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SYMPHONY of HARDROCK 2
作:HIYUKI

SYMPHONY of HARDROCK
 BLACK CONCEPT
20××年××月、13日金曜日の真夜中に女の子2人が怪しげな曲をステレオから流してる。
 二人とも、パジャマを着てステレオデッキに頭を向けて、床の絨毯の上に寝そべっている。
 ひざから足をまげて泳ぐときの様に足をプラプラさせていて、いかにも興味津々といった様子である。
 片方の女の子が首を傾け、もう一方の女の子の方に話し掛けている。
「ねぇねぇ、つかさ、ホントにこれ呪われた歌になるの?もう眠いよ」
「美晴、後もう少しで流れ終わるからもう少し待ちなよ!」
 つかさと呼ばれた女の子はショートカットの子で、美晴と呼ばれた子はそれとは対照的に腰まで髪の毛を伸ばしている子だ。
 つかさは顔立ちが整っていて決してブスではないのだが、可愛いという感じではなく、本人の雰囲気もあいまって、第一印象として凛々しいという感じがする女の子だ。
 反対に美晴の印象は、可愛いの一言で全てが終る。
 大きな瞳に幼い顔立ち、仕草や言葉使い、服装やその雰囲気を含め全てが女の子らしい。
 そのため、同姓からも交際を求められる程だ。
 実際つかさもそのうちの一人で、そのため、いま流れている音楽の話をタネに一晩、遊んでやろうという魂胆があった。
 その話とは、13日の金曜の夜中にとある音楽を逆転再生すると呪われるという代物で、曲名は鉛の船と呼ばれるバンドの天国への階段という曲だ。
 つかさはピアノをしており、音楽に関して言えば好きだったらコピーする程度の関心しかなく、当然、マイナーな鉛の船などというバンドはその話を先輩に聞くまでは全然興味はなかった。
 二人とも高校生3年であるが、学校が短大までのエスカレーター方式の学校なので受験もなく、さしたる用件もない無いつかさは、ほぼ毎日にように美晴を誘っては繁華街へと繰り出していた。
 ある日、ファーストフード店でつかさは、その呪われた曲の話を切り出すと美晴は興味を示し、そこで13日の金曜の夜につかさの家で夜更かしをしようという話になった。
 つかさは、その話が決まると先輩からCDを借りて自宅にあるパソコンで曲を撮りこみ、逆転再生をしてMDへ録音して準備をした。

 曲が終るころには、美晴は既にうつ伏せでスヤスヤと寝息を立てて寝ていて、それを見たつかさは美晴の唇を奪いたくなった。
 つかさはいつからだろうと思う。
 自分が男であったら、と思い出したのは。
 自覚したのは中学校に入ったころだった。
 制服が強制され嫌でもスカートを履かなくては行けなくなったときからだ。
 小学校の時は一応の制服はあったが、制度自体は曖昧でそれほど強制されることもなかったし、何より女の子らしいスカートが嫌いであったため、いつも半ズボンかジーパンを着ていた。
 そのころはまだ、女とか男とか気にせずに過ごしていたし、そういう意識も希薄だった。
 それが中学校になると一転する。
 強制されてスカートをはかされると、否でも自分が女であると突きつけられ、それに拍車をかけたのが初潮であった。
 初潮を迎えると胸のハレは日に日に大きくなり、下着にも気を使わなければならなくなった。
 女らしく可愛くすることは、嫌いではなかったが、好きでもなかった。
 汚いよりは綺麗の方が良かったし、可愛くないよりは可愛い方が良かった。もっともつかさにとっては、可愛いより格好良いの方が良かったため、常に男らしく格好良く見せることに気を配っていた。
 何回か男子生徒から交際を申しこまれたが、全部断っていた。
 男と付き合うとどうしても可愛い自分を演じなければならなくなり、必然的に格好良くできなくなってしまう。
 そのことが、つかさを今の状態へを導いたのかもしれない。
 そのためか進学先には女子高を選び、そこで美晴と知り合った。
 女子高の生徒の中には既にそういう関係の生徒もいたし、つかさはそれが世間の常識と違うことを認めながらも、自分だけじゃないと思うとなぜか安らいだ気分になった。
 そういうのを傷の舐め合いというのかな、と自虐的になるときもあるが、美晴への思いは深みを増すばかりで、美晴から嫌われたくないばかりに、自分のそういう面を彼女には隠し通してきた。
 あるときなど、美晴の靴箱に同性からのラブレターが入っていたことがあり、それを美晴から話されると二人で笑い合っていたが、内心つかさは美晴を他人にとらせるものかと冷や汗をかいたこともあった。
 
