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八重洲様がみてる2

作:BAF




― 二日目 ―

「うげ……痛たたた」
 真琴が朝起きたときの第一声である。
 最初の「うげ」は自分の着ているネグリジェに気付いたもの。そして次の「痛たたた」は後頭部にできたたんこぶに対するものだ。
 たんこぶには思い当たる節がある。昨日の夜、月に向かい吠えていた時に部屋に入ってきたお姉さま方の誰かが「うるさいんじゃ!」と言いながら放ったバックドロップによるものだ。
 そのバックドロップはまさにミートの愛したキン肉マンのバックドロップの様に鮮やかに綺麗な弧を描き、真琴の体を床の沈めた。
 多分そのまま気を失った真琴を着替えさせ出て行ったのだろう。
(しかし何でよりにもよってネグリジェなんだ?)
 やはりこれも修行なのだろうか?
 時計を見ればまだ六時前。いつもの起床時間に比べ一時間以上も早い。
 とりあえず、もう一眠りしようと、布団にもぐりこむ。
 だがその瞬間、静寂の時は全く訪れず叩き起こされる羽目になった。
「マッコット! シャワー行コ!」
 いきなり部屋に飛び込んできたキャナルのフライングドロップが炸裂した。
「ぐべ……」
 蛙が潰れた様な声を出し、真琴はまたもベッドと言う名のジャングルに沈んだ。

 ズルズル、ズルズル。
 真琴がハッと我に返る。気がつけば、そこは廊下、それも仰向けに両腕を担ぎ上げられ、思い切り引きずられていた。
「何だ、何だ?」
ちょうど首を上に向けたときキャナルと目が合った。
「マコト、起きタ?」
晴れやかな微笑で語りかけるキャナル。
「起きた?じゃねえ! 放せ!」
「ハイ」
 いきなりキャナルが手を挙げた。支えを無くした真琴の体が、床に激突した。
「ぐおおお……」
 後頭部を押さえ転がりまわる真琴。
「マコト、大丈夫カ?」
 キャナルが心配そうに声をかける。
「お前なー!」
 立ち上がり、キャナルを睨みつける真琴。
 俯き肩が震えた。
「えっ?」
みるみるうちにキャナルの瞳に涙が溜まっていく。
「何だヨー。タダ一緒にシャワーしたかっただけなのニー。怒鳴らなくても良いじゃナイカー」
 わんわん泣き続けるキャナル。
 さすがに真琴もうろたえた。
「いや、判った。泣くな。シャワーでもなんでも一緒に行くから」
「ホントニ?」
 しゃくりあげながら上目遣いにたずねてくるキャナル。
「ホント、ホント」
 顔を引きつらせ、無理に笑いうなずいた。
「わーい、じゃあ早く行コ!」
 そう言うと今までの涙が嘘の様にいきなり笑顔になると、真琴の手を取り走り出した。

「うがぁ!」
 今日何度目かの奇声を上げる真琴。
 その前にはビスケットではなく板チョコのような扉。ご丁寧に大浴場とプレートに書いてある。
(もしかして俺はとんでもない約束をしてしまったのでは……)
 真琴の体が硬直した。
「早く入ろ!」
 キャナルはそう言うと真琴の体を扉の奥に押し込んだ。
「うわっとっとっと」
"ぽすっ!"
 何か、やわらかく暖かいものに当たった。
「あら、真琴ちゃんいらっしゃい」
 頭上から声がする。見れば綾香が微笑んでいる。
 そして自分はと言えば、バスタオルに包まれた綾香の胸に顔を埋めていた。
「すっ、すみませんでした!」
 あわてて後ろに飛び退き土下座する真琴。
「あら、いやだ。真琴ちゃんは大げさなんだから。良いのよ女同士じゃない」
 綾香は笑みを絶やさず、手を差し伸べた。
 しかし、真琴は顔をあげられない。今、顔をあげればバスタオル一枚の少女の裸体を見てしまうことになる。
 今この心拍数の上がった状態でそんなものを見てしまったら、鼻血かも、いやもしかしたら気絶してしまうかもしれない。
「平に、平にご容赦を!」
 錯乱していたのかもしれない。江戸時代の武士のような口調で、額を床にこすりつけ謝りまくる真琴。
「うふふ、おかしな子ね。まあ良いわ。私がいたら顔を上げられないわけね。しかたがない、私は退散しましょ」
 そう言うと綾香はきびすを返した。肩で笑っているような気配がした。マコトの顔が赤くなる。
(ううう……最悪)
綾香がその場から立ち去っていった。
「マコト!」
 綾香の気配が消えてすぐキャナルが声をかけてきた。
「あ、ああ……ぶっ!」
 結局、真琴は鼻血を出し気絶する事になった。なぜなら、顔をあげたその目に飛び込んできたのは全裸のキャナルだったからである。

