休日でガランとしているかと思いきや、紳二と同じ研究室の面々が何人か出てきている。
休憩室で紙コップ片手に、近くにいた男性の研究員に声をかける紳二。
「狭山君、今日は出てきても手当はつかんぞ」
狭山と呼ばれた研究員がしれっと答える。
「ええ。どうせ仕事はしないつもりですよ」
「じゃ、なんで来ている」
「いや、一目見たいんですよ。サブリーダーを」
「はぁ、そうなのか」
「今日来てる連中は、みんなそうですよ。水城さんに伊東さん。中堅以上の連中ばかりでしょう」
紳二が休憩室を見回すと、確かに若手の研究員はいない。
その時、休憩室備え付けの内線電話が鳴った。近くの研究員が電話を取る。
「庄司室長、警備室からですよ」
受話器を受け取る紳二のその表情はどことなく嬉しそうだ。
「ああ、私だ。そう、ロビーに通してくれ。今行くから」

ロビーにあるソファーに果穂が帽子を膝の上にのせ、座っていた。
見慣れた建物だが、5年ぶりと言う事と、今は客の身分である事が少し落ち着かない気持ちにしていた。
「航宙研ってこんなに広かったでしょうか……」
天井を見上げてつぶやく果穂。
男の時とは違い、果穂の背が低い事から来る錯覚なのだが、自分の視点が変わった事には意外と気づかないものだ。
しばらく待って、父親の紳二が現れた。
「よく来たな、果穂」
「仕事の邪魔になりませんか?」
「大丈夫。今日は休日だし、仕事はない」
果穂は視線がいくつか突き刺さるのを感じた。
「ん?」
見ると、ロビーの陰から、研究員が男女合わせて3人、果穂の方をうかがっていた。
果穂にとっては見知った人物だ。逆に向こうは果穂の事は知らないはずだが。
ちょっと引く果穂だが、研究員達のつぶやきが耳に入った。
(うそ、あれがサブリーダー?)
(かっわいいですね〜)
(後でフライヤーのプレゼンのモデルになってもらおうか)
(あ〜ん、私の妹にしたいな〜)
思わずそちらを指さしてしまう果穂。
「お父さん、あれ……」
「ああ。お前も知らん顔でもあるまい」
「もしかして、私の事、誠二だって……」
「悪い。ばれてしまった。すまん」
手を合わせて謝る紳二。何か異様な盛り上がりを見せるギャラリーに果穂の腰が引ける。
「わ、私、帰ります」
くるっとその場で回れ右。
紳二に腕を掴まれる果穂。心なしか、力が入っている。
少女の力では腕を振りきって逃げる事も出来ない。
「まあまあ、お父さんの職場見学だと思って」
「自分の前の前の職場くらい、十〜分知ってます」
「みんなも歓迎してるし、ゆっくりして行きなさい」
そのまま引きずられていく果穂。叫び声が虚しく研究棟にこだまする。
「少女監禁は罪が重いんですよ〜」