 つかさの唇と美晴の唇が重ねあう。
 美晴の唇の感触が自分の唇を会して全身に回る。
 手を美晴の頭の後ろへとまわし、髪の毛を優しく撫でる。
・ ・愛しい
 部屋のなかは先ほどの音楽も止まり静けさに包まれていた。
 つかさはどうせ何も起こらないし、美晴とキスできただけ良かったなどと思い、美晴に布団を掛け、部屋の電気を消し自分も同じ毛布に入りこみそのまま、寝入った。
 その後、二人とも気づかない異変があった。
 その曲は確かに呪われていた。
 ステレオの上から白いモヤが発生し、その中につかさを見つめる目が確かに存在した。
 そして、つかさはの体は次第に変化を始めた・・

 翌朝、夏休みで学校が休みなのを良いことに二人は、昼近くまで寝ていた。
 最初に美晴が起きた。いつものように上半身を布団から出し背伸びを2回するのが彼女の寝起きの儀礼だ。
 美晴は時計を見て遊ぶ時間が無くなることを惜しみ、慌ててつかさを起こそうし、その異変に気がついた。
 布団の中のつかさは気のせいか一回り大きくなったような気がする。
 肩をゆすってみる。
 妙にごつごつしている。
 本当につかさなの?
 疑問が美晴を走る。
 思いきって、布団をはぐってみると!?
 …………!?!?!?
 たしかにそれは「つかさ」であった。
 であったというのは、女のつかさでなく男のつかさだったからだ。
 いくら女性用のフリーサイズのパジャマとはいえ、上に着たシャツが水着のように張って、股間部にはあきらかに男性器のものと思われる盛り上がりが見られた。
 嘘、うそ・・
 美晴は両手で口元を押さえ、今にも泣き出しそうになった。
 つかさは肩をゆすられたのでそのまま起きて、美晴におはようと言った。
 寝起きの頭でつかさは喉の調子がおかしいと思ったが、気にせず美晴を見ると泣きそうな仕草で自分を見ていた。
 「どうしたの」
 「いやっ」
 つかさを凝視したまま泣きそうな顔で頭を横に振り、イヤイヤをしていた。
 何がなんだか分からないまま、つかさは部屋にあった鏡を見ると明らかに違う自分がそこにいた。
 !?
 見なれた自分の顔が写るのだが、顔立ちが違う。
 目や口、鼻は確かに自分の見覚えのある顔なのだが、頬骨と眉間あたりの骨が出て、全体的に角張っており、肌も粗くなっている。
 まるで男の様な顔・・
 そう思うとつかさは確かめる様に布団から出て全身を鏡に写してみると、その体は紛れも無く男の体であった。
 しばらく、呆然していたがやがて、その喜びをかみ締めていた。
 「美晴、呪いの歌って、本当に呪われていただね。」
 「だねって、つかさ、冗談じゃないわよ、そんな・・そんな」
 「そんなに怖がることはないよ、私・・俺は嬉しんだから!」
 「なにが嬉しいのよ、あなた本当につかさなの。別人じゃないの?、あなた誰、つかさはどこに行ったの。」
 「つかさは自分だってそれは間違い無いよ。
  ほら先月二人で渋谷の映画館にいったとき、美晴が急にアレになって、私が急いでナプキンと下着買ってきたじゃない」
 「イヤ、そんなことまで、つかさはあなたに話したの、信じられない。」
 美晴はつかさのことを疑っていて今にも泣きそうだったが、つかさが根気良く説明すると、次第に落ち着きを取り戻し、これからのことを話あっていた。
 落ち着きを取り戻したときには、既に夕方の4時近くまでなっていたので、美晴は着替えて自宅へ戻り、つかさの部屋はつかさ一人になった。
 一人になっていろいろな考えが浮かんでくるが、否定的な考えは一切なく、前途洋洋の気分になった。

 その後、母親がパート先から帰宅し、つかさはキッチンにいた母親にそれを話した。
 やはり最初は驚いていたが、自分の子供だからがか、すんなりと女性から男性に変化したことを受け止めていた。
 父親の反応も同様で、ともすれば喜んでいたように思えた。
 とりあえず、着るものは父親からかりて洋服は明日の日曜に買い出しにいくことにした。
 父親のシャツを着るときは、あの嫌な男性の臭いがするのではないかと構えたが、男性になった今は気にもせず着れたし、臭いすら感じなかった。
 かえって自分の部屋に染みついた、女性だったときの自分の臭いに違和感を感じ、知らず知らずのうちに勃起すらしていた。
 それを自覚すると、なんだかムラムラとしてくると、なぜか真っ先に美晴の顔が浮かんだ。
 その夜は父親から借りた男物のシャツとトランスク、パジャマでベットについた。