 お湯が熱い。鼻血も綺麗に洗い流してくれる。
 自分の裸も恥ずかしくて見れず、ただ黙々とシャワーを浴びた。
 髪の長さが男だったときとほぼ変わらないのは幸いだった。とりあえず、何も気にしないで洗う事ができる。
 ガシャガシャと力を込め、他の事をできるだけ考えないように髪を洗う。
(集中、集中!)
「フン♪フフン♪フン♪」
 そんな努力とは裏腹に隣の個室からキャナルの鼻歌が聞こえてくる。
 リズミカルにスポンジが肌をこする音も聞こえる。
(何でアイツはこんなに適応が早いんだ!)
 理不尽な怒りが頭をもたげて来る。それと同時に先ほどの裸が……クラッ。
 何とか踏ん張り、体勢を立て直す。
 シャワーを止め。バスタオルを掴むとそそくさと体に巻きつけ更衣室に戻る。
「あ、着替えを持ってきていない」
「そこのバスローブ持っていっていいわよ」
 真琴の独り言に答える声。声をしたほうを見れば、絵梨華がメガネをかけバスローブ姿でマッサージ器に座り思い切りくつろいでいた。右手にはイチゴ牛乳、左手には台本を持っている。
(マッサージ器って……ここは銭湯かよ!)
 確かに銭湯と言うかそれ以上な感じであった。少し大きめの更衣室にマッサージ器が二つ。大浴場とシャワーの個室が別々にあり無駄に豪華なつくりになっている。男子寮の風呂場とはえらい違いであった。
 だが、あきれてばかりもいられない。絵梨華に礼を言い、ロッカーからバスローブを一着借りる。
 いつの間にかキャナルが隣に来て牛乳を飲んでいる。
「真琴も飲む?」
「ああ……ぶっ!」
 今日二度目の鼻血。それはタオルを腰に巻いただけのキャナルが差し出した牛乳を受け取ろうとしたための鼻血であった。
(教訓、鼻血の度合いは胸の大きさに比例するものではない……)

