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納涼i伝説

作:BAF


−納涼ToSi伝説−

《第一夜》

 ……これは本当にあったお話です。

 ある日の夜、僕がバーでお酒を飲んでいたときのことです。
 とても美しい女性が隣に座ってきました。
 いつもならそんなことはしないのですが、その時はお酒の勢いもあり、気がついたらその女性に話し掛けていました。
 するとその女性も、喜んで受け応えをしてくれ、すぐに意気投合しました。
 とても美人な人でしたが、時折男言葉も飛び出すちょっと変わった人でした。
 そのことを気にしたのが判ったのでしょうか、彼女が切り出しました。
「私、男言葉も使うけど、男の心もわかるのよ」
 そう言うと、妖艶な瞳で僕を見つめてきます。
 僕はその瞳に魅入られてしまったのでしょう。気がつくと、ホテルで一夜をともに過ごしてしまいました。
 しかし、朝ふと目が覚めると、隣に寝ていたはずの彼女の姿がありません。
 慌てて起き上がり、まわりを確かめると案の定、僕の荷物や服がなくなっていました。
「やられた……」
 そう呟いた自分の声がやけに高かったのですが、そんなことを気にしていられません。
 とりあえず起き出し、何か身に着けるものはと探します。
 すると、彼女の荷物がそっくり残っていました。
 さすがに女物は着れないだろうと自分の体を見下ろした時、衝撃が走りました。
 胸が異様に腫れているのです。
「……何だこれは!?」
 慌ててその胸に触れてみますがどう見ても女性の胸にしか見えません。
 恐る恐る股間を覗いて見ましたが、そこには何も付いていません。
 自分の身に何が起きたのか確かめるために、洗面所に飛び込み鏡を見ました。
 するとそこには、昨日の彼女と同じ顔と、ルージュで書かれた赤い文字。

『TSノ世界ヘヨウコソ・・・!』

《第二夜》

 ……これは本当にあった話です。

 ある若夫婦に子どもができたことから、この話は始まります。
 この夫婦はずっと女の子がほしいと思っていましたが、生まれたのは男の子でした。
 夫婦は少しがっかりしましたが、それでも子どもが可愛かったので、一生懸命育てました。
 最初のうちは、女物の服を着せたりリボンをつけたりしていましたが、子どもは物心つくようになるとそれを嫌がり、言動も乱暴になっていきました。
 そのことに妻が悩むようになります。
 ある日、湖に遊びに行った時、妻は思い余って子どもを湖に突き落としてしまい、溺死させてしまいました。
 しかしその時目撃者が無かったために、事故死ということになりました。
 そしてそれから数年後、この夫婦に待望の女の子が生まれます。
 この子は可愛く、すくすく育っていきました。
 そしてまた、同じ湖に遊びに行った時。
 湖の周りで遊んでいた娘が、ふと夫婦のほうを振り返りました。
 夫婦ははっとしました。娘の顔が溺死した息子にそっくりになっていたのです。
 そして、娘が呟きました。

『オンナノコニナッタカラ、今度ハコロサナイデネ・・・』

《第三夜》

 ……これは本当にあった話です。

 ある日、大学生が先輩の家で飲み会をしました。
 その日は家族が皆出かけているので、夜中まで騒げるというのです。
 深夜になり、飲み会が終わって彼は先輩の家を後にしました。
 途中まで歩いたところで彼は、携帯を先輩のうちに置き忘れたことに気がつきました。
 先輩の家に引き返し、玄関を入るともう明かりが消されていました。
 明かりをつけて先輩を起こしてしまうのも悪いと思った彼は小声で、「携帯忘れたのでまた明日取りに来ます」といって一旦家に帰りました。
 そして次の日、携帯を取りに先輩の家に行くと、家の前にパトカーが止まっていました。
 何事かと思った彼は関係者であることを告げ、警官に事情を聞きました。
 すると警官の話はこうでした。
 家族が帰ってきて先輩の部屋を覗くと、そこには先輩の姿は無く、代わりに呆然となりうずくまる少女が一人いたと言うのです。
 見覚えのない少女を家族が不審に思い、警察に連絡したそうです。
 そして警官が到着してみると、その少女は錯乱し、自分はここの住人だとか、自分は本当は男なのだとか言っているらしいのです。
 一体何があったのかわからないが、彼は何かの参考になればと思って、正直に昨日の事を警官に告げました。
 すると、警察官はおもむろにポケットから二枚の紙切れを取り出しました。
「一枚は身元不明の少女が握り締めていたものです。どうやら名刺のようですが、握り締めていたせいか汗で字がかすんで読めないのです。そしてもう一枚。これは机の上にあったんですが、意味がわからない」
 そう言うと警官は、メモ書きのようなものを見せてくれました。するとそこには可愛い女の子っぽい文字で、