 夏休み中なのでいつも7時には起きているつかさも、夏休みを一週間も過ぎるころには昼11時ちかくまで寝ることが体にしみついていた。
 つかさは、いつものように11時に目が覚めると、直ぐに母との買い物があることを思いだし、慌てて起きた。
 そこで体の異変に着がついた。
 自分の股間の物が立っていることに気がついて、つかさはオロオロしたがそれを察した母親がキッチンからつかさに
「トイレに行ってきなさい」と声を掛けられたので、とりあえずトイレにいって用をたすと、自然に収まっていくのがわかった。
 その後とりあえず父親からジャージを借りて、車で近くの衣料品店まで当面の服を買い揃えると、直ぐに家に帰った。
 家では直ぐに白いTシャツに青のジーンズに着替えた。
 着替えるときは、胸を締め付けるブラジャーをしなくて良かったし、直接シャツを着て胸がすれることもなかったので、開放感で走りたくなった。
 鏡に全身を写してみると、見事な美少年がそこにはいた。
 女性の様な白い肌、身長は170センチくらいだが、顔が小さいことと、スリムな体形が合間って、ボーイッシュな女の子というイメージがする。
 しかし紛れも無くそこにいるのは、男の子であった。
 着替えが終ると直ぐにつかさは出かけた。
 つかさは吉野家の牛丼や立ち食いソバなど、いつもなら女一人で入りにくい店に行くことを決めていた。
 入ってみて、それらの店で周りの男性をみれば、寝起きでボサボサの頭やだらしない格好をした男性が何人もいた。
 女であったときならば、そんな格好で外出などとてもできなかったし、ちょっと外に行くにも着るものに気を使わなければならなかったが、今の男のままであればそんなこと気にする必要はない。
 それらのことを考えると、つかさは嬉しさのあまり自然に顔がほころんだ。
 適当に食事をして、デパート近くのCDショップにいくと店内には派手なロックが掛かっていた。
 つかさは、店内の音楽を聞くと躍動感があふれる感じがし、いても立ってもいられなくなったので、その店の店員に流れている音楽を教えてもらうと直ぐにCDを購入した。
 購入したCDはD・Pというバンドの「M・H」というアルバムであった。その後本屋に行き本を物色した。女性のときには購入できなかったHな本も男性の今なら難なく購入できた。
 持ちかえるとき家の近所の人に見つかりはしないかと思っていたが、今の姿を見て女だったつかさを想像できるとは思えなかったので、バレないと思い帰宅した。
 家に帰って早速購入したCDを聞くことにした。
 何曲か聞いているうちに、CDショップに入った時のような、心地よい躍動感につつまれると、何かせずにはいられなくなる様な衝動に駆られた。
 女性だったときは、ロックなんか耳障りな騒音くらいにしか感じなかったが、男性になったとたん、ロックの鼓動が体に響いてきた。
 そう思うと半月振りに部屋のピアノの前に座り曲に合わせて適当に鍵盤を叩いてみた。
 練習不足だとはいえ、小学校の時からピアノを嗜んできたつかさは直ぐに曲にあわせることができたが、何か違うと思った。
 ピアノではロックのエネルギーを出すには力不足なのだ。
 少なくとも厚い音をだすオルガンかキーボードが必要なのだ。
 本当のことをいえばギターが最適なのだが、今更ギターを聞けるレベルまで練習するには少々時間がかかるため、今出来る楽器で早くロックがしたかったのだ。
 次の日には練習用のキーボードを購入するため貯金を下ろして購入し早速使ってみた。
 キーボードはKというメーカーのKというキーボードで、つかさはそのキーボードにプリセットされている音色のなかでもロータリーオルガンやアナログ音源をシュミレートした厚い音を好んで使った。
 キーボードを購入して以来、何日か経ったがその間、つかさは必要最低限の他は外出することもなく、キーボードに向かい合っていた。
 