「はぁっ」
 真琴は自室に戻り深いため息をついた。
 まだ時間は朝の六時半。なんと言う長い三十分だっただろう。
「はぁっ」
 二度目のため息。
トントン。不意に扉がノックされた。
「真琴起きてる?」
 扉の外から麗の声がする。
「は、はいっ!」
 扉に駆け寄り、開けた。するとそこには制服姿の麗が立っていた。
「あら、お風呂に行っていたの? ちゃんと髪にドライヤーかけて梳かしなさいね」
 真琴のバスローブ姿を一瞥しそう言った。
「あ、はい!」
「それから早く制服に着替えなさい。ここで待っていてあげるから」
「でも、まだ登校時間には……」
「あ、まだ言っていなかったわね。ここではね朝食もお弁当も自分達で作るのよ」
「そ、そうなんですか!でも俺――私、料理なんて」
 俺といった瞬間、麗の顔が険しくなったため、急いで言い換える真琴。
「大丈夫よ。皆で作るのだから。最初のうちはお弁当箱に詰めるだけで良いわ」
 その真琴のあわてる姿に、少しだけ微笑む麗。
「そうなんですか良かった」
 ほっと胸をなでおろす。その瞬間自分の胸についているやわらかい物体に手が触れ、あわてて手を放した。バスローブ越しとはいえノーブラだったためかなりのインパクトがある。
「あわわわわ」
 まことがまた奇声を上げる。その驚き様に麗が苦笑する。
「もう、早く慣れなさい。それからここで待ってるから早く着替えてね」
 そう言うが早いか、さっさとドアを閉めた。
 取り残された真琴は赤面しながらも鏡台の前に座り髪を梳かし始めた。
 髪を梳かし終え、意を決してバスローブを脱ぎ捨て箪笥を開けた。
 そこで硬直する真琴。
「……お姉さま、まだそこに居ます?」
「いるわよ。どうしたの?」
 扉の向こうから返事が返ってくる。
「あの……その……」
「どうしたの? はっきり言いなさい」
「ええと……ブ、ブラの付け方教えてくださぃ……」

 真琴がその部屋に入ったとき、その部屋はあわただしい喧騒に包まれていた。
 そこは一見するとレストランの厨房と見まごうばかりのキッチン。制服の上にエプロンをつけた少女達が忙しそうに動き回っている。
(あ、美樹さんだけはメイド服だ)
 皆てきぱきと作業をこなしていた。優理は長い髪をお団子にまとめ、流し台の前で野菜を切っている。
 その横で綾香が中華なべを振っている。綾香の額には汗がにじんでいた。あの細い腕ではかなりの重労働だろう。
 そんな事を思っていたら、真琴の隣に居たはずの麗が綾香の隣に立った。
 麗はいつの間にかエプロンもつけている。
 何も言わず綾香が場所を譲る。中華なべが麗に渡される。流れるような連携プレイ。
 本当に姉妹のようだ。真琴はそう思わずにいられなかった。
「真琴君、こっちこっち」
 半ば見とれたようにボーっとしていたら誰かに声をかけられた。声のしたほうを見ると、幾つもの料理が並ぶテーブルの前で翔とキャナルの姉妹が手招きしていた。
 近づいていくとキャナルが何かを差し出した。
「はいマコト、これ付けテ」
 どうやらエプロンらしい。
「それをつけたら、こっちを手伝って」
 そう言いながら翔が微笑んだ。
「あ、はい!」
 真琴はエプロンを付け翔の向いに立った。テーブルの上にはお弁当のおかずが所狭しと並んでいる。
「多めに作ってあるから好きなだけ取って良いよ。はい、これが君のお弁当箱ね」
 そう言って小さめのちょっと可愛いタイプの女性用弁当箱が渡された。
(うわ!小さい)
「ははは、大丈夫だよ。女の子になったばかりであまり判らないかもしれないけどそれぐらいでちょうど良いと思うよ」
 言葉には出さなかったが、顔には出てしまっていたらしい。翔が笑いながら教えてくれた。
「そうなんですか?」
 そう言いながらも昨日の晩も豪勢な料理が出たのにあまり食べられなかったなと思い出した。まあ色々あって緊張していたというのもあっただろうが。
 そんな事を考えながら翔の方を見ていると翔の手元で目が止まった。
「あれ、お弁当箱二つ?」
「ああ、好きな人にお弁当って女の子の基本だろ」
 翔はそう言いながら真琴にウインクした。
「あ、彼氏にお弁当ですかって……ええーーー!」
 厨房全体に響くような声を上げる真琴。その声に自分自身も驚いた。さすがにまずいと思い少し声をひそめ、翔に問いただす。
「し、翔さん。男と付き合ってるんですか」
 意味ありげな笑みを向ける翔。
「マジですか?」
 真琴の声が震えている。
「なんてね。冗談」
 翔が人の悪い微笑みを浮かべそう言った。
「え?」
「ちょっと真琴君からかっただけ。本当は二つとも僕の」
「え、でもさっき」
「うん、真琴君はちゃんと足りると思うよ。ただ僕は運動部だからね少し多めにしないとね」
「そうなんですか。だったら大き目のお弁当箱にすれば良いのに」
「いや、女性は小食だって言う男の夢を壊すのは悪いと思ってね。一つは部活の前にこっそり食べているんだ」
「そんなに気を使わないといけないんですか?」
「いや、これは僕のこだわり。真似する必要はないよ」
「そうですか」
「さあ、そんな事よりも早くお弁当を詰めないと」
 そういえば、お弁当を詰めている途中だった。案の定、手はお留守になっていて何の作業も進んでいない。
「あ、そうでした」
 そう言いながら何点もあるおかずの中から自分の好物を物色し始めた。隣を見るとキャナルがご飯のうえにふりかけや海苔を使って何か動物の顔を描いている。
(なんだかなー)
 数十分後には皆のお弁当が完成していた。

