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「眠り姫」のTSな旅立ち

作:WATARU1024



 白馬に乗った王子は呪いの掛かった茨の森を抜け、静まり返った城にたどりつきました。
 彼の目的地は世にも稀なる美しさで名高い姫君の寝室です。
 城内は凍り付いたかのように静かでした。
 そして、ついに王子は目指す姫君に辿り着きました。



「おお、美しい方、あなたを目覚めさせたのは、このワタクシです。
 呪いは解けたのです」
 純白の褥には破瓜の印が鮮やかに残されていました。
「なにしやがんだ! お、俺は男だー!」
 目覚めた瞬間に、状況を理解した姫君は王子の顔面に右ストレートを叩き込みます。

 ボグッ!

「はぐぇっ」
 踏みつぶされた蛙のような声を出して、王子が姫君の上に倒れ込みます。
 そうです。全然呪いは解けていないのです。
「どけ、バカ!」
 世にも稀なる美しき姫君は、自分を目覚めさせた王子を蹴倒すと、目に付いたガウンを肩に掛け、ドレスの前を合わせながら、部屋を飛び出しました。
「父上! 母上!」
 そこは、王と王妃の居室でした。
「ああ、そなたは我が王子ですね」
 恰幅のいい、中年の紳士が豪勢な寝台から、少し女性的な調子で答えました。
「一体、誰がそなたを目覚めさせたのだ」
 駆け込んできた姫君によく似た、年配のそれでも美しい婦人がその横から、威厳に溢れた口調で尋ねました。
「ふ、ふ、ふ、それはワタクシです」
 姫君の後を追いかけてきた王子が、姫君の後ろから、彼女の肩に手を回しながらそう答えたのです。
「俺にさわるんじゃねー!」

 ボグゥッ!!

 姫君の鋭い右フックが王子の左頬を捕らえました。彼は勢いよく壁に叩きつけられます。それでも、それほど堪えてはいないようでした。
「ハニー。そんなに照れてはいけませんよ。ワタクシはもう、あなたの夫同然ではないですか」
 口と鼻から紅い汁を流しながらも、そう話しているので解ります。
「うるせー! てめえのせいで、テメエの所為で! 男に戻れなくなっただろうが!」
 そうです。魔女の呪いは何段階にもなっている罠の様なものだったのです。



「そうか、此奴の所為で我らはこの姿のまま、目覚めたのだな」
 上品な美しい中年の婦人が寝台から出て、姫君の方へ歩みながら言いました。
「陛下、大変です!」
 そこへ、若い侍女姿の娘が駆け込んで来ました。
「判っておる。諸悪の根源は此奴だ」
 婦人が答えました。この方は国王陛下だったのです。
 そして、若い侍女は小姓でした。とすると、中年の紳士は王妃様、駆け込んできた姫君はこの城のたったひとりの世継ぎの王子様だったのです。
 本当の諸悪の根源は魔女なのですが、怒りに我を忘れた王や王妃、姫君達にそんな道理は通じやしません。
「城の全員が呪いを解かれぬまま目を覚まされております」
「それだけではない。此奴は、わが世継ぎの王子を二度と女を抱けぬ身にしてくれた」
 女王のように威厳を溢れさせた王は侍女姿の小姓にそう答えました。
「なんと!」
そう言っている間にも、部屋には侍女姿の小姓や侍従、侍従や小姓姿の侍女たちが集まって来ていました。
それ以外にも、美しく着飾った善男善女も何人か姿を見せておりました。おそらく城にいた、貴族の方々でしょう。
「おいたわしや、殿下」
 その中の一人の婦人姿の伯爵がそう言葉を漏らします。
「みなさん、魔女の呪いを解き、この城中を目覚めさせたのはワタクシです。私の姫君への愛が魔女の呪いを打ち破ったからです!」
 まだ、鼻から出ている紅い汁は止まっていないようです。段々腫れてくる頬をさらして、王子はそう言いました。
「「「貴様の所為か!」」」
 部屋に集まっていた全ての人々が王子に殺到します。
「は、は、は、みなさん、そんなに喜んで貰えて……」

 ボグゥッ! ドゲイン! ブシャァ!

「ぐえっ! ハウっ! ぼげぇ……」
 聞くに耐えない音が部屋に響きました。王子の合の手もいつの間にか聞こえません。
 どうやら途中で気を失ったようです。
 王も王妃も姫君も、途中までは一緒に参加していたのか、息を切らせていました。



 気を失っていた王子が目を覚ますと。そこは、豪華な天蓋付きの寝台の上でした。
 あちこち痛みはありましたが、骨にまでは異状はないようです。
「打ち身の痣や擦り傷程度はたくさんありますが、骨や内蔵は無事ですな。なんとも丈夫な方で」
 彼の上に屈み込んで、あちこち様子を見ていた老婦人がそう言いました。この老婦人は侍医だったのです。
「ふ、当然だ、鍛え方が違う」
「おや、目覚めましたか。では王妃様」
 侍医が外見上は王様にしか見えない、威厳に満ちた王妃様に声を掛けました。
「御苦労でした。さて、覚悟はよろしいか、不法侵入の曲者殿」
 気が付けば、周囲には先ほど彼をタコ殴りしてくれた連中が全員そろっているようでした。
「何ですかな皆さん、改めてのお礼などワタクシには必要ありませんよ」
「そちらになくとも、私たちにはあるのです。よろしいわね」
「貴様も、魔女の呪いを受けて、我らのようになったのだ。今度はわが王子と同じ目にあって貰おう」
 外見上は女王様にしか見えない王様が声を掛けました。
 そうです。それまで本人は全く気が付いていませんでしたが、王子は王子では無く、お姫さまになっていたのです。
「てめえにも、地獄をみせてやるぜ」
 がらの悪い姫君にしか見えませんでしたが、この城の王子様です。
「破瓜の気分を味わって、二度と男には戻れない、解けない呪いに掛かってもらおう。妃よやるがいい」
「仰せのままに」
「え! え! えー!」



 そして、全く事態を理解しないまま、王子は「女」になりました。



[ 完 ]























<後書き> 眠り姫:元男。
つまり、城の善男善女はすべて、魔女の呪いで男は女に、女は男に変身していた。

そして、魔女の呪いを半端に解いてしまった王子は恨まれる。
無知で半端な善意は恨まれると言う話。

一気に書いて(打ち込んで)しまって。
二時間弱かな。我ながら変だ。
寝起きに思いついたまま、作ってしまいました。
長いものばかり書いていると、ある日唐突に、こんなのを書きたくなるようです。
ナニのシーンをこってりと書けばそのまま、18禁ですネェ。くわばら、くわばら(鶴亀、鶴亀)。 いつものとは違った雰囲気で、楽しんで貰えればオッケーです。
2000.05.12記

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