 真夏の暑さのなか、美しい黒い長髪をアップにし、涼しげな格好をして女の子がつかさの家をめざし歩いている。
 つかさ、あれからどうなったのかな・・
 美晴はつかさが男になって以来連絡をとっていない。あれから既に一週間も過ぎた。
 美晴はつかさに悪いことをしたと思う。
 状況を良く整理すれば、あの男の子はつかさ以外に考えられないし、本当にあの歌が呪いの歌であれば、つかさが男になったのはその呪いのせいなのだし・・
 美晴はそう思うとつかさにあやまりたくて、家まできたのだ。
 一度だけ電話をしたが、司の低い男性の声が聞こえてきたとたんに電話を切ってしまったのだ。
 いくら心構えができていても、やはり声は男女の違いがはっきりでてしまい、それを聞くと震えて何も出来なくなってしまう。
 決して男性恐怖症というわけではないのだが、まだつかさが男になった事実を認めたくなかっただけかもしれない。
 だから例え声が違うけれども、多少女性だったときの面影のある顔をみれば何とか謝ることができるのではないかと考え、つかさの家まで足を運んだのだ。
 つかさの家は一軒屋でつかさの部屋は2階にある。
 美晴はつかさの家の前でインターホンを鳴らそうとすると2階付近から音楽が聞こえてきた。
 なんだろうと思いつつもインターホンを鳴らすと、その音楽が止み玄関からつかさがでてきた。
 最初二人が合うと気まずそうな空気が流れたが、つかさから「上がって」と美晴に呼びかけると、美晴も返事をし部屋まで入った。
 美晴は一週間ぶりとはいえつかさの部屋の変貌に驚いていた。
 まず、部屋の匂いが女性のものでなく、男性のものに変わっていた。
 それに元々つかさの部屋には、ぬいぐるみやポスターなんかは一つも無く、殺風景な部屋であったが、片付いてはいた。
 しかし今は脱いだシャツは出したままの本が積み重なり、見事に散らかっていた。それに本と本の間からはHな本が何冊か見える。
 部屋を見て美晴は
「つかさ、男になんかなっちゃって苦しくないの。」
「このまえもいったろ、男になって俺は嬉んだって。」
「そうね、言葉使いから、そのあぐらの仕草まで、まるで男の子そのままね」
 それにはつかさは苦笑したものの、内心そう見られることは素直に嬉しかった。
「このまえは、取り乱して失礼なことを言ってごめんね。」
「気にすることはない。いきなりあんなことになれば誰だって驚くさ。」
「ありがとう。
 ねぇつかさ、つかさは今、好きな人はいないの?
 女の時に好きだった人のことを考えたりしない?
 辛いことがあれば私が何だって協力してあげるよ。」
「実は俺、女のときから女が好きだったから、今のままの方が良いんだ。
 だから、辛いことはないよ。」
「なら良いんだけど・・
 それで、どんな女の子が好きなの」
 この言葉には意表をついた。女のときに女が好きだ、ということまでは、いつか美晴と話せたなら話そうと決めていた。
 しかし好きな人まで質問してくることは考えていなかった。
 そう言えば驚いて、それ以上詮索しないであろう、とたかをくくっていた所為もある。
 それに好きな女の子は最初から決まってる。
 少し考えるフリをしてつかさは言った
「イニシャルはM・H」
「M・H、M・Hねぇ・・」
 美晴は何度もイニシャルを口にし、誰のことだろうと考えた。
 三度目を言おうとした時に気がついた。

 M(美晴)H(早坂)
 早坂美晴!?

「え!?」
 小さく言葉を発した後、美晴はつかさの顔を見た。
 つかさは照れた様に笑っている。
 美晴が気が付いたことに気が付いたのだろう、つかさは顔が真っ赤になるくらい照れていた。
「つかさ、私のこと・・」
「ごめん、でも好きってのは本当のことなんだ、ヘヘヘッ」
 そう言うと美晴も真っ赤になって、沈黙がな流れた。
 ドキドキするような、それでいて妙に沈み込むような時間が経った後、つかさから、声を出した。
「俺さ、今、高校入って以来ピアノ、キーボードを練習してるんだぜ。
 今、かなりひけるようになったから、どこかのバンドに入ってライブしようかって思ってる。
 変だね、女の子のときはロックやバンドなんて騒音にしか聞こえなかったのに、男になったら攻撃的な音が好きになったんだ。」
 晴美は驚いた様な顔をした後、すぐにこぼれそうな笑みを浮かべて返事をした。
「うん、それじゃライブときは行くから声を掛けてね。」
 美晴のその言葉につかさは救われるような気がした。
 その後、二人は夕暮れまでつかさの家にいて、女の子だったころの話や男の子になってからの体験談なんかで、盛り上がった。

 それからつかさは男に磨きをかけるため、夏休み中、引越しのバイトをしながら体力をつけ、女癖を払拭することに努めた。
 その間、晴美とは3日と間を空けず会い、一緒に遊んだ。
 傍から見ればデート以外何物でもないが、当時者にとっては健全な同性との交流だった。
 そして、夏休みが明ける頃、つかさは転校した。

