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魔女っ子サンドロ

シンデレラ修業
「TS童話集」より


作:WATARU1024




1.昔話とサンドロの生活

 何故サンドロに母親がいないのかというと、サンドロが小さいときに魔女狩りにあってしまったらしいのです。
 それ以来、彼は魔女の子、魔女の子と、嫌われ、いじめられ、さげすまれて育つところだったのですが、何故か、彼をいじめようとする村の子供は皆、その前にけがをしてしまうのでした。お蔭でサンドロは一度も村でつらい思いはせずにすみました。ただし、少々敬遠されていましたので、淋しさだけは感じていたようです。
 そんな、子供の様子を不憫に思ったか、父親は街に出て商売を広げる事にしました。
 父親の商売は始めは順調に行っていました。
 ところが、やっと商売が軌道にのり、一息ついたところで、父親は騙されて大損害を受けてしまいました。ちょっと、油断していたのですね。
 それからは商売の運転資金に事欠く有り様で、いつ破産してもおかしくない状態が続きました。
 そんなとき、お金持ちの未亡人が現れて、父親の苦境を救ってくれたのでした。
 ただし、未亡人は、結婚を条件に援助をしてくれたのです。未亡人は取引先の知り合いで、以前から父親を気に入っていたようでした。
 サンドロの母親はその時には病気で死んだことになっていましたので、父親はその未亡人と再婚しました。
 一旦苦境から出れば商売は順調でした。
 商売は順調でしたが、父親の才覚で儲けを出しているのにも拘らず、未亡人は父親には自由になる金をわたしませんでした。
 父親の立場は夫というより、只で働く有能な番頭さんといった所でしょうか。
 「あたしのお金があったから、今のあなたがいるんじゃないの。そうでなけりゃ、今ごろは、その子と二人で首でも括っているかしらねぇ」
 二言目にはそう言って、夫とその子供をいじめるような女でした。
 父親も結婚するまでは、これほど阿漕な女とは知らなかったのですが、今さらながら、金目当てに結婚したことを後悔していたようです。
 そんな、針のむしろのような結婚生活が祟ったのでしょう。僅か数年の後、まだ働き盛りの歳で、父親は死んでしまいました。百パーセント過労死です。
 今なら、労働基準監督署が黙ってはいないでしょう。低賃金に過酷な労働、セクハラ、いじめ、何でもありだったのですから。
  さて此処までが親の話(長過ぎる?)。
 それから幼いサンドロ少年にどんな運命が待っていたのでしょうか?


 完全に商売を乗っ取ってしまった未亡人(再)は、サンドロ少年には、商売に携わることを許しませんでした。下手に商売を覚えて有能になっては独立されてしまうかも知れず、そんなことになっては商売敵が増えてしまうからです。
 結局、サンドロ少年は家の中で下働きとして、女中達に混じって働かされることになったのです。さすがに、家から追い出すのは外聞が悪いと憚られたようですね。彼の寝場所はお決まりの屋根裏部屋です。もしそこそこの広さがあるなら快適なのかも知れませんが、この家の屋根裏部屋ときたら、立って歩くのが困難で、狭くて風通しも悪かったのです。もともとあった、広い屋根裏を改めて二層にして、下を物置に、上をサンドロ部屋にしたという代物だったのです。ここで快適に過ごせるのはサンドロの友達の二匹のネズミだけでした。
 「おーいサンドロ」
 「サンドロってば遅いわよ」
 未亡人には最初の結婚で出来た子供が二人おりました。
 サンドロより年上の男の子マルコと年下の女の子マリアです。
 二人とも、義理の兄弟に当たるサンドロ少年を、召使としか思っていませんでした。そして二人とも、あの未亡人の子供に相応しく、意地悪で我儘で自分勝手でいい加減でした。三歩歩いた途端に、今言いつけた事とは反対のことを言いつけたり、言いつけたことを忘れたり、とてもすぐには出来ないことを言いつけては遅いと言ってイビる。そんな子供たちだったのです。お蔭でサンドロは、二日に三度は飯抜きと言われました。まあ大抵は、使用人仲間(?)が、未亡人やその子供たちが寝んでから、何か食べるものを持ってきてくれたのですが。
 サンドロの気晴らしといえば、眠る前にネズミの一郎君、次郎君と遊ぶひとときくらいのものでした。二匹のネズミは昔からサンドロの側にいましたから、まるで兄弟のように懐いています。ネズミの割に二匹とも随分長生きです(ってレベルかい!)。
 他の人々が気味悪がるので、決して人前にはネズミ達は出てきません。伊達に長生きしているわけではなく、二匹は相応に賢いネズミでした。


