戻る

R.B.「永遠の命」へ

レンタルボディの時代


作:WATARU1024





「ではサインを」
 女が老人を促すが、老人はまだ躊躇いを止められなかった。
「あなたの養子として、新しい身体を持ったあなたに、全財産を受け渡すことになっています、それとも『貧乏な町娘A子さん』の方がイイですか」
「うむ、本当に、RBとは解らないんだろうな」
「大丈夫です。この身体ですよ。ちゃんと戸籍も本物ですし、あなたのところの医師の診察も受けました。報告書は読んでいただけましたよね」
「もちろんだ。だが、本当に長生きできるかどうかはワカランとも言っていたぞ」
 本来の取り引き相手である、謎の青年から提出された論文は、老人にはまるで理解出来なかった。用意されたボディと霊体に何か特殊な処置を施すらしい。分析と検証を極秘に依頼した学者は、確証はないが可能性はあると言っていた。

「この理論が正しいならば、確かに霊体のテロメアをリセットすることが可能と思われますが、我々のところでは非合法な実験は出来かねますので、検証は出来ません」

 そう言っていたのだ。
 可能性はある。
「どちらにせよ、そのまま死ぬか、大金持ちの若い女として若さを満喫して死ぬかの選択です。運がよければそのまま、あと六十年生きられる。どうです。こんなに条件のいい闇ボディなんて、これが最後の機会かも知れませんよ。こちらでも、戸籍のあるものを用意するのは難しいことなんです。諦めるなら今のうちですが。別の顧客が待っていますから、わたしもあまりのんびりしていたくはないんですよ」
「う、む、解った、弁護士を呼んでくれ」
 ついに肚を決めたようだ。弁護士が呼ばれ、ようやく老人が契約書をはじめとする関係書類にサインをした。それを横から弁護士が確認していく。

「では、いいですか」
 白衣を着た背の高い青年が、老人を促した。
 手術着のようなものを着た老人は、水槽のなかに全裸で横たわっている若い女の肉体に見入っていた。
 その肉体は、老人が契約書にサインをした時その前に立っていた、あの女のものに違いなかった。
「これが、今日からわたしの身体になるのか」
「そうです。目が覚めたら、あなたは若い娘ですよ。ケド、いくら若返ったからって、無理はしないで下さい。馴染むまでは出来るだけ安静にね」
 声に少し苛立たしげな響きが滲んでいた。
「わかっている」

 意識が戻ると、元老人は全ての感覚が違うことに気がついた。
「おお、いい、いいぞー。身体が軽い!」
 身体を起こし、自分の身体を隅々まで確認していく。
「これが若い身体か。……女の身体だ。このまま、百年でも二百年でも生きていけそうだ!」
側に立っていた青年が、声を掛けた。
「具合の悪いところは無いですね」
 声を掛けられて女は初めて青年の存在に気がついた様だった。
「あ? ああ。いたのか、先生。いや無い、大変結構だ」
「サインしますか」
「ああ、弁護士を呼んでくれ」

 弁護士にキーワードを告げ、弁護士がそれを認めると、彼女の前に書類を差し出した。青年医師への報酬の残りと、彼女が相続する財産に関する書類だった。

 老人は、あと数年は大丈夫と言われていた。
 だがここ数年、死の恐怖に取り憑かれていた。しかし、延命のためにレンタルボディを利用することは法律で禁じられていた。ほとんどの場合、死期を早めることにしかならなかったし、もし可能だとしても、倫理的な理由で反対する意見が多く、どこの国でも、例外なく禁止されていた。その可能性を研究することすら制限されていたのだ。それでもあえて延命のためにRBを利用しようとするものもいたが、数は限られていた。
 さまざまな運用の必要からレンタルボディの権利は制限されていたからだ。しかし、一般市民と代わらない立場を手に入れられるなら、話は別だった。

 小さな動物の霊体を挿入され、昏睡状態となり生命維持装置に入れられた老人を伴って、女は新たな主人として老人の屋敷に帰っていった。

 数日後、女が倒れた。老人の心臓が止まった直後だった。
 女は心臓麻痺と診断された。原因は急速な霊力の消耗と思われた。
 数分の蘇生処置で女は命をとりとめたが、生き返ってみると病気や霊力消耗の跡はどこにも見られなかった。
 女は老人の葬式に出席した。
「ふふふ、新しい身体に移るなら、まだ若いうちにしなくっちゃね、お爺ちゃん」
 その呟きを聞いているものは誰もいなかった。

「やっぱり自分の身体が一番だわぁ」
 女の前の水槽に横たわる裸のボディは、老人と取り引きをし、闇のレンタルボディを提供する契約を交わしていた、あの青年に間違いなかった。
「さてと、相続税を払うと爺さんの遺産なんて大した額になんないからなぁ。研究費がすぐ足りなくなっちゃう。早くいいカモみつけなくちゃ」
 水槽のボディの二の腕にはレンタルボディであることを示すしるしが付いていた。

* * *

 当初、新しいボディが使えれば、無限に長生きが出来ると思われた。しかし、霊体に刻まれている寿命(霊体テロメアの限界)を越えると霊力が衰え、新しいボディに入れなくなる。そして、どんなにボディが若く健康でも、霊体の寿命を無視した無制限の生存、延命は不可能である事が解っていた。
 また、その限界を突破する為の技術開発に対しては多くの点で規制が設けられていた。
 にも拘らず、いやそれ故にか、多くの人々がその成功を求め、違法な研究を続けていた。

 この時代、「若さと、無限の可能性を」と称して金持ち連中を罠にはめ、財産をかすめ取る様々なハイテク詐欺師たちが暗躍していた。

[ 完 ]





















<後書き>
1 お久しぶりです。ちょっとだけダークな話の初投稿。
2 オリジナルなレンタルボディ設定と、どの程度整合性が取れているか判りませんが、楽しんでいただければ幸いです。
 完全に「ジャージレッド」さんの「R.B.ソウル・クラッシュ」とぶつかる設定になってしまいましたが、古い過渡期のテクノロジーレベルと言うことで、読み流して下さい。
3 もともと、「夏のR.B.祭り」目掛けて考えていたネタだったんですが、ぼけーっとしているまに、秋になり冬になってしまいました。
4 また、よろしく。
5 蛇足ですが。
 「霊体テロメア」なんてモノを考えました。これはあくまでこの作品世界でも概念上の要素です。細胞分裂の限界を示しているテロメアに掛けて、想定されている霊体の生存限界です。これが限界にくると、肉体と霊体の接続が出来なくなる生命の寿命の本質というもの。
 で、さらに妄想しました。霊体をエーテル体とアストラル体にわけて考え、エーテル体を肉体を動かす媒体、アストラル体を霊体の本質と考えると、霊体テロメアとはエーテル体の寿命、或いは、エーテル体とアストラル体を結ぶ接着剤の有効期限といったものになりますか。で、エーテル体の寿命を延ばす研究や、人工的な永久エーテル体の作製が研究されていると言うわけです。

mail_to:WATARU1024


戻る


□ 感想はこちらに □