 つかさは男性になったことで女子高にはいられなくなり、学校側には転校することだけ告げて辞めた。
 それと同時に名前もいままでは平仮名だった名前を漢字の司に改め、完全に女のつかさは消滅したことになった。
 転入先の高校は男女共学の私立高校で、偏差値も平均的なところであった。
 転入時には美少年がきたということで同級生から騒がれたが、受験シーズン真っ盛りということもあり、次第に司を取り巻く状況は落ち着いてきた。
 つかさは転入時から軽音楽部に入部した。
 はやい話しがバンドの部活である。
 この学校の部活は体育会系より文化系の部活動にちからを入れており、音楽関係は司の入部した軽音楽部、ブラスバンド、コーラス部と3つもある。ピアノができた司は最初、軽音楽部でバンドだけをやりたがったが、ドラムと同様、ピアノの演奏者はどこも不足しており顧問の先生からの願いで最終的に3つ掛け持ち状態になってしまった。
 夏休み過ぎから、秋にかけて文化祭がどこの高校でも開催されるが、司の転入した南久留米高校でも例外なく同時期に開催された。
 校内にはバンドが全学年で合わせて6バンド組める程、メンバーがおり3年生には2バンド存在していた。
 一つは流行りのJ−ROCKをするバンドRexer(レクサー)で、もう一つは洋楽中心のロックをするPLANET X(プラネット エックス)である。
 見てくれのREXER、実力のPLANET Xとの下馬評がもっぱらの生徒の見解だ。
 司は当然の様にPLANET Xに加入を希望した。
 軽音楽部には一人だけキーボード担当の女性、峰地 香がおりその2バンドを掛け持ちしていたが、彼女はもっぱらREXERの方ばかりに力を入れていたため、PLANET Xのメンバーから常に不満が出ていた。
 彼女にしても汗臭いブルースロックや今時ナンセンスなヘビメタなど練習する気は全くなかった。
 そんな状況であったため、司のPLANET X入りは誰もが歓迎し、難なくバンドメンバーとしての迎えられた。
 PLANET Xのメンバ−は
  ヴォーカル 磯貝 勝
  ギター   武田 芳雄
  ベース   藤原 幹雄
  ドラム   畑野 啓一
 でそれにキーボードの宮本 司を入れ5人で構成された。
 入部のときは、
「これで、D・PやD・Tができるぞ。」と皆で喜びあった。
 
 バンドが出来て嬉しいばかりの司であったが、高校生活は楽しいことばかりでない。
 かなり美少年の部類にはいる司は女子からかなりもてていて、ある時など声をかけられた女の子と休憩時間中話していたら、その彼氏から目を付けられたりと、苦労もあった。
 それに、女の子のときであれば泣いて許されることもあったが、男にはそれは許されない行為であった。
 もっとも、司は女の子のときから、泣くことなど小さい頃からしたこと無かったのだが、それはいざとなれば出来るという気持ちがあったから耐えれたかもしれない、と今にして思う。
 それを受け入れられない社会に立ち、泣くという後ろ盾の無い現在、男とはなんと苦労しているのだろうと思う。
 これに耐えるために男は女より鈍感になったのかもしれないとすら思った。
 しかし、より男らしく、と決めた司は精神や体力の向上のため、鍛錬をし一ヶ月もすればそれは水準以上のものになったいた。
 そのころになると9月の文化祭はもう間近に迫っていた。

 文化祭まで後1週間という頃、PLANET Xはもうどこへ出場してもおかしくない程上達していた。
 もともと、実力のあったバンドである。それに司のキーボードが加われば鬼に金棒である。
 やる気の無かった香とは比べ物にならないくらい、素晴らしい音を出していた。
 バンドの持ち曲は9曲あるが、プログレッシヴ系のハードロックが多く5曲全て演奏すると40分以上になってしまう程、内容の濃い曲ばかりであった。
 司のキーボードもさまになっていた。
 そのルックスともあいまって、REXERのリーダーでベースの川口正章からもバンドに誘われた。
 実際、司の格好なら洋楽中心のバンドよりビジュアル系の邦楽バンドの方が良く似合うのだが、ロックは洋楽と変なこだわりがあったので、やんわりと拒否していた。
 川口はことあるごとに司を誘ったが全て断られて、その度に惜しいといったいた。