 今日もサンドロは使用人と一緒に雑用に追われています。彼は広い広間を明るいうちに一人で綺麗にするようにと言われているのです。そう言いつけられたのは午後になってからで、とても、サンドロ一人で陽が沈むまでに綺麗に出来るわけがありません。
 「ちぇ、マルコもマリアも、めかし込んで出掛けやがって。その性格の悪さがそのまま出てるってのに、美男美女気取りで笑っちゃうよな」
 思わず愚痴が出ました。いつも、いつも、むちゃくちゃな言いつけに腹を立てているサンドロでしたが、特に今日は楽しそうなイベントがあったのです。怒りで思わずモップを持つ手に力が入り、床を綺麗にしてしまいます。
 「王子様も参加するネルトンパーティー(舞踏会)かー、奇麗な彼女達がくるんだろうなー。いーなー、ぼくも参加したいなあー」
 独り言を自分で聞いて、ますます腹が立ってきます。床もますます綺麗です。
 「あー、なんだよチクショー。きたねーなー。招待されているのは、この家の家族なのに、ぼくだけ留守番。招待状不要の一般市民参加オッケーのパーティーだってあるのに、これじゃあなー」
 と、言いながら自分の姿に眼を落します。くたびれた靴に、大きなツギを当てたズボン、シャツにはアイロンも当ててない、上着は小さくて着られない。
 「マルコの服じゃぼくには小さいし、父さんの服は処分されちゃっているし、掃除はオワん無いし」
 溜め息が出ます。
 その時、誰かの声がしました。
 「ごめんなさい」
 玄関ホールに突然現れたのは、イカした年増のお姐さんでした。豊かな黒髪と艶やかな顔立ちで、村に居たら、三日で魔女狩りがやってきそうなセクシーさです。宝石で飾られた首もとも、黒いドレスも、黒い靴も全てがキラキラと輝いています。
 真っ白な肌は、しっとりと熟した女の色香に満ちていました。
 色気たっぷりの美女はここがサンドロの父親の家であったことを確認すると、突然サンドロを抱きしめました。
 「探したわよ、サンドロ! あなたがサンドロね。すっかり、大きくなったわ、うふ、当たり前ね。あたしが知っているサンドロは、三歳になったばかりのままなんだもの」
 「あ、あの、どなたでしょうか?」
 「あたし? あたしはあなたのママよ」
 「はい?」


2.母様は魔女!

 色々話してみると色気たっぷりの美女は本当にサンドロの母親のようでした。
 「どうして、今まで姿を見せなかったの?」
 「一緒には暮らせなかったの、だって、魔女だもの」
 「えっ! 母さんって、ほんとうに魔女だったの!」
 「そうよー、でなかったら、とっくに殺されてるわよ」
 「まあ、その、ぼくも父さんもそう思ってたんだけど」
 「やー、まいったわ、ほんと。箒にのって飛んでるとこ、村の司祭に見られちゃってさー」
 「母さんて、もしかしてドジなんですか」
 「なに言ってんのよー。ちょっと天然入ってるだけよー」
 「って、自分で言いますか、フツー?」