監禁現場、もとい、研究棟休憩室。
果穂の焼いたクッキーをつまみながら、和気あいあいとした雰囲気である。
ちなみにお茶なんて気の利いた物はなく、自動販売機で買った飲み物だ。
元部下達から注目を浴びる果穂。自分が少女になってしまった事を強く意識させられる。
普段の生活をしている分にはそんな機会がないので、つい、いつもより畏まってしまう。
「えっと、庄司果穂、5年生です。いつも父がお世話になってます……って、これで満足しました?」
自己紹介「させられた」果穂が、ふくれながらギャラリーに尋ねる。
「いや〜、『果穂ちゃん』とは初対面ですから〜」
「伊東さん……私は、かつての上長ですよ」
ちょっとにらみを利かせたつもりの果穂だが、帰って逆効果だった。
「怒った顔もかわいいです〜」
伊東と呼ばれた女性研究員の反応に、ため息をつく果穂。
研究員の、昔の部下の性格は知っていたつもりだったが、自分が興味の対象になったときの反応までは予想していなかった。
「この前コミケの時、ティンクルのれもんのコスプレでしたよね」
「小学校の先生って聞いたけど、小学生になっちゃったんですね〜」
「クッキー、上手ですね」
「女の子二人住まいは危ないよ。お姉さんとこ来ない?」
「とうとう願いが叶いましたね」
「眼鏡っ娘、好みだったんですよね〜」
研究員達が口々に果穂に質問というか好奇心からの言葉を投げつける。
初めはそれなりに対応していた果穂だが、それにも限界がある。
「あ〜、大体、なんで女の子になったってのに、すんなり受け入れるんですか」
机に両手をつき、立ち上がる果穂。それに対して研究室の面々は涼しい顔だ。
「だってなぁ、影のような宇宙人見たことあるし」
「この前は喋るハムスター見たし」
「魔法少女が〜杖にまたがって飛んでるのも見たし〜」
「大体、宇宙人の宇宙船修理したわよねぇ」
それぞれ体験した「超常現象」を口にする。
研究員の一言一言に思い当たる節のある果穂。何処かで聞いたような話ばかりだ。
多少の不思議な出来事には動じないようになっているようだった。
「だから〜サブリーダーが女の子に変わったって〜全然驚きませんよ〜」
「そうそう。可愛い女の子の方が似合ってますよ」
国内でも屈指の優秀な研究員が揃っている白鷺の航宙研。
優秀なだけあって、その感性もどことなくずれているようだ。
果穂は紳二の方に助けを求めるような目線を送ったが、肩をすくめるばかりだった。
彼にしてみれば、娘をかわいいと言ってもらえれば、何だっていいのである。
こうして、しばらくオモチャにされた果穂であった。


航宙研屋外試験施設、というかグラウンド。
果穂は髪を束ねて体操着に着替えている。さらにインカム付きのヘッドセットをつけている。
体操服はスパッツ姿で、果穂の小学校の物ではない。
「果穂ちゃ〜ん、準備できたよ〜」
伊東が果穂を手招きして、ある機械のそばに連れて行く。
それはパイプで組んだマッサージチェアというか、そう言った形の物体だった。
背中に当たる部分が、大きめの箱形になっている。
「フライヤーVer0.83β、いつでもOKです〜」
「サブリーダー、ここに座ってください」
伊東とは別の女性研究員が「フライヤー」と呼ぶ、それに座るように果穂に指示する。
言う通りにすると、手足と体をベルトで固定される。
「水城さん、体験飛行はいいんですけど……なんで小学生用の体操着があるんですか。しかも女子の」
「まあ、細かい事は気にしないでください」
「研究室の備品です〜。上期の予算で買いました〜」
呆れた表情になる果穂。
「だから、何で備品にそんな物があるんですか」
「予算通した人が約一名いるの」
そう言って紳二を指さす水城と伊東。
どうやら果穂狙いで最初から仕組まれた物らしい。
果穂のこめかみの辺りが引きつっているのは、髪を束ねたせいだけではないようだ。

狭山が、ノートパソコンの画面を果穂に示す。
「サブリーダー、一応目を通してください」
果穂も画面の数字や図面を追っていく。
「狭山さん、数値を変更してください。こことここ。コンマ3アップで」
「でもそれでは姿勢制御に回すパワーが……」
「私は伊東さんよりも体小さいですから。せっかくですから機動性を重視しましょう」
狭山はノートパソコンを叩きながら、果穂に指摘された部分を修正する。
「なんか、サブリーダーには実技試験をお願いしちゃったみたいですね」
「構いませんよ。せっかく動かすんですから、効率よくデータを取りましょう」
「そんな所は変わってませんね。いや、可愛い所だけ、変わりましたか」
微笑みで答える果穂。狭山の言うとおり、確かに可愛い笑顔ではある。
「狭山先輩〜、下がってくださいね〜。それでは始動します〜」
伊東が声をかけると、「フライヤー」が動き出す。
ホーバークラフトの原理を発展させ、圧搾空気で浮上する。その為、騒音も大きい。
研究員達との連絡はインカムを使用する事になる。
インカムから伊東の声がかかる。
『果穂ちゃ〜ん、浮上どうぞ〜。自由に飛んでみてくださいね〜』