 練習の帰り、司はメンバー全員といつものファーストフード店に入り、そこでいつも夜10時くらいまで雑談をしていた。
「司は付き合っている女の子はいるの」と唐突に勝が話しを切り出したので司はシェークを吐き出すほどビックリした。
「いない」と司はそっけなく返答したが幹雄が追い討ちをかけるように
「このあいだ、啓一と映画に行った帰り司と水谷学園の子と歩いているところをみたぞ。なぁ啓一。」
「そうそう、可愛い子だったよ。誰、あの子は」
 司は汗がでた。
 そりゃ美晴は同性からも交際を申し込まれる程可愛いくて、一緒に繁華街を歩いていれば他の人から、司の彼女?と何度も聞かれたくらいだ。
 二人ともそういう関係もまんざらではないと思い始めていた矢先である。
 同じ学校の人から見つかることは容易に想像できたはずなのに、今まではそんな気持ちも希薄であったから他人に見られても平気という安易さが先に出てたため、他人から指摘されるまで気づかなかったのだ。
「友人だよ、単なる」とお茶を濁した程度にしかつかさは反論できなかった。
 そこで、啓一はその太い両腕でチョークスリーパーを司にかけたため、苦し紛れに今度の文化祭で紹介すると司は約束させられた。
 
 夜11時、風呂が終り、いつもどおり美晴の家に電話をする。
 家族にはネットをするという目的でテレホーダイ回線に入ってもらった。
 夜11時から美晴と電話で話すのが日課となったためだ。
 夜中の2時まで話すことも珍しくない。
 両親は朝さえ起きて学校に行けば何時まで夜更かししても構わないという方針なので気がねなし電話をすることができた。
 繁華街で司と一緒のところを同じ高校に見られたのは美晴も同様なようで、美晴の同性からのアプローチは減ったらしいが、友人も何人か無くしたらしい。
 女の世界の陰湿なところを今更ながら司は思いしった。
「夏美と美穂だろ、あいつら陰険だったからな。
 そんな奴のことで落ちこむことはないよ」
「ありがとう、今日は遅くなったから、また明日も電話してね」
「ああ、文化祭も見にきてくれるだ。!」
「うん、絶対にいくよ」
 晴美と電話をしているとき、司は時間を忘れていた。
 どんなに辛いことがあっても美晴と話せば元気が出てくる気がした。
 晴美が気をおとせば、何でもしてあげられた。
 晴美だけはどんなときでも守ってやりたいと神様に誓う程だ。
 そのためには何の根拠もないが、より男らしくなりたいと思う司だった。

 文化祭当日、晴美は制服のままで司の晴れ姿を見にきた。
 文化祭は2日分けて行われ、前日には生徒のみを対象としたライブを既行っており、美少年の司などはすでに全生徒が知るところとなっていた。
 実際、一般公開される本日も、公開に先立ち準備のため登校してきた司の下駄箱には5通ものラブレターがあった。
 美晴は司をステージのある体育館で見つけので、声をかけようとしたが、司が女の子にかこまれているところを見ると、何も言えずに立ち止まった。
 しばらくその様子を見ていたが司が美晴を見つけると、とりまいていた女の子を振りほどき、美晴のもとへ駆け寄った。
「あ〜ら、おもちになっていること」と少し意地悪した口調で司に攻めよると
「嫉妬してるの、お前、可愛いところあるじゃん」
「誰が嫉妬してるって」
「まぁまぁもう直ぐ俺たちの演奏がはじまるから、それまでは絶対いてくれ」
「うん」
 二人の様子は、司をとりまいていた女の子を絶望の淵に叩きこみ、変わりに一人の少女を幸福の真中へ案内した。
 