 彼女は村を出た後、ほとぼりが冷めるまで外国に行っていたのです。なんでも、親戚があちこちにいるみたいで、気楽にいくらでも遊んでいられるのです。
 魔女の一族と言うわけで、「そりゃ楽しいでしょうね」と、溜め息とともにサンドロは思いました。
 で、久しぶりに亭主の所へ戻って、懇ろによろしくやろうと思ったら、いとしい相手は墓の下というわけだったのです。これには母親もビックリしました。しかも女房づらした変な女が居ると言う話が耳に入りました。
 それを聞いて、母親は慌てて駆けつけて来たと言うのです。
 愛しいサンドロはどうしているの?
 こちらへ来る途中、胸の中はその想いで一杯でした。
 そう思うくらいなら、もっと早くに帰ってくれば良いと思うのですが。
 「一郎君と次郎君をつけておいたから、てっきり安心してたんだけどねぇ」
 これも驚きです。あまりに長生きなのでサンドロも変だとは思っていたのですが、あのネズミは母親がサンドロに付き添わせたものだったのです。
 母親の魔女は「やっぱり、付けた時は赤んぼだったから駄目なのかしら」とか、なんとか呟いてから気を取り直して言いました。
 「とにかく! これからは楽させてあげるからさ。なんでも言いなさい。大抵のことはかなえてあげる。
 その、パパの新しい女は殺しちゃうとして、息子らは異国の奴隷商人にでも売っ飛ばそうかしらね」
 「そんな、やりすぎだよ。なにも、殺さなくってもいいじゃないの。奴隷も無し」
 「そーおー? その女に関しては、あたしがむかついてルンだからイイのよ。アンタには、街一番の美女を添わせてあげる。って、それはあたしじゃないの。ダメダメ、いくらなんでも親子じゃダメよー。街で二番目の美女ということになるわねー。それで手を打ちなさい。今夜にでもさらって来て、あ、げ、る!」
 「それもいいですよー。なんか母さんって、随分むちゃくちゃだなー」
 「そーんな事ないわよー。あたし一族の中じゃ常識的で通ってんのよ」
 「凄い一族なんですね」
 「こんど、お祖母ちゃんやオバさん達に会わせてあげる。
 ところでさ、アンタ、舞踏会に行きたいの?」
 「え、どうしてそれを?」
 「さっき大声でわめいてたわよ。で、行きたいの?」
 「あ、はい。行きたいです」
 「ふーん。あんた、綺麗な女の子好きなの?」
 「もちろん! びしっときめて綺麗な女の子となー、こうイイ具合になって、ついでにうまいものも食べて」
 「そうかー。奇麗な女の子好きかー。うん、うん、さすがあたしの子ねぇ」
 「母さん、なんか変だよ。誤解してない?」
 「大丈夫、ダイジョーブ。
 まあ、今日はあたしも、そんなに忙しくはないんだ。ここらで一発、気合い入れますか。そーれ!」
 母の掛け声とともにサンドロは意識を失なくしてしまいました。


 意識が戻ると、サンドロはいつの間にか長イスに腰掛けている事に気がつきました。少しボーっとして、何やら身体中が変な感じです。
 「じゃ、そう言うわけで、疲れちゃったから、あたし帰るわ。あとは一郎君にでも聞いて。またすぐ会えるわよ、じゃあね」
 引き上げる母親がそう言い置くのを耳にして、サンドロはようやく我に帰り、状況を認識しました。
 彼は大変なことになっていました。
 「って、えっ! これって、ドレスじゃないか!
 えっ! コルセットが、苦しいような気持ちいいようなって、こんなに腰が細いー、って胸まである! なんだー? あっ、ないっ! ナニが無いー!」
 呆然自失となり、そのまま何分も固まっていると、やがて声が掛かりました。
 「お嬢様。支度が出来ましたので、お迎えに上がりました。わたくしは一郎です」
 おどろくサンドロの前に、立派な家の奉公人、従僕といった格好の者が現れました。サンドロはパニックになりながらも、その風情になにやら見覚えがあるのを感じました。そして、母の言葉を想いだしたのです。
 「一郎君って、もしかして、ネズミの一郎君?」
 「はい、いつもお世話になっています。こっちは次郎です」
 「いつもお世話になっています。次郎です、よろしく」
 「あ、こちらこそ」