果穂が「フライヤー」を軽く動かしてみる。
果穂の作った重力制御装置付きオーラスティックに比べると、自由度は限られるが、地球の技術ではなかなかの物だ。
「伊東さん、基本飛行はもういいでしょう」
『慣らし運転しなくても大丈夫ですか〜?』
「コツは掴みました。オペレートどうぞ」
『それじゃ、最高高度、更新しちゃてください〜』
インカムからの返事を聞くと、果穂は高度を更に上げる。
座ったままの空中散歩。なかなか快適だ。
それを見上げる紳二達研究メンバーの面々。
紳二がビデオを構えながら隣で見上げている水城に声をかける。
「果穂に楽しんでもらいたかったが、結局仕事になってしまったな」
「サブリーダーらしいですよ。そんな先輩だからみんなついてきたんですよ」
「果穂……誠二が抜けて、プロジェクトが遅れた物もあったからな」
「ええ。大損失ですよ。でも、可愛い姿を見たから帳消しにします」
そんな二人に、インカムをつけた伊東の声がかかる。
「室長〜、高度最高記録、出ました〜」
「ほう、やっぱり乗っているのが軽いからね」
「室長〜、どうせ私は重いですよ〜」
「そんな事言って無いんだが……」
紳二のつぶやきは無視して、伊東はインカムで果穂へ連絡する。
「果穂ちゃん〜、Dモード、いっちゃってください〜」

果穂が空中でレバーを操作すると、「フライヤー」が変形して、手足を包むようになる。
宇宙服を着ているかのような格好になるが、外装無しの試験機のため、骨組みだけで不格好だ。
「伊東さん、高速巡航試験開始します」
『どうぞ〜、データはいつでも記録OKです〜』
「では、行きます」
果穂は「フライヤー」の速度を上げる。と言っても、新オーラスティックほど速い物ではない。
「伊東さん、データ、これでいいですか?」
『速度も更新〜。いいデータ取れてますよ〜』
「それじゃ、軽く流してもどりますね」
『どうぞ〜』
果穂が敷地内の林をふと見下ろすと、何かきらりと光る物が見えた。
気のせいかとも思ったが、人影が林の間をさっと移動するのが視界の隅に入る。
「敷地内に私達のチーム以外に誰かいるんですか」
『今日は他の研究室は全休ですよ〜。誰もいないはずです〜』
「気のせいではないはずですが……」
果穂はわざと「フライヤー」を林から離してみる。
木の陰からさっと人影が動くのが見えた。
そちらに気を取られていると、インカムから伊東が催促している。
『どうしたんですか〜?』
「侵入者です。スパイか何かでしょうか」
『困りましたね〜、とりあえず戻ってください〜。室長指示です〜』
さほど困った様な口調ではないが、それは伊東の性格が出ている。
「いえ、林の中、ちょっと追ってみます」
『無理ですよ〜。小回りが利かないんですから〜』
「あと伊東さん、これからのデータはイレギュラーです。記録しないでください」
『え? どういうことですか〜?』
果穂はそれには答えず、空中でホバリングしたまま、胸の通信バッチを叩いた。
「オーラスティック転送!」
手にしたオーラスティックを両手で持ち、重力制御装置を作動させる。
同時に「フライヤー」の制御はオフにする。
「さて、鬼ごっこを始めますか」
そうつぶやき、林を目指しスピードを上げて降下する果穂だった。