『アカリヲツケテクレタラ、アナタニモ名刺ガワタセタノニ・・・』





−納涼ToSi伝説 II−

《第四夜》

 ……これは本当にあった話です。

 あるところに霊感の強い女子高生がいました。
 この女子高生が、町を歩いていたときのことです。
 前から、全裸の男性がやってきました。
 何なのこの人!? と思いましたが、まわりの人は誰も気にしていません。それどころかその男性の姿は誰にも見えていないようです。
 もしやこの人はと思った瞬間、男性は前を歩いていた女性に溶け込むように重なっていき、女性の体が一瞬痙攣しました。
 彼女は恐ろしくなり、目をそむけてその女性の横を通り過ぎようとしました。
 すると、その女性が呟きました。

『オレガコノ体ニハイルノ、見テイタクセニ・・・』

《第五夜》

 ……これは本当にあった話です。

 あるカップルが、深夜バイクの二人乗りで走っていたときのことです。
 運転する男性の目に、何か光る線が飛び込んできました。
 急ブレーキを掛けますが、間に合いません。
 首に何かが接触する感覚があり、一瞬意識が遠のきました。
 次の瞬間意識が戻ると、バイクは横転していて、その隣に誰か倒れています。
 とっさに彼女のことを思い出し、近づいてみると、暗くてよく見えませんが自分とおそろいのつなぎが見えます。
 そしてその体には首がありませんでした。
 何ということだ! と思って振り返ると、道の真ん中にピアノ線が張られていました。
 怒りが頭をもたげますが、それどころではありません。
 彼女の首を捜さなければ! あたりを見回しますと、それらしきものを発見しました。
 慌てて駆け寄り覗きこむと、彼女の目が見開き、

『アタシノ体ヲカエシテ・・・!』

 その言葉に驚いて自分の体を見下ろすと、首から下は彼女の体になっていました。

《第六夜》

 ……これは本当にあった話です。

 ある少年が一人留守番をしていたときのことです。
 丁度一人で留守番しているのが退屈になったころ、ふと前日友達に聞いた怖い話を思い出しました。
「確か、この電話番号にかけろとか言っていたよな……」
 退屈だった彼は、メモを取り出すと電話をその番号にかけてみました。
 すると、
『私、リカよ。お電話ありがとう。今お出かけするところなの』
「ぷっ!」
 彼は吹き出してしまいました。「なんだよ。里香ちゃん電話じゃねーか! でも、まだあるんだこんなの」
 ふと可笑しくなって、もう一度かけてみます。
『私、……リカよ。お電話ありがとう。今お外にいるの』
「へえ、かけるたびにセリフが変わるんだ。面白いな」
 なんとなく退屈しのぎになると思ったのでしょう。もう一度かけてみます。
 すると今度は、
『私、……カよ、お電話ありがとう。今あなたの家の前にいるの』
 なんだって!? 急に彼は怖くなり玄関にいってみました。恐る恐る外を見回しますが、誰もいません。
「何だよ、いたずらか……」
 そう思って部屋に戻った時、突然電話のベルが鳴り響きました。
 一瞬心臓が止まりそうになりますが、家族からかもしれないと思い、彼は電話を取りました。

『私、・・ろかよ、お電話ありがとう。イマアナタノウシロヨ・・・』

 振り向いた少年の目に、一枚の名刺が差し出されました……

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