3.舞踏会

 サンドロは母親の仕業にちょっとびっくりしましたが、結局、楽しめればいいやと言う気持ちになりました。そして能天気にねるとんパーティー(舞踏会)へ出掛けることにしました。
 貴族の姫さまのような格好で、馬車に揺られながらサンドロは考えます。
 (女の姿の方が女の子たちの素顔が見られるじゃん。今日のところは好みの女の子に目星を付けることにして、お友達になっておく手だな。あとはうまいものを飲み食いしてと……)
 どこまでも、お気楽な構えでした。

 サンドロ、改めサンドラは舞踏会の会場へ、本物(?)の招待状を持って、一郎君のエスコートで入場します。入場したところで、紹介があり、さっそく彼女の周りにお坊ちゃまたちが集まりました。そこで一郎君は下がります。
 パーティーは盛況でした。一部すでにカップルが出来上がっている様でしたが、まだまだ、ダンスも料理もこれからが本番のようでした。
 サンドラはお坊ちゃまたちの問い掛けにいいかげんに首肯きながら、料理へまっしぐらです。何はともあれ、腹ごしらえと思っていたのです。
 おいしい食べ物を元気よく食べていると、周りの男達が目を丸くします。
 王子もその一人です。
 そうです、サンドラを取り巻く男達の輪の中に、いつのまにか、本日のパーティーの本当の本物の主役である王子様が加わっていたのでした。
 サンドラの眼は料理と、ちょっと離れたところからサンドラを睨んでいる娘たちに向かっていたので、男達にはたいして注意を払っていませんでした。
 「素晴らしい食べっぷりですね」
 王子様がサンドラに声を掛けました。向かい側では、それを見た女の子たちのうちの何人かが悲鳴をあげて倒れます。
 「いやーこれ、おいしいですねー。もう腹減って腹減って堪らなかったもんだから、いくらでも食べちゃう感じ」
 長い間の粗食の反動で、サンドラには強烈な食欲が湧いていました。
 「踊っていただけますか」
 「これ食べちゃったらでよければ」
 「もちろん」


 「我が領内にこれほど美しい方が居るとは感嘆を禁じえません」
 「ほー、そうですか、はあ、はい、はいっと」
 「……」
 「はい、はい、っと……」
 王子が何を言ってもろくに耳に入れず、次に何を食べようかと考えているサンドラでした。視線も周囲で踊っている奇麗な女の子たちの間を行ったり来たり。
 (あ、あのこイイ感じ。どこの子だろ、今度デートに誘えないかな。あ、あっちの子もいいなぁ、可愛い。あ、あのお貴族様、手癖わるー、よくやるよ。次は何もらおうかなぁ、あ、あのパイなんかおいしそうだったな)
 なんて調子。
 ですから、口から出てくるのは適当な相槌だけです。
 それが、思わぬ事態を招くことになりました。
 「姫君、きっとそう言ってくれると信じていました。一目あなたを見たときから、私の心は自分の運命に気付いたのです」
 「……え?、ナニ?」
 「約束の印ですよ」
 王子の唇が、振り向いたサンドラの唇をしっかりとふさいでいました。


 「あー、ビックラこいた。何なんだよ、あの王子。随分かわった趣味してんよなー。まあ、いいか。あー、美味しいー。も、さーいこう」
 ようやく一旦、王子から解放されたサンドラは一息ついて、今まで呑んだこともない美味しいシャンパンで、咽喉を潤していました。
 一郎君が物陰から、声を掛けてきました。
 「サンドラ様、サンドラ様」
 「ん、んん? アレ、一郎君、何?」
 「もうすぐ真夜中です。そろそろ帰らないと、変身が解けてしまいますよ」
 「へ? なんの話?」
 「帰る時間です」
 「そうじゃなくて、パーティーは朝までなんだけど、なに?」
 「あなたがその姿なのは、真夜中の十二時までナンですよ。聞いてませんでしたか?」
 「聞いてないよ! なにそれ。ま、いいけど。つまり、十二時過ぎれば男に戻るんだろ」
 「まあ、そうですけど」
 「って、服もそうなのか。あの格好じゃつまみ出されるのがオチだな、じゃ、帰るか」
 「サンドラ」
 後ろから声が掛かったので振り向くと、王子が戻って来ています。
 「殿下」
 サンドラは王子がなにかを言うより先に、帰宅の意志を告げました。
 しかしその時、無情にも十二時の鐘が響きます。
 「ぐえっ」
 急に胸や腰が苦しくなって、サンドロはうめき声をあげてしまいました。
 どんどん、身体が変化してしいるようです。
 「どうしました」
 王子が心配そうな声を掛けます。
 「なんでもありません、失礼いたします!」
 ほとんど、悲鳴のように声を出すと、サンドラは踵を返して駆け出しました。
 「サンドラ!」
 王子は呆然として、後に残されていました。