木の枝が高速で果穂の頬をかすめる。
高度を上げると人影を見失い、枝にぶつかる恐れも多い。
枝が適度に剪定されている低高度が飛ぶのには適している。
その中で、果穂は確かに人影を認めた。
「やはり、いましたか」
オーラスティックによる飛行は「フライヤー」と比べて意志通りに行う事が出来る。
果穂に気づかれた侵入者は、オフロードバイクに跨り、タイヤを軋ませて走り出した。
「逃がしはしません」
バイクを追う果穂。
バイクも必死で飛ばしているが、路面の悪さのため、果穂に追いつかれるのは時間の問題だ。
侵入者は懐から何かを取り出し、後ろをさっと振り返り、果穂にその何かを向ける。
果穂の側をかすめたのは枝ではなくて弾丸。果穂の背に冷たい物が走る。
「っ……冗談でしょう……」
それと同時に冷静に対処法を考えつく。
オーラバリヤーは使えないが、戦闘服なら防弾チョッキの代わりにはなる。
「転送装着!」
次の瞬間、体操服から魔法少女風戦闘服に姿を変える。
侵入者が撃つ拳銃の弾を一発だけ脇腹に受けたが、軽いショックがあった程度ではじき返した。
戦闘服も果穂の自信作とはいえ、実際に銃弾を受けるのはあまり気持ちよい物ではない。
思わず脇腹を押さえて、追跡する相手をにらみつける。
「やってくれましたね」
滅多に怒らない果穂だが、少し頭に来たようだ。
果穂が平気で追い続けるので、侵入者は動揺を隠せない。
「おとなしくしてもらいましょうか。フライヤー再起動!」
オーラスティックの飛行をやめ、「フライヤー」でホバリングする果穂。
距離は引き離されるが、気にせずにスティックを構える。
オーラフェイザーを撃ち、黄色のオーラの光が侵入者の背を貫く。
侵入者が気絶したのを見て、再びオーラスティックによる飛行に切り替える。
実は、新オーラスティックの弱点がここである。
飛行と攻撃が同時に出来ない。
その為に補助武器として簡易オーラスティックも同時に開発した。
戦闘で主に攻撃を担当している少女は、飛行モードと武器モードを頻繁に切り替えて、自由落下や慣性による攻撃を上手く使っていたが、果穂にはちょっと真似できなかった。
果穂はバイクから侵入者を引きずるように持ち上げ、高度を上げる。
主を失ったバイクは、そのまま木にぶつかり、転倒した。


研究員達のいる所へ戻った果穂は、「フライヤー」に固定されているベルトを外してもらう。
魔法少女風の格好で地上に降り立つ果穂。みんなの視線が集中しているのが気になった。
「みんな、どうしたんですか?」
「サブリーダー、その格好……」
「果穂ちゃん〜かっわいいです〜」
「前に見た魔法少女って、サブリーダーだった訳ですか」
しまったという表情をする果穂だが、時既に遅し。
でも、飛んでいた魔法少女は果穂ではない。そう言っても聞く連中ではないだろうが。
「うん。体操服もいいが、魔法少女もいいな。可愛い娘は何着ても似合うな」
オーラスティックを使ったポーズを要求する紳二に、呆れて物も言えない果穂だった。

果穂の足元に放り投げた侵入者を、つんつん突きながら伊東が紳二に尋ねる。
「これ、どうするんですか〜」
「警備員に引き渡して事情聴取ってところかな」
そう言いながら、侵入者が着ている革のつなぎのジッパーを降ろす紳二。
狭山が懐から書類やPDAを取り出す。PDAはカメラ付きで、フライヤーのデータが記録されていた。
「押収。押収。たぶんフライヤーのデータは通信でホストに送った後だろうな」
「それじゃ〜、ホストをクラッキングします〜。へへへ。楽しみです〜」
「ウイルス送ってやれ。この前作った奴」
「β版ですから、身をもって動作チェックしてもらいましょう〜。果穂ちゃんいじめた罰です〜」
のほほんしている伊東だが、ハッカーとしての腕は一流である。
PDAを手に取り、ノートパソコンにつなぐ。
侵入者の持っていた携帯カードからのアクセスなので、進入の痕跡を隠さなくて済むから楽である。
果穂が狭山に一言付け加える。
「拳銃もあるはずですよ」
「うわ、ほんとだ。こいつはプロだね。サブリーダー、大丈夫でしたか」
少々顔が青ざめて、狭山が果穂に尋ねる。
「2、3発受けましたけど、この服だと大丈夫です」
「何、うちの可愛い果穂に銃を向けるとは言語道断。可愛い顔に傷が付いたらどうする。えい、えい、えい」
侵入者にげしげしと蹴りを入れる紳二。誰も止めには入らない。
それどころか、水城も一緒になって蹴りを入れている。
「そうよ。サブリーダーは私達の大事なマスコットなんですからね。うりうりうり」
水城の攻撃は股間に集中していたりもする。
その痛さを思うと、モノが無いのに思わずスカートの前を押さえる果穂。
「あ、サブリーダーもどうです?」
「や、やめときます……」
笑顔を引きつらせながら、果穂が答えた。
自分はいつ航宙研のマスコットになってしまったのだろうかと考えてしまう。
後で聞いた話だが、侵入者はライバル会社のスパイ。
とりあえず、不法侵入と銃刀法違反で逮捕。その時、全治1ヶ月の重傷だったそうである。
傷の原因はオーラフェイザーによる物ではなく、蹴られた外傷らしかった。