 ステージは既に3バンドが終了しており、司のバンドは最後に出演となっていた。
 その前にビジュアル系ロックバンドREXERがあるのだが、そのときは女子がステージに集まっていた。
 しかし、PLANET Xのステージには男女を問わず、その場にいた全員が呆気にとられる程の実力を持っているのだ。
 REXERの演奏が終る。
 そして、PLANET Xがステージに楽器とともに立つ。
 演奏開始直前の緊張感漂う空白の時間、誰もがこの瞬間、生唾を飲む。
 準備OKの合図をし、体育館中央のPAから開始OKのサインを待つ。
 フュイ〜ンとギターのフィードバックの音が会場の静寂を切り裂く。
 クラッシュシンバルが4カウントだけ鳴り響くと、演奏は開始された。
 HIGHWAY STARから幕を明けたステージはボルテージを上げ、RISING FORCEへと続く。
 ギターは頭を振り乱して7弦ギターで重低音のパワーコードをかき鳴らし、ベースはステージを駆け回る。
 ヴォーカルのシャウトはその場にいた者全てを威嚇し、ドラムの咆哮がそれに拍車をかける。
 司はあくまでもクレヴァーに、クールに、鍵盤を叩き、暴れるバンドのアンサンブルを一つにまとめていた。
 出だしの二曲が終るとそこでMCに入る。
 ここで勝は全てのMCを英語で話し、外人スターを気取って笑いをとると次にTHESE DAYS〜PULL ME UNDERとミドルテンポの曲をつなげた。
 マニアックなロックが故、曲を知っている人の絶対数が少なく盛り上がりにはREXERに及ばないものの、その演奏には誰もが心を打たれた。
 古臭いロックとバカにしていたREXERのメンバーすらその演奏には驚嘆し、聞き入っていた。
 次にメドレーで3曲、IRREPONSIBLE HATE ANTHEM 〜 THE BEAUTIFUL PEOPLE 〜 ROCK IS DEADをかまして、熱気は最高潮となった。
 ヴォーカルの勝は時に、両手を広げ扇動するかのように歌っていたかと思えば、虫のようにステージをはいずりまわり、時に胸をかきむしったりとパフォーマンスの過激は次第にましていた。
 ギターとベースが向かい合って同じマイクにコーラスをし、ヴォーカルもマイクを持ってドラム、キーボードまで赴きコーラスを一緒にした。
 シャウトとともに、これでライブは終了なのだが、アンコールがかかったため、ANY WAY YOU WANT ITを急遽演奏した。
 演奏の最中、晴美は司の動作を一つも見逃すまいとずっと司の動きを追っていた。
 ともすればキーボード上の鍵盤を叩く動作すら、本来は見えるはずが無いのに全ての動きを把握したかの如く、それを分かったような気がした。
 アンコールになりようやく司はキーボードのブースから、ポータブルキーボードを抱えてステージ前面に出て、その実力をいかんなく発揮した。
 芳雄のブルースのかかったハードな音と現代的なアプローチをする司とのアドリブソロの駆け引きは、まるでそれが元の曲であったように合い、プログレ、オルタナ、パンク、全てのロックがそこに凝縮したかの如くロックの魅力を遺憾なく見せ付けるステージであった。
 司のオルガントーンのEの音が最後に鳴り終わるとPLANET Xの演奏は全て終了した。
 誰ともなく、拍手が沸き起こる。
 ステージにいた全員が一列に並び、手を振る。
 それに合わせて喚声が一層大きくなる。
 ステージの幕が降り、全てが終った。
 
 演奏終了後、司やPLANET Xのもとには人だかりができた。
 司だけは人だかりから抜け出し晴海の元へ向かった。
「司ぁ〜良かったよバンド、とっても感動した。
 司ってそんな才能があったのね。
 女の子だったときは全然で、人を寄せ付けないオーラみたいなのがあったのに、今日は最高だよ」
と一気に話して、あっという顔を晴美はした。
 司が元女であることを口に出して話してしまったことに気がついたからだ。
 誰も聞かれてなければよいが、と重い司と美晴は後ろや横をキョロキョロと周りを見渡した。
!?
 見ると直ぐ後ろにバンドのメンバーがいたことに気がついた。
 勝達は晴美の元にいった司をからかってやろうと、ひそかに司を付けていたのだ。そして晴美の発言を聞いてしまったのだ。
 勝るにまさか・・という疑惑が走る。
 しかし司が転校してきてからの彼の行動はどうも府に落ちないことがある。
 普通の男性なら知ってるはずのことを全然知らなくて、女のことになると口数こそ少ないものの、びっくりするほど的を得ていること知っている。
 細かな心遣いがあるので女生徒の間での人気は天井知らず、その他、指折り数えると十指では足りないことが次々と浮かんできた。
 そんなことが、司の彼女の発言で一気に氷解した。したような気がした。
 気まずい雰囲気。
 その場にいた全員の時間が止まる。
 息をのむ音すら聞こえない。
 どうして・・
 なぜ・・
 全員ボーっとしたままで、気がつけば各メニューは進行し、下らない挨拶が終り文化祭は終っていた。
 晴美も知らないうちに学校を後にしていた。