 一郎君とともに馬車に辿り着いたサンドラ、もといサンドロはようやく一息つくことが出来ました。
 「何で! 僕だけ元に戻って、服はそのままなんだよ!」
 声がかすれています。
 「服は完全に変化してますから、元に戻すなら、もう一度別な魔法を掛ける必要があります。あなた自身は、一時的に変身しているだけでしたから。
 母上に頼めば元に戻らないように完全に女性にしてもらえますよ」
 訳知り顔の一郎君が答えます。
 「だれが頼むか! と、とにかく、こいつを緩めてくれ!」
 いくら何でも細身の女性のウェストサイズでは、サンドロの男の身体には拷問同然だったのです。しかも、腹の中は喰うだけ喰った料理で一杯、息をするのも困難なようです。
 「少し食べ過ぎですね」
 「サンドロ様は何でまた、十二時過ぎまで残ってたんだ、女装の男って、宮廷で今流行りなのかな」
 暢気に次郎君が聞いてきます。
 「何でもイイから、早く馬車をだせ!」
 サンドロは一言いうのがやっとでした。
 その時やっと、彼は頭の髪飾りと靴の片方が無いことに気がつきました。
 髪飾りは髪の長さが元に戻って髪型が変化した時に落ちたのでしょう。可愛らしいミュールタイプの靴は走るために手に持っていたのですが、途中で片方だけ落したようです。たとえ落さなくても、これではどうせ履けません。
 「あーあ、明日から何履きゃいいんだ」
 サンドロには代わりの靴なんかなかったのです。


4.シンデレラの靴

 「おはようー、サンドロいるー」
 舞踏会の翌日のこと、そろそろ昼になろうとする頃です。たまたま出掛けようとしていた未亡人が、その年増のお姐さんを迎えることになりました。きらびやかな黒ずくめの衣装が昼の光に似合わない、妖しい風情を漂わせています。
 「何ですかあなたは」
 「ああ、アタシ? アタシはアンタの亭主の元女房。って事はあんたは元愛人てことね、離婚した覚えはないんだから。間違って相続した財産は返してもらうわよン」
 「何言ってんの、あんた頭おかいしいんじゃない? 出ていきなさい!」
 「出て行くのはアンタよ。それともガマガエルにでもなってみる?」
 「何ですって、このアマ! サンドロ、サンドロ、この女を叩き出して!」
 「あ、母さん」
 「何ですって!」
 「ああ、義母上どの、こちら僕の母さんです。母さん、ちょっと待って、昨夜は散々だったんだからね」
 「あら、一郎君と次郎君が一緒だったんでしょ」
 「カンケーないよ!」
 「あんたたち、いったいなんなの!」


 未亡人(仮)と、二人の子供たちは、あっさり叩き出されてしまいました。
 家の使用人たちも、誰も助けてはくれません。明らかな負け組にいまさら肩入れするほどの義理は感じてないのでしょう。もともとサンドロに同情していた人もいたようです。
 その後、未亡人(仮)がヒキガエルになったかどうかは知りませんが、街で彼女を見かけた人はいないようです。
 二人の子供たちについては外国へ向かう船の船倉で見かけたという人もいましたが、確かな行方は誰も知りません。