それはさておき、女子更衣室。
果穂は5年前は男性だったために入った事がないので、航宙研の中でも初めて入る場所だ。
果穂が入ると、水城と伊東がユニフォームから私服に着替えていた。
「果穂ちゃん、お疲れさまです〜」
「サブリーダー、着替えちゃうんですか」
「やっぱり、この格好で帰るのはまずいでしょう」
大人の女性が二人、着替えている脇で、果穂も着替えを始める。
元上司に下着姿を見せつけるような感じの水城だが、果穂は気にしない。
「サブリーダー、全然動じないんですね」
「もう私は女の子ですから。同性の裸見たって何てことありません」
「ちぇ。残念」
どうやら、果穂が慌てるのを期待していたようだ。
軽く受け流す果穂が一言付け加える。
「うふふ。あと肝心な事忘れてますよ」
「あ、サブリーダーの守備範囲は〜16歳以下でしたよね〜」
「そういう事です」
にこやかに答える果穂に、半ばジト目の水城。
「それじゃ、さぞかし学校は楽しい事でしょうね」
「ええ、もちろんです。周りは同じ年頃の女の子ですからね」
そう言って、ウインクする果穂。
「やっぱ果穂ちゃんは〜先生じゃなくて〜生徒があってますよ〜」
本当によく教師在任中に問題を起こさなかった物だ。
「果穂ちゃんって〜まだ胸小さいね〜」
「そう来ますか……まだ11歳ですよ」
「お姉さんほどになれるかしらね、サブリーダー」
「いいんですよこのままでも」
実は今の体型が気に入ってたりもする果穂。
「でも本当に可愛いですよね。すりすり」
「ちょ、ちょっと、水城さん」
「水城先輩〜、ずるいです〜。私も果穂ちゃんにすりすり〜」
「伊東さんまで……」
それから、三人が更衣室から出てくるのは、着替えるには長すぎる時間が過ぎた後だった。

航宙研玄関前。
狭山と紳二が待っていた。こちらも着替え終わっている。
「お前ら遅いぞ」
「ごめんなさい〜。ちょっとたてこんじゃって〜」
「何やってたんだか」
果穂を含む女性陣3人が戻ってきたのを見て、紳二がおもむろに口を開く。
「さて、今日はみんなで飲みに行くか」
「賛成ー。もちろんサブリーダーも一緒ですよね」
「私もですか? 飲めませんよ、この体じゃ」
「果穂ちゃん、ジュースでもいいんですよ〜」
「それじゃ、5人ね。予約入れときますか?」
ちょっと考えていた果穂が、携帯を開いて呑み屋に電話しようとする水城にお願いする。
「水城さん、リクエストいいですか?」
「何処か行きたい店あるんですか?」
「『こまどり』。久しぶりに煮込みが食べたいですね」
「渋いですね。いいですよ。番号は……っと」
「暗記してますよね」
「あそこならみんな覚えてますよ」