 その後は何事もなく進んでいった。お弁当の残り物で作られた朝食を皆で食べた。ここでも美樹がメイド姿で大活躍。給仕の作業を流れるように見事にこなし食後のコーヒーまで出してきた。
 真琴はこれでは自分が食事している暇がないだろうと思ったが、皆に聞けば料理中のつまみ食いですでに食べ終わっているとの事。
(やはりそこまでしてメイドの役割を演じたいという事なのか?)
 真琴は首をかしげた。
 まあ美樹が嬉々としてやっているし皆も楽しく食事できているのだから、何の問題もないのだろう。
そうこうしているうちにコーヒーも飲み終わり、日直や朝練のある者達が先に出て行った。
 それからしばらくして朝に何の予定もない者が続く、今朝は結果的に真琴と麗の二人が最後に学校に向かう事になった。
 昨日来た道を逆にたどり学校に向かう。
 二人はゆっくりと歩く。最後に出たとはいえかなり余裕がある。
 校門を抜けたらすぐの所。いつもは気にも止めない銅像が目に入った。
 真琴はいつもはダッシュで駆け抜けていたため気が付く余裕すらなかったと思い出した。
 それは正月のハナ肇のような胸像。きっとパイとかバケツの水とかが似合いそうだ。
「ああ、八重洲様の銅像ね」
 真琴の視線に気が付いたのだろう麗がその銅像の名前を教えてくれた。
「八重洲様?」
「ええ、立派な私達の大先輩。すばらしい方だわ」
「へえ、じゃあこの学校のOBの方なんですか?」
「そうよ」
 きっとただのOBではないのだろう。ここは私立の男子校だ。私立校でただのOBが校長や理事長を差し置いて銅像になるなんて考えられないのだから。
(きっと偉大な人だったんだな)
 自分をこんな姿にした張本人の銅像だとは露知らず真琴は銅像に向かい一礼するとその場を立ち去っていった。
校舎まであと少しというところまで来たとき何故か『ぞくっ』と悪寒が走った。
「何だ?」
 周り中から土煙が上がっている。何十人という男子生徒が真琴を目指して走ってきている。
 男達の手には、花束やプレゼントらしき小箱などが握られている。
(ま、まさかこれはお約束の……)
 Uターンしようと思い後ろを向いたが、もはや360度囲まれていた。逃げ場などない。
「好きじゃーーー」
「結婚してくださいーーー」
 思い思いの言葉を口に怒涛の勢いで押し寄せてくる。
 真琴は覚悟を決めた。
(しかたがない。茶番に付き合ってやるか)
「皆様、ごきげんよう」
 そう言いながらポーズを決め皆に満面の笑みを浮かべた瞬間、王蟲の突撃を受けたナウシカのように真琴の体は大空を舞った。
 ぼろ雑巾のようにグラウンドに叩きつけられる真琴。
 気がつけば人の輪の外に放り出されていた。
「な、なぜ……?」
 ガクッと力尽きる真琴。その前に誰かが立った。
「なにやってんだ真琴?」
 そう声をかけてきたのはクラスメートの真一であった。