 「一郎君と次郎君は?」
 二匹のネズミが駆けてきました。夜が明けると、一郎君と次郎君は元のネズミの姿に戻っていたのです。
 「ご主人様、この一郎、たしかにお役目果たしましたぞ」
 「私も果たしましたぞ、ご主人様」
 ちいさな口で二匹が応えます。
 ネズミがしゃべっているなんて、なんか変。とサンドロは思いました。
 口調は昨夜の二人と全く一緒です。確かにあの二人だったのです。人間の姿からネズミに戻るところは一瞬で、サンドロには何が何だか解りませんでした。そして続く衝撃的体験に疲れ果て、ドレスを脱ぐと彼はそのまま寝てしまったのです。
 朝、目が覚めてみると全ては夢かと思われましたが、目の前には昨夜着ていたドレスがあったのです。
 「君たち元からしゃべれたのかい」
 サンドロは思わずネズミたちにそう尋ねていました。
 「いえ、ご主人様に昨夜、人間にしていただいてから、しゃべれるようになりました」
 一郎君が澄ました声で答えます。
 「あ、そう」
 「それで、昨夜は楽しかった?」
 「そうじゃなくて!」
 「何、慌ててるのよ。せっかちねぇ」
 「とにかく、今なんか大変なんだってば」
 街は騒然としていました。王太子殿下の婚約者が誘拐されたとか、失踪したとか、刺客に襲われて実家に帰ったとか、様々な噂になっていたのです。
 サンドロが説明すると、魔女の母は嬉しそうに応えました。
 「あ、そういうこと。じゃ、マアかして、チョーだい!」
 って、あんたヨシモトかい!


 「あう、あう」
 「あんもう、慣れないことを続けてするから疲れちゃったじゃない。やっぱり昼間から出掛けてくるものじゃないわね。あたし帰るわ。あ、なんか用事があるなら、一郎君か次郎君に言付けてね、じゃ、結婚式には出るから席とっといてよ」
 「母さん! 違うんだってば」
 慌てて通りへ飛び出したサンドラ(!)の目に映ったのは、宮廷からやってきた使者たちの姿です。
 魔女である母の姿はすでにどこにもありませんでした。


 「たしかにこの方に見覚えがあります」
 「お部屋にもう片方の靴がありました!」
 「おお!」
 それは使者の持参した右足分の靴と対になる左足分の靴。華奢なミュールタイプの、刺繍飾りの付いた美しい靴でした。


 早くも探していた娘は見つかり、髪飾りを握り締めている王子様のところへ連れてゆかれました。


 「う、あのこれには事情が」
 サンドラは何度か事情を説明しようと思いました。
 「あの、実は母が……」
 しかし、それ以上本当のことは言えませんでした。
 (う、言えない。言ったら、僕が火炙りになっちゃよ。母さんと違って僕は魔女じゃないんだから、火炙りになったら死んじゃうじゃないか)
 「と、とにかく、僕は男です!」


 「殿下、この娘は紛う方なく女性であり、処女であります。このことは我々が保証いたします」
 白髭に顔を埋めて枯れ果てたような御典医は、王子を始めとする関係者各位に厳かに告げました。
 「うむ。もちろん疑いもしなかったよ、ありがとう」
 中でも一番嬉しそうに御典医の言葉を聞いた王子が、その場の皆を代表して答えます。
 (うわー! だ、駄目だー! い、一郎君はどこ? じ、次郎君は?)
 二匹のネズミはあの屋根裏部屋でのんびり寝息を立てていました。


 そして結婚した二人は末長く幸せに暮らしましたとさ。


おしまい








って、本当かよ!



本当に[ 完 ]



<後書き>
1 TS童話集第二弾! 【TS版シンデレラ】は如何でした? (もちろん、第一弾は【TS版眠り姫】です)
2 ほのぼのシュールを目指したのですが、楽しんでいただけたでしょうか?
3 TS版眠り姫の様なショートショートを考えていたんですが、どうしても、シンプルかつコンパクトにまとめることが出来ず、かくあいなりました。
4 次ぎは、何にしようかな。誰かリクエストありませんか?

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