その日、このメンバーは居酒屋「こまどり」で遅くまで盛り上がった。
残念ながら小学生の果穂はお酒を飲めないが、料理は堪能できた。
煮込みは美味しく、ビールによく合う。はずだ。
果穂は試しにビールを一口飲んでみたが、苦さしか感じず、飲めなかった。
「にがっ……」
「果穂ちゃん〜、ビールにはまだ早いですよ〜」
「うむ、いかんぞ果穂。そんなに飲みたいなら家でこっそりな」
「味覚も子供になってるんですよ。よくこんな物飲んでましたね」
顔をしかめる果穂に笑い出す一同。
だが、果穂のお酌がみんなには好評だった。
果穂から「私のお酒、飲んでもらえないんですか」という表情で勧められると、つい杯を重ねてしまう面々だった。


夜。庄司家への帰り道。
程良く酔った紳二の腕を取りながら、「こまどり」から実家に戻る途中だ。
「果穂にお酌してもらえて嬉しかったな」
「本当は今日は私の手料理を食べて欲しかったんですけどね」
「それは残念だったな。まあ、こういうのもたまにはいいだろう」
「呑み屋は小学生には苦痛ですね。この体だとお酒を受け付けなくなりましたから」
「一緒に飲めるまで10年はかかるか」
果穂が紳二の手を離して、数歩前に出て、紳二の方へ振り返る。
「それまで、娘の成長を見守ってくださいね」
「成長して、嫁に出すのは嫌だぞ」
「『息子』の時は結婚しろとかうるさかった筈ですけど」
「娘の場合は話が別だ」
あくまで溺愛モードの紳二。酔って「娘よ」なんぞを歌い出さなければいいのだが。
「でも、いつものように土曜日に泊まればいいのに、なんで今回は日曜日なんだ。明日学校大変だろう」
「うふふ。今日は何の日か知ってますか?」
「ん? 何の日だ? 時の記念日は過ぎたし……」
首を傾げる紳二の腕を引っ張り、帰宅を促す果穂。
気が付かなければ、それでいい。
果穂の荷物に入っている、紳二へのプレゼントがより効果的になる。
同封のカードには「お父さんありがとう」のメッセージが添えられてあった。
今日は6月第3日曜日。夜道を仲の良い親娘が家路を急いでいた。




あとがき

 らいか大作戦、初の番外編です。果穂のお泊まりです。お泊まりと言うより、お父さんの職場見学、果穂の昔の職場紹介になってしまいましたが。少〜し時期がずれましたが、父の日記念と言う事で。お家で親孝行するはずが、居酒屋に行ってしまったし。ま、果穂ちゃんのある日の休日でした。





<おまけ>

「今日は出番がなかったな」
「え〜、冒頭でセリフがあっただけいいじゃない」
「でも名前出てないし、『ルームメイト』とか『戦闘担当』って言われてるんだぜ」
「それでも頼香ちゃんって分かるよ。私なんか全く出番無し……作者に私の番外編を書いてもらうように言ってくる!」
「次の番外編はもけって言ってたぞ、作者の奴。」
「ううっ、私って、ハムスター以下なの?」
「キャラクターの人気投票でもやってみると分かるかも知れないな」
「私、ふつーの女の子だからめちゃくちゃ不利だよ〜」
「俺とか果穂が普通じゃないって事か?」
「うん。だって、頼香ちゃんと果穂ちゃんって実はおと……」
「あわわわわ。(来栖、何で知ってる!)」
「……おとなっぽいでしょ」
「ふう、そっちか。来栖も人気あると思うけどなぁ」
「そう思う人は、kawanegi@hkg.odn.ne.jp まで『来栖ちゃんに一票』って書いて送ってね」
「<mailto>タグまで入れて……本気にしないように。それでは本編11話でお会いしましょう」
「またね」


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【文庫管理人より】
作品を読んで面白いと感じたら、ぜひとも何かメッセージを残していって下さい。
一言の簡単なメッセージでも結構です。

・「面白かった」「もっと続きが読みたい」といった感想
・「○○の出番を増やしてほしい」などお気に入りのキャラに対するコメント
・「△△さん、頑張って下さい」など、作者さんへの励ましの言葉

…などなど、御自由にお書き下さい。
ただし、誹謗中傷のようなコメントは御遠慮下さい。
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