 ところ変わって真琴の教室。
「あはははは」
 さっきから真一がずっと笑い続けている。それを見ながら、頬にバンソウコウを張り、ずっとふてくされたままの真琴。
「大体あいつらなんだったんだよ」
 真琴が呟きを漏らす。
「あはは、あれは麗様親衛隊さ」
 まだ笑いが止まらないらしい。苦しそうに腹を抱えながら教えてくれた。
「麗様親衛隊?でも昨日まであんな馬鹿騒ぎ見たことなかったぞ」
「ああ、そりゃ当然。昨日までずっと表立った活動を控えていたからな」
 真琴の疑問に対し真一は事も無げに言った。
「なんで?」
「そりゃお前。うかつに近寄ってみろ。気に入られて妹にされたら大変じゃないか」
 真琴がガクッとこけた。
「それってもしかして……」
 真琴のこめかみに一筋の冷や汗。
「そうだよ。お前が妹になったんで心置きなくアタックできるようになったってわけさ」
 そう言いながらにやりと笑い、言葉を続けた。
「しっかし、お前も傑作だよな。自分に向かって来ているなんて思うなんて自意識過剰なんじゃないのか?」
 そう言いながらまた笑い出した。
「ううう、何とでも言え」
 机に伏せ、頬を膨らませて睨む真琴。
「あ、そのしぐさ可愛い。ずっとそんな風にしていればそのうちお前にもできるよ親衛隊」
「いらねえよ」
 微妙に顔を赤くしながら突っぱねた。
「まあ、それにな、実のところ親衛隊のメインになるのは下級生なんだ。来年が勝負さ」
 真一が気分を変えるようにそんな事を言った。
「だから、いらないって。……でもなんで下級生メインなんだ?」
 真琴もとりあえず否定はしたものの理由に関しては気になったようで真一に問う。
「まあ、あれだな。それまでの素行を知られていない。これが一番なんだろうな」
「なるほど」
「まあ頑張れよ!」
「頑張らねーよ!」
 そんな軽口の応酬の後すぐに朝のホームルームが始まった。
 
 それから、お昼休みまで何事もなく過ぎた。
 チャイムが鳴ったとたん教室にキャナルが飛び込んできた。
「お昼一緒に食べヨ!」
「ああ、……でもその前に、その……トイレに行きたいんだけど」
 実は朝から我慢し通しだったのだ。
「ウン、待ってるヨ。行って来て良いヨ!」
「いや、そうじゃなくて男子トイレに行っていいものかと」
「アレ?鍵貰ってナイノ?」
「鍵?」
 首を傾げる真琴。
「ソウカー、まだ貰ってないノカー。じゃあ良いヤ。一緒に行コ。連れションって奴だネ」
 そう言うとキャナルは真琴の手を取り嬉々として走り出した。
「え、え、えー?」
 真琴は手を引かれ教室を出て行った。
 真琴達が着いたのは男子トイレの前。
(やっぱりここでするのか?)
 そう思ったが、キャナルは男子トイレに目もくれず、その隣にある立ち入り禁止の文字の書かれた扉の前まで行く。
 キャナルがおもむろに制服の襟に手を突っ込む。胸元でもぞもぞと手が動く。
(な、何やってんだ、こいつ!)
 赤面する真琴。だがキャナルはそんな事を気にした様子もなく、まさぐり続ける。
「有ッタ、有ッタ」
 そう言いながらキャナルが胸元から何か引きずり出した。
 その手に握られているのは鎖の付いた小さな金色の鍵。
 その鍵を使い立ち入り禁止の扉を開けた。キャナルに手を引かれその中に導かれる真琴。中に入るとそこは小さな部屋で扉が三つあった。
「ここは?」
「えっとネ。右から女子トイレ、女子更衣室、女子シャワー室」
 三つの扉を順に指しキャナルが言った。
 ぶるっ!トイレという言葉に反応したのだろうか尿意が激しくなる。
 迷わず女子トイレに飛び込んだ。
「ふうっ」 
 危機一髪、間に合う事ができた。用をたし少し落ち着いてきた。落ち着いてきたとたん自分のしている行為にはたと気付いた。見下ろせば自分の膝で止まっている下着がみえる。
 見てはいけないものを見てしまった気がした。あわてて目をつぶると、そそくさと後処理をしトイレから出た。
「どう?間に合っタ?」
 キャナルが声をかけてきた。
「ああ」
 赤面しながら答える真琴。
「じゃあ、屋上行コ!」
 そう言って外に出て行った。
 真琴は一旦教室に戻り弁当箱を掴むと屋上に向かった。