 生徒全員で文化祭の後片付けが始まったが司はひとり学校を抜け出して、デパートにあるゲームセンターで遊んでいた。
 何回がゲームをしたあと、席を立とうとすると、そこにいた2人組のいわゆる不良高校生の足を踏んでしまい、スマンと謝った。しかし2人組はインネンを付けてきて近くのトイレまで連れて行かれて殴りかかってきた。
 司も応戦するが狭い場所で相手の拳をかわしようがなく、なんとか自分も殴りかかったが、反撃されて袋叩きになってしまった。
 喧嘩の音がしたためだろう、係員がガードマンとともに駆けつけたときには、既に2人組はおらず、司はよろよろになりながら洗面台で付いた血を洗っていた。
 適当に係員をはぐらかしていたが、警察に連絡をしないということを条件にデパート内の医療室で手当てを受けさせた。
 医療室についた司は手当ての様子をまるで他人事の様にボーっと見ていた。
 司は泣きたかった。喧嘩に負けた痛みと男になった痛みで・・
 でも人前で泣きたくはなかった。必死で自分は男だと言い聞かせて。
 医療室にいた看護婦らしき女性はそんな司を気をつかってか、それともどうしようもないバカと思ったからか、何も言うことなく手当てをし、それを終えると司を直ぐに家に返した。
 電車に乗っている最中、周りから人が自分を避けていた。
 顔にあざができてて、手には包帯を巻いてる。そりゃそうだ、今の自分は明らかに不良だと思われているのだろうな、と思っていた。
 家に付くと、そんな司の姿を見てさっそく母親からしかられた。
 綺麗な体になんてことをするの、と言われた。母親はまだ女性だったころの自分を引きずっているらしい。
 女性扱いされたことで司はいい様もない不安に襲われた。男だからこそ、泣かずに我慢していたのだ。
 そんな扱いはして欲しくない、母親にそう言いたかった。でも言えない、自分を心配してのことだから。
「心配かけてゴメン」それしか言えなかった。
 司は自分の部屋に入って泣いた。制服を着たまま。
 辛い、男は辛い。
 心底そう思った。女だったころはあんなにあこがれた男、でもそれが今は少々うざったくなってきた。
 司はそのまま寝てしまった。
 
 次に起きると既に真夜中3時だった。
 幸い明日、いや既に今日は文化祭の後なので学校は休みだ。
 司は泣くだけ泣いたら、何だかスッキリした。
 男らしくとか女らしくとか、こだわりを持つことがなんだかバカバカしくなった。
 男として守るところは守ったのだ。それだけは誇りに思いたい。
 不意に晴美のことを思い出す。
 可愛い・・
 護ってやりたいとは、こういう気持ちのことを言うのだろう。
 漠然とそう思った。
 あっ、電話するのを忘れた。
 そう思うと、電話の留守番機能が点滅している。慌てて、留守電を聞いてみた。
 思ったとうり晴美からの電話だ。
「バラしちゃってごめんなさい。明日、また合いたいです。食事でもおごるから朝でも電話してね。」
 ありがとう。心のなかでそう思った。
 
 朝、司は食事をすませると、早速晴美に電話した。
「晴美?電話ありがとう。俺も合いたいから・・」
「!、ホント!嬉しい!!じゃいつもの駅前バスターミナルで。」
 それから司は急いで、風呂に入った。昨日は風呂に入らないまま寝てしまったのだ。
 風呂場の洗面台で顔を見ると昨日より顔の腫れはひいている。
 体中どこも痛くない、骨折もないみたいだ。そう確認すると、直ぐに風呂場からでて着替えた。
 バスターミナルにつくと晴美はまだ来ていなかった。
 早すぎたかな、そう思っていると晴美が来た。
 眩しいくらい可愛い。
 抱きたい・・
 ボソっと呟いた。
 二人とも互いに駆け寄って抱き合った。
 美晴の臭いがする。
 触れ合っている部分から暖かさを感じる。
 こうして抱き合えるようになっただけでも幸せだ。
 周りの人が見てるけど、気にならない。
 男になって本当に良かった。
 この子を護るためならどんなことでもいとわない。
 つい昨夜までの落ちこみはどこにいったのかと思える程、心境の変わり様だがそれは紛れも無い、司の本心であった。
 僕達はそのままデートにでかけた。
 途中、司のバンドのメンバーとも鉢合わせになったが、晴美を前に堂々と彼女ですと言った。
 思いっきりひやかされたが、それすらも今は嬉しい。昨日の発言も全員気にしていない様子だ。
 もしかしたら、途方もなことなので、冗談と思いこんでいるかもしれない。
 それならそれで放っておけば良い。後から追求されても知らないと言い張れば良いだけのことだ。
 後は回りの人、とは言ってもこの東京の中では隣の人に構う人はいないし、親戚と晴美にさえ釘をさしておけば心配ない。
 それから、あと片付けをサボった罰として、オリジナル曲の作成を言い渡されたが、自分から願い出たかった程だ。罰でもなんでも無い。
 どんな曲だって?
 決まってる。
 もう男とか女だとか、日本語だとか洋楽とか、下らないことにはこだわらない。
 けど、一つだけは決めている。
 それは晴美と俺のラブソングだ!


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