 屋上に着くとキャナルと麗が待っていた。
「ごめんなさいね。キャナルに聞いたわ。はいこれ。貴方の鍵よ」
 そう言いながら麗が鍵を差し出した。
「これは?」
「そうなのよね。基本的なことを言い忘れていたのよね。これは各階にある私達専用の部屋の鍵なの。男の子達が興味本位で覗かない様に鍵付きになっているの。だからこの鍵は肌身離さず持っていてね」
 そう言いながら真琴の首にかけてくれた。
 麗の顔が近づき、いい香りが真琴の鼻腔をくすぐる。
 近くで見ると麗の目鼻立ちは整いすぎるほど整っていてやはり美しい。
「お姉さま……」
 何か一瞬いけない世界が見えた気がした。
 頭を振り、妄想を振り払う真琴。
(いかん、いかん)
「さて、それじゃ私は行くわね」
「あれ、お弁当は?」
 真琴は屋上から出て行こうとする麗に声をかけた。
「男の子達に見つかるとまた騒ぎになるからもっと人のいないところで食べる事にするわ。それじゃあまた後でね。ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 挨拶をかわし、麗が校舎の中に戻っていった。
「ネエ、早くお弁当にシヨウ?」
 いつまでも麗の姿を追っている真琴に焦れたのかキャナルが声をかけてきた。
「あ、わりい」
 真琴はそう言うとキャナルの隣に腰掛けお弁当箱を広げた。

 お昼休みが終わり、午後の授業のなんとなく過ぎていった。
 下校時間になり、さっさと寮に帰る。
 夕食が済み、皆でだらだらとテレビを見る。紅茶を飲んだりファッション誌を読んだりするものもいる。
 なんとなく居心地が良かった。周りは女性だらけなのだが不思議と異性に囲まれている感じがしない。
 夜も更け、各々自分の部屋に戻る。真琴も部屋に戻り何の躊躇も無くネグリジェに着替えベッドに潜り込んだ。
(さて、明日も頑張るぞ! ……って)
 ガバッと起き上がる真琴。
(も、もしかして俺、無茶苦茶染まってる?)
「うおー!いやだーーー!!」
 また性懲りも無く真琴は月に吠えた。
 月は何も語らず晧々と輝いていた。

   続く


あとがき
 どうも!BAFです。またまた書いてしまいました八重洲様2お届けいたします。
 書いていて思ったんですが今回、何の盛り上がりもありませんね。
 面白いイベント盛りだくさんにしようと思ったんですが、遅々として進みませんでした。
 まさか二日目を書くだけでこんなにかかるとは思ってませんでした。すみません。
 次回こそ何か面白いイベントを入れますんで見捨てないでお付き合いいただけたら幸いです。
 次回は多分お姉さまとショッピング編になると思いますのでご期待くださいませ。
 それではまた。

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